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第109話「荒野のバッファロージャーキー」


 チェリナは少々驚きつつも確認する。


「バッファロージャーキーを500kgですか?」

「ああ。値段にもよるんだが……だいぶ所持金も寂しくなったしな」

「本来であればこの時期は値段が上がるのですが、はぐれバッファローが2匹も狩られたおかげで値段は落ち着いています。仕入れるには良いタイミングだと思うのですが、なぜ急にその様な話になるのでしょう?」


 チェリナは不思議そうに俺を見上げてくる。たしかにこれは無理にやる必要など無いのだが……。


「別に? 商品を仕入れて別の場所で売るのは行商人の基本だろ?」

「それはそうですが……アキラ様は特に仕入れをする必要はないかと思いまして」


 確かに俺にはSHOPがある。あるのだが、だからこそ使い続けていると問題が起こるのだ。今回の取引が成立しても焼け石に水かもしれないが、やらないよりはよっぽど良い。


「俺のコンテナは使い勝手が微妙だからな。まとめておけばかなり大きな品物も入る仕様だが、出し入れの事を考えると困るんだ。町中で気軽に使える能力でも無いしな」


 小物なら、アイテムバッグと偽って革袋から取り出せば良いだけだが、数百キロ単位の品物は誤魔化せない。


「ま、その為のトレーラーなんで値段の折り合いがつくようなら売ってくれ」


 彼女は一度トレーラーを見てから、再び俺を見た。


「……わかりました。今日中に用意させておきますので、明日の朝に積むようにいたしましょう」

「それで頼む……って価格を教えてくれ」

「そうですね」


 彼女がクスリと笑った。いつもと違う服装のせいか、印象が違う。なんというか。可愛い感じだ。


「バッファロージャーキーであれば、1kg3000円で卸しましょう。通常は3200円程度で卸すので少しだけサービスです」

「そりゃ有り難い」

「500kgで150万円ですがいかがしますか?」

「買おう」


 即決である。チェリナであれば品質は信用して良いだろう。実は昨夜の飲み食い散らかし会で、ツマミとしてジャーキーが出てきたのだ。塩気が強く味は単調だったが、なかなか美味く。日持ちするとも聞いていた。

 さて、ここからが本題だ。

 俺は150万円分を「銀貨」と「銅貨」で支払った。凄まじい小銭の量だった。


 残金37万9299円。


 これで今日から節制生活決定だな。


「アキラ様?」


 積み上げられた小銭に絶句するチェリナ。


「コンテナの能力を使ったから、おそらく値段に間違いは無いはずだ。手間だと思うが明日までには数えておいてくれ」

「それは構いませんが……どうして小銭を?」

「ああ……ここのところ随分物を売っただろ。本来であればこの金は街に還元されるものなんだが、俺はSHOPで買い物しているからな。この街の小銭は消える一方だ。金貨は別にしても、銅貨の価値が急激に上がったら市民生活に支障がでるだろう? 焼け石に水だとは思うが、これを使えば少しは歯止めが掛けられるんじゃないかと思ってな」


 彼女は目を丸くして俺を見つめていた。


「アキラ様……良く小銭不足であることを知っていましたね」

「知っていたわけじゃ無いんだけどな。露店をやったときに凄まじい小銭が木箱に貯まっていたもんでよ」

「そうですか。銅貨が10万枚と銀貨が500枚ですね。銀貨は旅商人が持ち込んでくれる事もありますし、金貨はヴェリエーロやレッテル家が保持している分を放出すればなんとかなりますので、これだけの銅貨は大変有り難いですわ」

「そうか。なら良かった……あとジャーキーを売るときの値段のアドバイスをくれないか?」


 チェリナの表情が妙に和らいでいる。商談をしているというのに、いつもの緊張感が感じられないとでもいうか。笑顔がとても自然なのだ。どうにも落ち着かない。


「そうですね……バッファローの活動圏内であれば、売値は5000円~7000円でしょう。小売りであれば7000円も可能ですが、街などに入ってしまうと小売りはギルド的に難しくなると思います。どこかの商会に卸すのであれば5000円を目標に商談されるのが良いかと」


「なるほど。圏外だったら?」

「セビテスあたりまではその価格でしょうから、セビテスより東に行ったとすれば、7000円~1万円での取引も可能かと思います。そのあたりになれば嗜好品としての意味合いが強くなりますからね。ただ食料自体が豊富な地域にもなりますから、大量に売るのは難しくなります」


 なるほど。他に食べるものが色々あるのに、わざわざ高い物を食べる必要はないわな。


「参考になった。助かる」

「いえ。この程度」


 その後、麻袋を購入して小銭をそれぞれに詰めて倉庫の隅に置いておいた。袋代は経費と言うことで出してくれた。

 明日の朝までにコンテナにジャーキーを積み込んでおいてもらう事にした。途中呼ばれた小僧(いつもの子だった)がキャンピングカーを見て目を丸くしていたが、チェリナが唇に指を立てると真っ赤になって首を縦に振りまくっていた。ショタのお姉さんが見たら暴走しそうなレベルだな。


「じゃあ悪いが車は明日の出立までここに置かせてくれ」

「了解しました」


 さて、用事も終わったしお(いとま)するか。せっかくの休日を邪魔しちゃ悪い。


「アキラ様……は、本日は休養日なのですよね?」


 俺が別れを言う前にチェリナが切り出してきた。なぜ知っていると聞きたかったがどうせ昨日の酒場での話でも聞きつけたのだろう。別に隠していた訳でも無いしな。


「ああ。明日の準備を含めて自由日だな。ヤラライにしてもハッグにしても準備くらいあるだろう」


 特にヤラライは俺の護衛でずっと自由が無かったからな。今日くらいはゆっくりして欲しい。


「なるほど。では本日はアキラ様一人なのですね?」

「そういう事になるな」


 たまには一人も良い。


「ではわたくしがエスコートして差し上げますわ」

「なんだって?」


 俺は思わずチェリナの顔を2度見した。なぜか真っ赤である。


「あ、アキラ様はこちらの常識が少々足りませんからね。旅に必要な物を見繕って差し上げますわ」

「うーん。それは有り難いんだが、お前だって貴重な休みだろう。せっかくだからゆっくりしろよ」

「街歩きは十分気分転換になりますわ」


 そう言われると反論するのが難しい。


「俺が一緒で良いのかよ?」

「っ! し、仕方がないから構いませんわ!」

「そうか」


 ならお言葉に甘えるか。


「そ、それでは参りましょうか……」


 そう言ってチェリナがそっと手を出してくる。手のひらが下だ。どうしろと?

 俺は視線をチェリナに向けるが彼女はそっぽを向いたままだ。説明プリーズ。


「っ! こういう時は男性がエスコートするものでしょう?!」


 なぜか逆ギレされた。チェリナがエスコートしてくれるって話はどうなった。いや女性に理詰めで問い詰めてもどうしようがないな。うん。

 俺はため息を吐きつつ彼女の手を取った。


「それでは参りましょうか、お嬢様」

「ひゃ! ひゃい!」


 なんで声が裏返ってんだよ。まったく。


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― 新着の感想 ―
[一言] 感情は本物という事なんだろうけど、罠か…?いや、それは穿ちすぎか… いずれにしてもいやな感じになりそうな予感。 ついてこないけど既成事実は作って後で親がでてくるんじゃないのかな…そうなったら…
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