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第11話「荒野ののり弁」


「……キラ、……アキラ!」


 俺の意識がゆっくりと覚醒する。


「ようやく起きたか。まったく鍵もかけんと不用心な」


 ため息混じりで床にあぐらをかいているハッグ。


「もう夜じゃぞ、そんなに疲れたか」


 俺は重い頭を無理に起こす。


「気が緩んだみたいだな、前の世界じゃ一日4時間睡眠だったんだがな」

「なんじゃそれは、神官の修行か?」


 俺はペットボトルを取り出すと水を口に含む。

「違う。勤めてた会社がクソみたいなところでな、給料が安いのにサービス残業は当たり前、ちょっとでも文句を言おうものならクレーム処理係に回され、ひとたび出張ともなればありえないほどあいさつ回りをさせられ、さらに専門でもない営業に回される。その上ビジネスホテルは最低の低、最後は火が出るほどのな」


 俺が苦々しく言うとハッグにも移ったのか彼も苦々しく応える。


「どうもお主のいた世界はろくでもない世界だったらしいの」

「俺の周りだけな」

「ふーむ……まぁええ。もう元の世界のことは忘れるがよかろう、今は神の信徒ととして動けばええと思うぞ」

「それもピンとこないんだけどな」

「そこまでは面倒見きれん、この町にいる間は相談にも乗ろう……ところで」


 ハッグの笑みに凄みが増す。

 なんかやったか、俺?


「例の肉パン、カツサンドを売ってくれ! 3つじゃ!」

「ああ、そういう……わかったよ、1137円だな」

「釣りはいらん」


 そう言って銀貨1枚と銅貨を15枚くれた。13円の儲けだな。残金10027円。カツサンドを3つ取り出してハッグに渡した。


【神格レベルが3に上がりました】

【コンテナ容量が20個になりました】


 おおう。


「……ハッグ、また神格とかいうのが上がった」

「むほ?」


 小型の樽から木のカップに酒を注いでいたドワーフが顔を上げた。


「神格というのはなんなんじゃ?」

「俺が聞きたいわ……」


 だが、なんとなくはわかる。

 この神格レベルが上がれば、どんどん価値の高いものとかが買えるようになるのだろう。


 コンテナはわかりやすい。

 試していないが収容数が増えているのだろう。

 商売をするのならこれは心強い。


「まぁその辺はおいおい確認していくさ、俺もなんか食うか……そうだ、のり弁を出せねぇかな?」


【承認いたしました。SHOPの商品が増えました】


 お。

 さっそくリストを確認してみると【のり弁=478円】が追加されていたので、そのまま購入。


 残金9549円。


「む、それは何じゃ?」

「これはのり弁。前の国で一番ポピュラーな弁当だな」


 鮭とちくわ天とシシトウ天ときんぴらゴボウにキュウリの漬物、もちろんご飯にはのりが引き詰められていて昆布の佃煮も見え隠れしていた。

 なかなか豪華だった。


「それは米じゃな、めずらしい」

「知っているのか?」

「東の果てのさらに果ての海を渡った島国で好んで食べられているらしいの。その島国には行ったことは無いがな」


 東の果ての島国ね、なんか日本を連想させるな。


「そこは日本とかジャパンとかジャポネいう国か?」

「いや、剣聖王国ヴァジュラという、何か心当たりでもあるんか?」

「……いや、関係ないな」


 落胆したようなホッとしたような。

 仮に日本だと答えられたらどう気持ちが変化するのかね?

 あまり意味のないことを考えるのはやめよう。時間の無駄だ。


「っていうか、それ美味そうだな、一口でいいからくれよ」

「なんじゃ貴様ドワーフから酒を奪うなど命知らずじゃな」

「味見だけだよ」

「ふん。一口だけじゃぞ」


 嫌そうに俺にカップを渡すが中身は殆どない。

 一瞬でここまで飲んだらしい。

 俺は残りを舌の上に転がす。強い酒精が鼻腔を突き抜けた。


「うん……まぁまぁだな」

「なんじゃと?! この辺じゃ一番の酒じゃぞ! それをまぁまぁとは!」

「悪気があったわけじゃねぇよ、うーん、出せるかな?」


 俺は某有名ウイスキーの名前を念じてみる。


【協議中……神格が足りません】


「神格不足か……」

「美味い……酒があるのか?」


 ハッグの瞳がぎらりと光る。

 なんか一瞬リアルに光ってたような……何か反射したか?


「その酒も悪くないけどな、もうちょい味が深いっていうか……まぁ美味い酒を知ってる」


 実は日本のウイスキーは世界でもちょっとしたブームになっていて、コンテストなんかでも上位を掻っ攫っているらしい。アレとかアレとか高いが美味いのだ。


「肉パンもいいが、美味い酒と聞いては黙っていられん、なんとか手にいれるんじゃ」

「たぶん神格レベルを上げればそのうち手に入ると思うんだけど」

「よし、それが手に入るようになるまで、一緒に旅をしてやろう」


 即断かよ。


「まだ予定も決まってないんだが……」

「ならば早く決めるが良い。ああ、ワシは当面ここの鍛冶屋を手伝うことになった。最初は一日銀貨1枚などとふざけた事を言っていたがワシの腕をみたとたんに5枚に釣り上げおったよ! 当面はここで資金を稼いでもよいの。肉パン……カツサンドも美味いしな」

「それはいいんだけどよ、俺はこっちの世界の食い物も食いたいぞ」

「少なくともカツサンドより美味いもんは食えんぞ?」

「値段や量を知りたい。市場調査って奴だな」

「なるほど。商人の性というやつかの。そうじゃ、夜はカツサンドを頼むから必ず宿にいるようにの」

「わかった」


 ハッグが部屋を出て行ったあと、シンボルに向かって「波乱万丈すぎんだろ」とちょいと愚痴を言ってから再び眠ることにした。

 久々のベッドは2度寝を暖かく迎えてくれた。


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