第5話「三匹と街道の噂話」
レイクレルに向かう街道は基本的にリベリ河沿いに伸びている。だが実際にはずっと川沿いというのは無理な話で、大きく蛇行して伸びていた。
どうやらこの村はリベリ河に近づいている場所に立てられた宿場町のようだ。
そんなこぢんまりとした村の酒場に俺たちはいる。
ドワーフのハッグ。エルフのヤラライはお馴染みだが、黒銀髪の少女も同席している。頭にアクセサリーのような角が二本生えている見かけない種族だ。もっともそれ以外の見た目はただの美少女である。いや、爬虫類を思わせる縦割りの金色猫目はさすがに他にいないか。
その瞳に見つめられると頭から食われそうな錯覚に陥る。何と言ってもハッグとヤラライが本気でかかって軽くいなしたお方だからな。世の中広すぎる。
さて、そんな新メンバーが加わった凸凹パーティーな訳だが、ただいま村の酒場で夕飯の最中である。
俺のメニューは川魚の塩焼き。幸い塩漬けにはされていない生の魚からの料理らしく、思ったより美味かった。まぁ相場を考えると高めではあると思うが。
雑談をしながら食を進めていると、別のテーブルでのうわさ話も自然に耳に入ってくる。情報収集は大事だろうと耳を傾けてみた。
「——なんだ」
「へえ、じゃあやっぱり害獣が出てるのか」
「ああ。そこそこの規模らしくて、セビテスに応援を呼ぶかどうかの瀬戸際らしいぜ?」
「おいおい、軍隊なんぞ呼んだら害獣にやられなくても遠征費用で町が消えるんじゃ無いか?」
「それだけ切迫してるって事だよ。俺はとっとと逃げ出してこっちに来たんだが、歩いている間は生きた心地がしなかったぜ」
ふむふむ。
なんぞおもしろい話をしているな。さらに聞いてみると、ここからセビテス方面……俺たちが向かう途中にある都市型の国家らしい。そのセビテスに向かう途中にある、そこそこの規模の町が害獣被害で苦しんでいるらしい。
「なあ、害獣ってなんだ? はぐれバッファローみたいなのか?」
「ふむ? たしかにあれも害獣じゃな。はぐれは大型害獣とか言っておったか」
「そう、大型害獣に、分類される」
モンスターとは言わないのか。だからと言って普通に野生動物なのかはかなり疑問だが。
「すると彼らの話題に出てる害獣ってのは小さいのか?」
「一般的にはそんなに大きくは無いはずじゃ。もともと曖昧だからよーわからんが」
「だいたい、人の2−3倍より、大きいと、大型と、なる」
「なるほど」
「ククク……」
「なあ、害獣の他になんか変な生き物とかいるのか? 名前だけだけどグリフォンとか飛ぶ動物もいるんだろ?」
「ワシはよくはわからん」
「ククク、ワレが説明してやろう……。害獣は大きく4種類に分類されておる。害獣・危険害獣・大型害獣・大型危険害獣じゃな」
「詳しいんだな」
「ククク。そのなエルフも詳しかろうが、話がまどろっこしいからの。先ほどの4種類は動物系に当てはまるの。他に怪獣という分類もある」
「怪獣?」
なんだソレは。放射能的なあれで巨大化でもしたのか?
「いちおうグリフォンも怪獣に分類されておったかの?」
「ククク。そうじゃな。ワレとしては害獣で良いと思うが……まぁその辺はどうでもよい。怪獣も4種類に分類されておってな、怪獣・危険怪獣・大型怪獣・大型危険怪獣に分けられるの」
「大型危険怪獣……なんだか聞くだに恐ろしいんだが、どんなモンスター……いや怪獣なんだ? やっぱドラゴンとかか?」
「ほう? お主の世界にもドラゴンはおったのか」
「いやいやいや、いないよ? 空想上の生き物だ。前も言ったがどういうわけかエルフとかドワーフとか、物語に出てきてたんだよ」
俺が反射的に否定すると、ファフが小さく笑いを漏らした。
「ククク。興味深い話じゃな。まるでヌシが別世界の人間のようじゃな」
(やっべ!)
俺でだけでなく、ハッグも自らの額をピシャリと打った。
ヤラライはため息交じりに首を左右に振った。
「ククク、詳しく話を聞きたいところじゃが……」
「……えー、……秘密です」
「ククク。ま、いいじゃろ。そのうちにの」
「善処いたします……」
しまった。地雷を踏んじまったぜ……。いや、いつ爆発するかわからんから時限爆弾か。ハッグが一番悪いが、乗ってしまた俺も悪い。最悪だぜ。
「あー……とにかくその大型危険怪獣ってのはドラゴンなのか?」
「う、うむ。間違ってはおらんが、基本的にドラゴンだけは別格じゃの」
「どういう意味だ?」
「ありゃあ生命体と呼べるか怪しいもんじゃ。すでに神の領域じゃの。この大陸には1匹だけ真のドラゴンがおると言われておるが……もしそんなものが現れたらワシャ全力で逃げるわい」
「ハッグでもか?」
「うむ。まだ神に挑む方がマシよ」
「ククク」
なんだそりゃ、そういう伝説でもあるのか?
「昔、大ミダルの頃、何度か現れた、らしい。ミダルが、消失したのも、関係、あるらしい」
「ククク」
「なんだそりゃ無敵か?」
「俺も、挑んでみたい、気はするが……おそらく無理」
「ヤラライでもか……」
この脳筋二人組にしてこう言わせるんだからよっぽどだろう。
「ククク。怪獣の他には怪異というのがあるな。これらは怪異と危険怪異だけじゃ。ゾンビや霊体関係がほとんどじゃな」
「え?! 霊体とかいるのか?!」
「うむ。いる。危険なの、多い」
「そんなの倒せるのか?」
「強敵だった」
どうやらヤラライは倒したことがあるらしい。
「ふん。ワシも銀の武器があればどうとでもなるわい」
「それ、言い訳」
「なんじゃと……?!」
「今日はもうやめてくれ」
「……ふん」
「……はっ」
お約束はいいが、さすがにしょっちゅうだと疲れるのですよお二人さん。
ところで銀の武器なら通用するのか。銀の匙でもお守りに持っとくかな。
「それにしてもファフは物知りなんだな」
「ククク……もっと褒めて構わんぞ?」
「……やめとく」
実際謎の多い女だよな。年齢不詳だし。
「ククク。今、歳の事を考えたであろう」
「え?!」
なんだ?! 心を読まれた?! 超能力か理術かギフトか?!
「ククク……ヌシの顔にしっかりと書いておるわい。女性に歳を聞くのはマナー違反じゃが……、ま、そのなエルフよりは長生きよ」
「マジか」
「ククク」
そう言えばヤラライって何歳なんだろう? 漠然と長生きってのは聞いているが。今度聞いてみよう。
そのエルフさんと言えば、鋭い視線をファフに向けていた。ハッグも酒をあおりつつも、視線をファフに投げていた。何か気になることでもあんのかね?
まさか惚れたとか……いや、そういう目じゃないな。
「まあ話を戻して、害獣ってどんなんだ?」
「ククク、このあたりにおるのはゴブリンかストーンコヨーテあたりじゃろ」
ゴブリン……やっぱいるのか。ラノベなんかじゃお馴染みだもんな。ストーンコヨーテってのも、コヨーテの種類なんだろう。
「ふん。ゴブリンなんぞ見つけたら皆殺しにしてやるわい」
「うむ。殲滅」
「過激だな!」
「ふん。理由があるのよ。ゴブリン・コボルト・オークはの、コロニーを作って暮らすんじゃが……、奴ら人を浚うのよ」
「え?」
ハッグの意外なセリフに思わず目を剥いてしまった。ハッグは吐き捨てるように続けた。
「奴らにはメスがやたら生まれにくいという特徴があるんじゃ、それでも細々と生きていく分には困らないはずなんじゃが……人……この場合はヒューマン、ドワーフ、エルフを依り代とする場合があるんじゃ!!」
どんっ!
ハッグがテーブルをデカい拳でぶっ叩いた。
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