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脅し

ピンポーンとチャイムが来客を知らせる。


「ん、ふぁはぁーあ。誰だよこんな朝早くに」


時計を確認すると時刻は…午前6時。

掛けた覚えのないブランケットがソファからはらりと落ちる。

どうやらいつの間にか傍らに来ていた村正ちゃんが掛けてくれたようだ。


大きく欠伸をしてがしがしと頭を掻きながら玄関に向かい扉を開けた。


「はい、どちら様…」


扉を閉めた。

扉に鍵とチェーンをかけ、事務所に戻ってコーヒーを入れる。

俺は何も見なかった。

心の中で3回唱えるのだ。

俺は何も見なかった

俺は何も見なかった

俺は何も見なかった


「ふう、ずずっ、美味い」


ピーンポーン


さて、アミュレットの様子でも


ピーンポーン


おっとその前にメールの確…


ピピピピーンポーン


「村正ちゃんこれ掛けてくれたの君だろ?ありがとう」


柄の部分を撫でてやるとかたかたと震え、心なしか照れているような波動を出している気がする。

すっかり懐かれたようだ。


ウーンウーンと高音のサイレンが聞こえてくる。

それも複数。

パトカーのサイレンだな、近くで事件でも起きたのかな?

ま、関係ないけどねー。

気のせいか周囲がやかましい、…まさか。

窓に隠れるようにして下を覗き込む。

どう考えてもパトカーが4台程、この雑居ビルを目標にして駐車している。


ピーンポーン…


「はい」


玄関に向かい鍵を外し、チェーンが掛かっている半開きのドアから来客に対応する。


「観念して開けてねぇ」


にっかりと笑う胡散臭いスーツ姿の中年。

こいつは防衛省の役人だ。

しかも裏専門で俺の担当でもある。

胡散臭い中年の後ろには警察の連中が待機していた。

…チェーンを外し中年を事務所に入れた。


「あっ、君たち下で待機しておいてね」


可哀想な警察官達は何で俺たちここに来たんだ?と疑問を抱きながら雑居ビルの階段を下りて行った。

応接セットのソファに座り奴と対面する。


「で?」


コーヒーを啜りながら朝食代わりに茶菓子をもそもそと食べる。

飲み物を出すと思うなよ。

菓子もやらん。

これ見よがしにコーヒーを啜ってやる。

ずずずずーーーずず。


「えっとね、何で俺そんなに嫌がられてるの?」


わからいでか。

お前がここに直接来た時は、厄介ごとを押し付けられるとわかっているからだ。

ずずず。


特に意味もなく傍らに控えていた村正を抜き放ち刃紋を見ると、おお、表裏で揃っているな。


「恐っ、まずこれ見てね」


逮捕状


ずずず?ぶふう!?


「うわ!汚っ!!…君に暴行の容疑で逮捕状、出ちゃってるのよねえ」


「全く身に覚えがありませんが…」


暴行?最近、地下で半人間の生き物を殺したが、間違われてもそれなら殺人だろう。


「ちょっと前にグールの殲滅お願いしたよね?その時、生贄にされそうになった女の子は覚えてる?」


「当然だろう俺が助けたんだから」


あれは危なかった。

一歩間違えれば死んでいた。

ま、その分稼ぎも多かったが。


「そうそうその子。で、彼女を助けたのはかなりのプラス査定だったんだけど、君、最後にゲロ吐いちゃったよね?」


「おいおいおいまさか」


「そ、君故意に女の子にゲロ吐き掛けた容疑で出ちゃったんだよねこれ」


何故か嬉しそうにぱんぱんと逮捕状を叩く中年。

そんな馬鹿な。


「はぁ?!!故意でもねえし、俺がいなかったら邪神は復活、女の子も命がなかったんだぞ?!」


「故意じゃないってどう証明する?これはある組織、予想ついてると思うけど教会ね。凄く圧力が掛かって発行されちゃったんだけど、向こうがある条件をだしてね。呑んでくれたらコレ取り下げてもいいらしい」


頭が痛くなってきたが手で先を促す。

確かコーヒーって頭痛を抑える効果があった気が。

飲んでも飲んでも頭痛が収まる気配がない。


「君、教会のやんごとない人からの依頼断ったそうじゃないか?それを受けたら取り下げても良いらしいよ?」



「で、お前らなんか見返りとか貰ってんだろ」


「良くわかったね!!君が承諾してくれたら教会が今回の事件で被害を受けた地下の修理を、全額受け持ってくれるんだよ!?お金持ってるところは太っ腹だねえ?で、受けるよね?受けるよね?報酬もかなり出してくれるみたいだよ」


何だよこの茶番は、しかし茶番といえども断れば本当にタイーホされてしまうだろう。

で、俺が折れるまで余罪のオンパレードっていうコースだろうな。


「はぁ…だから教会ってのは…あの狸爺ぃいつか復讐してやる。受けますぅ受けてあげますう」


ぱぁ~~と胡散臭く喜ぶおっさん。


「よかったよかった。これで大団円だね?WIN、WINだよね。はいコレ入学案内のパンフレット~」


ごそごそと手早くビジネスバッグから取り出したのは、入学案内。

入学案内?


ぱらぱらと斜め読みすると共学の私立高校で多分…進学先を見るとそれなりに高い教育水準の学校の様だ。


「依頼は護衛だよな?それに入学案内?生徒としてか?」


「その通りだよ。君には生徒として学園に通って貰うよ。女性としてね」


「…女性?女装?」


「そそ、君、依頼主に女の子に間違えられているみたいだね?片桐 玲ちゃん」


だらだらと脂汗が滲んできた。


「ちょっといろいろ無理があるだろう??!!…俺よりふさわしい女性とか推薦したらどうだ?ほら奨学金でミスカトニックに行ってる奴とかいるだろう?呼び戻せよ」


「いやあ僕もそれ提案したんだけど、気に入られちゃってるみたいでね君。首を縦に振ってくれないんだよ」


何か他に方法は…ない?

どうやら俺個人をご指名の様だし躱しようがない。

まさかの手詰まり、チェックメイト。

俺の人生もチェックメイトされそうだ。

ここは、逃亡だ。

女装してガッコに通うなんてまっぴら御免だ。

隠し財産もあるし、いくらか地下に潜ればほとぼりも冷めるだろう。

んで戻ってきた時に誘拐されてましたとか言えばいいだろう。


とりあえずここは受けたフリをしておくか。

そして頃合いを見て夜逃げ。

魔術を使えば逃亡生活も余裕だろう。


思わず天井を仰ぎ見て、コーヒーをカブ飲みした。


「ぶふうう!!今、お前コーヒーにぃ…何か入れやがった…な…」


急激に抗えない類の眠気が襲ってくる。

俺がほんの数瞬目を離した隙にコーヒーに薬を盛りやがった。


「ふふ、次に目が覚めるのはいつになるだろうね?必要そうな物は僕と君の助手兼オペレーターの…誰だったかな、名前忘れちゃったけど、その子と一緒に荷造りしておくから安心してね」


駄目だ意識を保っていられない…

これが俺の苦難の日々の幕開けだった。

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