好きです、と君が告げる
私と石田が友達なのか仲の良い先輩後輩のままなのか、曖昧なまま時間は過ぎた。
私もそろそろ受験に本腰を入れねばならない。
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「先輩って、進路決まってるんですか?」
「進学。都内の大学にはなるんじゃない、潜り込めれば」
石田と一緒に本屋さんに行ったり、その帰りにお茶するようになってしばらく経った。
今日も今日とて同じようなコースだ。
ただ、私は半ば諦めていたとある小説のシリーズ最新刊を手にし、とても舞い上がっていた。出る出る詐欺だと思っていました、先生ごめんなさい大好き。
こんな日はファストフード店の薄いコーヒーだっておいしい。期間限定のこのココナッツムースはすごくおいしい。
「……これからは忙しくなりますよね」
「そうなんだよね、今までも多少はやってたけれど」
私は真面目な図書委員で、部活は帰宅部だから実感は薄かったが、そういう時期なんだろう、夏はもうはじまってしまった。
高校生というカテゴリから受験生になっていく。
時間ばかり過ぎて、心は高校入学の頃からそんなに大して変わっていないのに。
「でもまあ、たまには息抜き付き合ってよ」
軽く笑って返す。石田と居るのは楽だ。
「先輩」
たまに、石田が私を眩しそうに見ていることに気づいていた。
気づかないふりをし続けたけれど。だって、変わることは怖い。だから言うな。ぜったい、言うな。その言葉を私は聞きたくない。
「好きです」
石田のたれ目のふちが赤く染まっているのを見ながら、知ってた、と呟いた。
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曖昧なままでいることを、どうして誰も彼も嫌がるのだろう。どうしてこのままじゃだめなんだろう。
ふたりをつなぐものの名を明確にしなければ一緒にいられないことが、ひどく悲しかった。