神様
『あんたは動物よ!』
『動物より悪い…人間だ!人間だ!!』
〜黒澤明〜
『神様ってのは理不尽な存在だよな』
口の中に含まれた煙を余韻に浸りながらゆっくりと吐き出しながら三條七花はそう呟く。
吐き出された煙は病的なまでに白くゆらゆらと空中に漂って消えた。
それを見て七花はもう一度同じことを呟く。
誰に向けて言ったわけでもない。
ただ言いたかったから言ってみただけだ。
まあ、どうせ誰かに言うにしてもここには自分と無数の化物しかいないのだが。
そこまで考えて七花は笑う。
自分の周りを見渡しながら。
狂ったように。
笑い出す。
そこは京都府某市のお洒落もへったくれもないような古びた景観の喫茶店。
そして、そこにいるのは店の中心に陣取って煙草を吸う七花とそれに群がろうとしている無数の影。
七花の命を喰らおうと。
生命の灯火を奪おうとこちらに近付いて来ている。
輪郭なんてない。
ただただ不気味な影の化物。
だがしかし、七花はそれを見てもただただ笑い続ける。
本当に可笑しいとでも言うかのように。
『神様ってのは絶対にして理不尽な存在だ。人の運命なんて神様の気分次第。それにどれだけ人が足掻こうがどれだけもがこうが決してその運命は変えられない』
ーー本当に笑えてくる。
ーーあたしと言う化物に出会ってしまった…
『あんた達の神様からの嫌われっぷりに!』
そこまで叫んで七花は自らの愛武器である二丁の拳銃を取り出す。
黒い銃身をしたそれはまるで狼が咆哮をするかのような爆発音を奏でさせながら鉄の暴力を弾き出す。
鮮血が舞う。
誰のものか。
わからない。
だが、それでも七花は止まらない。
目の前の影を力でねじ伏せ蹂躙し一体ずつ消していく。
鮮血が舞う。
血の雨が降る。
それでも、彼女は…
止まらない。
彼女は神に愛された絶対的な存在であるから。
止まる必要なんてない。とでも言わんばかりに辺りを蹂躙していく。
ーーああ、世界なんか…
七花は影のうちの一体を踏みつけ銃を構える。
そして足の下で暴れている影に向けて…
ーー壊れてしまえ。
引き金を引いた。