木ノ内 2
倉庫にいた男たちを全て片付けた私たちは、きょろきょろと入り口から顔を出して辺りを見回した。
「異常なし!」
「こっちもだ」
頷き合う私たちの間には、何やら戦友の絆らしきものが芽生え始めていた。
「ちょろかったっすね!」
「そうだな」
「安斎のいうこときいてないですけど、許してくれますかね!」
「……無理だろうな」
「ですよねっ!!!」
てへへーと笑い合う私たち。
いや、嘘を言った。笑っているのは私だけだった。木ノ内は相変わらず無表情だ。やだ冷たい☆
「木ノ内は、無口ですよね」
「…そうか?」
「ほら、それっす。単語で返すじゃないすか」
「まあ、たしかに」
「喋るの苦手ですか、私うるさいですか」
「苦手って言うほどでもないと思うが。…それから、陽埜は賑やかな方がいい」
「うおっ、あざっす。そんなとこで褒めてくるなんて、テクニシャン☆
あ、あっちですかね?」
どーん、とまた煙が上がる。
曲がり角を曲がると、スーツ姿の男と鉢合わせた。っち。
男が叫ぶ前に接近し、ふところに潜り込む。みぞおちに肘を埋め、そのまま顎へ拳を振り上げる。
脳が揺れて後ろへ倒れこんだ男に馬乗りになり、とどめに腹を殴った。
決まった。
ふっ、現役から離れてしばらく立つが、体はなまっちゃいないようだ。
能力使わなくてもできる女、萩原陽埜ですっ。17歳ですっ。彼氏募集中ですっ。
てへぺろー、とポーズを決めていると、木ノ内に置いていかれそうになったので、瞬時に辞めた。
その後、五人くらい倒すと、騒ぎの中心にやってきた。
死屍累々である。何処からか、もくもくと煙が立ち込め、うめき声すらBGM。
中心に立つ三人は、さながらHEROのようであるが、完全にdangerous boyである。
「よくも俺らのシマを荒らしてくれたなあ…。おこだよ!」
「激おこ☆だよー!お仕置き☆だよー!」
「…言っても、もう意識ねぇけど」
シマ!?
シマですって!!
こ、ここ、これ、あれですよね、ヤクザ様言葉ですよね!
ふらりと遠のきかけた意識でよろめくと、後ろで木ノ内が優しく抱きとめてくれた。トゥクン。
「どうした?大丈夫か?」
「やだ、だめ、こんなとこで…っ!」
「あ?」
すいません。ふざけました。
睨まないでください、安斎様。
安斎様…?
げ、ばれた!!
「あっれー?陽埜ちゃんじゃーん!」
追い打ちをかけるんじゃない佐久良!
「え?萩原さん、なんでここに?」
「う、えと…」
「すまない、俺が連れてき」
「俺、待っとけって言ったよなあ…?」
木ノ内の優しさに再びときめきかけた時、悪魔がよろりと向かってきた。
「ごめんなさい、つい、我慢出来なくて…。てへ?」
「てへじゃねえよ!」
「まあまあ、落ち着けって柚生。みんな無事だったんだからいいじゃないか、な?」
「よくないだろ、お前は甘いんだよ紫苑!」
「えー、柚生めっちゃキレてんじゃんー。ぷぷー」
「瑠架てめえ、何笑ってんだ…っ!」
「いや、だから俺のせいで」
「木ノ内、もういいよ、私が悪いんだよ。本当ごめんなさい、体がうずいちゃって、だって、最近何もしてなかったし!」
「陽埜ちゃんてば、なんだかヒワイ!」
「ふざけてんのかよ!」
「柚生もちゃんと言えばいいのに。心配だから待ってれば助けてやったのにってさ」
「はっ!?ばっ、紫苑!!」
「え?」
「あれれー?」
「柚生、耳赤いぞ」
「ちっ、くそ!」
「照れ屋さん☆だねー!」
「………消すぞ」
「「「「ごめんなさい」」」」
しょんぼりと肩を落とすふりをしながら、私と木ノ内はうつむいてほくそ笑んだ。
楽しそうな山吹と、舌打ちしてる安斎と、スキップをしている佐久良を追う。
「やってらんねえっ」
嫌そうにつぶやく安斎の耳は、まだ赤かった。
まじかこいつ。わかりやすっ!!
「…ちょろかったな」
木ノ内が、私に囁いた。
私はうむ、と神妙にうなづいた。
「終わり良ければすべて良し、ですね!」
木ノ内は、そういう話だったっけ、と言ったけど、無視した。
なんだか、懐かしい風が吹いたような気がして、私は振り向く。
————そうか。
なんだか、似ているんだな。
なんて、らしくもなく感慨深く思って、
デンジャラスパーソンのあとを追った。