エピローグ02
あれから1年が経った。
その間何があった、という電波が飛んできている気がするが、あえて無視することにする。
旅団『フリューゲ』の名は、『デルジャナ』での核戦争勃発未遂事件、通称『機械人事件』によって世界の隅々まで知れ渡る結果となった。
それに伴い、傭兵という職業への考えが変わったようで、積極的に傭兵と交流を持とうとする都市が相次ぎ、『フリューゲ』にも今まで交流の無かった都市から幾度となく会談を求められた。
その度にマックはその都市に出向いては信頼関係の構築に奔走した。
旅団への入団希望者も相次ぎ、旅団の規模は1年前の2倍に膨れ上がらん勢いである。
そのため、半年の修理期間を経て航行可能になった『グランドフリューゲ』ではとてもじゃないが全ての隊員を収容することが出来ず、ジゼルに頼んで『ニースローグ』に旅団の地上本部を設営することに決まった。
傭兵が1カ所に居を構えるのはおかしな話だが、『機械人事件』で確たる地位を手に入れた旅団は、『ニースローグ』市民にも受け入れられ、すぐになじむことができた。
地上本部には、『グランドフリューゲ』で副官だった男が指揮官となり、入団して間もない隊員の教導や、『グランドフリューゲ』だけでは捌ききれない情報を誰にも頼らず、自分たちだけで処理できるようになった。副官の男は『デルジャナ』での戦闘で足を負傷し、戦線を離脱した。本来なら本人の許諾も得たうえで退団という事になるのだが、地上本部が出来るという話をしたら、是非そちらで働きたいと申し出たため、指揮官に抜擢された。
地上本部で育てられた新兵は、危険度の低い任務に従事することになる。警察や軍の支援をすることで場数を踏み、その中でも特に優秀な隊員たちが『グランドフリューゲ』に乗艦することができるのだ。
もちろん、地上本部のレベルが低いということではない。事実1年経った今では第二の家として地上本部はしっかりと機能を果たしている。
『グランドフリューゲ』は世界を回り、地上本部は必ずそこにある、家となった。
それによって、旅団の本質が変わったわけではない。
それは、マックがそうしているからだ。外からの新しい風が大量に流入することは、それまでの伝統が破壊される危険性をはらんでいる。だから、新兵の選考には厳正な規則があり、またマック自身による面接もある。さらに、軍・警察関係者なら3カ月、一般人なら半年の訓練期間で脱落する者も多い。それでも2倍に増えたのだから、それはそれで素晴らしいことなのだろう。
外はこのくらいだろう。
中はほとんどと言っていいほどに変わっていない。
新しく入った隊員も、まだあまり『グランドフリューゲ』には乗艦しておらず、むしろ地上本部に残り、そこから各地へ行くのも悪くない、という隊員も多い。
レイは1年前に失った元の身体に近い身体を取り戻し、からかっていたマックに1年分の怒りをぶつけてマックの腰痛を再発させた。
フェイナもより頑丈な四肢を手に入れ、情報部隊の任務に戻った。
因みにこの2人は1か月ほど前に籍を入れた。その時はまだレイが子供タイプだったために、フェイナがレイを俗にいうお姫様抱っこするという珍光景を見ることができ、その時の写真や映像はレイによってことごとく破棄されたため、生き残った物はプレミアがついて夜な夜な旅団の様々な場所でこっそりと上映されている。
カンナたち401部隊の人間も、元いた部隊に戻り、通常任務に従事している。
驚いたことは、カンナとフィリップがレイたちと時を同じくして付き合っていることが発覚したことだろうか。その時の旅団内の衝撃は計り知れず、祝福はされたが、やはり2人が同じ場所にいるのを確認するまでは信じなかった人間も多い。
フラッシュも元いた部隊で相変わらずの指揮を執っている。
成人してからはよく仲間と共に飲みにいっている姿を見かけるようになった。
マックは相変わらず旅団長として忙しい毎日を送っている。
最近はどうもジゼルと関係が親密化しているらしく、風の噂では同居しているとかしていないとか。
15年前に若くして妻子を失ったマックも、何かの踏ん切りがついたのだろうと、旅団内ではささやかれ、2人の関係は暖かく見守られている。
ただ、2人の関係の情報収集に旅団の情報部隊と『ニースローグ』の諜報機関が協調行動を取っているという噂があるのも確かだ。
そしてルートと言えば、402部隊隊長の引退に伴って402部隊の隊長へと昇格、実質の実動部隊トップへとのし上がった。
その隣に常にレイがいることはもう当たり前だ。
若くして、その経験と相まってその能力を余すところなく発揮するルートは今後も末長く旅団で戦い続けるのだろう。
「ルート、任務だ」
レイが甲板でランニングをしているルートに近寄り、声をかける。
汗をかいてタオルで顔を拭うとルートは顔を上げ、レイが手に持つ書類を引っ手繰るとそれにかじりつく様に見入った。
「場所はここから南方200キロ、『血の盟約』の残党が動きを見せた」
「規模は?」
「かなりのものだ。戦車20、ヘリ10、人員500を数える」
それを聞いたルートはニヤリと笑みを浮かべると、書類をレイに返して甲板を後にする。
「1600時、402部隊出動だ」
本編を短めに、後書きに文字を割きたいと思います。
まずは、この小説を最後まで読んでいただき、誠に、誠にありがとうございました。
作者、正直5月中旬ごろ書き始めて、ゴールできるか心配だったのですが、なんのその、二か月で片がついちゃいました。……あれ?
まあ、極端に長くする気もさらさらなかったのでね。処女作でとてつもなく長くするのは、あまりよろしくないかなあと思いまして。
この小説の構想は随分前、正直高1とかで考えたような気がするんですよね、家のコンピュータのワードでちまちま書いていたのを、大学入学に合わせて片っ端から改訂したものなんです。
とはいっても、フェイナ登場辺りまでしかその時は書いてなかったので、その後はほぼ即興で書かれた代物です。
設定とかもかなり変え、キャラも一新してと、いろいろやりましたから。
軽く終わったという意見があると思います。
最終決戦的なところでのマガス、『ドーントレス』との戦闘には、かなり作者も悩みました。あんな簡単に終わるはずがない、これは私も執筆しながら考えました。
ですが、核弾頭を起爆しようとしている相手にグダグダ時間をかけるのもどうかと思ったんですよね。
会話もほどほどにぬっ殺すのが適当なのでは? と思った所存であります。
さて、そんなわけで、この小説『傭兵は旅をする』は、俗にいう「戦いは続く」的な終わり方をしてしまったのですが、ルートたちの戦いは終わりました。
これまで読んでいただいた方には、感謝してもしきれないほどの気持ちであります。
本当に、ありがとうございました。




