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第100話「荒野の酔っ払い」


 その日の夜はヤラライと一緒に酒場に繰り出した。

 いつも行っているトカゲの尻尾亭ではなく、もうちょっとちゃんとした酒場だ。

 念のため俺たちの宿泊するクジラ亭の自称看板娘ナルニアにハッグへの伝言を頼んでおく。拗ねると怖そうだしな。ついでにぼったくられない酒場を聞いておいたという訳だ。


 店の中は随分と賑わっていた。なんでも夜間規制が無くなったとかで深夜営業をやっても怒られなくなったという。もっとも俺の知っている深夜と比べて普通の営業時間になっただけの印象ではあるが。

 テーブルは塞がっていたのでカウンターに腰を下ろしたのだが、クジラ亭に教えてもらったと伝えると、持ってくる酒の土瓶が同じ銘柄でも微妙に違った。よく見ていてわかったのだが旅装束の人間とこの町の住人(と俺たち)で区別しているらしい。おそらく中身が違うのだろう。


 一般的なワインよりちょっと良いものを選んで持ってきてもらう。ワイン君は長旅をしてきたのかたいした味では無かった。それでも地元の酒場で飲む酒というのは妙に美味く感じるものだ。祭りの屋台でも思い描いてもらえれば良いだろう。

 砂色をした床に砂色の壁。柱には木材を使用しているので比較的新しい建物なのだろう。カウンターの土台は日干しレンガだったが天板はちゃんと木材だった。


 壁に掛けられた松明が部屋の中を幻想的に照らしている。人間に獣人にドワーフと、あれはハーフリングか。色々な種族がそれぞれに酒や料理を嗜んでいる。

 周りへの迷惑を考えず大声で話しているグループもあれば、黙々と酒を流し込む機械的な奴もいる。酒場はその国の縮図であった。


「思っていたよりも活気があるな」

「ああ、あんな事があった後だ、もっと沈んでいてもおかしくない所だがな。よほど今までの王は憎まれていたのだろう」


 俺はミダル語で話しかけたのだが、彼はエルフ語で返してきた。もしかしたらエルフ語に飢えていたのかもしれない。特に問題も無いのでそのまま会話を続ける。


「ところでヤラライ、銃の扱いなんだがどうする? 両方渡しておくか?」


 射撃訓練が終わったところでは日が暮れたのでとっととコンテナに仕舞って走り戻ってきた。まだ銃をヤラライに渡してはいない。


「そうだな……今はハンドガンだけ預からせてもらおう。あの大きさならアイテムバッグに入るからな」


 なるほど。どっちも悪目立ちするしな。

 カウンターは他に客がいなかったので店員がいないタイミングでP229と空マガジン2つを置く。ヤラライはそれをすぐに革製のバッグにしまった。それが彼のアイテムバッグなのだろう。


「弾はどうしような」

「消耗品なのだろう? いくらするものなのだ?」

「50発で1600円だな」


 彼は片目だけぴくりと見開いた。


「それは、一般的な矢よりも安いでは無いか」

「そうなのか?」

「地域にもよるが、この辺はだいぶ高いかなら」


 ああ、木材は豊富でもタダじゃないし、矢尻の鉄も必要だし矢羽根だって必要だ。この辺ではどれも貴重なものだろう。


「……俺が住んでいた辺りはそれなりに平和だったんだが、ちょいと離れるを戦争やってる所も多いからな。大量生産してるから安いんだよ。ライフルの弾はなぜか高かったけどな」


 どちらも相場を知らないのだが、5.56mmは調達価格よりだいぶ高額なんじゃないだろうか?


「ふむ……」


 ヤラライは腕を組んだ。


「弾代は俺が出そう」

「それはありがたいが護衛の必要経費だから俺が出すべきだな」

「ではその時々で決めれば良いな」


 確かに臨機応変で良いだろう。


「なら今回は俺が出す」

「わかった」


 また店員がいないタイミングで9mmパラを50発入り1ケースをカウンターの上に置くとすばやくヤラライがしまってくれた。良くわかってらっしゃる。


「アキラ、もし可能であればもっと銃のことを教えて欲しい。手入れも必要だろう」


 そういや忘れてた。M4はまだしもP229はだいぶ使い込んでいる。クリーニングしなければ暴発の恐れもある……のだが、そもそも俺はそんなに詳しくない。


「ヤラライはミダル語は読めるのか?」

「問題無い」

「なら……」


 少し考えてからこんな風に願ってみる。素人が1から学べる銃器の本で清掃方法も載っているもの。それと銃の手入れ道具一式。


【承認いたしました。SHOPの商品が増えました】


 ほうほう。確認してみよう。


【3歳児から始めるハンドガン=1980円】

【初心者から上級者まで学べるM4辞典=2980円】

【ガンクリーニングキット=3795円】


 突っ込みどころがあるな!

 3歳児は銃を使わねえよ! アホか!

 ……まあそのくらわかりやすい本って事なんだろうけどよ。

 とりあえず購入しよう。現物を見ないと何とも言えん。


 残金437万6394円。


 ガンクリーニングキットは予想より大きめのナイロンバッグが出てきた。ちょっとだけ中を覗いてみたが、棒やブラシや綿やグリスが入れられているようだった。


「入るか?」

「まだ大丈夫だ」


 ヤラライはすぐにクリーニングキットをしまう。

 本は2冊だが、今までの妙に重厚な本と違って普通に書店に並んでいそうな装丁だった。


「これに詳しく書いてあるはずだから後でゆっくり読んでくれ」

「わかった」


 これもすぐに仕舞う。随分容量の大きいバッグらしい。


「もともとあまり物を入れていない」


 俺の心を読んだのか疑問に答えてくれた。旅してるわりには物を持たないのだろうか?

 と思ったらもう一つ同じような革袋を見せてくれた。つまりそれもアイテムバッグということなのだろう。

 そこそこ高いんじゃなかったか? あの(・・)バッファローをソロ狩りするんだからこれくらい買えちゃうのか。凄いな。


「これで必要な物は揃ったかな?」

「おそらくな」


 ならいいな。そろそろゆっくり飲みたい。俺は店員にお勧めの酒とツマミを頼む。出てきたのはあまりアルコール度の高くない少し濁った酒とバッファロー肉の焼き物だった。

 酒はこの辺の地酒で川辺に生える植物から作られるらしい。焼き物に関しては安くて美味いバッファロー肉が出回っていて運がいいと言われた。うん。知ってる。

 俺がヤラライにニヤリと笑いかけると、彼も少々酔いが回ってきたのかニヒルに微笑み返してきた。くそっ。イケメンめ。


「それにしてもハッグ来ないな」


 俺はアルコールには滅法強いが、それでも酔いが回り始めた頃に気がついた。


「別にあんな鉄臭いドワーフはいなくてかまわん」


 ふんと顔を横に向ける。どんだけ嫌いなんだよ。


「そういうなよ。俺にとったらどっちも命の恩人なんだからよ」

「……」


 ヤラライは腕を組んだ姿勢のまま視線だけを俺に向けてくる。


「もう命の恩人というのはやめろ」


 いや、それじゃあ恩知らずだろ。


「友を助けるのは当たり前の事だ。もし恩を感じているのであれば俺が困ったときに助けてくれればいい」


 想像出来ません。


「……そうだな。うん。俺が助けられる事があるとも思えんが、その時は必ず」


 彼は深く頷いた。


「大丈夫だ。そのくらい出来る戦士に育ててやる」


 あれー?


「なにそれ腕っ節でって事なの?!」


 するとヤラライはクツクツを俯いて笑った。

 あ、こいつ酔ってるよ。酔ってやがるよ!

 考えてみると結構飲んだからなぁ。

 転がっている陶器瓶は10を越えていた。

 こりゃまずいなと帰ろうと立ち上がろうとしたが、ヤラライに腕を掴まれ再び座らされた。


「お前には戦士の心得から教える必要があるな」


 微妙に目が据わってる。嫌な予感がする。


「俺には必要ないかなぁ~と思うんだけど」


 アキラは逃げ出した!

 だがヤラライに回り込まれてしまった! 逃げられない!

 そうして……なぜか戦士の心得やヤラライ流格闘術の心得などを聞かされつつも夜は更けていった。

 結局ハッグは現れなかった。


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[一言] 俺が助けられる事があるとも思えん →俺に助けられる事が有るとも思えん
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