第六話 情報部隊
説明回。
新キャラ参加です。
「そうか、またやられたか」
マックが執務室でたった今入ってきた知らせに、きょう何度目かというため息をついた。
『死傷者は35名、うち一人は現職の都市政府トップです』
「犯行声明は……?」
『実行犯は都市現役将校ですが、テロ組織『血の盟約』が声明を出しています。おそらくこの将校も仲間かと』
「『血の盟約』……、やはりボヘミアンか」
都市『デュマル』で情報部隊の隊員が殺され、旅団全体に動揺と怒りが蔓延していた。
彼の葬儀はその日のうちに執り行われ、彼の遺体は火葬され、遺灰は空に撒かれた。
そして彼の名は『グランドフリューゲ』内にある旅団関係者で死亡した全員の名前が書かれた慰霊碑に刻まれた。
そして、今に至る。
『デュマル』を出て1週間。
あまり都市との交流をせず、地平線まで荒野が続き、その中にポツンとある名も無き廃都市の中に艦を入れて、情報処理に当たっていた。
あれから1週間で、様々なことが起こった。
主要な大都市での軍の反乱。
これが1番大きい。その多くが裏に『血の盟約』、テロリストのボヘミアンが取り仕切る組織が存在していた。『血の盟約』はその構成員のほとんどが正規の訓練を受けた元軍人や、傭兵である。
『大崩落』終戦後、ほどなくして機械人、そして機械人を受け入れた人間に対するテロ攻撃が彼らによって行われ始めた。ボヘミアンもその陣頭に立ち、目を負傷したという。
そして『血の盟約』が15年にわたって活動し続けられた理由、それは圧倒的な武力に裏付けされたその行動半径だ。実際、彼らが活動していない地域と言えば、そこは人がいない場所、とまで言われるほどだ。
1つの都市の武力では到底対抗できないほどの軍事力を持ち、組織化され、各地に基地のようなものを持つ。山、谷、砂漠など人が立ち入りにくい場所に基地を作り、自活しながらボヘミアンの支持を受ける。
当初は週一で行われていた攻撃も、都市機能の回復と共にその数は減ってきていたが、それが今になって再び最盛期並みのものになりつつあった。
マックの気がかりの1つである。
すでにマガスがボヘミアンと繋がっていることは命と引き換えに仲間が教えてくれた。
となると、問題は2人がそろって何をやろうとしているかだ。それに関する情報が乏しい。
『それと『血の盟約』が集結しつつあるという情報を得ました』
「集結? どこにだ」
『今現在調査中ですが、この近辺だけでも大規模な部隊が隠れられそうな廃都市、谷は数10あります。いくら『血の盟約』の主力が内陸にいるとしても、探し出すのは容易ではないですよ』
「だよなあ……」
実際にテロを起こすのは『血の盟約』主力ではない。正確にはその末端に率いられたならず者、都市の軍人などである。『血の盟約』主力は都市落としといった大規模な、いわば戦争になると出てくる。その居場所は仲間しか知らない、と言われている。
「それで、さっきの話に戻るが、反乱を起こした部隊の現在位置は?」
『先行している偵察隊の1時間前の報告では、ここから北に300キロほどの廃都市にいます。戦力は、戦車8両、武装ヘリ2機、戦闘ヘリ1機、兵員約450名です。兵員は反乱時の部隊人員数ですので、少なからず減っているとは思いますが』
「よくもまあ、そんなにかき集めたな。十分脅威だな」
『接敵しますか?』
「いや、まだ早い。『血の盟約』の位置を吐いてもらわなくてはならんからな。事を起こして知られれば、逃げられる可能性もある」
『では、情報部隊を……?』
相手の声が曇る。
こういう時、隠密行動が最も得意な情報部隊が動くのは日常茶飯事だ。
だが、先日のこともあり、マック自身も情報部隊の隊員が単独行動することを渋っている。すでに出動している隊員や、別件で出ている隊員は順次帰隊するよう指示が飛ばされている。その時も、単独行動は極力控え、2人1組以上を命じている。
これ以上犠牲は出さないというマックの思いが行動に表れている。
それでも、この件に関して動けるのは情報部隊だけだろう。
「……志願者を募れ。今がどういう状況か包み隠さず、すでに皆知っていると思うが―—―—、話してだ。それで隊員を1人送り込む」
『了解しました。後方支援は?』
「それは人員が決まった時点で決めよう。頼んだぞ」
それだけ言うと、マックは通信を切った。
そして椅子の背もたれに寄りかかる。
「ここ2週間で相当老けたな……」
そんなことを呟く。
マックはこの2週間、ろくに寝ていない。せいぜい1時間の仮眠程度だ。
だが、うかうか寝てもいられない。
やらねばならないことは多いが、時間はあまり多くないのだから。
マックは机に散らかった書類の中から1枚の写真を引っ張り出す。そしてそれを上にかざして眺める。
写っているのは、眼帯の男と、円の3か所を切り抜いたような形をしたマークのある円柱状の物体。
「あの惨劇をもう一度やろうというのか……」
マックの呟きを聞く者はいない。
「……というわけで、今回の作戦は志願という形をとります」
マックの副官である女性が神妙な顔をしてそう言った。
会議室の1室に集まっているのは、現在艦内にいる情報部隊所属の人間全員である。
通常の部隊と兼任している隊員も数多くいる。
「志願して頂ける方は、いますか?」
副官は恐る恐る聞いた。
あんなことがあった直後、それもそれ関係の任務だ。手が上がらないことも想像していたのだろう。
だが、
話を聞いていた隊員たちから笑みがこぼれる。
「俺たちは家族だ。家族の仇をその手で探せるのなら、これ以上あいつにできる供養はない。だろう?」
男が言うと、全員が頷く。
「誰が選ばれてもいい。そう旅団長に伝えてくれや」
「むしろ俺が行く」
「いや俺が」
「いや私が」
「いや僕が」
「じゃあ俺が」
「「「「どうぞどうぞ」」」」
「こらっ!」
話題はとてつもなく重苦しいというのに、集められた隊員たちは冗談を飛ばしあうほどだった。
そんな状況をある種茫然と見ていた副官に、男が言った。
「はあ、……出来ればここにいる全員で殴り込みをかけたいのだが、それもできんのだろう? ならば、情報部隊をまとめる俺としては、フェイナを推薦する」
男が1人の女性を顎でしゃくる。
フェイナと呼ばれた女性がすくっと立ち上がり、にこりと笑う。
「望むところです。私が出ます」
「賛成!」
「異議なし!」
周りの隊員からそんな声が飛ぶ。
男がフェイナの前に立ち、何かを手渡した。フェイナが見ると、それは薄い鉄板が繋がれたネックレス。
「これは……」
「あいつの認識票だ。俺たちは行けないが、こいつだけは連れてってやってくれ。それが俺にできる数少ないことだが……」
旅団の人間は全員が認識票、隊内で身分を証明するこれを持っている。死んだ隊員のそれは、拭っても拭いきれない血がこびり付いている。
フェイナはそれを首にかけ、男に敬礼した。
男が敬礼で返す。
「情報部隊フェイナ・ユリウス、命に従い出動します!」
「君が来たか……」
「いきなりなんですか」
「いや……」
副官と共にマックの執務室に行くと、フェイナを見た途端、そう言った。
「何なんですか……。フェイナ・ユリウス、出向しました」
「はあ、ご苦労さん。概要はすでに聞いているだろうから、細かい詰めを行おうか」
そう言うと、机に大きな地図を広げる。
そして赤いペンで2カ所に丸を付ける。
「こっちが今現在の我々の位置。そしてここが反乱軍が現在キャンプを張っている場所だ。ここから北に300キロ。途中まではヘリで運ぶが、そこからは地上を行かなければならない」
「廃都市ね。都市内の情報は?」
マックが小さなチップを取り出す。それをフェイナに投げ渡した。
「それに都市の地図が入っている。と言っても、廃都市になる前の航空写真を元にしているから、多少の誤差は勘弁してくれ」
「了解。必要なのはテロ組織『血の盟約』の居場所。1人残して皆殺しでいいかしら?」
「末端の兵士残して皆殺しは勘弁してくれ。残すなら指揮官だ」
そう言うと、フェイナがにやりと笑う。尋常じゃない笑みだ。口元が吊り上って白い歯がなぜか不気味だ。
「敵勢力は戦車、ヘリ、歩兵と単騎相手にするには骨が折れる。指揮官を確保したら合図を送ってくれ。こちらから支援砲撃して殲滅する」
マックが言うと、笑みを浮かべていたフェイナが意外そうな顔をした。
「へえ、じゃあ戦争ね」
「戦争の下準備と言って欲しいが……。仲間を殺した敵に付こうという奴らだ、遠慮はいらん。可能ならできるところまで殺ってかまわん」
「さすがの旅団長も、堪忍袋の緒が切れてるのね」
「仲間を殺されて平気な人間をこの旅団に入れた記憶はない」
マックも笑う。だが目は笑っていない。
そして、細かい日程が知らされる。
敵が動き出すのは明日の朝。夜のうちに接近し、夜明けを待って潜入、指揮官を確保して可能な限り攪乱、混乱に乗じて脱出し、そこからは『グランドフリューゲ』が仕事を開始する。
話が一段落つき、フェイナが部屋を出ようとした時、扉が開いた。
「旅団長、お呼びでしょう、か……?」
3人の青年が立っていた。
「おお、早かったな」
「なんでルートとフラッシュがいんのよ……」
フェイナが右2人を見て言う。
「すまんが、それはこっちの台詞なんだが。というより、俺を抜いたのはどういうことだ?」
残りの1人、レイが2人を睨み付けるフェイナに言う。
「あんたは良いのよ、別に。それよりも、旅団長、なんでこいつらが?」
フェイナが振り返ってマックに詰め寄る。
だが、マックは笑みを崩さない。先ほどまで笑っていなかった目も今は笑っているように見える。
「なあに、君の隊長さんから君が『親友の腕の借りを返したい』と呟いていた、と聞いてな。彼だけ呼んだつもりだったんだが、なあ」
「なあっ!! //////]
マックの視線がレイに向けられる。当のレイは「俺?」と自分のことを指さす。機械人がやるとどこか間抜けな図だ。
(ああ、またか……)
にやけるマック、真っ赤になってマックに殴りかかろうとするフェイナ、訳は分かるが止めに入る副官の女性、そして訳も分からずそれを眺めているレイ。
その光景を眺めながら、ルートとフラッシュは同じことを思い、同じタイミングでため息をついた。顔を見合わせ、苦笑する。
「フェイナの想いは届くだろうか」
「こういうのを眺めるのも楽しいんだがなあ」
「言ったら殺されるよ?」
「女の嫉妬は怖い」
「嫉妬、なのかな?」
途中少し後悔しております。ですが反省はしておりません。
ダチョウさんをやるかは悩みましたが、ユーモア欠乏症の私にはこの程度が精一杯です。酷い、とか、空気読め、とか思う人もいるでしょうが、そうでもしないとやってられないので……。だから反省はしません。
フェイナはレイのことが気になっております。
しかし、レイには全く意識がありません。
主人公は全く関係ありません、蚊帳の外です。フラッシュもですが。
2人の関係は最後まで進展するか分からない感じです。
誤字脱字でも構いません。感想をいただけるとうれしいです。m(_ _)m