おそろい、と彼女は笑う
これはぼくと先輩の話だ。
とても個人的で、面白みのないありふれた話だと思う。
それでも、ぼくらは真剣だし切実だ。
* * *
「石田は目が悪いの」
「先輩ほどではないと思います」
日曜の昼下がり。ぼくと先輩はぼくの部屋で漫画を延々読んでいた。ぼくは先輩が気合と根性で持ってきた未完の演劇少女漫画を。先輩はゴキブリと火星で戦うSF漫画を。
飽きたのかキリがよかったのか、先輩はコミックを広げたままではあったが、ぼくの方をみている。
「私は両眼とも視力0.1くらいだけど」
「……同じくらいですね」
ぼくらはふたりともメガネである。先輩は今日はコンタクトだったが。
「石田はすごく頭がいいわけではないよね」
「先輩、傷つくのでそういうことはオブラートに包んでください」
「メガネだと頭良さそうなのに、って言われることない?」
先輩はひとの話はなかなかの頻度で無視をするが、自分がされるのは嫌がる。……誰だってそうか。
「まあ、たまに」
渋々答えれば、先輩は嬉しそうに笑った。いつも表情が読みにくい先輩にしては、驚くくらい分かり易い笑顔だった。
「おそろい」
ね、と更に笑を深めた先輩の顔を見れずにぼくはそうですね、と軽く返して再びページに目を落とした。
* * *
ぼくと先輩はいわゆるお付き合いをしていない。ただの図書委員の先輩後輩だ。
でも、こうやって暇な週末にはお互いの部屋で好きなように本を読んだり、思いついたことをぽつぽつ喋ったりしている。
ともだちというには遠く、他人というには近い距離。
ぼくはぼくらの関係をうまく言葉にできないまま、ぬるま湯に浸るように先輩のそばにいる。