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\M!RaCle G!RL!/  作者: ジェル
第一章 セレスティナ生徒会
11/21

山城 2




「……シメんの、マジで私なんですか」



「そうだよ、頑張ってね。萩原さんならできる!」



「なあ紫苑。全員でいく必要なくない? 帰りたいんだけど」



「そんなこと言っちゃだめだめ柚生!これはー、陽埜ちゃんの初仕事をみんなで見守ろうっていうー」



「瑠架はやる気満々だな」




 わいわいがやがやと騒ぎ立てる生徒会。

 緊張感の欠片もない。


 慣れすぎだろこいつら!

 今からヤクザ様のおしとやか再教育に向かうんだぞ!


 しかも、何故か私が交渉人に抜擢された。いや、"何故か"ではない。スーパーな陽埜ちゃんになったとき、『脅しだなんて生ぬるいんだよ!』なんて言ってしまったからだ。

 いや、あれはさ、ノリじゃん!言っておく感じだったじゃん!

 なら、せめてあのままのテンションで説得に行かせてよ!私の禁句に"任務"を設定しないでよ!







 山城組の方々に、カーテン一同を集めた部屋に案内される。


 ああ、やだやだやだやだ。

 てか、説得って何言うの!?


 いや、山吹たちはシメるとか言ってたけど、私に一任されたわけだから、私としては、一応平和的な解決を望んでるわけですよ。

 でもさ、本物のヤクザ様に怒られてもだめなんでしょ?

 一介の女子高生に何とかできる代物じゃないと思うのよね!


 殺し屋?

 それは今関係ないの!

 重要なのは、私が17歳で高校に通ってるってことなの!



 山吹の背後に隠れていた。

 ら、木ノ内に引きずり出された。彼はちょっと心配そうな面もちで私を見てる。じゃあ引きずり出すなや!って思ったけど言わない。大人だから。


 安斎は視線で、オラやれよ二重人格wwって言ってる。わかる。私にはわかる。あいつは言う。


 山吹は、じいちゃんみたいな目で私を見守ってる。……え、じいちゃん?


 私は、佐久良の手を掴んだ。



「なあにー? 積極的だね陽埜ちゃん」



 ヤツの戯言は無視して、両手でぎゅっと握る。



「お願いします、一緒に中入って下さい!」


「ええー、めんどくさーい」


 チッ!


「お願いします佐久良様」


「……んー。かいちょー、いいの?」


「お願いします山吹様」


「……。萩原さんの顔やばいし、しょうがないね。協力して頑張って」



 ふぁいと!と爽やかな笑顔の山吹。

 あれ、悪口言われたかな?

 まあ、いいや!



「よしきた!じゃ、入って佐久良」



 ぺっ、と適当にふすまを指差す。

 すると、佐久良に呆れたように見られた。



「なんかいきなり手のひら返したね。ま、いいけど。―――じゃ、おじゃましまーす!」



 スパンッ、と勢いよく開いたふすま。

 すたすたと中に入る佐久良の背後に隠れて入室。誰だ、背後霊みたいとか言ったの!



 それにしても……、

 静かだな。


 前回廃墟に行ったときは、耳をつんざくほどの声量で汚い言葉が飛び交っていたのに。



 不思議に思って、背中からチラリと盗み見ると。


 彼らは、座敷に行儀よく列になって正座していた。


 ぎゃ、

 逆にこわいぃぃいぃいいい!!


 まず、なぜ! 座敷なんだ!

 仁侠な感じが出てて、ますます怖いではないか。

 厳めしい顔が整然と並んでいるのも恐怖。

 しかも、なんかご立腹なんだけど。顔、怒ってんだけど!


 ………え? 真顔?


 ……………。

 ……ごめん。

 いや、ワイルドでかっこいいお顔で御座います。すみません。



 私の後ろからは山吹と安斎と木ノ内がついてきて、並んでらっしゃるヤクザ様の後方に居座った。


 にやにやしてる。


 どうにも私たちのシメかたを、あそこでご覧になるつもりらしい。いいご身分だな!観光気分か!



 しゃべらないでおこうと思った。

 全て佐久良に任せてしまおう。そうだ。それがいい。そうしよう。


 だって、もともと、私は佐久良のサポート役らしいし!



 なんて頷いていると、列から1人のヤクザ様が出てきた。代表のようだ。

 なんだか見覚えのある顔である。


 ………………。


 ああ、カーテンだッ!


 厳めしいヤクザ様の中に顔見知りがいてホッとした。けど、ヤツは敵だったな。

 いやはや、久しぶりだな! キミのアイデンティティである青のり(勝手に決めた)はもうないみたいだけど、個人を識別するためにカーテンでいかせてもらおう。



「はじめまして。聖セレスティナ学園生徒会副会長、佐久良瑠架です」



 にこやかに自己紹介をする佐久良に、カーテンも微笑んで頷いた。

 前とずいぶん印象が違う。前のは、こっちがケンカ売りに行ったからしょうがないのか。今は傘下なわけだし、あんな態度をとるわけにはいかないのだろう。山吹にあんなに言いたい放題されてたしな。



「はじめまして。加嶋哲郎です」



 ………ハッ!

 かしまてつろう!!

 そうだそうだ、そんな渋い名前だったよカーテン!

 あ、もう加嶋さんと呼ぶべきなのか? だがしかし、もう彼はカーテンとして確固たる地位を築いている(私のなかで)。

 今更、加嶋さんと呼び方を変えたところで誰のことだか分からなくなりそうな挙げ句、何のメリットもない。

 よし。彼は今後もカーテンだ。決定。




「えーと、加嶋さん? あなたたちの組……、組と呼べるかも怪しい低俗なチームなんだけど、まあ便宜上組と呼ぶことにして、うん。なんで集められたかわかりますよねー? かいちょーがちゃあんと"ご注意"したと思うんですが、わからなかったですかー? ああ、理解できませんでしたかぁ、バカですかぁ」



 ふざけた口調である。

 ケンカ売ってんのかオイ。

 いや、まあ…、売ってるんだろうな。


 どうやらそう思ったのは、私だけではなかったらしい。

 カーテ…かし……カーテンが気色ばむ。

 整列していたヤクザ様たちは、ざわつき始めた。



「あれー? 怒っちゃいましたか?」



 それでも佐久良は、にこにことのたまう。

 バカは貴様だよ!





「……賢くないね」





 不意に。

 低い声で、ぼそ、と佐久良は呟いた。きっと背中に隠れてなかったら聞こえてなかった。びっくりして顔を覗き込めば、珍しく真顔だ。

 でもすぐに、にこりといつものように笑って、後ろを振り返る。………ん?なんだ?



「じゃ、後は陽埜ちゃんに任せた!」



「は…?」



 ぱちん、と可愛くウインクを飛ばす佐久良。殺意が湧いた。


 おどれはアホかあああ!

 こんな空気じゃ、平和的もくそもあるか!!



「いやいや、この空気、ちゃんと収拾つけてからにしなさいよ!」


「えー?なに、聞こえなーい」


「っ!な…っ!」


「ありがとー」


「褒めてねぇよ! むしろ貶してもねぇよ!」


「陽埜ちゃんなら、大丈夫! 自己暗示なんてなくてもできるはずだよ」


「What? いったい何の話をしてるのかな?」


「そもそも、俺は一緒に入ってとしか言われてないしね。入ったから、役目は終わりー」


「屁理屈! 意地悪!」



 この間。

 この、私たちがこそこそと言い合いをしている間。

 おそらく、カーテンの中では何らかの会議が行われ、そして結論が出たものと思われる。




「………ここまでバカにされてっ、俺らが黙ってると―――!」



 思うなよ!


 多分、そう続くはずだったんだと思う。

 なぜ推定かというと、それは、彼が続きを言わなかったからだ。否、言えなかったのだ。

 代わりに出てきたのは、小さな悲鳴だった。


 ひぃ、と小さく漏らした彼の視線は、真っ直ぐ私に向いている。言い合いしていたせいで、佐久良の背中からはみ出てしまったらしい。



「……え?」



 え、私?

 念のため後ろを振り返ってみたけど、もちろん誰もいない。

 怯えた目は私を見ていて、なんだよと眉をひそめたら、カーテンは少し後ずさった。


 え、え?え?なに?

 私まだ何もしてないよね?

 さっき啖呵きるとこだったんじゃないんですか、なぜ私を見て止めたか言って!



「あの……」



 声をかけたら、カーテンはぶんぶんと首を振った。

 …んーと。だから何!?



「な、何でもないです!」


「え、いやいや!啖呵きる途中だったじゃないすか!」


「滅相もない!」


「ええっ!? いや、言ってくれてかまいません! 私は話し合いをしにきたんです、さあ!」


「な、いえいえっ、不満など何も!」



 怯えているカーテンは、頭を床にこすりつけるような勢いで否定する。

 ちょっと、そんなわけないじゃんね。

 不満がないなら真面目に働けよ! なんか思うとこがあるから反抗的になるんだろ!



「………」


「ちょっとふざけただけなんです、真面目にします、すみません、刺さないで」



 ……………。


 ………ん?


 …… さ さ な い で ?



「まさか!」


「ひ、!」



 あのヘアピンが心の傷になっていたとは!!


 思い至った私は、笑顔を貼り付けて、優しく優しく話しかけた。まず警戒心を解こう!大丈夫、他の生徒会のやつらよりは私が適任だ。ほら、可愛い女の子だし!



「ご安心を。わたくし、本日は本当に、お互いに、よりよい関係を築こうと思ってやってきました。ですから、話し合いをしましょう。わたくしはまだ新参者でして至らぬ点も多々あるとは思いますが、あなたたちに快くお仕事に励んで頂けるよう尽力したいと思っています。

 本当なんです。だからこそ、私がこうしてお話ししているのです。バカ呼ばわりする後ろの小さいお兄さんとか、とにかくシメたがってる会長さんとか、実はみなぎってる無表情の大きいお兄さんとか、トラウマを植え付けたがってるお兄さんとかの代わりに。ね? ほら、私ってば何も怖くないでしょう? ヘアピン投げたのは悪かったです。殺し屋してたもので殺気に敏感なんです。()られる前に殺らないとって思ってしまって。

 あ、殺し屋といいましたけど、ヤクザ様と殺りあうつもりなんてないんですよ、私は。だって、私の得意なのは、何も知らないターゲットの不意をついて殺るというか。つまり、不意打ちなんですよね。ですから、対面して殺し合うのは向いてないんです。

 そう、その不意打ちのこと、よく仲間に卑怯とか言われるんですけど、抵抗されると困るじゃないですか。だから、殺るなら絶対、不意打ちです。安心しきってる相手のテリトリーで、死んだことすら悟らせなきゃいいんです。これ、知っといたら、いつか役に立つと思います! 是非、不意打ちやってみて下さい。ここだけの話、実は私、殺し屋の不意打ち派を増やし隊隊長やってるんです。

 あ、脱線してしまいましたね。すみません。

 さて。なぜ、山城組さんに従わないのですか? なんでも言ってみて下さい!」



 両手を広げて、フレンドリーなアピール。

 私ってば女神! 優しい!

 円満な解決に導ける!


 と思っていたのに。



 なぜか益々怯えたヤクザ様たち。顔が青い。私を見て、バッと後ろを振り返ったかと思うとバッと元に戻った。そして、佐久良を見て私を見てカーテンを見て私を見て、自分の足元の畳を見始めた。



 あれ?



「……。みなさん?」



「………」


「……。…わかりました、質問形式にしましょう!はい、か、いいえで答えて下さい。あなたたちは今山城組の傘下にいることにご不満がおありですか?」



 ぶんぶん!

 一斉に左右にふられる頭。


 ………。質問終わったな。

 不満ないなら問題ないもんな。



「えー、じゃー…、……これからは私が来なくても大丈夫ですよね?」



 ぶんぶん!

 縦に振られる頭。



 なぜ、先ほどまでより、私を見る目が怯えているのだろう。

 解せぬ。




 一応。


 平和な解決ができたということにしておく。


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