第7話「三匹と中華」
キャンピングカーの詳細もわかったところで、旅を再開することにした。
道の真ん中で「出発するぞー」と適当に叫んだら、ファフもヤラライも普通に現れた。そこまで大声でも無かったので、ふたりの聴力は常人を逸しているらしい。
荷物スペースの割り当てを説明すると二人とも特に文句なく受け入れてくれた。ヤラライは荷物と黒針を丁寧に仕舞っていたが、ファフはアイテムバッグが一つあるだけなので特に問題無いらしい。
またベッドの割り当てに関しても文句は無かった。
それどころかファフはベッドに寝転んで喜んでいた。
「ククク。ワレは食う寝る抱かれる為に生きておるからの」
ファフが余り冗談に聞こえない冗談を言っていた。
何はともあれ出発である。
村人たちの視線は物珍しさはあっても、忌避の印象は無い。やはり魔法……ではなく理術のあるこの世界であれば、多少の理不尽は受け入れられるのだろう。予想通りである。
黒煙を立ち上らせてキャンピングカーがその鈍重な車体をえっちらと動かし始めた。
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街道を走っていると、時々馬車や徒歩の商人とすれ違う。ビックリするほど一般人とはすれ違わない。時々大型の馬車数台のキャラバンとすれ違うのだが、小さな旗にはヴェリエーロ商会のマークがはためいている。本当にあの街はチェリナんところで回ってたんだな……。
彼らは国へ帰ったら国が無くなっていて驚くことだろう。良い方に。
荒い街道を平均時速で15kmくらいで進む。これでも馬車の数倍から、下手したら10倍くらいの速度らしい。
速度が遅いのはとにかく道が悪いのと、くねっているからだ。
つまり馬車だと1時間で1500mくらいしか進めない場所もあるのだ。そりゃああんな大穴ばっかりの道を進むのは大変だろう……。
ちなみに車で避けきれない大穴があると、ハッグがすっごい勢いで埋めてくれる。もちろん俺も手伝うが。近くに転がっている岩を運んで放り投げるのだ。
これなら雨期までは保つらしい。
……雨期ってこの石が流れるレベルなのか?
まぁインフラをどうこうしようなどと言う考えは無いので、自分たちが使える程度まで補修したらドンドン進むことにする。これなら工事用の鉄板を出した方が良いかなどとこぼしたら、ハッグに「訓練になるから」と拒否された。ひでえ。
空が暗くなる頃、ヘッドライトを灯すとハッグがはしゃいでいた。どうやら今までいくつもの現代製品を見てきたが、このライトが一番興味を引いたようだった。
だがこれを作るとなると、電気の問題も解決しなくてはならないので、難しいとだけ伝えておいた。
今日一日で進んだ距離は恐らく100kmか150kmあるわけだが、それは直線では無い。おそらく直線では50kmも進んでいないだろう。もしかしたら30kmくらいの可能性もある。そのくらい道が整備されていないのだ。
さて、ガソリンだが無駄にゆっくりであるのも関係あるのか、恐ろしく燃費が悪い。キャンピングカーの時点で覚悟はしていたが想像以上だった。ガソリンは一日で40リットルほど減っていたようだ。
ガソリン携行缶に20リットル入るので、2回分ほど給油しておいた。2720円だ。
残金28万2544円。
夜は車の中で過ごす事にした。
俺はシンクで料理の準備を始めた。
「いよいよそれらの機能を拝めるときがきたのぅ」
「ククク。王侯貴族の馬車ですらこんな設備はないからの。カルマン帝国当たりに売りつけたら、王族の専用車になるのではないのか?」
「売るつもりはねーよ」
さて、夕食だが何を作るかね?
せっかく設備があるし、新メニューがいいだろう。
……中華の気分だな。
足りないのはなんだろう?
【承認いたしました。SHOPの商品が増えました】
【ブラックタイガー(10尾)=420円】
【生姜=97円】
【豆板醤(200g)=362円】
【ケチャップ(500g)=168円】
【うま味調味料(400g)=798円】
【レタス(一玉)=197円】
【ごまドレッシング=386円】
【ラップ=258円】
他に必要なのは在庫があるな。
おっと、ついでなので水タンクも満タンにしておこう。160リットルの固定式タンクが設置されていた。バケツで十数回かけて満タンにした。
虎……ではなくエビは30尾くらいは必要だろう。ハッグもそうだが、ファフも大食漢みたいだからな。
水道が使えるようになって、凄い楽だ。
ちゃちゃっと米を研いで圧力鍋にかける。レタスを1/3ほど手でちぎる。
そこで皿が無いことに気がついた。ほとんどを宿かチェリナに借りてたからな。せっかく食器棚もあることだし揃えてしまうか。茶碗と箸は俺とハッグとヤラライが一つずつ持っているので、ファフの分を出せばいいだろう。
その他の使いそうな皿を揃えておこう。
【サラダ皿(ガラス製)=1678円】
【大皿=1288円】
【中皿=982円】
【小皿=95円】
ふむふむ。サラダ皿は1つでいいな。大皿を2枚。中小を10枚ずつ買っておこう。6186円。
ファフ用の箸と茶碗で1618円。合計7804円。水160リットルの16円と合わせて7820円だな。
あとはエビやら調味料やらラップやらが3526円。合わせて11346円。
残金27万1198円。
大きい町に着いたら商売しないとまずいな……。
さて、レタスサラダにはごまドレを掛けてと。本当は中華鍋が欲しいがしばらくは節約だな。
フライパンで主菜を作っていく。
ご飯が炊けるのと同時にできあがる。
大皿にレタスをひいて、その上に真っ赤な主菜を載せると、なかなか悪くない見栄えになった。
「ほほう。上手そうじゃな。これはなんじゃ?」
「これはエビチリだ。ピリ辛で美味いぞ」
テーブルにサラダとエビチリの大皿を並べると一杯一杯であるが、みんな器用に食べ始める。ファフもあっさりと箸を使いこなすあたり、この世界の戦士はみんな器用なのかもしれない。
「ククク……まさかこんな内陸でエビが食えるとはおもわなんだ。素晴らしく美味いの」
「うむ。アキラは商人よりも戦うコックになるべきじゃな」
そこはただのコックでいいじゃねーか……。
「……むう。親友として、鍛えたい……、だが、料理人、悪くない」
どういう評価だよ。
神さまからもらった能力がいらねぇ将来だな。それはそれで構わんけど。
それをやるとクエストを越えた強制イベントとか発生しそうだから、適度に乗っておいた方が良い気がする。旅商人ってのもちょっと楽しいしな。まだそれっぽいことはしてないが。
夕飯は好評のうちに終わり、ササッと片付ける。
食器は清掃の空理具で綺麗にした後、水道で軽く流すことにした。
【食器用ふきん=117円】
残金27万1081円。
さて、せっかくだから久々に漫画でも読んでのんびりしようと思って、ベッドに昇ろうとしたら、ハッグに襟首掴まれた。
「おわっ?! 危ないだろ! 何すんだ!」
「お主こそ何をしておる。今から訓練じゃ!」
「……は?!」
「本来なら一ヶ月かかる旅で走らせて鍛えようと思っておったが、まさかこんな隠し球を出すとは思っておらんかったからな。せめて夜はしごいてやるわい。感謝せいよ。ぐはははははは!」
「いや?! 嬉しくねぇよ?! 遠慮願う!」
こちとら慣れない道を慣れない左ハンドルで慣れないデカい車を運転してきたんだ。疲れてるっつーの!
「精神の疲れは肉体の疲れで払うもんじゃ! 観念せい!」
言われるやいなや、ぽーいと外に放り出された。くそっ!
そして外は驚くほど暗かった。当たり前だ街明かりなど一切存在しないのだ。
「大丈夫だ、目は、すぐ、慣れる」
出てきたのはヤラライらしい。
「そういう問題じゃねぇよ! わかった、せめて明日の朝に……」
「それはもう確定じゃ。明日から朝飯前にも訓練するぞい」
「なんだってー?!」
「ククク……これほどの実力者二人にしごいてもらえるなど幸せな奴じゃな」
「だから嬉しくねぇっての!」
「諦めろ、アキラ、これが運命」
「クッソ! 俺の人生クソゲーだぁああああああ!!」
久しぶりにお約束が満点の星空に響き渡った。
あ。
本当に目が慣れたら見えるでやんの。
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