蘭々 1
「まあまあ、なんて楽しげなことをなさっていたのかしら。わたくしも、もう少し早く呼んでいただきたかったですわ」
ころころと笑いながら、彼女は扇子を取り出して口元を隠す。
まさしく、お嬢様の風格である。
混ざりたかったのか、何事だ。そして誰だ。
首を傾げていると、隣に佐久良がテレポートしてきた。
「蘭ちゃーん」
そして、にこにこと笑って近づきながら、佐久良は彼女をそう呼んだ。
蘭ちゃん?
なんだ、蘭ちゃんって。
頭脳だけ大人の彼の彼女しか出て来んよ!
「あら、佐久良様。本日も大量ですわね。人員が増え、山城の地域が活性化して嬉しい限りですわ」
綺麗に微笑む彼女から発された言葉に、私はびっくりした。
山城!?
山城!!
わわわ、どうしよ、これって、お世話になりまくってるところでは!?てか、ヤクザ様!?この綺麗な女の子が!?
どう挨拶しようかと引け腰になっていると、佐久良がぽん、と手を叩いた。
あ、そうだ。なんて言って、私を振り向いて、彼女を手のひらで示した。
「こちら、山城組の組長のお孫さんです。山城蘭々ちゃんっていいまーす。蘭ちゃん、こちらセレスティナ生徒会秘書の萩原陽埜ちゃんです。よろしくー」
なんて適当なんだ。
佐久良に適当に紹介されたけど、山城さんは文句も言わずに、ぺこりとお辞儀をした。
「はじめまして。山城蘭々と申します。今年19歳になりまして、そろそろ祖父の仕事を引き受ける時期となりましたので、代わりにと参上いたしました。どうぞ、よろしく」
丁寧な自己紹介をされ、私はビビりながら腰を折る。
「は、はじめまして。萩原陽埜と申します。最近、聖セレスティナ学園に引っ越してきた新参者ですが、頑張りますのでどうぞよろしくお願いします」
顔をあげると、山城さんはにこっと笑った。
「ええ。噂は予々。なかなかの実力者だそうで、一度お手合わせ願いたいものですわ。先日の、加嶋哲郎の件でもお世話になりましたわね。次はこの秋元組の教育に来て頂けるとか」
「そ、そそそそその説はお世話になりました! あんなカーテン連れてってご迷惑をおかけしました。それで、この組については、安斎が主に教育するとのことで、」
「あら、安斎様が。なるほど、あなたもお仕事を覚えている最中なのですね。わたくしも祖父にどやされながら仕事を手伝っているところです。一緒に成長していきましょう、萩原さん」
首を傾げて微笑む山城さん。なんてステキ!!なんてオトナ!!
長い黒髪がさらりと揺れた。
色気がやばいです。もうお姉様!!
「はい!」
首が千切れそうなほど頷いて、私は返事をした。
こんなステキ女子と仲良くなるのは初めてです。女子力の塊です。
「やだー、蘭ちゃん、俺とも仲良くしてよー」
なんて言ってる佐久良がキモい。
山城さんは、そんな佐久良に苦笑を返して、そうですわね、なんて微妙にスルーした。そして、扇子をぱちんと閉じると、あの凛とした声で、
「皆の衆!捉えなさい!」
と叫んだ。
かっこいい!しびれる!
私も手伝って、やつらを亀甲しば……ごほんごほん、綱で捉えました。