第9話「三匹と光剣」
「そろそろ稼がないとなぁ」
「大きい街についてから一気に稼ぐが良いじゃろ。ワシもあやつらも、どこかでは稼がなければならんからの」
朝食の準備をしながらの独り言に、律儀にもハッグが答えてくれた。
筋肉ダルマのドワーフだが基本的に良い奴である。暑苦しいが。
「そうだよな。ハッグたちだっていつまでも手持ちがあるわけじゃ無いだろうし」
「うむ。今は食費が掛かっておらんからまだ良いが、その分お主に負担がいっとる訳だしの。本当は発明で稼ぎたい所じゃが、商業ギルドの出す仕事でも拾った方が良いかもしれんな」
「ああ、ヤラライがそれでバッファローを狩って儲けたとか言ってたな」
「ぬ……そういえば奴はそれなりに懐が温かいんじゃった……どこかで稼ぐことが決まったら護衛はあやつじゃな」
「ヤラライにはヤラライの用事もあるだろうよ。ま、そんなのは現地に着いてから考えようぜ」
「そうじゃな。それより飯はまだか?」
「手は動かしてるだろ……手伝えよ」
「窯は作ったじゃろ。ワシが手を出したら不味くなるからの。手を出さないことが食事に対する最大の手伝いじゃ」
「何ちゅう屁理屈だよ」
まぁ手伝ってもらうほど大したことしてるわけでも無いけどな。
ハッグが軽く作ってくれた小型の窯は、火加減調節がやりやすい一品で、ガスコンロの出番が無いくらいだ。俺の動きを見ただけで、すぐに細かい修正をいれてくるあたり、さすが発明家と褒め称えたい。言わないが。
朝食はワンパターンだがベーコンエッグとパン。それにサラダにしてもらった。もう手癖で作れる物が楽だ。
ちなみになんでわざわざ外に出て窯で作っているかというと、ハッグが火力調整に興味を持ったからだ。コンロの火加減が味に直結する事実を知ったら、なにより最初にこの発明に手を付けるあたりさすがである。
特に明記が無い限り、朝食は以下のワンセットを食べてると思ってもらいたい。
卵(10個)=298円
ベーコン=376円
食パン=135円×2
レタス(一玉)=197円 > (半玉)=98円
(水や珈琲などの雑費100円。タンクの水補給など含む)
合計1142円。
大食らいが二人もいるとエンゲル係数がヤバいな。ハッグとヤラライには恩があるがファフはどうなんだよ。これも口止め料か……。
残金26万9939円。
朝食を食べ終わると、なぜかハッグ、ヤラライ、ファフが円陣を組んで話し合いを始めた。
嫌な予感しかしねぇ。
「……ぬう。確かにそれは重要だじゃが……」
「先に、トルネード、マーシャルアーツを、極めるべき」
「ククク、優先度というものを考えい」
10分ほどの熱いディスカッションの末、意気揚々と俺に近寄ってきたのはファフだった。食器を洗い終わるタイミングを見計らったかのように。
「ククク。喜べ。ワレが直々に稽古をつけてやるぞ?」
「……昨日の夜は面倒とか言ってなかったか?」
「ククク、ワレが教えるのは空理具よ。聞いたが「光剣」の使い方が独特らしいの。見せてみると良い」
「偉そうじゃな」
「ククク……」
口調を真似して言ってやったがイヤミの一つも通じねぇよ。馬鹿にされても意に介さない奴は本当に強い奴なんだよな。
強い奴には逆らわないのが俺の主義なので、素直に光剣の空理具を取り出す。そういえばこれも金属カード化してもらおうとか思ってたんだよな。どこかで稼げたら頼むか。
俺は少し離れた大きめの岩を目標に、空理具を発動する。
イメージは現代の艦艇に搭載されているバルカンファランクスだ。派手な洋画で最近よくお目にかかる、巨大な白い缶ジュースを背負ってるあれだ。
親指を空理具の中央にずらすと、ふと血液がカードに流れ込むような感覚が手に残る。
光の剣……ではなく光の槍の様なイメージの方が俺には想像しやすい。その光の槍を大量にだが同時にではなく、連続するように撃ち出す。
俺のイメージ通りの青白い短槍が毎分500本……くらいは飛び出しているかもしれない。十数秒で大岩を粉みじんに打ち砕く。相変わらずこの光剣の威力は洒落にならない。
「ククク……なるほどの……凄まじい威力じゃ。空想理術で同じ発動は難しいじゃろ。むしろ空理具でのみ実現可能な裏技のようなもんじゃな」
巨大な爪付きガントレットを器用に組んでそう評価するファフ。
理由はわからないが彼女は魔法も得意らしい。
「ファフは空理術ってのを使えるのか?」
「ククク、ワレは使わんが理屈は理解しておるからの。教える程度はどうと言うことは無いの」
いまだに空想理術を直接使える人に出くわしていないが、レア者なんだろうか。
「ククク、では次は岩が壊れるまででは無く、無制限に打ち続けてみるのじゃ」
「無制限に?」
俺は眉をしかめた。それに何の意味があるのだっつーの。だがファフにせっつかれて結局やることになった。
離れた地面を目標に無数の光の剣が放たれる。
と。
撃ち始めて30秒を過ぎた当たりだろうか、急に意識が遠くなった。急な貧血らしい。やばっと思った時には倒れかけていたが、いつ移動したのかファフに支えられていた。
「ククク、やはりな」
「……すまん」
おかしい、食事が悪かったか?
いや、こんな贅沢な朝食食べて貧血とかあり得ないんだが。ガキの頃はそれこそパンの耳だけなんて日常だったからな。
水に当たった……訳ねぇな。SHOPから出してるんだから。
「ククク……お主、前の街で大立ち回りをしたらしいが、その時あまり光剣を使う気になれんかったじゃろ」
「え……ああ、なんていうか得体もしれないもんだったし、何より強力過ぎてな」
「ククク、殺しに嫌悪感が強い民族というのはいる。それも大きいじゃろうが、おそらく理由は無意識に使用限度を認識しておったんじゃろ」
「使用限度?」
「ククク、そうじゃ。昔は魔力なんぞと呼ばれていたが、現在は普通に精神疲労の一つと考えられておる。つまり使えば極端に疲れるのじゃ。精神的にの」
「ああ……これは疲労なのか……確かにそう言われると徹夜でクレームリスト整理してた朝に感覚が似てるな……」
あの作業は凹むのだ。
クレームの9割はいわれの無いただの八つ当たりだからなぁ……。
「ククク、一気に持って行かれるからの。少し休めばまた使えるが、当然その時は威力も時間も落ちるじゃろ。長く使いたいのであれば、威力を落とすべきじゃな。休んだら常用出来る位の威力を模索してみるかの」
「うへ」
別にそこまでして使いたいもんでも無いんだけどな。もう豚王にとっ捕まる事もないだろうしよ。
「アキラ、お主の考えが透けてみえるぞ。諦めて教わっておけい。ワシャ理術の事はさっぱりじゃからの」
「うへ」
二度目の嘆息で返事をすると、ファフが色々とイメージの助言をしてくれた。光剣1本の威力を1割くらいに落として、同じように連射してみたらどうだろうという意見だった。
特に問題も無いのでその方向性でイメージすることにする。そもそも最初は某ハリウッド映画の半裸戦士のイメージだったんだよな。いつのまにやら艦載兵器になってたのやら……。
おそらくより強いイメージが先行してしまったんだろう。その辺やはり俺もお子様思考が残っているのかもしれない。
もう一度、出来るだけ正確に乱暴系元ベレー戦士の機関銃をイメージし直す。
弾は親指程度。連射速度は変わらず。
「光剣」の空理具にイメージを流し込むと、M4A1の数倍程度の威力で光の弾丸がばらまかれた。一番最初に発動した時にはきっと「もっと強く」という思いが心のどこかにあったのだろう。これからは気をつけなければ。
「ククク……グルーピングがイマイチじゃが、今は威力の調節で手一杯なんじゃろ。毎日練習すれば、おそらく15分は打ち続けられるようになると思うの」
「そう言えば使い込むほど威力が増すようなことを聞いたな」
「ククク、とりあえず、最初の強力バージョンと、今の常用タイプにそれぞれ名を付けると良い。言葉と関連付けておくとイメージが固定化しやすいからの。普通はイメージのための文言を決めておくもんじゃが、お主の場合は技名だけ叫べば良いじゃろ」
「後半はノーサンキューで。……ま、バルカンファランクスとマシンガン光剣でいいか」
わかりやすさ重視だ。また昨夜みたいなのはゴメンだ。
「ククク。悪くないが……技名を叫ぶのはロマンじゃぞ?」
「どこの常識だよ」
ぶっきらぼうに答えるとファフは「つまらん」と嘆息してしばらく練習するように指示してきた。俺、これから運転もあるんだがな……。
俺の言い分は通らずに、結局30分ほど、撃ったり休んだりを繰り返させられた。
……この人たち全員脳筋過ぎるだろ。
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