第19話「三匹とブリーフィング」
すいません、ミスで20話をアップしてしまいました。
19話を割り込み登録いたします。
結果として2話更新となりました。
「機動攻撃じゃと?」
ハッグが眉を顰める。当たり前だ。機動しない攻撃なんて拠点防御くらいなもんだしな。
「言葉はおかしいかもしれないが、その辺はあまり突っ込まないでくれ、軍事とかはさっぱりなんだ」
俺はタバコの箱をテーブルに置いた。ハッグとヤラライだけでなく、リザード夫婦のシュルラとリーモ、さらに旅娘のユーティスまで身を乗り出してそれを覗き込んできた。
「これを外にあるキャンピングーカーと仮定する。そしてこっちが……」
全員のカップをテーブルの真ん中にまとめて置いた。丸テーブルの中央に固まっている形だ。
「害獣の巣……または一団だ」
ふむと顎髭を撫でながらハッグが真剣にカップを一つ掴んで中身を飲み干して戻した。一瞬ヤラライに睨まれたが柳に風である。
「……知っての通り、あの車はかなり速度が出る、そこで車の屋上にヤラライを乗せたままこう……周囲を旋回していく」
「ほう」
「なる、ほど」
リザード夫婦は意味がわからないと、視線を俺たちとタバコの箱で往復させたが無視して続けた。
タバコの箱を丸テーブルの縁ぎりぎりを動かしていく。
「なるほどの、距離を保って一方的に撃ちまくるわけじゃな」
「ああ。これなら敵が突出してきても……」
カップを一つタバコに向かって動かすが、カップがテーブルの縁につく頃には、目標ははるか先にあった。
「土嚢や柵を作るのが無理なら、襲われる前に逃げちまえばいい。幸い町の中じゃないからな」
これが都市防衛とかなら使えないが、今回は攻め側なのだ、縦横無尽に動き回ってやれば良い。
「アキラ、こう、バラバラに待ち伏せされたらどうするんじゃ?」
ハッグがカップをテーブル上に感覚を空けて適当に置く。タバコの進行方向であるテーブルの縁にも置いた。
「そんときゃハッグの出番だ。各個撃破ならなんとかなるんだろ?」
それを聞いて一度目を丸くするも、ぐばぁっと歯を剥き出しにした。
「もちろんじゃ、小分けになったゴブリンなど、一瞬で蹴散らしてやるわい!」
「ああ、俺も、参加、秒殺する」
「頼もしいが、ヤラライは接近戦は避けろよ? この作戦の要だ」
「……了解した」
「ハッグ、これが俺の意見だが修正する場所はあるか?」
「1点は、車が速度を出せるか下見が必要な事じゃな」
即座に出てくるあたり、完全に自動車の特徴を掴んでいる。そしてそこに思い当たらなかったあたり、自分は素人丸出しである。
「シュルラ、鉱山跡のまわりじゃが、岩はどの程度転がっておる? 馬車が走れる程度に地がなれているか知りたいんじゃ」
「うーん、話はわかんないけどさ、馬車で鉱山を回りながら弓を撃つって話なんだろ? だったら大丈夫さ、あのあたりは鉱山だった頃に、真っ平らにされちまったからさ」
「ふむ。確認は必要じゃが、可能そうじゃな」
「そうか」
「もう一つの問題じゃが、火力が足りんの。そこのエルフの鉄砲だけでは敵を減らすのに時間がかかり過ぎるの」
「なんだと?」
「そこでじゃ」
オーラを背中に吹き出したヤラライを片手で制して、ハッグが俺を指差した。
「おぬしの出番じゃアキラ」
「俺?」
「うむ。良かったの。練習してたかいがあったのぅ。光剣の出番じゃ」
「それは考えたんだが、俺が運転しなけりゃ……」
「ワシがする」
「いや、だが……」
「見ていてほとんど覚えておる。あとはお主が真剣に教えれば短時間で覚えてみせるわい」
「しかし……」
「そうじゃな……2時間。実地で覚えられなかったら別の手段で良いわい」
「……」
自信満々のハッグ。確かにハッグが運転出来れば火力は2倍だ。作戦の成功率を考えたらやらない手は無い。
「2時間だぞ」
「わかっておる」
「じゃあそれは教える方向で行こう。他に足りない事は?」
「一度全員で隠密強攻偵察が必要じゃ。地形と戦力を頭に叩き込むんじゃ。それと戦力の増強が可能なら集めるべきじゃが……」
ハッグがシュルラを見る。
「残ってた腕利きは割の良い商人護衛でみんな町を出ちまったさ。セビテスに行けば腕っこきはいくらでもいるけどさ、馬を飛ばしても片道1日以上はかかるさ」
トカゲが器用に肩をすくめて見せた。……今どうやった?
「しゃーないさ、逃げる口実にしても、金のことにしてもさ、残る意味が無いからさ」
「うむ」
「ハッグ、俺たちを雇え」
びくり。
思わず身体を引き攣らせてしまった。今まで聞いたことの無い重低音の声でしゃべり出したのはここまで無言だったリザード夫婦の旦那の方だ。いや、最初の挨拶で妙に神妙な挨拶を聞いたような気もするが、印象が違いすぎて思い出せなかった。
「けが人は邪魔じゃ」
旦那のリーモが無言で俺を見つめると、シュルラがポンと手を打った。
「そこの坊やの護衛くらいならうちらでやってやれるさ」
「ほう? ワシが直接鍛えとるんじゃがな?」
「なんだって?」
今度はシュルラとリーモが同時に俺を見つめる。目をまん丸にカッぴらいてだ。
やめてください。喧嘩して勝てる気なんてまるでしねぇよ。
「うーん、この坊やがねぇ……」
「……」
無言はやめてくれ。
強いと言われても嬉しくないが、その目つきは凹む。なぜか。
「ふん。どのみちけが人は足手まといじゃ」
「そうか……ある程度は治ってるからさ、用が出来たら声を掛けてくれるといいさ」
「うむ」
トカゲとの会話が終わったので、俺は途中で知り合ったスポーティー体型の旅人であるユーティス女史に話しかけた。今までずっと無言で話を聞いていたのだ。
よくよく考えたら、彼女には関係の無い話だ。
「ユーティスさんはこれからどうする? 成り行きでここまで一緒になっちまったが」
「そうですね……本当は一度セビテスに戻ろうと思ったのですが……」
そう言って眉を顰める。
それはセビテス方面への混雑具合を見ての事だろう。
「本当は状況を見て無理にでも出立する予定でしたが……今日明日はこちらで宿を探してみます」
「足を痛めてるからなぁ」
「それもありますが……」
「ん?」
「いえ、なんでもありません」
「……? そうか」
良くわからないが本人が納得してるならそれでいいだろう。
「あ、せっかくなので、食事が終わるまではご一緒させていただいても良いでしょうか?」
「構わないぜ、女一人じゃ不安だもんな」
「ありがとうございます」
彼女はペコリと頭を下げた。想像以上に町が混乱していて不安なのだろう、なんなら宿までは一緒でも構わない。
さて、俺とユーティスとの会話が終わったのを見計らって、ヤラライが組んでいた腕を解いた。
「ドワーフ。それで、どうする?」
「まずは強攻偵察じゃな」
「それなら……」
エルフらしくしなやかに立ち上がると、カウンター横に滑るように移動して、ナイフで留められていた羊皮紙を一枚取ってくる。
だんっ! とナイフごとテーブルに叩きつけられたそれには……
・調査:害獣コロニーの調査。要、先町長宅受付(3〜万円)【ハンション町長】
と記載されていた。
「受けよう」
なるほど。いい手かも知れない。
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