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第8話「三匹と螺旋の格闘術」


 結局俺の抗議など受け入れられるはずも無く、訓練は始まってしまった。

 俺はネイティブアメリカン装束のエルフ、ヤラライからそれこそ手取足取り格闘の型を教わっている。この辺は復習も含む。


「ククク……そこなエルフよ、それでも良いが、もうちっとアキラに合った型を教えてやると良いじゃろ」

「……む?」

「どういう意味だ? ファフ」


 出来れば訓練その物を止める方向に行って欲しいのだが、小さな角を生やした少女はむしろ積極的に訓練に賛成なようだ。味方が一人もいねぇ! シット!


「ククク、ヌシの波動は螺旋じゃろ? ならば体の入れ方に一工夫入れてやると格段に良くなる」

「ほう。一度、俺に、教えてくれ」

「ククク、無論じゃ。アキラに直接いつまでも教えるつもりなど無いからの」


 二人はいきなり向かい合うと無手の戦いをいきなりおっ始めた。唐突すぎて言葉もでねぇよ!

 だが、スピードは遅く、俺が普通に見ていてもわかる程度なので、二人にとっては訓練以下の行動なのかもしれない。


「ククク、そこでこう、ひねりを入れるんじゃ。腰はもっと落とすんじゃな。逆に出るときの足運びは一度内から外に、だが足首は逆じゃ」

「くっ……こう……か!」

「ククク! 良いぞ! これを螺旋でもない人間が一度でその本質まで理解するなど誇っていいぞ! エルフ!」

「ぬっ! くっ!」


 せっかくファフが金色の縦割猫目をらんらんと輝かせながら褒めているのに、ヤラライの方には余裕が無いようだった。見た目よりハードな手合わせなのかもしれない。


 30分ほど二人がくんずほぐれず深夜の汗を流していたので、漫画でも読んでいようと思ったのだが、酒樽ドワーフに「見るのも訓練じゃ」と首根っこ掴まれて特等席に投げ捨てられた。ひでぇ。

 だが、ハッグの言うことにも一理あるらしく、波動を意識して二人を見ていると、漠然と視覚可された動きの雲のような物が感じられるのだ。基本的には少女であるはずのファフが常に圧倒しているのだが、ヤラライがオーラの雲を螺旋状に変化させながら踏み込んだときだけ、ファフの纏う気の雲に食い込むのだ。

 なるほどそのオーラの雲っぽいものが歪な渦……螺旋を描いているようにも見える。


「はぁ……はぁ……ご指南……感謝、する」

「ククク。良い。この短時間で理解したその身を誇るが良い。アキラならば本質が合っておるから良く教えてやるが良い」

「ああ……ふう」


 ゲリラ豪雨に晒されたと勘違いするほどの滝汗を流しながら、一度ヤラライが片膝をついた。どうやら相当のやり取りだったらしい。そして息切れ一つしていないファフこそ何者なのか……。

 こういう実力者は、自分の好きなことしかしないからな。そういう意味では秘密が知られた相手がこのファフで良かったのかもしれない。

 逆に彼女が秘密をばらまくと決めたら、俺たちが束になっても止められないので、その辺真剣に考えるだけ損だ。深く考えずに気楽に行こう。


 俺はヤラライに水を渡してやる。彼は服のとこかからか小さな岩塩を取り出してかみ砕きながらその水を飲み干した。

 なるほど、経験則上塩と水を同時に取る事は常識なのか。地球でもかなり古くから知られていたみたいだしな。

 2分ほどの休息で嘘のようにヤラライは復活して立ち上がった。そのまま寝てくれてもいいのよ?


「この体術、俺も使える、一緒に極めよう。アキラ」

「……」


 そんな爽やかな(?)瞳で見つめないでください。ノーサンキューと言いづらい雰囲気じゃ無いですか。


「ククク……もしかしたらアキラの方が強くなるかもしれんの」

「それはそれで、見てみたい。良し、いくぞ、アキラ」

「いや、それはねーよ」


 訓練は問答無用で始まった。


 言葉で伝えるのは難しいが、なるほど確かに今までヤラライに教わっていた格闘術よりも、身体にフィットする感覚だ。そうだな、ずっと柔道をやっていたが、ある日レスリングに転向してみたら、妙に肌に合っていたとでも言うのか。

 うん、下手くそなたとえで悪い。

 とにかく今まで波動が「乗り切らなかった」動きが、ピタリと力が「乗る」のだ。正直ちょっと気持ちいい。


「ほう。動きが格段に良くなったの」

「ククク、螺旋の格闘術など極めた物はおらんかったが、もしかしたらアキラが始祖になるかもしれんのぅ」

「……その誰も知らんような技を、どうしてお主は知っておる? しかも先ほどの手合わせ、お主の纏っていた物は波動ではあるまい(・・・・・・・)

「ククク、さすがにドワーフの戦士の目はあざむけんか。それだけで誇って良いぞ」

「ふん。茶化すでない。ワシがわかる程度の押さえておったじゃろうが」

「ククク……。鑑識眼も悪くないの。脳筋ドワーフにしてはおつむも回ると見えるの」

「ワシャあこれでも発明家が本業じゃからな」

「ククク。そうであったな。ワレの正体じゃが……まぁ内緒じゃ」

「はっ! そう言うと思っておったわい! お主のような見た目の種族など知らんからの。あえて言うならオーガ一族の流れとも思ったが、あんな奇天烈な……そうまさに波動の原初「闘気」とも言える気を発することなど出来まい」

「ククク。その通りじゃ。ワレの正体が知りたければ……そうじゃな、勝ったら教えてやるというのはどうじゃ?」

「ふん! 望む所じゃ!」


 そうして俺が見ていないところでファフとハッグの戦いが始まっていた。俺が気がついたときに爆音を鳴らして戦い始めていたので驚いた。会話の内容は後日ハッグから聞いた。さらにハッグ曰く「むかつくが、奴はワシとの戦いをワシに対する訓練くらいに思っておるわ! 全く腹の立つ! 今は奴の思惑に乗って、近いうちに一泡吹かせてくれるわい!」との事だった。

 うーん。ハッグの強さの基準がわからなくなってきた。ちょっと前までは世界的に見ても上位に入る強さだと思い込んでいたが、案外真ん中くらいなのかもしれない。ハッグが弱いのでは無く、強い奴が桁違いという意味で。

 ファフが世界ランキングで上から3割くらいの強さだったら、正直日本に帰りたくなりそうだ。無理だが。


 俺とヤラライは組み手を交えつつ、お互いの型を確認していく。どうやらヤラライもこの型が気に入ったらしく、元々使っていた型に組み込むらしい。俺は新しい型だけで構成するので、実践では少し違う型になる。今は訓練なのでヤラライは俺に合わせてくれている。


「そういや、こういうのって型の名前とかあるのか?」


 小休止の最中にちょっと聞いてみた。


「ぬ? ないな。せっかくだからアキラが考えてくれ」

「おれが?」


 ヤラライがエルフ語で答えてくれた。


「いきなり言われてもな。螺旋近接戦闘術とかでいいんじゃねーか?」

「近接戦闘術! 悪くないな。だが螺旋を付けただけではつまらんだろう。何かもう一捻りないのか?


 軽い雑談のつもりだったのだが、思った以上に食いついてきたので驚いている。

 こういうのはわかりやすさ重視だと思うのだが、捻ってどうすると。


「螺旋……回転……竜巻……ああ、トルネードマーシャルアーツとか……うへ、自分で言ってて厨二過ぎて死にそ——」


「「「それは良いな!」」」


 俺は唐突の三重奏に飛び上がって驚いてしまった。


「ククク! アキラはセンスがあるの! それで決まりじゃな!」

「ぬう。何という強力そうな名前じゃ。アキラはトルネードマーシャルアーツの開祖になれば、門下生でうはうはじゃの!」

「アキラ、俺の、改良した、接近戦闘術にも、名をつけてくれ!」


 いやいやいや!

 今の今までガンガンやり合ってた二人まで一瞬で参入して何言ってんの?!

 嫌だぞこんな厨二ネーミング!


 その後、訓練はうやむやになったが、やたらネーミングにこだわる三人のテンションに疲れ果てることになった。

 おい! 神さん! なんちゅう世界に送り込んでくれたんだ!


ブクマ・評価していただけると、感涙して喜びます。

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