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第14話「三匹と宴会」


 害獣から逃げてきた村人たちと一緒に、徒歩の速度で村に向かっていると、途中で横転した馬車を見つけた。

 旅人であるユーティス女史曰く、途中までこの馬車を中心に逃げていたらしい。だがここで馬車が横転し、シマウマが過労死してしまった為、若い人間を中心に先に逃げることにしたらしい。

 もちろん、最初は反対していた若者たちだったが、村長の一喝で泣く泣く先行したらしい。その先導を任されたのが旅慣れたユーティスだった。


 俺は窓を開いてハッグに聞いた。


「なあ、あの馬車ってまだ使えそうか?」

「うむ? 見てこよう」


 重鈍に見える体型とは真逆にさっと馬車に近づくと、俺たちが到着するまでに点検を終えてさらに一人で馬車を元に起こしていた。なんつうパワーだ。


「残念ながら、馬は死んでおった」

「そうですか……」


 答えたのはヤラライと一緒に歩いていた若い男性だった。


「今は埋葬しておる時間も惜しいの。脇にどけて、祈りを捧げたら出発したほうがええじゃろ」

「そう……ですね」


 悔しそうに呟くと、ハッグの手を借りずに彼らたちだけでシマウマを街道の脇までなんとか運び、独特の印で祈りを捧げた。

 馬車に乗っていたじじばばたちも降りてきて同じように祈っていた。きっと村でも大切な馬だったのだろう。


「……ありがとうございました。行きましょう」

「うむ。一つ良いニュースがあるぞ。お主らが作業している間に、応急処置をしておいたから、無理をさせなければ、村までは運べるじゃろ」

「え?」


 いつの間に作業したんだ、お前は。


「車軸が折れかかっておるから、皆でゆっくり押していくしかないがの」

「たっ! 助かります!」


 男性は比較的元気な人間を集めると荷車を押し始めた。


「ま、ワシが引っ張っても良いんじゃが、そこは余計なお世話というものじゃろう」


 俺にこっそりとそう言ってきた。俺も同意である。特に大事な仲間を失った直後では何かやっている方が気も紛れるだろう。

 彼らの大切な財産である荷車を押しながら、日が傾く頃に、ようやく村に到着した。ここからあの場所まで走り続けたのだから、この世界の人間は健脚である。


「アキラさんよ、ここまで本当に助かりましたよ、とにかく狭いですが我が家で休んでってくださいよ」

「そうだな……お言葉になるわ」


 正直車の方がゆっくり出来そうな気もするが、好意を無下にする事もないだろう。そもそも俺は地面で寝るのだってそこまで苦ではないのだ。

 村は今までの街道沿いの宿場村とさしてかわりはなかった。10軒ほどの建物が並ぶ小さな小さな村だった。


「ここはハンション町からの距離も微妙で、宿泊者も少ないですからな。外貨の獲得手段が少ないのですよ」


 確かに繁盛している気配は無いが、それはこれまでの村もさして違いは無いと思う。

 ……いや、そこそこ大きいところもあったが、速度的にスルーしてきただけか。移動速度が違いすぎる。


「この車……馬車を置いておける場所はあるか?」

「それなら我が家の横につけておいてくださいよ。見張りもつけますですよ」

「じゃあ……お言葉に甘えるか」


 一瞬見張りはいらないと答えようと思ったが、何が起こるかわからない世界だ。見てもらえるならより安心という物だ。まさか今さら車を盗む奴もいないだろう。

 仮にそんな奴がいたら、うちのおっかない護衛お二人がどんなお仕置きをするのか想像もつかない。だからやめてくれよ?


 その夜、精一杯のもてなしを受けていると、村の主立ったメンバーが集まってきて改めて礼を言ってきた。

 俺は適当に流しておいた。お腹いっぱいですから。


「それで、村中からかき集めてきました。傭兵代としても、治療代としても全く足りないとは存じますが、せめてお受け取り願えれば」


 差し出されたのは古びた小さな皮の袋だった。3人に目配せすると頷かれただけだった。別に俺が代表者って訳でもないんだがな……。小袋を開けるとじゃらじゃらと小銭が大量に手に乗った。思っていたよりも銀貨が多い。どれも煤で汚れたような質の悪い銀貨ばかりだった。もしかしたら本当に隠し持っていた虎の子の銀貨を持ち寄ったのかもしれない。


「数えるからちょっとまってくれ」


 俺は彼らから背を向けた。ファフの事が気になったが今さらだと思い、一度コンテナにしまう。

 全部で8万2052円もあった。

 治療に使った医療関係ならお釣りが出るレベルだ。諸費用で2万と考えると6万近く儲かる事になる。


「どうするよ?」


 俺は困り果てて2人に聞いてみた。ファフは……見てただけだから気にしないで良いだろう。


「お前が助けたんじゃ、お主の好きにせい」

「ああ、害獣、倒したの、アキラ」

「全員の功績だと思うけどな」


 暫く悩んだ後、6万円分だけ受け取って、残りの2万2052円を返すことにした。


 残金31万2439円。


「あの……これは?」


 お釣り(・・・)を手渡されて呆ける村長。


「俺は用心棒代の相場をよく知らないんだが、1日で4万なら平均かそれより高い程度じゃないか? 今回は好意に甘えて少し余分にもらっておくよ。どのみちあのまま進んでいればゴブリン共とかち合って戦闘になってた訳だしな」


 これで大丈夫かと、ハッグたちに視線を投げると、軽く頷いていた。


「それと薬代等が2万だ。こっちは安めにしてある。だがちゃんと利益は出ているから安心してくれ」


 今度は村人たちが顔を見合わせる番だった。例のひげもじゃおやじもいた。


「薬がそんなに安いのか? まさかと思うが実は薬なんかじゃ無くて……」

「これ! なんつう事をいうんじゃよ! 恩人に失礼じゃよ!」


 髭男の当然の疑問に村長がかみついた。


「あー。原価は安いんだよ。ただあまり量がないから、頼まれても売れないんだがな」

「いや、うちの者がすまんでしたよ。悪気は無かったとおもうですがよ……」

「大丈夫だ。不安はわかる。だがちゃんとした薬だから必ず飲みきること」

「お……おう」

「しかし……本当にそれだけでよいのですかよ?」

「十分だ。内訳も説明したろ? それとも用心棒代が1日4万ってのは高すぎたか?」

「いえいえ! 緊急ならそのくらいが相場かと! それに貴方ほどの実力ならもっと高くても不思議ではありませぬよ!」

「……俺の実力とか言われてもよくわからんがな。鍛え始めたのも最近だし」

「そうなんですかい?」


 ひげもじゃが怪訝そうにこちらを見る。

 どうせなら美人に見つめられたいもんだな。


「自分でもどうしてこうなってるかさっぱりなんだが、そこの二人にスパルタでな」


 親指でハッグとヤラライをさすと、二人は胸を張った。

 自慢してねーからな。


「そいつぁ……羨ましい話で。あの強さも納得ですな」

「納得するんか」

「やっぱりエルフ・ドワーフ・リザード・狩り系獣人は戦闘に長けている種族ですからなぁ。リザードと獣人は戦い方が独特で真似ができないけどよ、エルフとドワーフは同じ修練も出来るからなぁ。その二人に教わるとかってのは、元放浪者としては羨ましい限りだぜ」

「そんなもんか」

「そんなもんよ」


 深く頷く髭につられて、周りの村人も頷いていた。やはり環境は良いらしい。

 もっとも好き好んで強くなりたい訳でも無いが。


「ま、とにかくお礼はちゃんともらったからよ、これで貸し借り無しだ。宿に食事まで出してもらってるからむしろ感謝だぜ」

「いやいや! こちらこそお礼申し上げますよ!」

「じゃあお互い様って事で。終わりな」


 俺はわざとらしく、酒をあおった。度数の低めの少し濁った酒だった。

 まあ、あのくらい手元にあれば、きっと何とか最低限は何とかなるだろう。元々貯金があった訳じゃ無さそうだしな。

 俺は適度に飲んだ後、宴会を中座して、寝室に案内してもらった。

 美人の娘さんが薄着で待機していたが、丁重にお断りして帰ってもらった。


 俺はシンボルセットの中から真新しいシンボルを1つを取り出すと枕元に放り投げた。

 なあ神さんよ、別にトラブルが無くても生きていけるんだぜ?


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