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第9話「荒野の女児ぱんつ」


 まず目立つのは城壁。

 高さは10m前後だろうか?

 3階建てのビルくらいの高さだがそれが結構な面積を囲っているらしい。


 らしいというのは全体を見渡す術がないからだ。


 城壁は海側にも突き出しているので、泳いで回って中に入るのも難しいだろう。

 その城壁の内側に高い塔、いや灯台が建っている。

 今は明かりを灯していないようだが、この間の夜に見た明かりはきっとこの明かりだったのだろう。


 灯台とは逆の位置に城が見える。

 シンプルな形なので砦かもしれないが、俺にその辺の違いはわからない。

 少なくとも城壁を超えて見える建物はこの二つだ。


 城もそんなに大型というわけでは無さそうで大型スーパーか小型のショッピングモールを縦に積んだ感じだ。


 城門は外に向かっての観音開きで全開である。

 日本の城の様に堀などはないらしい。


 門の横に二人の兵士が立っている。

 一人は暇そうにアクビをして、もう一人は鋭い目つきを街道側、つまりこちらに向けている。


 俺とハッグが雑談しながら城門を潜ろうとすると目つきの鋭い方の兵士が槍で進路を塞いできた。


「おい、きさまら、ちょっと待て」


 ああ、素通りは無理なのか、ハッグ怪しいもんな。


「そこの怪しい格好の人間、お前だ!」


 どうやら俺らしい。


「私がどうかいたしましたか?」


 必殺営業スマイルを浮かべると、兵士が警戒の色をさらに濃くする。なんでだよ!


「ずいぶんと変わった格好にこの辺では見ない髪色だ、何をしにこの国に来た!」


「国?」


「そうだ! 栄えある海洋国家ピラタス王国である!」


 俺がクエスチョンマークを頭に乗せてハッグに視線を向けると「西に点在する都市国家群の一つじゃな」と答えてくれた。


「た、たしかに一都市ではあるが、数年で国家元首が入れ替わるような似非国家と一緒にするな!」

「それは大変失礼しました。わたくし遠方の出ゆえ、この周辺の事情に疎いのです。悪気があった訳ではございませんので謝罪を受け入れていただければ幸いです」


 心にも思っていない分、舌が軽い。


「ぬ、ま、まぁいい。それでお主は何をしにここにきた?」

「はい、実は商人仲間と一緒に大儲けを考えまして金を出し合い大型の船で遠方より珍品を持ち込もうとしたのですが途中で嵐にあい沈没。樽に捕まって数日漂流した先でこちらのハッグ殿に命を助けられまして町まで案内してもらった次第です」


 随分悲壮な話だが、営業スマイルを絶やさなかった。

 これが俺が培ってきた数少ない武器だったからな。

 ……もっともクレーム処理が多かったので、沈鬱な表情でじっとしてるのも得意だ。


「それは、大変だったな。おいドワーフ! その話は本当か?!」

「ああん? 死にかけで倒れてたから助けてやったのは本当じゃ」

「ふむ……この辺の外洋は荒いからな、事故も多いが……船で商売なんて危険な事をチェリナ嬢ん所以外でも考えるんだな……」


 独り言なのか、考え事をまとめているのかボソボソと呟いてから。


「事情はわかった。町で悪事を働いたらすぐに逮捕するからな! ドワーフ! 武器の持ち込みは銀貨1枚だ! 町中で振るったら問答無用で逮捕だからな!」

「わかっとるわい」

「よし、ではじっとしてろ」


 兵士は金属で出来た、ガットの張っていないテニスラケットみたいな物を取り出した。


「なんですか? これ?」

「アイテムバッグ系の空理具(くうりぐ)を調べるものだ……ドワーフ、お前の持っているバッグを出せ」


 ハッグは無言で例のアイテムバッグを手渡した。

 兵士はラケットのスイッチかダイヤルらしきものをいじってバッグにかざす。


「中身は……鍛冶道具か。武器の持ち込みと合わせて銀貨11枚だ!」


 ハッグはため息混じりに銀貨を渡す。


「証明の木札だ。無くすなよ! 行ってよし!」


 そうして俺とハッグは町の中に足を踏み入れることになった。

 どうでもいいがもう一人の兵士は終始アクビをして立っていただけだった。

 彼らは同じ給料なのだろうか?


――――


 ちょうどお昼時に町に入れた。

 町というか都市国家らしい。


 この城壁に囲まれた町……いや都市がピラタス王国。

 大きいような小さいような。


 城門から真っ直ぐに広い道が伸びる。

 この辺は石畳だ。幅も馬車3台が並べるくらいだろう。

 両側には木造の柱に土色のレンガで組まれた建物が並んでいる。

 殆どが2階建てだった。


「日干し煉瓦じゃの、荒野側の土は水を混ぜてやると案外良い土になる。もっとも粘土質が多く作物を育てるのには向いておらんな」


「博識だな」

「長く旅をしとるだけじゃ」


 200mか300mか直進すると、円形の広場にぶつかった。

 ここは外周に沿って露店がひしめき合っていた。

 向かって左、東に直角に道が折れてまっすぐ伸びている。

 その先は別の城門のようだ。


「そういえば建築物に結構木材が使われてるな、とても木材が取れるような土地に見えなかったが」

「入ってきた門の逆側に川が流れておったはずじゃ。上流から筏で輸入しておるんじゃろ。大河じゃから流れも緩やかだしの」


 なるほど、こんな場所で水をどうしているのだろうと思ったが川沿いなのか。

 ここからはまったく見えないけどな。


「さて、大通りは一通り見たの。良さそうな宿があったからそこに行こうぞ」

「まかせる。あんまり高いと困るがな」

「それはワシも困るから安心せい」


 ごもっともで。


――――


「……らっしゃい」


 あんまり歓迎されていない感じの挨拶が向けられる。

 カウンターに肘をついたままのちょっと腹の出たおっさんだった。


 それは接客業としてどうなのよ! とか思ってしまったがハッグは気にならないのか普通にやりとりを始めた。


「主人! 部屋に空きはあるか? 二部屋じゃ!」


 かなり本数が寂しくなったくすんだ金髪の後頭部を見せて、背後の壁にかかっている木札と鍵を見やる。

 適当に2つ取り出すとカウンターの上に放り出す。

 鍵と木札が紐でつながれてた。


 木札には13と21と書かれていた。

 どうみてもアラビア数字だったのはこの際無視する。


「銀貨4枚だ」


 愛想もクソもない。


「アキラ4000円じゃ」


 ……おう、あいかわらず謎翻訳だな、4000円と念じると手の中に銀貨が4枚現れた。

 これはポケットの中で出した。


 残金10014円。


 あ、これはかなりやばい、あと2泊しかできねぇや、急に危機感が強くなる。


「なぁもっと安い宿は無いのか?」


 小声で聞いてみた。


「無いことはないが……追い剥ぎの巣みたいなもんじゃぞ?」

「そりゃ駄目だな」


 身に着けている金目のものはないが、腹いせに命を取られそうな気がする。

 いや、着ている物まで奪おうとする強盗がいるくらいだ、服やら靴やら奪われて許してもらえるか?


 いやいや、取られることが前提でどうする。その為の宿だろう。


「ワシは一階がええの、お主は2階にゆけ」

「わかった」


 別にどっちでも良かったので21の木札がついた鍵を受け取った。


「ワシは鍛冶屋ギルドに顔を出してくる。夜にワシの部屋にこい、これからの事を話そう」

「ああ、助かる」

「ではの」


 ハッグはそのまま宿を出て行った。


 俺は流石に休憩したい。

 ベッドに横になりたい。


 我慢していたが足が棒だったし、筋肉痛を突っ切って筋肉激痛状態だ。


 実は靴も壊れかけていた。

 底が抜けなかったのが不思議でしょうがない。

 正直この世界にこのタイプの合成皮靴はまったく合わない。

 なんとか金を作って靴を買わなければならない。


 そもそも金を稼がないとタバコが吸えない。

 まったくもって高すぎる。


 もっと大事な事があるだろうと自己ツッコミをしながら21部屋前についたので鍵を開けようとしたら、扉が少し開いていた。


 換気でもしていたのだろうかと中に入ると女の子がいた。


 パンツ一丁で。


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