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第2話「三匹と敵対」


「ククク、久しぶりじゃの。商人」


 なぜかキャンピングカーの上から現れた女の子。

 意味がわからない。


 とりあえず彼女の格好は初めて会ったときと変わらず、両腕に装備した黒銀の巨大な爪付きの手甲と、お揃いのグリーブブーツ。

 そしてショートマントと肌の露出した服装である。膨らみかけの胸を申し訳程度に覆う布地と、大胆にヘソを露出するきわどいカットのパンツ姿という、荒野にはあまり似つかわしくない格好だった。

 容姿は中学生くらいのロリ体系で、髪は黒銀のポニーテールというアイドルにいそうな可愛い系美人さんだ。

 一つ変わった事と言えば、彼女の頭から生えた二本の角くらいだろうか。

 この世界には色んな人種(?)がいるのでこのくらいはチャームポイントと変わらないだろう。


 確かに変わった格好なので警戒する理由がわからなくも無いが、バッファローをあっさりと撃退するこの二人がそこまで殺気をまき散らして警戒する相手ではないだろう。


「ええ、久しぶりですね。もしかしてですが、ずっと車……馬車の屋根にいたんですか?」

「ククク。そうじゃ。面白そうじゃったからつい飛び乗ってしまっての」

「なるほど」

「ククク、無賃乗車じゃからな、両腕でも切り落とすか?」

「え?! いやいや! そんな事しませんよ! でも乗りたいなら普通に声は掛けて欲しかったですね」

「ククク……それは正論じゃな」


 このようにちょっと変ではあるが、フレンドリーに会話をしているというのに、ハッグもヤラライも殺気を隠すことをしない。ハッグに至っては波動で身体が光っているレベルだ。

 ところがその人を殺せそうな視線を受けて、平然としている少女も謎だった。

 我慢出来なくなって二人に尋ねることにした。


「なあ二人とも何をそんなにおっかない顔してるんだよ」


 俺は出来るだけおどけて言ってみた。正直怖いのです。

 ハッグは視線を少女から1mmも逸らさずに答えた。


「阿呆! 屋根の上に人が乗っているのをワシらがずっと気がつかなかったんじゃぞ?! あの揺れまくる馬車の上でじゃ! 生殺与奪を握られておったんじゃぞ?! こいつは何者なんじゃ! アキラ!」


 何者と聞かれても、露店の客で、今は……無賃乗車のお嬢さん?


「こいつ、露店で、一度来た。その時から、気配、気になってた」


 鉄パイプ並のエストック。黒針を油断無く少女に向け続けるヤラライ。てっきりヤラライは女性相手には剣など向けないと思っていたのだが、その辺は関係無いらしい。


「ククク、このままでは収まりもつかんか……良かろう。二人とも揉んでやろうかの。ヌシは昼飯の用意をしておけ。もちろんワレの分もじゃぞ」


 少女が俺に顔を向けてそう告げると、次の瞬間、彼女の姿が消えた。


「え?」

「ぬっ?!」

「くっ!」


 何が起きたのかまったく理解出来なかった。ただ彼女のいた地面に小さく砂煙が舞ってるだけだ。

 だがハッグとヤラライは弾かれたように同方向に首を向ける。俺も釣られてそちらを見ると、黒銀のポニーテールを揺らした少女が20mほど先に立っていた。腰に腕を当てて挑発するように。


「ククク、ここなら良いじゃろ、来るがよかろ?」


 大きなかぎ爪付きのガントレットをこちらに向けて、人差し指をクイクイと曲げる。普通に挑発だった。


「馬鹿にしおってからに!」

「黒針、ヤラライ、参る!」


 二人の戦士が飛び出した。ハッグは距離を詰めながら例の波動を強めるお呪いを唱えるし、ヤラライは風の精霊を身体に纏う呪文を唱えていた。二人とも本気の全開だった。


 ハッグの巨大な鉄の塊、鉄槌が細身の少女に襲いかかる。何をどう見たってオーバーキルだ。さらに死角をカバーするように斜め下からヤラライの黒針が突き入れられる。普通に心臓直撃コースだった。

 ちなみに現在は俺も波動全開で視覚に集中している。そうでもしなけりゃ一連の流れなど全く見えないハイスピードバトルだった。

 今の俺は視覚に集中してしまうと他のことは全く出来ないので、棒立ちで観戦するほかは無かった。

 危ないと叫ぶことも出来ず、少女が肉片になる映像が脳裏を横切った。


 だが、肉片どころか血液の一滴すら飛び散ることは無かった。

 少女はニヤリと笑うと八重歯を見せながら、少し腰を落として足を開くと、大きなかぎ爪付きのガントレットで鉄槌と黒針を受け止めて見せたのだ。

 まるで質量を無視するようにその場から動かずに、だ。


「ぬう! やはり効かんか! この化け物め!」

「一流の、戦士と、見受ける! 名は?!」


 えー。ハッグさん、アレが効かないとか予想してたんですか?

 どう考えても少女を肉片にする勢いでしたが……。いや、彼はそんな極悪人間では無いな。俺についてきてくれるようなお人好しに分類されるのだ。よほど彼女の存在が特殊なのだろう。

 そしてヤラライは少し相手に対する態度が違うらしい。どうも一流の戦士と認めた上で挑んでいる感じだ。そういえばさっき名乗ってたな。


「ククク。二人とも良い攻撃じゃ。大抵の者はこれを喰らって無事ではいられまい。誇って良いぞ」


 いやいやいや!

 その攻撃をまるで意に介さずに受け止めてるあんたが何もんだよ!

 まるで俺の心のツッコミが聞こえたかのように、彼女は答えた。


「ククク、ワレの名はファルナ・マルズじゃ! 親しみを込めてファフと呼ぶがいい!」


 両腕が一気に開かれると、ハッグとヤラライが数メートルも吹っ飛ばされた。二人とも数回転して着地するあたり凄いが、ハッグとか鎧と鉄槌と体重合わせてトンまで行ってても不思議じゃ無いのに、まるで乾いた枝でも弾くように軽々と飛ばして見せた。

 正直理解出来ない状況だった。

 このまま殺し合いが始まると思いきや、ハッグとヤラライが同時に武器を下ろした。


「ふん。見事に遊ばれてしもうたわ。……アキラ! 飯じゃ! 大盛りじゃぞ!」


 ハッグは背中に鉄槌を背負うと気むずかしい顔でこっちに戻って来た。


「お、おい、どういう事だよこれは?」

「ふん。ワシにも良くはわからんわい。だが敵意は無い……今はそれしかわからんの」

「敵意が無いのはなんとなくわかってたが、むしろどうして戦いになったのかさっぱりなんだが」

「明らかにワシらを舐めきった挑発をされたからの。最初の動きで遊ばれるのはわかっておったが、無視できるほど大人でもないからの」


 良くわからんが、ハッグから見て、達人ってこと? あのアイドルグループにしか見えない少女が?

 世の中は広すぎるらしい。いや、この世界が異常なのか。

 俺が呆れている時、ヤラライは少女に近づいて行っていた。


「手合わせ、感謝する。ファルナ・マルズ」

「ククク、聞いたことがあるの。放浪のエルフの戦士……<黒針>だったか。名に違わぬ強者よ」

「いや、完敗だった。尊敬する」

「ククク。殊勝なことじゃな。それとファフと呼べ」

「……わかった。ファフ」

「ククク」


 あっちはあっちで仲良くなったみたいで良かった。

 二人が揃ってこちらにやって来た。


「ククク……。で、ヌシよ。昼飯が出来ておらぬではないか」

「……え?」


 ちょっと待て、目の前で人外バトル始めといて、それを横目に料理していろとか言うのかい!

 それ以前に飯を作れるほど時間掛かってないだろ!

 突っ込みたいところだが、それ以前に確認したいことがある。


「作るのは構わないが……対価はあるのか?」


 なんとなく相手の良いなりになるのは嫌だったのでこのように返してみた。別に飯くらいおごってもいいんだけどさ。所持金も寂しいしな。


「ククク。ではこの身で払おう」

「うーん……特に手伝ってもらうようなことは無いなぁ」


 水に困ってるわけでも無いので、水くみもいらないし、車なので馬の世話も無い。あえて言えばメチャクチャ燃費が悪いので(おそらくリッター3km前後)ガソリンを小まめに足さないといけないくらいだが……ガソリンを弄らせるわけにもいかない。


「ククク。違う違う。この身を自由にして良いと言っておるのじゃ。もちろん夜にの」

「……」


 酷い冗談だ。

 俺はため息と共に首を左右に振って……何も考えずに飯の支度を始めることにした。


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[一言] ククク…この物語に出てくる女性は概ね図々しい鬱陶しいからのスタート…
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