第99話「荒野のスナイパー」
おかげさまで100話到達!
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総合評価2万達成です!
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ネット小説大賞1次突破もいたしました。
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冤罪で捕まっていた牢屋から脱出する途中に王城内で立ちふさがる兵士に真っ二つにされたM4カービン銃。ヤラライに助けてもらったのはちょうどその時だったな。
あの時は死んだかと思った。2度も3度も経験したくはねーな。
M4カービンはすでに買い直してあるので、弾を購入する。【5.56mm弾=400円】なぜか一発単位なのでセットを利用して【5.56mm弾(30発)=1万2000円】を作成しておく。
M4カービンを購入した時に空マガジンも1つ付属していたが、予備にもう一つ欲しかったので【M4用マガジン(30発装填済み)=3万1800円】こちらも購入しておく。
最終的に5.56mm弾が60発と装填済み合わせて90発になった。俺一人ならこんなに必要無いのだが……。
無表情で無言のプレッシャーを掛けてくる金髪ドレッドエルフがいるんですよ。背後に。
残金440万9149円。
俺はゆっくりと操作を思い出しながら1発1発丁寧に発砲していく。数発確認した後はヤラライにも説明しながら続けていった。まずマガジン1つ分撃ち尽くす。
狙いは先ほどヤラライが9mmで作った窪みだ。
安全確認をした後に岩を見に行くとヤラライの窪みの横に似たような窪みが出来ていて「おお!」と感嘆の声を漏らしてしまったが、よく見ると岩のあちらこちらに似たような穴が空いていた。つまり5.56mm1発でこれだけの威力があると言うことだ。半端ねえ。
9mmよりはだいぶ命中率は上がっているようだった。もう少し距離を離してテストするかと振り返ったら……近い! ヤラライ近い!
「こら! 射撃中は近づくなって言っただろ!」
「今はやってない。アキラは銃をそこに置いていっただろ。俺が見張ってた」
いや、確かにそうなんだが……見張ってたっていうか触りたくてウズウズしてただけじゃねーの?
「俺の番だな」
この有無を言わせぬ圧力をどう説明したもんかね、あまり表情の豊かではない美形エルフがそのアーモンド型の瞳で見下ろしてくるのだ。近距離で。
「あー、わかったわかった。安全には絶対気をつけろよ」
「了承」
俺が銃を渡すと、それがまるで自分の元に返ってきたような自然さで銃をチェックし、空弾倉に弾丸を詰めていく。ハンドガンで慣れたのかその手付きはほぼ軍人だ。
何も口を出せない完璧な操作で銃を構えるのだが、おかしい、俺が教えた以上に様になっている。
構え方がおかしい。迷彩着せたらそのままデルタと言ってもシールズと言ってもレンジャーと言っても通じそうな堂に入った構えなのだ。確かに俺もあの構えで撃っていたはずだが、そこまできっちり型に嵌まっていなかったはずだ。
あれー? なんか俺が生徒みたいになってんぞ?
ガンシューティングのお手本みたいに3発発砲したところでヤラライの構えが解かれる。
「……どうした?」
ヤラライは銃を安全な状態に戻してから肩に掛けて指差した。
「割れた」
何が?
とは聞く必要もなかった。的にしていた岩が割れていたのだ。
斜めにひび割れてそのまま二つに割れたらしい。ヤラライばかり見ていて着弾まで確認していなかった。
二人で的の岩にいくと。ほぼピンポイントで同じ場所に銃弾を叩き込んでいたようだ。
おかしくない?
「思っていた以上に威力が強いな。飛び道具でこれほど威力があるとは……」
ひび割れ落ちた断面や着弾点の深さを確認しながら彼が呟く。
「いや、むしろあの命中率はなんなんだよ」
「昔から俺は弓の軽さや遅さに不満を持っていた。むしろ俺が思い描いていた弓の姿こそがこれだ。重く速い弾頭。発射するという意思と同時に射出される即応性。次弾の準備の必要の無い構造。まだ禁止されているが連射も出来るのだろう?」
そう、俺はセミオートしか許可していなかった。
「出来る……もし試すなら伏せ撃ちからだな。指切り点射で3発ずつ撃つ練習をしたほうがいいな。……弾が足りねぇ」
追加で買うか……60発購入しておこう。
残金438万5149円。
伏せ撃ちの姿勢を思い出しながら構えてみせる。たしかこうだったはずだが……。端から見たらへばりついたカエルにしか見えないんじゃなかろーか?
いつのまにかマガジン二つに弾を詰めてくれたらしく、一つを手渡してくれた。俺はそのまま指切り点射で2回発砲してみる。
「まあこんな感じだ。3発ずつが基本らしいんで意識してくれ」
「わかった」
交代してヤラライが伏せ撃ち姿勢を取る。
……お前はどこのスナイパーだよ……。
弾倉を空にするまで撃って立ち上がる。
「連射は狙い通りに飛ばなくなるな……。俺はセミオートの方が向いてるかもしれん」
なるほど。
ヤラライは最後の30発を弾倉に詰めて再び伏せ撃ち姿勢になる。
セミオートで単発撃ちなのだがその間隔はかなり短い。フルオート状態とは比べものにならないまでも拍手並のタイミングでパンパンパンと連発していた。
そして目標の岩をどんどん遠くに変えていく。
俺はメガネを掛けていても視力が1に満たないレベルなのですぐにどの程度の命中率かを判断できなくなった。
全弾を撃ち尽くしてヤラライがわずかに口角を上げた。
「素晴らしい」
ゾクリとする声色だった。
「だが……」
ヤラライは3度安全確認をした後に銃口を覗き込む。
「おい」
「途中から僅かずつではあるが命中率が下がっていった。おそらくこの煙の煤が原因では無いか?」
そういや清掃しないとダメなんだよな。
「たぶんそうだな。しかしいくらなんでもこんなに早く命中率が下がることは無いと思うんだけどなぁ」
「本当に僅かだ」
それがわかるのかよ……。
しばらく銃を見つめていたヤラライが身体の正面をこちらに向けた。
「アキラ、相談がある」
「予想はつくが……なんだ?」
売ってくれって言うんだろうな。
「お前はこれから旅をするんだろう?」
「ああ、一番有名らしい3柱参りだな。どのくらいの旅になるかはわからんけども」
ヤラライが頷く。
「ならば、その旅が終わるまでそのカービン銃を俺に使わせてくれないか?」
おや? 予想と違う話になってきたな。
「終わるまでって、一緒に来るってか?」
「ああ、その代わりアキラの事は俺が責任を持って護衛しよう」
俺は腕を組んで空を見上げた。すでに茜に染まり始めていた。
「そりゃあ有り難い話なんだが、護衛代もいつまで払えるかわからんしなぁ」
「いらん」
即答だった。
「いらんって……。お前も目的があって旅をしてるんだろう?」
「うむ。強くなるための修行の旅だ。だが戦士として友を守るのも大事だ。もともと目的地はないから一緒にいて問題は無い」
わかるようなわからんような。
「売ってくれとは言わないんだな」
「おそらくだが、その武器は寿命があるだろう。それに弾丸はアキラといなければ補充できまい」
「まあ、そうだな」
「それに神の武具を所持したいとまでは思わん。だが短い間でも使わせてもらえる機会を逃したくも無い。アキラが嫌で無ければ一緒に旅する間だけ使わせてもらえると嬉しい」
なるほど。エルフの寿命はわからんが、ヤラライの人生観だといくら旅をしても短い間隔なのかもしれない。自分の考えていた理想の武器が使えるのならしばらく触りたい気持ちもわかる。お互い男の子だもんな。
それにハッグとていつまで一緒にいてくれるのかわからない。そう考えたら旅の終わりまでこの馬鹿強いエルフさんが付いてくれるのならこれほど心強い事はない。
ならば答えは決まっている。
俺は片手を差し出した。
「……よろしく頼む。ヤラライ」
「ああ。任せろ」
夕日の荒野でがっちりと握手を交わし合った。
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