第6話「三匹とキャンピングカー」
どんっ!
ハッグがテーブルをデカい拳でぶっ叩いた。
良く机が割れなかったものだ。無意識に手加減したのかもしれない。
「ククク……熱くなっておるな。ワレが説明してやろう。ゴブリン共はな一般的にオスと、数少ないメスによって繁殖するんじゃが、人間、エルフ、ドワーフのメスを手に入れ、さらにそのメスに適性があった場合に爆発的にゴブリンが増える事をゴブリンハザードというんじゃ。この適性持ちを「依り代」と言うんじゃ」
なんだそりゃ?
そんなのお互い戦争にしかならんじゃないか。
「ククク。ヒューマンで適正を持つことは少ないが、ドワーフの娘であればそこそこの確率で、エルフの娘であれば高確率で依り代となる。じゃから特にドワーフとエルフはゴブリン共に狙われやすくての。エルフとドワーフにしてみれば殲滅すべき敵でしか無いの」
ふとヤラライを見ると、腕を組んで眉間にしわを寄せている。目つきが鋭く跳ね上がり、視線だけで人を殺せそうだった。ハッグも似たようなもんだった。
「ククク……依り代になってしまったメスは身体をなかば作り替えられ1日に何匹ものゴブリンを生み出し続ける道具となってしまうじゃ、この習性があるからの、他の種族に毛嫌いされて殲滅対象とされておるな」
そりゃあ相手にも事情はあるんだろうが、滅ぼすしかないな。俺にはわからん感覚だが、身内がそんなになったら気が狂うだろ。普通は。
「だったら通り道らしいし、お前らで殲滅したらどうだ?」
「何を当たり前の事を。それになんで他人事なんじゃ?」
「……は?」
「うむ。ゴブリン、弱い。アキラの訓練、ちょうどいい」
「……え?」
「ククク……くははははは!」
えー? あれ?
なんか俺、とんでもない事に巻き込まれようとしてない?
その夜、散々の説得も通じず、結局討伐に参加させられることになった。
どうしてこうなった。
恨むぞ、神さんよ……。
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「朝食はどうするんじゃ?」
ハッグの第一声がそれである。万年腹ぺこキャラかお前は。
「そうだな……酒場で朝飯は食えるのか?」
「ん? ああ商人がいるときは大概やってるぜ、珍しく多く滞在してるから間違いなくやってるはずだ」
「そうか、ありがとう」
俺は宿の店主にチップに銅貨2枚……20円を手渡した。
……普通こんなもんだよな?
特に嫌みな視線を向けられることも無く酒場に入った。朝食は雑穀スープで380円。特に用も無いのでとっととかき込んで出発することにした。
残金28万5264円。
「さて、出る前にちょいと車のチェックをしたいから、ちょっと時間を潰しててくれ」
「ふむ。ワシも見る」
「俺は、ライフルの、清掃する」
「ククク……ならばその辺をまわっていよう」
ということでヤラライは酒場に逆戻り……って大丈夫なのか?
まぁ奴なら心配ないか。見られたところで意味不明の物体だろうしな。
そして角娘のファフは……もういない。神出鬼没な奴だぜ。
細かいことは気にしないことにして、まずは外回りから。
よく見ると床下収納が沢山ついていた。左右と後ろに3カ所もだ。
「これはいいな。それぞれハッグ、ヤラライ、ファフに割り当てるか」
「ふむ。それは有り難いが、お主はどうするんじゃ?」
「俺は後ろのカーゴトレーラーもあるし、キャビンにも収容スペースくらいあるだろ?」
「なるほどの。ならワシが右、奴が左、角娘が後ろじゃな」
「その心は?」
「ワシは助手席に乗ることがおおかろ? そしたら降りるのは右じゃ。なら奴は反対じゃろ」
「なるほど」
キャビンの出入り口は左なので、ファフが左の方が良いのだろうが、そこはハッグが嫌がるだろう。息ぴったりに見えるのにどうしてこう仲が悪いのかね?
ハッグは早速カバンをスペースに押し込んでいた。順応早いよな。
それでは改めてキャビン。つまりキャンピングカーの心臓部を調べてみよう。
前提としてこのキャンピングカー自体がおそらくアメリカ製なのでかなりでかい。もしかしたら3tトラックくらいあるんでは無かろうか?
なので居住区はかなり広い。日本だったら駐車場に困るタイプだ。
中はかなり豪華である。まず横長のソファー。もちろんこれはテーブルを畳めばベッドになる。ハッグが寝るとしたらここしかないだろう。助手席の後ろにトイレとシャワーがついていた。てっきり一緒になっているかと思ったらちゃんと別になっていた。アメリカ仕様なのでトイレもギリギリハッグがはいれるだろうか。ただし鎧を脱いでの話だ。
箱形のシャワーとトイレで向かいのソファーは長さが短いが、これもやはりベッドになる。身長的にファフはここになるだろうか?
両方のソファーの上部はそれぞれ天井が低くなっている。確認してみると左右にカプセルホテルのようなベッドがあった。ヤラライと俺で決まりだな。
運転席の後ろには小型のシンクが設置されている。ゴムバンド付きの食器棚もついていた。また戸棚の一つには電子レンジが、別の戸棚には小型の冷蔵庫が隠されていた。
シンクとシャワー室の間は通路になっていて運転席へ通じている。小さめのドアで、開閉可能なガラス窓もついていた。
また、所々に収納スペースが隠されていたので、キャリーバックをそこに放り込んでおいた。
さらにシンク周りの食器棚に、圧力鍋、フライパン、菜箸、まな板、包丁、たこ焼き鉄板、ピック(2本)、お米を仕舞った。
ついでに中型の麻袋2つに放り込んでいた様々な調味料関係も仕舞っておく。うん。台所らしくなったな。
コンテナの空き容量も一気に増えて安心である。
通路中央の天井にモニターもついていたが、テレビの電波などはいるわけが無いので無用の長物か。いや、よく見たら映像音声入力端子があったので、SHOPでDVDデッキでも買えば再生できそうだった。
ま、優先度は低いな。
さらに調べるとコンセントも多数あり、懸案だったノートパソコンなどのデジタルデバイスも使えるだろう。幸いコンセントは(なぜか)日本仕様だった。
せっかくだから色々充電しておこう。一度キャリーバッグを取り出して、そこからノートPC、スマホ、モバイルバッテリーを取り出してコンセントに刺しておいた。バッテリーがへたってなければ良いんだが。
ついでに漫画週刊誌のアタックをベッドに放り投げておいた。
続きが読みたいぜ……。
【承認いたしました。SHOPの商品が増えました】
……へ?
唐突に頭に響いた久しぶりの承認メッセージ。
どういうこと?
慌ててSHOPリストを見ても特に変化は無かった。少し考えてから【漫画週刊誌=255円】を選ぼうとしたら……サブリストが開いてずらーーーっと過去号が並んだ。いや、俺の持っていた号から5号くらい先までの最新号までが並んでいた。
「は? え?」
「どうしたんじゃ?」
ノートPCを開けたり閉じたりしていたハッグが顔を上げる。
「あ、いや、ちょっと商品が増えただけだ。そんなに重要度は無い奴だから気にしないでくれ」
「そうか」
慣れたものでそれだけ聞くと自分の世界に戻ってしまうハッグ。こいつも大概だよな。
さて、改めてリストをみると、どうやら創刊号から全ての号が買えるようになってしまったらしい。洒落にならんな。ただ値段は全部統一で255円らしい。
夜寝る前にでも続きを読もう。
楽しみが一つ出来てご満悦なのであった。
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2016/05/06
2tトラックから3tトラックベースのキャンピングカーに変更しました