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\M!RaCle G!RL!/  作者: ジェル
第一章 セレスティナ生徒会
2/21

編入 2





 数百の鋭い眼光が、ビシバシ突き刺さる。怖い。


 何故、私がこんな目に。

 よよよ。


 見た目、いいとこの坊ちゃんばっかりのくせして、何故雰囲気がこんなに怖いのだ。

 ギャップか!?

 ギャップを狙っているのか!?

 すまんが、萌え〜(はぁと とか言わんぞ!?

 つい、視界が滲むけど、この裏社会でそれなりに活躍してきた萩原陽埜、な、なななんのこれしき!!

 踏ん張って、校長の隣で微笑む。


「今日、編入してきた萩原陽埜さんだ」


 少しざわついているが、特に身の危険は感じない。良かった。心の底から良かった。

 密かにほっとため息をついたのに。


「SSクラスに入ってもらう」


 校長がそう告げた途端、ざわりと空気が蠢いた。


 ひぃぃぃ。

 殺気だよ殺気!!


 ここの学生、総じてカルシウム不足じゃないのか!?

 何故、突如私をそんな視線で射殺しそうな目で見る!?


「校長お!」


 突如、野太い声が上がり、一本の腕が挙げられた。


「なんだ?」


 全く動じず、校長は尋ねる。


「何故こんなガキがSSなんですかあ!」


 その言葉を聞くや否や、全員が大ブーイングを始めた。


「SSに入れるくらい、強いやろなあ!!」

「誑かされてんじゃねえぞ校長!」

「俺らもSSに入れろやぁあ!」



 何この尋常じゃないSSへの執着!

 こーわーいーよー!

 お母さん助けてっ!

 何故私はこんなにも、編入の挨拶で殺意を剥き出しにされているのですか!

 私が何をしましたか!!

 ニューヨークに帰りたい!

 逃げ帰りてぇよ!



「……校長、SSクラスって、」


「学園のランク付けの最上位だよ」


 しれ、と言う校長に、思わず殺意が湧いた。

 てめえのせいじゃねえか、おどれぇぇ!!

 何故!そんなところに入れようとする!? 一体何故っ!?

 全く知らなかったのよ、みなさん!聞いてっ!

 私は、静かに教室の隅っこで卒業を待つだけの、穏やかなスクールライフを送りたかったんだよぉ!! SSなぞ、こっちから願い下げじゃあーっ!!


 危険人物だけでなく、クラス分けやランク付けについても、調べておくべきだった。

 萩原陽埜、一生の不覚。


 そのとき、ハッとした。


 ――――― 最上位がSS。

 ということは。

 あの、デンシャラスパーソン×4も……


 そのときの私の顔は、恐ろしいことになったのだと思う。

 騒がしく異議を申し立てていた彼らが、一瞬静まり返った。



「私、Gクラスがいいです!」



 校長に、必死に言った。

 怖い学生さんたちの面前とか、そういうのを考えられないくらい、命の危機を感じていた。


「すまんが、Fクラスまでしかない」


 いや!

 その返答間違ってるよ!

 校長は私が嫌いなのかい!?


「Fクラスでいいじゃん!」


 タメ口で叫んだ私に、有り難いことにヤクザさん達が同意してくれる。


「SSなんてありえねぇ!」

「本人がFでいいってんだぞ!」

「Fクラス!」

「Fクラス!」


 なんか、こうもFクラスFクラス叫ばれると落ち込んでくるから、人間て不思議。

 だって、弱いって叫ばれてるってことだもんね!いいけどね!

 デンジャーな人たちと机並べるよりか、全然いいけどね!


 校長の腕にすがりついて、お頼みしていると。



「うるさいよ」



 涼やかなよく通る声が、響いた。

 決して大きな声ではなかったのに、あのうるさかった体育館が一瞬にして無音になった。


 何?

 何が起こるのでごわすか。

 いかん、落ち着け自分。



「今日は編入生挨拶なんじゃなかった?」



 その声は、いい感じの重低音で…なんか、こう、腰にクるような"いい声"だ。


 …ってこら自分。

 何を血迷ったことを。


 どこからだ、と辺りを見回すと、奥のほうの列が割れるのがわかって、そこに人影が4つ見えた。



 ………… まさか。



 サァァ…と、顔から血の気が無くなるのがわかった。


 ………… まさか!


 人だかりの切れ目は、どんどん迫ってくる。

 人影が、迫ってくる。

 危険人物が、迫ってくる。

 デンジャーが、迫ってくる。

 死んでしまう。

 死ぬ…!


 パニックを起こした私の頭は。

 更にショートを起こして、爆発して煙を吐き。



「い、イヤァァァアァァア!!!!!」


 脳内会議の末。

 逃亡せよ、との決断を下した。


 が。


 校長に手首を掴まれた。



「あだっ!?」


 嘘だろ!?

 痛いっ!

 痛いっす校長!


 ギリギリと手首を握られて、私は涙目でそれを振りほどこうとする。


 お、お願いだから!

 離して校長ぉぉお!


 てか、握力強すぎるんですけどもぉぉ! このクソジジイ!!



「やったあー美人だー!」



 校長を信じられない気持ちで見つめる私の耳に、この場に似合わない、脳天気な可愛い声が聞こえてきた。


 へ?


 きょとん、とそちらを見やると。

 すぐ近くに、にこり、と笑う美少年が。

 思わず和んで、にこり、と笑い返す。


 ………… て、いやいやいや!

 いやいやいやいやいやいや!


 後ろに見えた3人で、彼の正体に思い至り、頭が真っ白になった。


 来た――――――――っっ!!!!!!!!



 ふらり、と身体が揺らぐ。

 南無阿弥。

 神よ、あなたは私を見放したのでございますね。

 まあ、裏社会で殺しをしているのですから、あなたが私を好きなはずはないとは思っていましたけれども。


「…瑠架。怖がられてるぞ」


「ええっ!俺が!?」


「俺が?、って…どんだけ顔に自信があんだよ…」


「ほっとけ、柚生」


 失神してしまえれば楽なのに、できない自分の図太い精神。

 日本で一番デンシャラスな4人が、私の目の前に。

 調べすぎて、逆に後悔している。この人たちのことを、普通のヤクザ様だと思っていたほうが、幸せだったかもしれない。知らぬが仏。泣きたい。


 そのとき、すぃっと手のひらが差し出された。


 な、なんだ!?

 麻薬取引か!?


 びくっと後ずさる私に、苦笑しながら、


「俺が生徒会長の山吹紫苑。君には生徒会秘書をやってもらうことになった。これからよろしく」


 和やかに、かなりフレンドリーに。危険人物だと微塵も思わせない仕草で、彼は言った。



 あの。

 これって、つっこんでいいとこですよね?


「……あの…誠に申し訳ないのですが…、質問をさせていただいても…?」


「どうぞ?」


 首を傾げながら、山吹紫苑生徒会長様は、少し微笑む。


「生徒会秘書という役職を…私、今まで生きてきて聞いたことがないのですが……」


 校長の影に、そろりそろりと隠れながら問うと、会長様が差し出していた手を引っ込めて愛想笑いをした。

 いやいやごまかないでよ!?

 私の思いが通じたのか、生徒会長様の隣にいた金髪の、恐らく安斎柚生生徒会会計様だと思われる方が、微笑と言う名の苦笑をこぼしながら言った。


「だって、今朝、紫苑が考えた役職だからな」


 は?


 えぇと、いくらそんなふわりとした優しい声だからって、受け流すことは出来ませんよ。


「普通、副会長がする仕事を秘書にやってもらうことになった。瑠架じゃ話にならない」


 興味なさげに明後日の方向を見ながら説明して下さったのは、木ノ内燈眞生徒会書記様だと思しき黒髪に赤いメッシュが入ったお方。なんというか、深みのある声で、生徒会長様とは違った"いい声"で……って、しっかりしろ自分。強く生きるんだ。


「ちょ、ちょっと待って下さい。何故私が?編入してきたばかりの私より適任な方はたくさんいるかと――」


「明日から仕事してもらうから、朝7時、生徒会室に来てね」


 私の言葉を遮って、意見など聞きもせずに、生徒会長様はひらりと手を振った。そのまま、体育館の出口へ颯爽と歩いて――


 って、ちょっとこら!


「無理ですっ!私――」


「待ってるからねーっ」


 またしても私の言葉は、佐久良瑠架生徒会副会長佐に遮られて、


「私行きませ――」


「第1別館の5階だぞ」


 またまた楽しそうに微笑する安斎会計様に遮られ、


「ぁ――」


 ぽん、と肩に置かれた手。

 木ノ内書記様には、しゃべらせてすらもらえなかった。



 う。





 嘘だろおおおおおおおお!













 * * *






「はじめまして、先ほど集会でご紹介頂きました萩原陽埜です」


 あれから、校長にSSクラスに案内された。

 が、SSクラスからの視線はあまり好意的なものではなかった。

 特に女子。


 ―――― イケメン揃いの生徒会。

 それは、女子の憧れの的なのだ。なのに、編入早々、生徒会長様直々のご挨拶。並びに生徒会への勧誘。

 ……… うん。そりゃ好印象なわけないな。


 デンシャラスな弊害が、こんなところで発見されるとは驚きだ。


 SSクラスの人数は、10人。

 SSに入れる程の実力があるものが、少ないらしい。

 ということは、ここにいるのはかなりの実力者ということだ。

 ……… 恐ろしい。



 さっき、ここに来るまでの道のりで校長に説明してもらったのだが。

 この学園は、SS>S>A>B>C>D>E>Fとクラス分けされており、これは戦闘能力と偏差値、統合しての実力が高いものから、相応しいクラス入れるようになっているらしい。

 戦闘能力と偏差値の統合した、その人の実力をはかる物差しとなる値のことを、倫理学において徳・優秀性を表すアレテーから、アレスと呼ぶらしい。

 各クラスにはアレスの基準値というのがあって、ある人のアレスをχとすると、


   SS    χ≧1500

   S 1500>χ≧1200

   A 1200>χ≧1000

   B 1000>χ≧800

   C  800>χ≧600

   D  600>χ≧400

   E  400>χ≧200

   F  200>χ


        となっているらしい。



 そこで、廊下での校長との会話を思い出す。


 私、自分のアレスとか知らないんですが。

 1500以上あるのですか。


 不安になって校長に問うと。

「君は能力者だし、それにニューヨークでの活躍も知っている。アレスを測らなくても、SSランクであることは間違いない。二つ名もあるだろ?ほら、あの…"七番目の災厄(カラミティレクイエム)"だっけ?」


 ……………………。

 …………

 ……


 ぎゃっ!?


 な、なぜその生き恥のような二つ名を!?


「たしか、ほかにもあったかな?ゴシックカ――」


「ギャァァァ!! もうそれ以上は言わないで下さい!」


「はっはっは」


 はっはっはじゃないっつうの!


「どこでその恥ずかしい名前を!?」


「……ヒ・ミ・ツ」


 ジジイとの秘め事なんていらねぇよ!!

 何ちょっと恥じらってんだボケぇ!


 最初の恐ろしさは、いずこへ。腸が煮えくり返る気持ちで、私は校長に口止めした。

 あんな人生の汚点とも呼べる恥ずかしい名前が知られたら、私腹を切って死にます。

 いいと思うけどな、と呟いたジジイのスネをしこたま蹴りつけた。人の気も知らないで。あんな厨二な名前!恥ずかしすぎるわ!二つ名、という時点で恥ずかし死にするわ!


「まあ、今日は授業にならんだろうが。頑張れよ」


 校長は、親が子供にするように、ぽんぽんと私の背中を叩いてSSクラスに送り出してくれた。



 校長が何を心配したのか、まあ、ちゃんと授業になってるんだけ―――――


 ガっシャ―――ン!


「萩原陽埜おおお!ツラ貸せやあああ!!」



 …………………


 …………?


 ………あ。


 …… 私かΣ(゜□゜;)!!!


 それは、SSクラスのみんなの視線の先を辿って、縮こまる私の机へやってきた。


「…………」



 どうやら、豪快に扉をぶち壊し、SSクラスに乗り込んできたのは、Sクラスの男子たち。

 何故わかるかって?

 それはね、ブレザーの襟元に"S"ってバッチが取り付けられているからだよ。そう!ランクのバッチを襟につけることになっているんだ。ちなみに、私の襟にはSSってバッチが煌めいて―――


「聞いてんのかゴラァ!!!」


 ――― いるんだよ!

 みんなSSのバッチがつけたくてたまらないみたいだね!SSはもはや、かっこいい人のステータスなのだっ!

 …すみません。現実逃避ができません。Sクラスの皆さんの形相がまさに鬼のようで、チキンな私を許して。……え?チキンが殺人なんかできるかって?そこは触れちゃいけねぇよ、お嬢さん。いい女ってのはさ、そういうのをそっと見守るって相場が決まってるんだゼ☆

 ………限界です。

 仕方ない。厳しい現実と向き合いましょう。


 見上げると、20人くらいを引き連れた、目つきのわるいながらに美形な男子が立っていた。私より頭一個分高い位置にあるキャラメル色の髪を苛立たしげにかきあげて、彼は私にガンを飛ばしている。みんな制服はキレイに着てるし、見た目ほんとエリートな坊ちゃんなのに……。無駄にしてるよ!そんな怖い顔して、人生損してるよ!

 やべ、死ぬわこれ。

 荒事起こしたくないのよ私。 そんな怖い人種の方々と。


「はじめまして、萩原陽埜です。私に何かご用ですか?」


 にこっと、笑顔で私は尋ねる。

 私は、あなたがたと問題を起こす気は皆無です。ヤクザとか、怖すぎて私はもう……。


 フレンドリーな私に、彼はあからさまに狼狽えた後、


「流雅だ。Sクラスと戦え」


 言ってくれやがりました。


 ああ!もう!!

 私はヤクザ様とお関わりになんてならない、平凡な日々を送りたいのに!



お気に入り登録ありがとうございます!


二つ名は、二つ名メーカーとやらで検索して決定いたしました笑




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