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\M!RaCle G!RL!/  作者: ジェル
第一章 セレスティナ生徒会
13/21

瑠架 1

「…しっ、しずまれっ!」


 渾身の力を振り絞って叫んだ言葉は、誰にも届かず消え去った。


「あはははは!」


 隣で笑い転げているのは、副会長の佐久良瑠架。

 マジでてめぇは何なんだよ。

 イラッとして、少しだけ高い位置にある彼の顔を睨みつける。


「そんなんじゃだーめ。ていうか、校長みたいじゃん。

僕がお手本を見せてあげましょう」


 おどけたように、そう言うと。

 姿が消えた。


「こんばんは、秋元組の皆さん」


 先程の私の声より、断絶小さかったのに、それだけで周りは静まり返った。声に含まれるのは、隠した僅かな殺気。

 佐久良のやつ、どこにいるんだ、とカジノを見渡す。


「さてさて、君たちのオーナーは何処にいるかわかるー?」


 完璧に遊んでいるその声を辿ると、この違法カジノのオーナーであり秋元組の組長の背後に彼はいた。

 組長の首には、キラリと鋭利な刃。

 組長の命が狙われていることに、ざわり、と秋元組の者が戦闘態勢に入る。殺気の満ちた空間。

 一触即発の空気だ。



 ………って、何しとんじゃワレェェェ!?!?



「ばっばかか!?殺さないんじゃなかったの!?」


 思わず叫ぶと、周りの視線が一気に私に集まった。


 ……あ、しまった。


 ハッとして口を抑えても、もう遅い。


「嬢ちゃんもあのガキの仲間かぁ?」


 組長を狙われて完全にぶちぎれてる、ギラギラした目つきの男が近づいてくる。


 ぎゃーっっ!

 ヤクザとか無理なんですけどもぉぉぉお!!


 固まって、涙目で立ちすくむ私に。



「陽埜ちゃん、任務だよ」



 そう言う佐久良瑠架の声が聞こえた。







 * * *






 今日も終わったわ、とあくびし、首をゴキゴキ回す。

 そして、さあ帰ろう、と立ち上がった私の目に、いかめしい赤のメッシュが近寄ってくるのが映った。


 ……うーん。見事に嫌な予感。

 一緒のクラスって、なんて不便なのかしら!

 これは、声をかけられる前に、逃亡するのが賢いですね!


「止まれ」


「ひぃっ!?」


 こそこそと教室の隅を歩いていると、後ろから地を這うような低い声が聞こえた。びくり、と体を震わせて、恐る恐る振り返る。



「……仕事だ、陽埜」



 ふっ、と格好良く口角を上げる木ノ内燈眞さま。

 きっと少女マンガなら、ここでエフィクトが加えられて、彼の後ろにはキラキラと日光が舞い散るに違いない。

 しかし。それは、自分が命の危機に瀕していない場合に限る。


「こンの…たわけっっ!!!!!」


 命の恐怖を前に、目の前のヤクザ様への恐怖は根こそぎ引っこ抜かれたらしい。私は気がつけば、木ノ内燈眞にチョップをかまそうとして…


「ひゃっ!?」


 後ろの襟を掴まれた。

 浮遊感。…足が、地面から離れてる。


「いゃあああああ!!離せえええええぇええ!!」


 木ノ内燈眞の片手から、ぶらぶらと吊されて、暴れてみるが効果はない。

 ってか、あんた怪力だな!?

 私を片手で持ち上げるとか、はんぱねえな!?


「…ぐぇっ」


 いかん、暴れてすぎて首がしまっとる。これは、いかん。


「……っ!!」


 次第に声が出ないくらいまでしまった。死ぬ。身振り手振りで首がしまってることを木ノ内燈眞に伝えようと試みるが、気づいてくれそうな気配は皆無だ。


 あかんて!ほら、よく見て!

 女の子は大事に扱わなきゃ!


 ……え?女の子ですよ?私。


「…着いた」


 そんな声とともに、ポイッと投げ捨てられた。


「ぎゃっ」


 床はなんだかふかふかの赤い絨毯で痛くなかったです。案外。

 ……って、こんなの敷かれてる場所、思い当たるのはひとつしかありません。…ここ、生徒会室じゃね?


 バッと顔を上げると、すぐ近くに佐久良瑠架。

 叫ばなかった私を誉めてほしい。


「陽埜ちゃん」


 甘えるように名前を呼ばれて、私は引きつった微笑みを返した。


「………なんでございましょう、佐久良様」


 すると彼は、こてん、と可愛らしく首を傾げる。


「お仕事行こっか?」



 ……………………。

 …。あはは。



 →飛び起きる。

 →逃亡を試みる。

 →木ノ内燈眞に捕まる。

 →襟を持ち上げられる。

 →ひこずられる。

 →そのまま、佐久良瑠架と車にInする。



「ノォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!」



 後ろのガラスに張り付いて叫んだ。

 木ノ内が、無表情で突っ立って私たちを見送っている。

 ってバカ!?あんたバカ!?

 これ立派な拉致やぞボケェ!!


「今日は、カジノを建て前にして不法な取引をしてる、秋元組を壊滅させるよー」


 暴れていいよ、と彼は笑う。


 が!!

 何笑っとんねん!こちとら、笑いごとじゃねんだよ!!

 あなたの頭がとっても心配!!


 ああ、

 ご先祖様!

 神様!

 仏様!

 ジーザスゥゥゥゥウ!!!!!








 ――――そして、冒頭に至るわけで。


 宣言してからの殺しなんてやったことない私は、あからさまに構えるヤクザ様を前に立ちすくんでいた。

 うぅう。私は不意打ちが得意で!姿を見せずに殺るのが得意で!こんな"かかってこいよ、ハッ!"みたいなヤクザ様と殺り合うなんて出来なくて…っ!!


 固まって涙目で戸惑う私の耳に。




「陽埜ちゃん、任務だよ」



 楽しそうな佐久良瑠架の声。



    任務…?



 ―――ああ。任務。


 『Hey! Hiino! There is the mission for you!!』


反芻される彼の声。

 ただ、その言葉に体がざわめいた。

 血が。体がぞわぞわする。

むせかえるように、すべてが戻ってくる。

目覚める。

任務?任務任務任務!


 ……そう、任務だ。

 ああ、そうか。

 なら―――




 どこかで、かち、と音がした。







「じろじろ見てんじゃねぇよ、この排泄物どもがあ!!」



 風を振りまく。

 切り刻む。意識を奪う。


ヤクザどもは、私の風の刃にあっけなく沈められる。

ギラついた目が、私を捕らえた。


見てんじゃねえっつってんだろ。


なんだか、無性にイライラして、私は再び風を叩き込んだ。


 殺しはしないのだっけ。

佐久良の言葉を思い出して、またイラついた。

 ああ、つまんないの。殺し屋が殺しをしないなんて、もはや存在意義に関わってくるよ。わたしじゃなかったら、てか、ユラとかだったら、キレててもいいとこだよ。



「あはは、陽埜ちゃんって、ほんと二重人格だねえ」



へらへら笑いが聞こえて、ムカつく。てか、佐久良がムカつく。

 勝手なこと言いやがって佐久良の野郎。

 イラッとした私は、佐久良に風を飛ばす。しかし、案の定華麗に避けた彼は、眉を下げた。手を頬に当てる。


「やーん。ワイルドぉ」


「貴様も戦えや、こののろま」


「ほら、俺はぁ、なんてゆうか、そういう野蛮なことはしないの」


「絶対人の首にナイフ突きつけてる奴が言う言葉じゃない」


「あ、右から来るよ」


「…は?誰もいないし」


「俺の右だよー、助けてー」


「黙れ糞野郎」


 思わず本音。

 なんで私があんたを助けなきゃいけないの。

 自分の身は自分で守る。これ常識。

 私が貴様を守る義理なぞないのよ。



「放置プレイなんて俺初めて」



 いきなり呟いた佐久良瑠架。

 ぞぞぞぞぞ、と鳥肌を立てる私。

 思わず5連発で風を叩き込む。

 ひらりゆらりとそれを優雅に避けた佐久良瑠架は、わざとらしくあ、と声を上げた。

 ちらりと其方を見た私の目は、驚きのあまり飛び出そうになった。



 ナイフが当てられた首から滴る、赤い血。



 ―――――…血だ。



 赤くて。甘くて。

 …綺麗な血。


 どんな悪人でも、どんな女優でも、誰にだって流れてる、赤い血。


あれ。


 背筋がゾクリとして、なんだか楽しくなってきた。

 ああ。見たいな。

 もっともっと、見たい。

 私の、証。血が。







 殴りかかってきた男の心臓にひとつきの風の刃をたたきこもうと腕を振る。

みんなみんな、消えちゃえばいい。消しちゃえばいい。血を流して、動かなくなればいい。


消してやる。私が、消してやるんだ。

だって、殺そうとしてる。私を。

私がやらなきゃ、誰も助けてなんてくれない。





『生徒会の仕事で殺しは厳禁!壊滅だけだよ』



 その時、脳裏によぎったのは、楽しげな佐久良瑠架の声。


 はっとした。

 はっとしまくった。



「ぬぁにやっとんじゃ貴様ぁぁぁああああああ!?!?」



 風を止めて、首にかかと落としをくらわせて男を沈める。

 そして佐久良瑠架に叫んだ。


 わ、わわわわ私がこんなに我慢してるのに!!


「殺るなら、私に殺らせろ!!」


 次々と男の鳩尾に回し蹴りを叩き込みながら、叫ぶ。

 血を吐きながら、倒れ込む男。苦悶と驚愕の表情。―――ああ。ぞくぞくする。

 いやいやいや、だめだ。抑えなきゃ。

落ち着けー、落ち着くんだ陽埜!!



「はい、お疲れ様あ。もう終わろうかー」


緊張感のない佐久良の言葉に、気が付けば敵はほぼ地面に倒れていた。いつの間に。やだ、陽埜ちゃん出来る子!

その他の無傷な敵は、怯えたようにこちらを伺っていて、戦闘意欲など微塵もない。


あれ、デジャヴじゃね?

山城を彷彿とさせね?


ざわめきが遠のく。

イィィィィン…と、耳障りな音がした。




不意に。

佐久良がぱんぱん!と手を叩いた。

そして、ごほん、とわざとらしく咳払いをする。

芝居がかった仕草で、手を広げた。




「ここは、我々セレスティナ生徒会が制圧した! なので、俺らの下僕のように働いてください!」



そうして、楽しそうに笑った。





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