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\M!RaCle G!RL!/  作者: ジェル
第一章 セレスティナ生徒会
7/21

紫苑 1



お久しぶりです。


お気に入り登録、ありがとうございます!







 ―――その後。

 車に乗り込んだ私は、生徒会長から仕事の説明を受けていた。

 族とか怖いんですが。

 でも、そんなこと言ったら、隣にいるもっと怖い人に、もっと!怖い思いをさせられそうなので、私は自分の延命を最優先して、黙ってそれを聞いていた。


「今回の仕事は、さっきも言ったように族を潰しに行くこと」


 やだなあ。

 やだなあっ!


「奴らは、一般人に暴力をふるって、因縁をつけてお金を巻き上げて、表の人の平穏を妨げてる。…とにかく仁侠の風上にもおけない最低な奴らなんだ。ちょっと最近、セレスティナ生徒会として、目を瞑っていられない行動が増えてきたから、裏の代表として制裁を与えることになった。ここまでは、わかった?」


 パラパラと、ホチキス留めされた何かの書類を見ながら、淡々と説明する山吹紫苑。

 ―――私は戦慄した。

 一般人に暴力?

 お金を巻き上げる?


 絶対関わっちゃいけない人種じゃないかぁぁぁ!!



「っ」


「走行中は、ドアのカギ開かないよ?」


 思わず舌打ちをしそうになって堪える。

 私は凄い勢いで振り向いて、山吹紫苑に訴えた。


「私、出来ませんっ」


 死んじゃいますってば!

 バラバラ殺人遺体ですってばよおおおおお!

 いや、もしかしたら穴だらけで蜂の巣殺人遺体かもしれない!

 だって!ヤクザ様って銃を所持していらっしゃるのでしょ!?

 ううん、勝手な想像ですけど何か!?


「……きみ、いつも殺し屋の殺人依頼はどうしてるの?」


 自分の行く末を思って取り乱す私に、山吹紫苑は心底不思議そうに問いかけた。

 よくぞ聞いてくれた!

 そんなに知りたいなら仕方がない、語ることにいたしやしょう旦那!


「そうです!山吹紫苑様、私は殺し屋なんです!つまり、殺しさえすりゃやり方は何でもよろしいのですよ!」


 だから、あなたたちの"仕事"みたいに、ヤクザ様との交渉とかないわけです。

 殺し合いになる前に、さっくりと、誰にも気づかれずに殺る。そう、殺された本人さえ、死んだことに気づかないくらい、素早く。つまり、不意打ち。

 それに、ターゲットは大抵の場合、暴力に関しては素人が多い。もし、ターゲットに護衛がいたって、気づかれずにやってしまうのだから問題ない。場合によっては、護衛ごと全滅もありえるけど。

 でも、ヤクザ様の族への制裁は違うでしょ?

 みんなその道のプロで、しかも私の存在には気がつかれていて、きっと私にビビる前に襲いかかってくるでしょう? しかも、殺気むんむんで、狙いは私たちに絞られてるわけでしょ?

 ……無理っ!無理無理無理無理無理!!!

 いくら考えても悲惨な自分の姿しか想像できない。私はその想像を振り払うように、頭をぶんぶん左右に振った。


「大丈夫だよ。今回は萩原さんは見学って言ったでしょ?交渉も恫喝も俺がするよ、だから安心して"仕事"のやり方を学んでていいよ」


 首を傾げて微笑む山吹紫苑。

 顔がいいもんだから、そりゃ様になってるさ。

 でもさ。恫喝、ってさ。

 日常会話じゃ出てこないと思うんだよねっっ!!

 だって、きみたち、正しい、恫喝の、意味を、知っている、かい?



   『 恫喝 ドウカツ 』

 おどして恐れさせること。

 危害を加えるような様子を見せて、相手をおびえさせること。



 …危害を加えるような様子?

 …危害を加えるような様子!!


 ああ。なんてこと!

 ふらりと傾く身体をなんとか起こす。


 お母様。

 きっと、あなたは私をこの学校へ入れたことを近いうちに後悔すると思います。

 そして、私の穴だらけ殺人遺体に向かって嘆くことになるのです。―――…ああ、陽埜!私の可愛い陽埜ッ!!私が聖セレスティナに入れたばっかりに――!



「…萩原さん?」


「はいっ!」


 名前を呼ばれ、ピシリと姿勢を正す。

 危ねえ。

 思考が旅行していたぜ。




「ついたよ」




 ポーン…。


 頭の中で、何故か木魚の音がした。

 わたくしのお葬式が近いので御座いますね、きっと。あはは。あははははは。

 無理やり車から押し出されて、そのまま引きずられるように歩かされる。そして、汚らしい落書きがされまくっている廃墟同然の建物まで連れてこられた。

 ……嫌な予感です。

 というか、死んじゃう予感です。


「襲われそうになったら、やり返していいからね」


 襲われる?

 なんだと!


「さ、さっき、安心してって言ったじゃないですか…!」


「危なかったら、殺ってもいいよ」


「まさかの無視!! なら、最初から全滅させましょうよ、会長ッッ!!」


 と、思わず叫ぶ私。


「まさか。平和的解決が目標だよ。その上で、逆らえないくらい恐怖を植え付けて、死ぬまで俺らの手駒になってもらうんだから」


 ―――私はその瞬間、またも戦慄を覚えた。




「てめえ、殺すぞ!」

「ぎゃははは!」

「アレ持ってこいや!」

「はあ?!」

「死ねえええ!」


 周囲に、ガラガラとした声が響いている。

 下品ったらありゃしない。

 私は、出来るだけ表面積を縮めるように丸まって、堂々と前を歩く山吹紫苑の影に隠れる。


 やっぱり、馴れてるのかな。

 私と1歳しか違わないのに、生徒会長もして、裏社会の秩序とやらを守ってる山吹紫苑は、随分と大人に感じる。

 横顔をそっと伺っていると、不意に山吹紫苑が扉の前で立ち止まった。

 どうやら、ここに族の方々が溜まっているらしい。扉の向こうからは、大音量の嗄れ声。


「萩原さん、今から行くけど、大丈夫だよね」


「…I beg your pardon?」


 どうやら、私の耳はついにおかしくなったらしい。

 大丈夫だよねって。

 確認が聞こえたぞ。

 空耳かな。おちゃめな私のお耳さんめ。びっくりしちゃうだろ☆


 そんな現実逃避をしている私の無言を肯定と受け取ったらしい山吹紫苑は、さっさと扉に手をかけた。私は儚い気持ちで、それを見ていた。


 その部屋(←とは思えないくらい汚い)に入ると、瓦礫だらけのコンクリートに座り込んでいる赤とか金の髪の毛―――厳つい顔つきで、胡座をかいているヤクザ様集団と出会いました。

 みんな目つきはイッちゃってるし、柄悪すぎて、思わず眩暈。

 変な匂いがするし、すっごい睨み付けてくる。


「なんだてめえら!?」

「殺すぞおお!」


 立ち上がりながら、こちらに怒鳴りつけてくる。……どうしましょう。眩暈が酷くなりました。

 そんな中、集団の中心にいたスキンヘッドの一番体格がよい男が、私たちに近寄ってきた。鉄パイプをカラカラと引きずって、


「なんか用か、ぼーず!?」


 あなたどう見ても30代でしょ、高校生に怒鳴るなんて品位が問われるよyou!!

 山吹紫苑は、坊主じゃないっすよyou!!

 取り乱す私をよそに、山吹紫苑は軽い微笑みを浮かべた。

 濃紺の瞳が、緩く溶ける。


「初めまして。聖セレスティナ学園生徒会長を務めさせては頂いております、山吹紫苑と申します。本日は、あなた方にお話しがあって参りました」


 謙譲語まで使って、フレンドリーの塊だな、おい。

 彼は平和的解決って言ってたけど、彼の態度がまるで何事も無さ過ぎて、逆に危険だと思うんだが、どうだい陽埜? あら、奇遇だね、私も同感だよ陽埜。


「ああ?てめえ、なめてんのかおい!!セレスティナだあ…? ……セレスティナ!?」


 訝しげに眉をひそめた後、異常にびっくりした男はまじまじと山吹紫苑を観察する。

 そして、すぐに、にた…、と気味の悪い笑顔を浮かべた。

 ちょっと! 君、歯で青ノリがカーテンみたいになってるんだけど!

 今、あまりのキモさに、ぞわってしましたぁ!

 私がまたも現実逃避をしている間に、


「てめえら、やれええ!!」


 カーテンが後ろに叫んだ。

 どうやら、山吹紫苑が非力な美男子に見えたらしい。で、勝てるとでも思ったのだろう。ばかだ。ばかなんだ。もう一度言う。ばかなんだ。


 だって。


 その直後。



「動けるなら、やってみなよ」



 先程と、全く変わらぬ優しげな声音で。

 山吹紫苑が、鉄パイプを奪って男の喉に突き出していたから。


 ……え?

 う。

 うそおおおおおおん!!


「一体何を…?」


 信じられない思いで問うと、彼はしれっと言った。


「平和的解決のための必要な暴力だよ」


 暴力、の時点で平和的じゃないからあああああ!!


 リーダー格の男を人質にとったような形になり、ほかのヤクザ様は動きを止める。


「…ね、お話しましょうよ」


 山吹紫苑が緩く笑えば、男はびくびくしながら頷いた。

 まー、自分が持ってた鉄パイプをいつの間にか奪われて、しかも首に鈍器を突きつけられたら、頷くしかないわなー。


「こちらへ」


 そう言って案内されたのは、テーブルと2つのソファーが置かれている質素な部屋。

 そう、マトモな部屋だ。

 私は、山吹紫苑の隣に腰掛けた。



「…話とは」



 いきなり、本題に入ってきた男は、私たちを射殺すような視線で睨んでいる。

 うお、まじこわ。

 こんなか弱い陽埜ちゃんを、警戒することないのにっ。

 警戒すべきは、私の隣にいる山吹紫苑だけなのにっ。

 美形だからって、何でも許されちゃう世界なんだ! なんて理不尽!


「君たちの極悪非道な、裏社会のイメージを著しく損なう行為についてのお話です。」


 山吹紫苑は、ゆっくりと、まるで仲のよい友人にしゃべりかけるかのように優しく話す。

 騙されちゃだめだよ!

 おじさん!

 いや、でもあなたもヤクザ様なのでしたね!


「手っ取り早く申し上げますと、麻薬とか恐喝とかしないで頂きたいっていうことです」


「身に覚えがねぇなぁ」


 しらばっくれるヤクザ様。

 いらいらしますね。


「そうですかあ。……じゃあ、潰れてもらうしかないみたいですね、」


「はあ?」


 あの人、絶対料理できないタイプだよね、みたいなノリで、山吹紫苑はさらりと言った。

 ヤクザ様は、思わず聞き返す。

 だめだめ! ヤクザ様を怒らせちゃだめだよ!! 山吹紫苑んんん!!


「これから、ここに溜まるのやめて下さい」


 決定事項として伝える山吹紫苑に、


「は、俺らがどこに溜まろうが俺らの勝手だろうが!」


 ヤクザ様は怒鳴る。

 そーなっちゃいますよね、私も同感ですよ。だから、そんなに睨まないで!


「んー、ですが、もう溜まれないと思いますよ? あなた方が麻薬取引してた物的証拠もありますし――…」


 山吹紫苑はそういうと、車の中で広げていた書類をどこからか取り出した。


「――ここ、見えます?」


 そう行って指差した箇所。

 男が白い粉が入った袋を手渡す写真、それからお金を受け取る写真、立ち去る写真が、一連の流れとして載せられていた。


 まだありますよ。


 山吹紫苑はそう言い、皮の鞄からある袋を取り出す。

 それは、写真に映っている袋とよく似ていて、白い粉が入っている。


 ………あれ?


「麻薬。」


 くす、と山吹紫苑は笑った。


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