表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
\M!RaCle G!RL!/  作者: ジェル
第一章 セレスティナ生徒会
16/21

柚生 1



今日は休日です。

けれども、わたくし、萩原陽埜は、出勤です。

隣には、欠伸を噛み殺している安斎柚生様がいらっしゃいます。


そうです。

今日は、山城さんのところへ行くのです。



「休みの日まで生徒会とか、最悪。ただでさえ、疲れてんのに」



ふぁあ、なんて口を手で覆いながら、かったるそうに歩いています。

私はその三歩後ろ、所謂大和撫子ポジションで、そうでございますね、なんて頷く。


私が三歩後ろを歩いていると聞いて、乙女と思った方。訂正しておきます。

訂正することが、自分にマイナスになることはわかっています。けれど、乙女なんて思われるのは蕁麻疹が出そうなほど、むず痒いのです。そうです。これが、女子力が最大に欠如したものの症例です。

さて、みなさん、これは私が淑女だからではなく、チキンだからなのですね!

何が悲しくて、安斎の先陣を切り、悠々とヤクザ様のご教育に向かわねばならないのですか!?

なぜ!?いや、そもそも向かわねばならないことがなぜ!? どうして!?私はただ、ここで、この日本という土地で勉強して、スーパーになりたかっただけなのに!!


……ごほん。

取り乱しました。


今日は私、女子力向上デーなのです。ですから、このように敬語なわけです。

だって、今から女子力の塊、いいえ、女子力の権化のような山城さんに会うのですから、多少のむず痒さは耐えて、私も前もって女子力を上げておくべきでしょう。

そう!いくら、安斎に奇妙な目で見られようとも!



「…なんか、今日大人しくねえ?」



「そうですか?いつも通りですよ」



ふふ、と微笑むと、すごい嫌な顔された。

なんだ!なんか文句でもあんのか!

言えば!?言えばいいだろ!!


……ごほん。

こいつです!

私がこんな言葉遣いになってしまったのはこいつのせいです!



「…あー、そういえば蘭さんに会ったらしいじゃん」



ぶっきらぼうに尋ねる安斎は、こちらを見向きもしません。

けれど、さっきから絶えず話題を提供してくるので、私が思うにこの人は沈黙が苦手なのではないだろうか!

いつもは、やかましい佐久良がいるので気づかなかったけど。



「ええ、会いました。とても綺麗な方で女子力がとても高かったです」



おっと。

とてもを二回も連呼してしまった。

なれない女子力を意識すると、どうにもだめである。

反省していると、安斎は興味なさそうに欠伸をした。



「……へー」



なんだこいつ!

なにこの返事!

てめえが訊いたんだろうが!!

はーん?

なるほどー?

沈黙が苦手なわりには、問いかけるわりには、その話題を続けさせることが出来ないタイプだなー?

ふっふっーん?



「なにその顔。ぶさいく」


「は?!」



……、、


……は?!?!



「今、ぶさいくって言ったの!?ひどっ!!」


「いや、だってまじでぶさいくだったし」


「shut up!!」


「おおー、発音いいー」


「こいつ、ば、バカにしてるっ!!」


「はーい、つきましたよー」


「わー、ほんとだー。ってこら!!」



こいつと話しするの、なんか疲れるんだか!!

こんなめんどくさいやつだったっけ?

もう、デンジャラスパーソンの誰でもいいから来てよ!こいつと二人きりにしないでよ!


ふはは、なんてバカにしたような笑い声を上げながら、安斎は見覚えのある屋敷で立ち止まった。

カーテンと話し合いをした、お屋敷である。どどーんとした日本家屋で、もう日本庭園あるし、池あるし、そこには橋あるし、漆喰の門あるし、スーツの厳めしいオジサマたちいるし、てか、ヤクザ様いっぱいいるし、いるし、いやああああああ!!そうだわ!山城さんってかなりのジャパニーズマフィアだわ!がたがた。



「何固まってんの。置いてくよ」


「ま、まままま待って!」


こんなところに置いて行かれてたまるか!








「ようこそいらっしゃいました。お久しぶりでございます、安斎様。昨日ぶりですね、萩原さん」


にこ、と小首を傾げた山城さんにノックダウンしそうです。

昨日と同じように華やかな着物に身を包んだ山城さんは、そこはかとない色気が立ち昇っている。いやー、やっぱハニーちゃんとは違うわー。ハニーちゃんてば、あれだからな、色気万歳なわりに胸からしか色気出てないからな。……いや、こっちの話。



「ご無沙汰してます、蘭さん」



少し目を細めて、甘やかな声で山城さんに挨拶をする安斎に殺意が湧く。

てめえ、さっきまでの私への態度とのその差はなんだ!

どんな差別だ!貴様の態度の良さは、女子力の高さに比例するとでも言うのか!?

山城さん!こいつ、私にブスって言ったんですよ!むきーっ!



「あの子たちは、こちらに集めております。どうぞ、上がって下さい」



しとしとと歩く山城さんについて行く。

あのオジサマたちを、あの子呼ばわりする山城さんの将来が心配になった。

姐さんだな。こりゃ。真っ赤っかなグロスにタバコを咥え、下にヤクザ様を侍らせ、肩まではだけた着物姿の山城さんが脳裏に浮かんだ。

やだ!そんな!姉御ぉとか呼ばれてる山城さんは見たくない……こともないな。想像したら、すっげーかっこいいな。見たい…いやしかし!彼女は私の女子力の目標!姉御度MAXな山城さんは……いやでも!!

くそっ!どうしてこう世の中は理不尽なんだっ!私にいろいろな山城さんを見せてくれたっていいだろうに!




「萩原」


「はいっ!」


元気良く敬礼した私は、安斎の顔を見上げる。

危ない。

思考が旅に出ていたぜ。



「いっておかなければならないことがある」



安斎が神妙な小声で言った。顔も真面目くさっている。ぷぷ。え、自分、ぷぷじゃないよ。え。な、なに?なになに?



「俺も教育は初めてだ」



なんですと?!



「しかし、ここにマニュアルがある」



なんと!

ばさりと取り出したファイルの束に、私は感銘を覚えた。



「だが、この通りにいくとは限らないし、成功するかもわからない」



そうですね、その通りですけど、



「だから、俺は自己流で行く」



ふん、と口角を上げた安斎は、きまっていた。きらきらと金髪が光に輝き、背景には白馬が見えるかのようだった。さすがセレスティナの貴公子(聞いたことがない?そりゃそうだ。私が今つくったのだからな)。

そのセレスティナの貴公子(←ちょっと気に入った)は、ばさっと私にファイルを押し付ける。い、いらねぇ…。



「ついてこい!」



これ、突っ込むとこなのかな…。

踏ん反り返ってブレザーを翻す安斎の後ろで、私は"俺的教育方法☆~トラウマ編~ 著:佐久良瑠架"と書かれたファイルを抱きしめていた。

なんだこれ。これは確かに見習うべきではないと思う。けれども、初教育のあなたが自己流で行くのもどうかと思う。

不安しかない心を押し込めて、私は大和撫子らしく、はい、なんて笑顔で頷いた。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ