第8話「荒野の紫煙」
神格。
レベルという言葉が添えられているので、段階があるのだろう。
そういえば今まで何度か「神格不足」とか言われた気がする。
どうして神格がレベルアップしたかは置いておいて、今までダメだったものがリストに増えないか試してみよう。
「あー……カツサンド!」
一度却下されたものがいいだろう。
【承認いたしました。SHOPの商品が増えました】
おお! やっぱり!
早速SHOPリストを確認すると【カツサンド=379円】が追加されていたのでさっそく購入してみた。
所持金18844円なり。
「よくわからないが新しい商品が買えるようになった。半分食うか?」
俺はサンドイッチのビニールを剥がして2つ入っていたカツサンドの一つを差し出す。
ソースとキャベツたっぷりでうまそうだ。
キャベツ入りは邪道という人もいるが、美味しければ俺はどちらでも良い。
「ほほう! 真っ白なパンでないか! いただこう!」
手の大きさのせいかハッグが持つとサンドイッチが小さく見える。それを一口でペロリと食べてしまった。
「おおおおおおお! な、なんじゃこれは! う、うまい! パンの甘みと肉の旨味とコクのある黒ソースがさらにそれを引き立てる!」
「食レポかよ」
気に入ってもらえたみたいだから問題ないか。
「これはもっとあるのか? 神の店でまだ買えるのか?!」
「ん? ああ、買えるぜ、379円だと。値段の基準がよくわかんねぇけどな……」
「買おう! こんなんじゃぜんぜん足りんわ! それに恐ろしく安いの!」
「だいたい元の世界の値段だな。コンビニっていう店があって、そこにいくと24時間いつでも買えたんだぜ」
「ほほう。夜中に店なんぞやってたら衛兵がすっ飛んできそうじゃな」
「平和な国だったからなぁ」
「それは良い事じゃな。……ほれこれで2つ売ってくれ」
「はいよ」
まずはカツサンド2つで残金18086円。
銀貨を1枚渡されたので、取り込むと所持金が19086円に変化した。
差額が242円ほどあった。
俺はカツサンド2パックと242円分の硬貨をハッグに渡した。
これで残金が18844円に戻る。
「ん? これは?」
「お釣りだよ」
「細かいの……小銅貨なんぞ見たのは久しぶりじゃ。普通は使わんぞ? それよりもこれじゃ! この肉パンじゃ……むほほぅ! これじゃこれじゃ!」
「カツサンドっていうんだぜ。豚の肉を油であげたもんを挟んでる」
「ほうほう。まさに神の食事じゃな」
俺もなにか食べよう、正直あまり食欲はないんだが……いや、無理にでも食おう。
ということで、昆布とマヨシーチキンおにぎりを水で胃袋に流し込んだ。
ちょっと吐きそう。
残金18614円なり。
いつのまにやら酒を取り出してちびりとやりながらカツサンドを頬張っていた。
酒いいな。
……いやまて、酒なんかよりヤニだろ、ヤニ!
「タバコ! タバコよこせよ! ヤニが足りねぇんだ!」
「うをっ!? なんじゃ?! 急に!」
【協議中……却下されました】
「なんだと?! タバコが吸えないとかありえねぇ! よこせ!」
「おいおいアキラ……何を……」
星空に向かって叫ぶ俺に心配そうにハッグが声をかけるが、そんなの関係ねぇ!
【協議中……却下されました】
「俺はタバコがねぇと物を考えられねぇんだよ!」
【協議中……却下されました】
「同じことばっか言ってんじゃねぇちっとは融通をきかせろよ!」
【協議中……】
「もしまた却下とか続けたらブチ切れるからな!」
【……】
「アキラ?」
【条件付きで承認いたしました。SHOPの商品が増えました】
おお!
リストリスト……あった!
【タバコ=4600円】
きたーって、なんだよこの値段は!
ボリすぎだろ! クソが!
これが条件付きの条件って事かよ!
背に腹は代えられねぇ。早速俺はタバコを購入する。
残金14014円。
一気に減ったな。
吸えないよりはマシか。
一本取り出してライターで火をつける。肺にニコチンが充満してようやく人心地ついた気分だ。
「ほう。お主もやるタイプか。ワシもじゃ」
ハッグはニヤリを笑って腰からキセルを取り出して焚き火から火をつける。
「こっちにもタバコあるんだな」
「タバコと言ったら普通これじゃぞ。ちと交換せい」
交換してお互いに吸ったら同時にむせた。
「げほっ! こ、こりゃまた強烈だな。濃いっていうかなんていうか」
「ごほごほ! 加減がわからずに思いっきり吸ってもうたわ。香りは良いがちと物足りんの」
お互いの姿に笑い合ってしまった。
「慣れれば吸えそうだけど、基本はこれがいいわ」
俺は紙タバコを咥え直す。
よほどの事情がない限りはこっちだな。
まぁえらい値段になっちまったから本数を控えないとまずいが。
「さて今夜はもう寝ようぞ、明日には町に着くからの」
「いいかげんベッドで寝たいぜ」
……そういやベッド放置してきちまったけど、もしかしたらコンテナに収納できたんじゃないのか?
いまさらの話だけどな。
焚き火はほとんど消えていた。
――――
朝食はハッグが作ってくれた。
水だけ欲しいというのでペットボトル1本分渡すと、塩気を効かせた麦粥なるシロモノをごちそうしてくれた。
正直美味いものでは無かったが旅人がよく食べるものらしい。
カツサンドでなくて良いのかと聞いたら。一口食べたら止まらなくなる、酒盛りもしたくなる。どうせ食べるなら町でゆっくりと食したい。との旨だった。
俺も現地の食べ物を試せたので満足だ。
2時間ほど歩いた頃だろうか、いつの間にか崖が低くなっていき海岸と一体になっていた。
するとその先に人工物が見え始める。
あれは塔だろうか?
「ありゃ灯台じゃな。この辺の海は荒いから船はあまり無いと聞いたが……聞いたのも随分と昔の話じゃったから変わったのかもしれんの」
随分距離があるのに灯台って言い切ったな。
どうやらハッグの視力はそうとう良いらしい。
いやメガネ矯正いれて視力1を割り込む俺と比べるもんじゃないか。
「ハッグはこの辺の人間じゃないのか?」
「旅をしてると言うたじゃろ。このあたりは西の果てじゃしな、土地勘も知識も無いの」
西の果てなのか、右に海が見えているので右が西、南下してる訳だな。
「そういやハッグは町にいったらどうするんだ?」
「しばらくは路銀を稼ぐ。鍛冶屋ギルドに行ってしばらく日雇いか、問題がなければどこかで修理屋を開かせてもらうつもりじゃ」
「なるほど」
「アキラはどうするつもりじゃ?」
「ああ、例のシンボルを教会に奉納してから、俺も金を稼ぐ算段を考えるさ」
「なるほどの。しかしこの先の町に3柱全ての教会があるかはわからんぞ」
「その時はどこにあるか聞いて路銀を稼ぐさ」
「それがええじゃろ、宿だけ同じ場所に取って、しばらくは別行動じゃな、わからんことがあったら夜にでも聞くがええ」
「ああ助かる」
そんなこんなでようやく、この世界の人の住む場所に辿り着いた。