白百合
結婚は判断力の欠如
離婚は忍耐力の欠如
再婚は記憶力の欠如
〜アルマン・サラクルー〜
人類皆平等。
思えばこの言葉はかなりおかしい言葉だと思う。
だって、この世界に平等なんてないのだから。
人間だろうが、動物だろうが、植物だろうがその原理からは絶対に外れない。
生まれた瞬間から死ぬ間際まで悲しいかな平等など生まれないのだ。
誰にも等しくチャンスがある。
それが資本主義国家の名目上の言い訳。
でも、それは失敗したものに対し自己責任という言葉で不平等性を誤魔化しているだけ。
社会主義がいくら平等だと謳っても。
社会主義の国に住む彼らには必ず権力を貪る上の人間がいる。
どんなに人類が進歩しようとも。
どんなに人類以外の生物が進化しようとも。
この世には平等なんて生まれない。
生まれてくるはずがない。
人間が、そして生物が、生物である以上この世には平等なんてないのである。
『なーんて、あたしには関係ないんだけどね』
そう呟きながら七花は現在着ているコートの胸元をまさぐり煙草を探す。
最近煙草が手放せなくなってきた。
まだ十七歳なのに。
ピッチピチの美少女なのに。
『…ま、いっか』
美少女だし。
許されるでしょ。
七花は笑いながら煙草を取り出しそれを口に咥えライターで火をつける。
その瞬間、心地の良い煙が口の中に広がり自分の体内を満たし始めた。
ーーあー、うめぇ。
それを心ゆくまで堪能してからゆっくりと口から吐き出す。
まるで名残惜しむかのように。
だが、煙は七花の意思など関係ないとでも言うかのように口外へと流れ出て辺りの空気を白色に染める。
まるで白百合のようだ。
今はバリバリの冬だけど。
『なんか用?あたし、今凄いいい気分だったんだけど?』
背後にこちらに近づいてくる気配を感じた為、煙草を指で挟みつつ後ろを振り返る。
『貴方、明らかに未成年ですよね?ダメですよ。煙草なんか吸っては』
後ろにいたのは同い年くらいのやけに丁寧口調な女。
少し赤毛の入った片口までの髪。
まるで相手を射抜くかのような鋭い瞳。
無駄にデカイ身長と胸部を黒いスーツに包んでいる。
『あ?そんなんあたしの勝手だろ?』
七花はそう言い返す。
右手を少しずつ腰元にある拳銃へと近寄らせながら。
『ダメです。警察として見逃すわけにはいきません』
『警察?あんたが?』
『ええ』
女はスーツの胸元から黒い手帳を取り出す。
神鳴町警視庁特務捜査課一課所属・桜楼院霊華。
そこにはそう書かれていた。
目の前にいる女の顔写真と共に。
『へー、マジもんの警察かー。日本に来てから初めて話しかけられたなー。ま、いーや。はいはい、あんたの言う通りこの煙草は消しましたよっと。んじゃね、おねーさん』
左手の煙草を揉み消し一気に幕仕上げてその場を逃げるように立ち去る。
こんな所で警察に捕まるのはマズイ。
『あっ、ちょっと…行ってしまいましたか。まあ、私の役職ではありませんし…いいでしょう』
そう言って桜楼院霊華は歩き出す。
確か、今日は小さな吸血鬼に会う予定の日だったはずだ。
急がなくては。
そんなことを考えながら。