玲ちゃん爆誕
「うわっ、なにこのお化粧のノリ、それにまつ毛もこんなに長い…女として自身なくすなぁ」
ここはとあるホテルの一室、時刻は早朝、椅子に括り付けられた雇い主、片桐玲に助手の北条麻美が化粧を施していた。
「お化粧は軽くで…こんなものでしょう。うわっ凄い美人。次は髪の毛ね~」
玲は魔力保持の観点から男性にしてはかなり髪の毛が長めで肩に掛かるくらいに伸ばしている。
それをシンプルな黒のヘアゴムで一本に纏めた。
「…髪の毛さらさらだしブラシ入れても引っかからないしどうなってんの?」
濡れ羽色の髪の毛が実に映える。
まさに凛々しい美少女といったところ、刀を持たせればアニメの登場キャラクターの様になるだろう。
「本当に20歳の男?生まれてくる性別を間違えたのでは?」
「悪かったな」
パチリと目を開くとそこには我が助手の顔がドアップになっていた。
「あ、起きた。おはよう玲ちゃん」
「おはよう…俺一応君の雇用主なんだがな」
玲ちゃん言うな。
「申し訳ありません!!玲ちゃん探偵殿!!ささ、この鏡をどうぞ!!」
大仰な仕草でピンクのファンシーな手鏡を渡された。
手鏡を覗き込むとメイクアップされた忌まわしいくらいに凛々しい美少女の顔が鏡に映し出される。
「はあ…暴れたり逃げたりしないから縄を解いてくれないか?どうせそこにある服も着せられるのだろう?」
ブレザーがそこには鎮座してあった。
当然、下はスカートだし、ベッドには新品のふりふりが着いた下着のセット(勿論上下とも女性用)とやたらと精巧なシリコン製の疑似胸が異様な気配を醸し出している。
せめて自分の手で着たい。
「わっかりましたー♪説明書はここに一式あります。着け方がわからなかったら呼んでくださいね?」
ふんふんふーん♪と軽やかに弾みながら俺と同い年の助手は部屋から出て行った。
まずは、やっぱりこれだよな…(泣)
上半身裸になり、女性の象徴を片手に説明書を読む。
…肌に付属の接着剤を塗り適当な位置に貼り付けます。
次に継ぎ目を隠す耐水性のクリームを塗り込みます。
1分程で接着剤が固まり装着完了…らしいです。
因みにお肌にも優しく、激しく動いても外れることはまず無いらしい。
剥がすときは専用のリムーバーを使ってくださいとのこと。
うわぁやっぱり日本のこういう分野の技術力すげぇわ。
これ、手触りや質感、見た目もマジもんだわ。
次に下着と制服だな。
俺は筋肉をさほどつけていないので少々筋肉質な女の子にみえなくもない体格をしている。
流石に腹筋は割れているがこれは魔術で何とかごまかそう。
下着を着け制服を着る。
何で靴下がニーソなんだ?
奴の趣味なのか?
俺は昔っから妹にせがまれて女装をしてきたという経緯があったので、特に苦戦することなくそれらを終える。
まさか妹はこのことを見越して俺に化粧やら女装をさせてきたんじゃぁ……ありうる。
後、言っておくが嫌々女装してただけだからな?!そういう趣味では断じてないぞ?
心の中で誰に聞こえるでもない弁明を叫ぶ。
こんなもんか?久しぶりだから少し不安だ。
とことこと歩き大きな姿見の前に立つ。
女子としては背の高い170cm程度の身長。
髪の毛は…束ねられておりポニーテールのような髪型になっている。
キリリとした目元に長い睫。
唇にはリップが薄く引かれている。
背筋はピンと伸びており実に堂々とした出で立ち。
紺色のブレザーはデザインが良くこれ目当てに入学する生徒もいるそうな。
胸は…付属の説明書を見るとCカップ相当らしい。
足はスラリと長く美麗な脚線美を描いており、ニーソを履いても違和感がないというか、作りだされた絶対領域が男子生徒の目線を集めそうな気がしてならない。
「うっわあ、どこからどう見ても美少女だわ」
うふんと親指を咥え男に媚びるような妖艶なポーズをとると、何か異様な背徳感の様なものがふつふつと湧き起ってくる。
「玲ちゃん準備は出来っ!!!!!??!失礼しましたぁ…(意外とノリノリなの?)」
ドアが開いたかと思うとすぐにそれは閉められる。
何故かっていうと媚びポーズをばっちり見られたからだよ!!
死にたくなってきた。
「さっきのポーズ、闇堕ちして男を誘う凛々しい系の女の子でしたよ?エ○ゲですよエ○ゲ!!」
何だよエ○ゲって。
「…すんすん」
「ひあ!今の見ました?!お役人さん?さっきの泣きマネやばいちょーやばいです!」
この部屋には新しい来訪者、胡散臭い中年の役人がどこからか湧いて出てきていた。
「話には聞いていましたが凄いですね…ちょっとキュンってしてしまいました。ん、コホン、これなら大丈夫でしょう。じゃあ護衛任務について説明しますね」
じゃあ私はこれでと、長くなりそうな気配を感じ取った助手は一目散に部屋から退出していった。
あわただしい奴だ。
流されるまま女装をしてしまったが、任務については何も聞いていなかったな。
事ここに至っては逃げることは叶わない。
本当に不本意だが依頼を受けよう。
「まず、依頼主はクラレンス・ダンフォード。教会の幹部ですね。護衛対象は、孫のステラ・ダンフォード、この子次期、聖女候補らしいです」
成程、聖女とはな…あの高純度で無垢な魂について得心がいった。
「3年2組所属、玲ちゃんもここに入ることになるよ。えっとそれで、彼女に君が護衛だってことに気づかれないように自然に護衛して欲しい。それさえ守れば何しても良いらしいよ」
護衛対象に気づかれずに自然にだと?
まじか…それは…ちょっと厳しくないか?
元々俺はボディーガードの技術など習得してはいない。
どこかしらに隙ができるだろうというのにそんなことが可能なのか?
「続けるよ?護衛対象の一日の行動パターンは自宅から徒歩で通学、放課後は部活だね。薙刀部に入っているみたい。その後、プライベートな時間を過ごす…と。彼女は一人マンション暮らしで、君も隣の部屋に住んで貰う。護衛期間は彼女が卒業するか狙われなくなるまで」
「やっぱり何かに狙われているのか?教団か?」
「そうだね、この前の事件で彼女の存在が明るみに出ちゃったから教団にも狙われるし、彼女が欲しい危ない系の神様からも狙われるだろうから、その眷属も襲い掛かってくる可能性があるね」
「…バックアップは?」
「新しく赴任する保険の先生が君をサポートするよ。彼女は裏の世界の人間で魔術にも詳しいし、色々便宜を図ってくれると思う。あと学園長も君の正体を知ってるけどあまり頼りすぎないようにね」
政府もこの件には力を入れてくれているようだな。
聖女候補に何かあってはただでさえ悪い教会との関係が悪化の一方をたどるだろう。
「あと、教会の切り札聖騎士が一人学園の外から監視しているよ。そのうち接触してくるだろうね」
一人…だと?
聖女候補にそんな警護態勢でいままでやってきていたのか?
「あとこれ」
胡散臭い役人が取り出したるは、ラメでデコレーションされたキラッキラのスマホ。
「これが君のスマホね。女の子だからね、これが絶対に必要になると思うよ。このご時世に携帯電話すら持ってないとか本当に日本人?僕と君の助手、あとさっき言った保険の先生のアドレスがはいってるよ。あと、アプリで君の口座や通販にもアクセスできるから、そっち系の物も手に入るよ」
げ、あんまり通信機器を持ち歩きたくないのだがこの際仕方ない。
ていうか、その悪趣味なデコレーションは何でついてんの?
「それと支度金で500万BPが特別に付与されているよ。あとで確認してね」
さらっと言ったがBPってのは特別に付与されるみたいなことは普通はないのだが、どうやらこの役人相当やり手らしい。
ま、ありがたく受け取っておこう。
お礼は言わないが。
「後は依頼主に実は男だってばれないようにしてね。向こうは女の子っていうのも加味して君に護衛を頼んだわけだからね。何か言うことあったかな…?もう向こうには荷物運んであるし…あ、ステラさんの部屋に隠しカメラ仕掛けてあるからそのスマホでいつでも彼女の部屋を見ることができるけど、あんまり見た」
「わかった。悪用は、しない」
心底ほっとした、という顔をしているのが本当に気に入らない。
「そんなところだね。じゃ、今日というか今からよろしく」
「え?まじすか?」
「うん、まじまじ」