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異形の口の襲撃

 異物の正体、それは屋根の上から異様に長い首を伸ばし窓の前に ぶら下がった女性の頭部だった。

 顔の上部三分の二ほどが欠損している。

 女性――人の頭部と判断できる材料は細いアゴのラ インと後頭部にあたる部位から垂れ下が る艶のない長い黒髪のみ。

 特に異様なのは、残っている下あごにある歯がそのまま欠損の断面周辺に沿ってずらっと後頭部の方まで生え揃っている事だ。

 あるいは顔の上部は欠損ではなく、もともとこういう形の存在なのかもしれない。歯列に飾られた断面はまるでそれ自体が大きな口であるかのように、漏斗状にくぼんでいるのだ。


 ――いや、もともとってなんだ?


 自分の感想に自分で疑問符を投げかける。

 怪物にもとがあるのか。祐介には、今日遭遇した怪物たちが何であるのかを全く理解できていないのだ。


 ――でも、これホントに口なのかも


 怪物がもぐり、と呑み込むような動きを一見せた。


 よくよく見れば、首とみえる長い部分も人間の肌などではなさそうだ。もっとつるりとして柔らかい――例えば両生類の肌のような質感にみえる。

 頭部は、窓ガラスのほぼ真ん中あたりに逆さまに吊り下げられている。

 目はないがきっとこちらを観察するように見ているのだろう。

 

 佑介は自分がはっきりと涙目になっていることを自覚する。

 怖いとか怖くないとか以前に、どうしたって受け入れることのできない光景だ。

 目を逸らしたいが、それが命取りになるかもしれない。なすすべもなく、ただただ怪物を見続ける。


 と、それまで自然に任せるままだった頭部の揺れが大きくなった。

 左右方向の揺れから軌道が縦方向へと変わる。それにともない振り幅も大きくなる。

 意図的に動きを変えている。

 ぶんぶんと大きく二度振られた後、頭部が窓ガラスに叩きつけられた。


 グシャッ


 湿った衝撃音に混じって、歯がガラス当たるカツカツという音も響く。


 グシャッ


 音だけではない。衝撃に耐えきれなくなった歯自体もバラバラと折れ散る。


 グシャッ


 窓ガラスに、血液交じりの粘液が打ち拡げられる。


 祐介が異形の怪物と遭遇するのは、本日これで三度目だった。

 前の二度で学んだのは、感じている恐怖の自覚は少し遅れてやってくるということと、その恐怖には上限がないという事だった。

 足だけでなく全身が激しく震えだす。超常的な存在への恐怖と自らが危険に脅かされる恐怖との乗算だ。


「きゃっ」


 ミエが悲鳴を上げる。

 しかし佑介は悲鳴すら出せないのだ。身体はただ震えることで恐怖を伝えてくれるが、それを発露させることすらできないでいる。


 痛みなど感じていないのだろうか。怪物は自身の損傷には頓着するふうもなく、ひたすら頭を打ち付けてくる。見る見るうちに窓ガラスの透明度は失われ一面にピンク色が拡がっていく。

 その光景から目も離せずにいた祐介だったが、気配でミエが立ち上がったのが分かり、思わずそちたへと振り向く。

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