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二度のブレーキ

 頭の上に掲げたリュックサックの肩ベルトをボンネットの角が引っ掛けた。

 先の二回の攻撃のせいで過敏になっていた怪物が反射的にこれを振り払った。

 ちょうどこのタイミングでバスが強めのブレーキをかけた。


 その結果、巣穴から引っ張りだされたシャコエビのように、身体を丸めた状態の佑介は通路へと投げ出された。

 勢いがついていたため、そのまま車内の前方へと転がり、通路に立っていたミエの足元あたりで止まる。


 ――助かった?


 偶然の幸運により魔物の攻撃圏内からは離れることができたらしい。

 状況の理解は追いつかないが、安堵感だけが祐介の胸に広がる。


「と、通して!」


 だけどまだ敵には近い。戦う能力のあるミエならいざ知らず、一般人である自分が安心できる場所ではない。

 佑介はミエの足の横に身体をねじ込むようにしてすり抜ける。


「おいっ」


 抗議の声はミエのものではなかった。迫力のある男の声だ。

 だけど、祐介はかまわず這い進む。

 膝や足、下半身全部が別の意思をもっているかのように震えていてまったく力が入らず、立ち上がることができない。下半身だけではなく、腕や肩、全身が震えている。

 もっと怪物との距離を取らなければとの、嘔吐感にも似た焦燥がこみあげてくる。必死の思いで佑介は全身の震えを押さえ込み、ガチガチなる歯を食いしばりつつ何とか立ち上がった。

 そうして足を踏み出した途端、


「おい、ミエひとりにやらせんのかよっ」


 抗議の声が再び祐介に向けられた。


 そう言われても、怪物から逃げることだけで祐介の頭は占められていた。自分を守ってくれた女の子のことを案ずる気持ちはまったく湧かなかった。


 ――だって彼女は強いじゃないか


 罪悪感を押し殺すように心の中でそう反駁する

 だが逃げようという意思に反して、身体が勝手に立ち止まり、ミエの方を振り返っていた。


 怪物に相対しているのはミエ一人ではなかった。

 抗議の声の主が、祐介に声を掛けた直後に怪物に向かって突進していたのだ。


 鼓舞するようにその黒い道着に袴の姿をそびやかせている。

 背丈は170センチの祐介より少し高いぐらい、肩幅も少し広い程度。

 だけどその後ろ姿は幾まわりも大きく見える。

 確か、金岡かなおか あらたと名乗っていた。


 ――強いんだろうな


 ミエと同じように魔物と渡り合うことに慣れてそうな彼の立ち振舞いに、祐介は極小の嫉妬も感じる。が、それ以上に助かったという安堵感が大きい。

 自分は怪物から逃れ、その怪物には特殊な能力を持った討魔の専門家たちが相手をしている。

 ようやく彼は安堵の深いため息を吐くことができた、はずだったのだが。

 後ろを振り返ったのがアダとなった。

 再び前方を目指そうと身体を廻らせたところに、先のものより強いバスのブレーキが重なった。


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