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見慣れた病院の天井

あ、あぁ?今何時だ?

目を覚ますと見慣れた病院の天井。


時計は?


体を動かそうとすると、頭以外の全身が包帯でぐるぐる巻きにされており半ばピラミッドに埋葬されているマミーの様な状態で、胸、腰、手、足にある拘束用のバンドによってベットに磔にされていた。


動けん。

何があったっけか。


えーっと確か…そうだ、やばい何かに追いかけられて…あの七色のッ?!!


そこまで考えが及ぶとぎしりと頭痛が俺を苛んだ。


駄目だ駄目だ、この事は考えないようにしよう。


その時、扉がちゃりと開く音がした。

恐らく脳波をモニターしていたのだろう。

覚醒した俺に気付き、白衣を着こんだイケメンの変態が俺ににじりよって来た。


「お目覚めかい?僕のお姫様」


こいつは俺を受け持っている担当医(変態男)である。

もう3年近い付き合いとなるが入院するたびにその変態度が増しており、既に手に負えないような化けモンスターとなって俺を苛んでいる。


「んぐんぐんぐぐー」


口に猿轡を噛まされ返事がまともに出来ない俺。

実に、うん、危険を感じる(貞操的な意味で)。


変態が噛まされていた猿轡を取り払った。


「あぁ、唾液が橋をかける様子ってのは実にそそるねぇ」


全身が鳥肌立つのを感じた。


「くはぁ、キモいんだよ!!で、今何日だ?」


クネクネと恍惚に浸る変態の図。


「ん?おっとすまないね。今はあれから一週間後の5月15日だ。時間も押しているし早速だけど、精神のチェックをさせて貰うよ?君の名前から言ってみようか?」


「ああ。俺の名前は片桐玲(かたぎりれい)20歳独身で”男”だ。家族構成は父と母、それに妹がいる。表の職業は探偵、裏の職業は政府公認の魔術師。使用する魔導書は何も書かれていない白紙の魔導書」


「ふむふむ、異常なしと」


カルテに何かを書き込みながら変態が言った。


その後も絵を見せられて何に見えるか?だとか、パズルを組み立てたりだとか、こんなこと本当に意味があるのか?というようなものまで色々やらされた。


「OK!!異常なしだね。それにしても凄い、あれだけの神気やら何やらに晒されて異常なしとは、君本当に人間かい?魔術師が二十人程で結界を張ったんだけど、結界越しでも半数が発狂して廃人になってしまっているのに、ま、君が無事なら別にいいけどね」


その時ノックの音が病室に響いた。

来客?そういえば変態が時間が押していると言っていたがこのことだったのか?


「あーもう来ちゃったか残念。もう少し君と話をしていたかったけど仕方ないね。大丈夫だとは思うんだけど体はもう一度固定させて貰うよ。規則だからね」


再び体をバンドで固定し、ご丁寧にも猿轡まで噛ませて変態は病室から退出し、入れ違いにスーツ姿の初老の男性と教会のロゴが入ったローブを纏った20歳後半位の男性が入ってきた。


「はじめまして私はクラレンス・ダンフォード。孫娘を救っていただきありがとうございました」


日本語で話しかけてきた初老の男性は腰を折り頭を下げた。


後ろの護衛は帯剣しているし何より鼻につく、この聖なる力は教会所属の騎士のものだろう、それも恐らくだが上位の騎士である聖騎士の位階に達していると思われる。

となると、この爺さんは教会の幹部クラスで間違いない。

しかし孫娘ときたか、恐らく先の事件で俺が助けた少女の事を言っているのだろう。


寝たままで悪いが拘束されているので、とりあえず首だけでこくりと頷いた。

にしても、教会の幹部が俺に何の用だ?

いくら身内を助けたからといって教会の幹部というのは一介の平魔術師に会いに来るような身分の人間ではない筈だ。


「孫娘は肉体的にも精神的にも問題ありません。あなたが持ち帰った映像を見させていただきましたが、あの状況で擦り傷程度で済むとは奇跡といっても過言ではないでしょう」


あの生け贄にされそうになっていた少女の関係者だったようだ。

まあ、最後には俺と一緒にゲロまみれになったのがなんともしまらないが。


「…それでここに来たのは君をスカウトするためなんだよ。孫娘のボディーガードとしてね」


そこまで言うと、ずずいっと俺に近づき間近でじっと俺の目を覗き込んできた。

爺に近寄られても嬉しくとも何ともないんだが…。


「ふむ良い目をしている。若いし、女性というのもあの娘につけるには丁度いい」


突っ込みどころが多すぎる…良い目って何?意味がわからないし、何より俺は’男’だ。

俺は良く性別を間違えられる。

れいという女性の様な名前に、さっき病室から出て行った変態曰く、女性より女性らしい顔立ちに、魔力を蓄えるために肩まで伸ばした濡れ羽色の髪の毛は、どう見ても女性にしか見えないという忌々しい評価をいただいている。

骨格や筋肉の付き方、声は男だが、今は全身包帯でぐるぐる巻きにされているから間違えても無理はないだろう。

まぁ、護衛を受けるつもりもないし、何よりも面倒であるから間違いを訂正する気もさらさらないが。


「んーん」


首を横に振り拒絶の意を男に伝える。

すると、今まで静かに後ろに控えていたフードを被った男が妙に高い音程で声を荒げた。


「貴様!!このお方が!」「よいよい、ふむ…聖騎士の位を授けてもよいのだが?」


ダンフォード氏が言葉を遮り諌めるように手で激高する男を制した。


「んーん」


首を再び横に振り拒絶の意をダンフォード氏に伝える。


「一度ならず、二度までも!!」


法力を帯びたショートソードに手をかける短気野郎。

これだから教会には関わりたくないのだ、ややこしい奴等め。

大体、魔術師と教会勢力は今は表だって敵対していないが、伝統的に非常に仲が悪い。

教会は魔術師を外道の知識や術を使うからという理由で弾圧してきたという歴史がある為だ。

全く何故魔術師の俺にそんな話を振ってきたのか理解に苦しむ。


「そうか…。気が変わるかも知れないからここに連絡先を置いておくよ。さて、そろそろ面会時間も終わりだし、失礼させていただくよ」


顔に若干の無念を浮かべながら名刺をサイドテーブルに置き、もう一度俺に礼をしてからダンフォード氏とそのお付きが部屋から出て行った。

ぱたんと扉が閉じ病室にようやく静寂が戻る。

何故に俺がこんなにも疲れなければならないのだ。

ま、どうでもいいや。

変態男や検査やら教会連中やらに体力と気力を削られた俺は、少しでもそれらを取り戻すべく瞼を閉じて眠りの世界に旅立った。

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