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第七話 反乱軍キャンプへ


ヘリのローターが回る機械音が耳を突く。


「俺たちはここまでだ! 幸運を祈る!」


ヘリの搭乗員が親指を立てて、フェイナを見送る。

それにフェイナが笑顔で礼を言い、外からヘリの扉を閉める。

ヘリが高度を上げ、フェイナは風にあおられないように二輪駆動のオートモービルの操縦桿をしっかり握り、態勢を維持する。真上からの風に髪があおられて視界を妨げるので、髪を後ろで縛って邪魔にならないようにする。


時刻は深夜の2時。

作戦通り、夜陰に紛れて暗視ゴーグルをすれば目的地の廃都市が地平線上に見える位置までヘリで到達した。何しろヘリの騒音は大きい。念には念を入れて、かなり遠くで降りた。ここからはオートモービルで進まなくてはならない。


オートモービルは通常のバイクと違い、軍用に改造されたバイクだ。

駆動系やタイヤを装甲で多い、風防は防弾ガラス。いくつかの固定武装すら持っている。

おかげでかなり巨大なものになっており、座席に跨ればフェイナでは両足は地面に届かない。巨大な牛に跨っているような感じだ。

だが、牛とは比べ物にならない。装備は全天候対空レーダー、ホログラム式情報統制装置、固定武装の武器管制システム。ちょっとした砲台並みの装備である。

主兵装は前輪を支える支柱に内臓されている単装式電磁砲。これは支柱に固定したままで進行方向に発砲することも、取り外して自分で狙いを定めて撃つこともできる。

とはいえ、長さ1メートル、重量30キロの怪物銃をオートモービルに乗ったまま扱える人間はそういない。


そう、人間なら。


「……さて、行きますか」


フェイナが装備しているのは、市街戦を想定した灰色がかったボディアーマーだ。小銃を背負い、腰にはマガジンの入ったポーチと拳銃、ホルスターに収められた2本のナイフが装着されている。動きやすさを重視したボディアーマーは身体の要所しか防護しておらず、足、腕はほど守られていない。ボディアーマーの下に着ている黒服が覗いている。


フェイナはヘリが十分離れたのを確認してオートモービルに跨る。エンジンを起動して一気にアクセルを踏み込む。後輪が荒野の土を削って回転して、急発進する。

風防に顔を隠して強烈な向かい風を避けながら、フェイナはマックに渡されたチップをモービルの情報端末に差し込む。


「都市内部の地図を」

『オーライ』


モービルから電子音のような合成音声がエンジン音に混じりながら発せられた。

モービルは1人乗りだ。運転手の補助をするパートナーを乗せることはできない。その代わりにモービル自身にその補助機能をつけている。世間話などはできないが、モービルの機能に関しては言葉にすればあとはモービル自身が自分で行ってくれる。


スピードメーターの上にあるホログラム式情報統制装置が青白く光り、小さな模型のような都市の立体映像が浮かび上がる。それを縮小して現在地と見比べる。


「1番侵入が気づかれにくい門は?」

『東ゲートが最も内部からの視界が悪いです。ここが適切かと』

「ありがと」


暗い闇の中をモービルのライトの光が浮かび上がっている。しかし、これ以上は都市から視認される可能性がある。フェイナは暗視ゴーグルを装着してライトを消し、無灯火で走行する。

目指す都市が緑色の視界にぼんやりと浮かび上がっている。















都市まであと1キロほど。

ここまでは特に何の問題もなく来られた。

ようやくといった感じでフェイナが周囲を見て、その顔が驚愕の色に変わった。


「ちょっ!!」


不意にフェイナはブレーキを踏んだ。

モービルが土煙を上げながら地面を滑る。慣性の法則ですぐには止まれず、進行上にあった看板を1本なぎ倒してしまった。そこでようやく止まり、フェイナはすぐさま飛び降りてなぎ倒した看板に駆け寄る。


看板には髑髏どくろのマークと「DANGER MINES」と下に書かれている。


「地雷原……」


都市を目前にして、フェイナは悔しそうに歯ぎしりする。

十中八九、都市にいる反乱軍が時間稼ぎのために設置したものだろう。都市までの距離はおおよそ1キロほど。すでに暗視ゴーグルが無くてもその輪郭が暗闇に慣れた目には見えている。フェイナはモービルに戻り、無線機を取り出した。周波数を合わせて『グランドフリューゲ』との回線を開く。


「こちら情報11。応答願います」

『ザッ、……ら『フリューゲ』通信。どうした?』


男の声が無線から聞こえてくる。聞きなれた情報部隊隊長の声だ。


「……なぜ隊長が通信室にいるんですか?」

『ハッハッハッ、部下が危険な場所にいるんだ。気が気でないのは仕方がないだろう? それはともかく、何かあったのか?』


前半は軽い口調だったが、後半は真剣な声。情報部隊を束ねる者としての声になった。フェイナもこれ以上の無駄話も時間の無駄だと判断して話題を戻す。


「都市1キロ圏内は地雷原です。というわけですぐに突入しますので」

『待て待て待て、いくら俺でも話の展開についていけんのだが……。突入の根拠は?』

「あたしが金属探知機でも持っていたら話は別なんですが、あいにく持って来てませんので、地雷原の突破にはかなりの時間を要します。夜が上がってからでは発見されてしまいます。夜陰に紛れて先に潜入して、指揮官を見つけ出します」


本来は顔も指揮官のため、敵が動き出してから忍び込んで、指揮官を探す予定だったのだが、こうも地雷原だらけでは仮に飛び込めたとしても大の大人担いで逃げ切れる自信はない。逃げてる最中に友軍の支援砲撃で地雷が誘爆でもしたら、目も当てられない。


『だが、それでは艦からの援護が出来ん。貴様1人ですべて倒せるわけなかろうが?』

「ヘリを寄越してください。なんでもいいので。なるべく早く指揮官を探し出しますので、近くで待機させておいてください。合図をしたら地雷原を吹き飛ばしてください」

『何とも豪快だな……』

「時間がありません。よろしくお願いしますね」

『ちょっ、待ちなさ……』


無線を一方的に切り上げる。

そしてモーグルから砂漠迷彩のシートを取り出す。モーグルを近くの岩陰に隠し、上からそのシートをかける。座席下にあるトランクを開け、必要な物を取り出す。手錠、猿ぐつわ、人一人入るほどの大きさの袋。


「ん?」


無線の表示画面に文字が浮かび上がる。通信室からの交信は、隊員の安全を考えて無音、文字による通信が原則である。こちらから交信した場合は違うが。


『0300時、都市周辺ヲ空爆ス。0310時、座標××××ニヘリヲ向カワス。グッドラック』


現在午前の1時。2時間で指揮官を見つけ出さねばならない。こうしてはいられないとフェイナは地雷原へと走り出した。


暗視ゴーグルの感度を最大まで上げて、荒野のわずかな凸凹も分かるほどまでにする。目を凝らすと地面から突起のようなものが飛び出ているのが確認できる。地雷の信管が顔を覗かせているのだ。それを見てフェイナは安堵のため息をついた。


(旧型で良かった)


最近の物は、地中に完全に埋もれているため発見には探知機が必須だ。だが幸いにしてここ一帯に埋められている地雷は旧型、先端が地上に出ているタイプのものであった。その代わりに数がある。安価な旧型地雷は裏でも取引されており、やろうと思えば一般人でもその筋を通せば手に入れることができる。

感度は悪い意味で敏感である。物によっては突いた程度で起爆するものもあり、設置時に誤爆することもあるほどである。

逆に言えば、設置してしまえばこれほど敵にとって面倒なものはない。触らなくても近づく振動で爆発する可能性も無きにしも非ずなのだ。地雷の近接信管とでも言おうか。


「ほっ」


そんなことを知ってか知らずか、フェイナは走り出した。地雷原に向かって一直線に、だ。

そして、踊るようにステップをしながら走っては飛び、また走っては飛び、を繰り返した。今の彼女の目を見ることが出来たら、眼球が目まぐるしく動き回っているのを見ることができただろう。異常な速度で目が地面を走査して、進むべき進路、踏んではいけない場所の判断を行っているのだ。

常人では不可能なほどの速度で情報を処理して、身体に伝える。


それこそ、フェイナがフェイナたる所以。


サイボーグだからこそできる業である。














見慣れた『グランドフリューゲ』後部甲板。そこに数人の男が集まっていた。


「状況は理解したな? 現時刻をもって作戦を開始する。回収目標は情報部隊隊員1名と捕虜1名。回収に当たっての障害となるものはすべてを破壊しろ」


話しているのはマックだ。

その前に並んでいるのはルート、レイ、そして大仰な装備を持った男たち。その手にはヘルメットが抱えられている。


「エイジス隊は0300時に都市周囲を爆撃、隊員から合図があれば可能な範囲で敵勢力を殲滅しろ。ヘリの針路をこじ開けろ」


「「「了解!」」」


「レイ、しっかり拾えよ?」

「言われるまでもない」


ルートがにやにやしながら言うが、レイは冷静に返事をする。その様子にルートはため息をつく。


「『フィッシャー』は隊員から連絡があった地点に先行、地上待機だ」


「「了解!」」


「よし、行って来い!!」


マックが手を鳴らすと、5人の男が走り出した。2人はヘリへ、3人は戦闘機へ向かって。


「レイ、フェイナがお前のことが気になっているのは知っているよな」

「うん? 知っているが、それがどうした」


ヘリに乗り込み、コックピットに滑り込んだレイにルートは後部ドアを閉めながら言った。その間にもレイは着々と発進準備を進めていく。


「……その様子じゃ、気づいてないな……」

「何にだ?」

「……自分で気づけ」

「?」


レイが心底分からない、という表情をする。


(ダメだ……、フェイナ頑張れ、仲間としてお前をフラッシュと共に応援している)


「ほら、お前も座れ。あまり時間はない」

「へいへい。あ~、こちら『フィッシャー』、出動する。エイジス隊、現場での援護を頼む」


ルートは副操縦士の座席に座り、目の前を行く3機の戦闘機に敬礼する。戦闘機のパイロットが酸素マスクをした状態で敬礼を返す。


『掩護は任せてくれ。しっかり拾い上げてくれよ』

「もちろんだ」


1機目がカタパルトに固定される。甲板員がパイロットに向けて親指を立て、姿勢を低くする。


次の瞬間、轟音と共に機体が引っ張られ、カタパルトから戦闘機が打ち出される。


『エイジス1、出撃。続いてエイジス2、3、カタパルトへ』


甲板を統率する無線がヘリにも入ってくる。同じように2機目の戦闘機がカタパルトに固定される。その横に3機目が続く。


2機が立て続けに射出される。


蒸気駆動のカタパルトから白い煙が立っている。そこを、ヘリが進む。ローターが回転を始め、周囲から甲板員が離れていく。先導していた甲板員が「とまれ」の合図を出し、その場で止まると、すぐに「離陸」の合図が送られる。


「『フィッシャー』。出動する」

『了解、『フィッシャー』。幸運を』


ローターの音が一際大きくなり、機体がフワリと浮き上がる。そのまま高度を上げていき、空中をグルグルと回る戦闘機と共に北へと飛ぶ。






余談だが、戦闘機とヘリの速度は雲泥の差のため、戦闘機がヘリの回りをそれからずっとグルグル回っていた。

ルートもヘリに乗りました。理由はレイと同じだと思ってもらって結構です。


それと、『グランドフリューゲ』の外観ですが、所謂航空戦艦の類だと思ってください。前半分が戦艦、後ろ半分が空母、みたいな感じです。イメージとしては旧日本海軍の『伊勢』あたりがそれっぽいと思います。地上を行くから底面は違いますが。



初出のエイジス隊。

本当は名前出すつもりはなかったんですが、いろいろ考えた結果固有名詞をつけることにしました。

彼らも頑張ります。実は旅団には航空部隊が少ないという設定が前々からあったので、これからちょくちょく出せたらいいなあ、と思いまして。

でも、3人の名前は多分出ません。固定キャラが増えると大変なので。


文才のない私にはそのすべてを漏れなく出せるか自身がないんですよ?



こんな作品でありますが、なんだかんだで読んでもらっているのには多謝です。





誤字脱字でもかまいません。感想を待っております。

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