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第12話「三匹と人助け」


「アキラ、良かった」

「王城での実践が役に立ったの。これが初陣じゃったら硬直して動けんかったじゃろ」


 適当な岩に腰を掛けてタバコをふかしていると、金髪ドレッドエルフと筋肉髭ダルマがやって来た。お前ら覚えてやがれ。


「おかげさまで驚くほどアッサリだったぜ」

「もう、アキラ、一般人より、強い」

「うむ。じゃが、街の中に住む人間と違って、外を旅する商人じゃまだまだ鍛えんとの」

「お前ら……俺が疲労でぶっ倒れるとか考えないわけ?」

「それは大丈夫じゃろ。なかなか悪くない感じに波動を身につけておるからの」

「自分じゃわからねーよ。ハッグにもヤラライにも勝てねぇしな」

「ワシらを倒せるようになったらそこそこじゃな。傭兵にスカウトされる程度にはなるの」

「……お前らの強さの基準がさっぱりわからねぇ……」


 正直ハッグもヤラライも、この世界上位の強さだと思っていたが、ファフにも手が出ないし、実はそれほどでもないのだろうか?

 いやいや。こんなのが普通だったらおかしいだろ。実際王城でも無双してたし。

 考えれば考えるほどわからなくなる。

 そして考えても無駄なときはキッパリと諦めるのが俺の流儀だ。深く考えるのはやめよう。

 その理解不能角娘ファフはキャンピングカーの所で若者たちと一緒にいるようだ。もしかしたら防犯予備的なものかもしれない。


 ヤラライとハッグが、骨を折ったり、急所を強打されて動けないゴブリンたちにテキパキととどめを刺していく。「お前がやれ」と言われなくて良かったと思っておこう。

 俺はとりあえずと、キャンピングカーまで全員を案内する。

 熱射病寸前のじいさんばあさんにはペットボトルで水を渡して(かなり怪訝な顔で見ていたが、何度もお礼を言われた)動けない人間を手分けしておぶって運んだ。


「とりあえずけがのある人は治療しますよ。ヤラライ、手伝ってくれ」

「ああ」


 体調のヤバそうな人と、けが人だけ車のキャビンに案内する。最初は貴族の馬車だと遠慮していたが、商人だとわかると、今度は金が無いと平身低頭し始めた。


「まぁ……今日の所は特別にタダにしてやるさ」

「いえ……しかし……」


 やたら偉そうな態度を取った理由は、普通は命がかかってようと金の無い人間を施すような商人などいないからだ。偉そうに振る舞えば納得するかと思ったがイマイチだな。


「……そこのエルフとドワーフがゴブリン嫌いでな、害獣を倒せて機嫌が良いんだ。彼らの気まぐれだと思ってくれ」


 けが人たちはお互いの顔を見合わせるとお互いに頷いた。


「わかった。お願いする。村に帰ったら出来るだけのお礼もするつもりだ」

「その約束だけで十分だ。……ヤラライ、消毒は終わったか?」

「言われたとおり」

「な、なあ答えたくなかったら無視してくれて良いんだが、この馬車はいったい何なんだ? あの銀色の筒からは水が沢山出るし、こんな座り心地のよい椅子も初めてだ」

「イッチェルよ、これはソファーつう特別な椅子よ」

「長老。ようやく息を吹き返したか」

「誰が死んでるよ。疲れて声も出なかっただけよ。それよりも旅の方、心よりお礼申し上げるよ」


 先ほどまでチビチビと水と塩を荒い息で摂取していた一番高齢と思われる老人がようやく声を出した。

 荒野に生きる荒野の乾いた手をしていた。


「ただの成り行きさ。おかげで色々勉強になったぜ」


 俺が恨みがましく半裸エルフを睨み付けると、自然に視線を逸らしやがった。


「ところであんたが長老さんなんだな。良かったら事情を聞かせてくれねぇか?」

「うむ。もっとも特別珍しい話でも無いのだけれどよ。ワシらの村から馬車で1日、歩きだと1日半から2日といった距離にハンションという町があるのよ。100人か200人ほど住人がいたはずよ。だがまともな市壁がないんでよ、街や国とは認められておらんのよ」


 ふむ。流石にこの辺の事情は理解してきたぞ。逆に立派な城壁を作ったら国を名乗れるんじゃね?

 やらんが。


「それで?」

「うむ。そのハンション町にほど近い場所にゴブリンが住み着いたらしいのよ」

「それだけなら良くある話じゃろ? その規模の町なら10人前後は警備もいようし、傭兵やワシらのような流れの人間を雇う手もあるじゃろ」

「そうよ。初めはそうしたらしいのよ。ところが退治に出た人間は半壊。逃げ帰ってきた奴も酷い有様だったらしいよ」

「ふむ……弱い奴しかおらんかったのかの?」


 ハッグが不思議そうに顎髭をなで回した。

 確かにゴブリンは見た目は大層恐ろしいが、俺のような初陣でもなければ、負けるような相手ではないと思う。少なくとも武器があって訓練したり、実戦経験があるならなおさらだ。

 あれ? なんで俺は素手なんかで相手させられてんだ?


「いいや、それがリザードの戦士二人組がたまたま通りがかったらしくてな、シェル……モラ……なんだったかよ」

「ほう? もしかしたらシュルラとリーモではないかの?」

「そうよ! そんな名前だったよ!」

「それは……まさかとは思うが……」

「うむ。生き残りの話では恐らくコロニーが出来ていると……」

「「!」」


 ハッグとヤラライが同時に殺気を放った。

 村人たちが「ひぃっ!」と腰を抜かしかける。


「……すまぬ。驚かすつもりはなかったんじゃ。お主らには何もせんよ」

「同意。俺も、謝罪」


 二人が同時に謝ると恐慌寸前だった村人たちがなんとか落ち着きを取り戻していく。

 それよりも気になることがいくつかある。


「ハッグ。まず一つ、リザードの戦士ってのを知ってるのか?」

「うむ。何度か商会の依頼関連の酒場でな。リザードにしては良い夫婦よ」

「夫婦?」

「うむ。リザードの女戦士というのは珍しいが、それ以上に珍しいのはリザードのくせに男が女に尻に敷かれているという事よ。奴らも商会の出す退治依頼などを目当てに旅して歩いておる。そのせいでデカい町で顔を合わせる事もある」

「なるほど。それでその夫婦(めおと)戦士は強いのか?」

「ふむ……素手同士なら奴らの方がまだ強いの」

「なんだ、たいしたことないのか」

「阿呆、そこらの一般兵など相手にならんわ」


 ……あれ?

 そしたら俺は一般兵と同じくらいには強くなってるの?

 ダメだ。余計わかんなくなって来た……。


「まぁ、ゴブリンよりはだいぶ強いって認識で良いのか?」

「それで良い。普通の集団に負けるような奴らではあるまいよ。しかも他にも兵士がいたとなればなおさらじゃな」

「あー。例えばなんだけど、リザード人間に偏見がある奴にはめられたなんて事は無いよな?」

「可能性はあるが、この辺りはリザードに対する偏見は薄い。まず大丈夫じゃろ。湿地帯に住むリザードは恐ろしく強いが故に嫌われると聞いたことがあるがな」

「湿地帯、沼地、泥川、俺でも手こずる」


 なるほど、特異な地形がハッキリしてる種族なのか。


「もう一つのコロニーってのは……」


 想像はついているが聞かないわけにもいかない。

 答えるハッグの視線に力が籠もる。


「ふん……前に言ったじゃろ! 奴らが集まる村をその様に呼ぶが……それ以上に、大抵は依り代を手に入れて爆発的に増えた場合の事を言うんじゃ! ……村長(むらおさ)よ、それはほぼ間違いないんか?」

「お……おうよ……。ちょうどハンションからの使者を乗せた乗合馬車が着いて、細かい話を聞いたんじゃ。それで村を捨てて逃げるかどうかを村の住民全員で話合っておったのよ……その時よ、村の一角から奴らが姿をあらわしたのはよ」


 その後、村に逗留していた人間と、若者を案内役として先に逃がして、足の遅い人間で足止めしつつ逃げていた所に、俺たちと出会ったらしい。

 幸い死者は出なかったらしい。散々お礼を言われたが、さすがに後半はおざなりに対応していた。

 例の髭のおっさんが一番怪我が重かった。

 何でも昔、商会の依頼を受けて回る放浪者だったらしい。それってヤラライと同じって事だろうか。

 聞けば聞くほど、ゲームの「冒険者」に似てるんだよな。まぁどうでも良いけど。


 さて、おっさんの怪我で一番酷い場所は、もう縫わないとダメだったのだが、そこで一悶着あった。


「おっさん。この傷は縫うしか無いわけだが、道具も薬もある。だが医者がいなんだ」

「ああ。村にも医者などいない」

「そこで協議の結果、俺が縫わされる事になったんだが、文句はないな?」

「ない。むしろ貴重な薬を使ってくれるんだろう? 仮に死んでも構わない」

「いやいやいや! そうならないために治療すんだよ! ただな、色々問題がある」

「……なんだ、言ってくれ。金は……足りないのはわかっているが持ってるだけは出す。家に隠してあると言っても信用してもらえないと思うが——」

「そういう話じゃねぇよ」


 一度キャビンから俺とおっさんとヤラライ以外を追い出して清掃の空理具で徹底的に室内を掃除した。もちろん外に砂は吐き出し済み。エアコンに簡易フィルターもついているはずなので、今は全開フル稼働している。

 良く洗って、アルコール綿で消毒した皿の上に、ピンセットや縫合針を並べていく。


「俺はプロじゃないからな、縫った傷が斜めにくっついて、死ぬまで引き攣ったり、痛みをともなったりするかもしれない。化膿してもっと酷くなるかもしれない。へんな所を刺して、死ぬほど痛むかもしれない。血管は……ある程度わかるから大丈夫だと思うが、もし動脈でも刺したらえらいことになる。それでも俺が治療して良いのか?」


 髭の男は一度息を飲んだ後頷いた。


「それはあんたの商品なんだろ? そんな貴重な物を使わせるんだ。文句なんて一切ないぜ。頼む思いっきりやってくれ」


 突き出された腕を見るとすでに血があふれ出していた。

 動脈が切れていないことを祈るしか無い。


「よし。ヤラライはそこの綿で常時血を拭ってくれ。俺が縫っていく」

「わかった」


 俺とヤラライは使い捨てのゴム手袋をはめて治療にあたった。


 幸い、手術は上手くいった。

 いい加減なので後で色々問題は出るかもしれないが、それは別に医者に行って欲しい所である。


 購入したのは糸付縫合針(10セット)=6300円。これはこのくらい必要だったので買った。それとセフェム系抗生物質(10錠×5シート)=1万1200円だ。残りは救急箱の残りで足りた。


 残金25万2439円。


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