そばにいて、と彼女が泣く
玉砕した。誰だ、「脈あるって!大丈夫いけるいける」なんて言いやがったの。
* * *
「石田」
「……ご卒業、おめでとうございます」
卒業式だった。夏のあの日からも、先輩は態度が変わらなかった。でも、ふられてもそのままでいれるほど、ぼくは厚顔になれず、結果避けまくっていた。
「ここにいると思ってた」
「どうして……」
卒業式の日まで、図書室にくるような生徒はいないと思っていた。だいたい、例年は締めている。それを、適当に誤魔化して開けてもらったのはぼくだったが。
よく、卒業式に桜が咲いている描写をみかけるが、生憎北国と呼ばれるここでは芽吹きもしていない。窓の外を見遣れば、まだ冬の名残の冷たい風と重い灰色の空。
雪がちらついていないだけ僥倖だろう。
「私、石田が好きだよ」
友達として、ですよね聞きましたよ。声には出さなかったが、思い出して泣きたくなる。
「一緒にいると、すごく楽で居心地がいい。あの時も言ったけど、私、石田と付き合うとか考えたくなかったの。変わりたくなかった。だっていいじゃない、友達でも先輩後輩でも。そばにいれるなら」
先輩がまくし立てるように言った。声が少し震えている。
「でも、石田、そう言ったらそばにいてくれなくなって。……わがままでも、頭おかしいでもいい。石田がそうしたいなら恋人でいいから」
なんとなく、気づいていたけれど。ふられたし気のせいだと思っていたけれど。先輩もぼくのことが好きだろうと。
勘違いではなかったらしい、やっぱり。
「そばにいて」
確実に泣きながら、先輩が呟いた。
* * *
先輩は表情が分かりづらい上にその思考も難解だった。なんなの、付き合いたくない、って。でもそばにいてって。
* * *
「先輩、来月には東京じゃないですか」
「ちょいちょい帰ってくるし、遊びに来てくれたっていいじゃない」
「なんで怒ってるんですか」
「……返事聞いてない」
「やけっぱちで恋人でいいっていうのは……」
「自棄じゃない……す、すき、だし」
「ああもういいですよ、先輩の気が済むまで」
* * *
言葉で定義しないと不安なのはぼくのわがままで、曖昧なままでいたいのは先輩のわがままだ。
なにより、いきなり遠距離である。これからどうなるかなんて知らない。
それでもいい。安くて結構、どうせぼくはまだこどもだ。簡単に誓える。
「そばにいます、できるかぎり」