第四十六話 銃弾に憎しみを込めて
「だ~、違うってば! カンナ、繋げるのは赤い方で、切るのは青い方よ。どうして2回目なのにそこで間違えるの?」
「ちょ、フェイナさん動かないでください! 手元がぶれます!」
レールガンを繋ぐ作業は思いのほか難攻していた。
何も、コードを間違えるカンナだけのせいではない。コードの多さにも問題があった。フェイナが「赤」と言っても、赤いコードはいくつもあった。そのために、レールガンとの連結は遅々として進まなかった。
「あ、それよカンナ。それをレールガンに繋いで頂戴」
「了解です」
レールガンの側面を剥がし、レールガンの銃身が丸見えになっている場所から伸びるコードと、フェイナの腕のコードの端の絶縁カバーをナイフで手際良く切り取ってそれぞれを結びつける。
これで通電に必要な全ての回線が接続された。フェイナの右腕から伸びる10本を超えるコードがレールガンに吸い込まれている。
フィリップがレールガンを持ち上げて、動きの取れないフェイナの右手に持たせる。フィリップはレイの踵のストッパーを外して即席の二脚を作り上げ、レールガンの銃身下に取り付け、立てないフェイナでも安定した狙いを付けられるようにした。重火器の扱いに慣れていたフィリップは逆にわずかな傾きも許されない、そういう仕事が得意だった。重火器はちょっとした不具合でも動かなくなってしまう。そのため、修理や点検もまめに行う必要がある。そのため、レールガンの二脚もフェイナの腕の長さや姿勢も考慮して作られている。
「フェイナさん、本当に撃てるんですか?」
「多分……」
自分が言いだしたことだが、フェイナには確固たる確信があったわけではない。だが、今あの巨人機を倒すにはレールガンの火力支援が不可欠だと考え、なんとかしようと思って考えた事なのだ。正直フェイナにも上手くいくかなど分からない。
「1回レールガンのバッテリーに充電してみる。横のゲージ見ててくれる?」
どうやって充電するかなど、完全な手探り状態だ。
普段、どういう時に自分の神経からの信号を電気に変換し、末端に伝えているかを考え、闇雲に考えを巡らせては実践してみる。腕をたくさん動かすイメージ、力を入れるイメージ、いろいろ考えるが、ゲージが上がる気配は見せない。
「ああもう、どうすりゃいいのよ!」
腹立たしげに叫んだ瞬間、レールガンの起動音がした。
「あ、フェイナさん、少し溜まりま……、ゼロに戻りました……」
「充電はできないようだな」
フィリップがゲージを覗き込み、顎を撫でる。
「感情の上下で電気信号が送られるようですね、溜められないとなると、撃つ直前に爆発的な感情を起こさないと駄目みたいですね」
「そういう事なら任せなさい。銃弾にありったけの憎しみを込めてやるわ」
レイをやられた悔しさ、仇を討ちたいのに動けないもどかしさ、そして何より、その全てに対する怒りが、今のフェイナの中では渦巻いていた。
「じゃあ、狙える位置まで移動しないと、フィリップ頼むわ」
「おう」
カンナが立ち上がり、フィリップがレールガンを手に持ってフェイナを肩に担ぐ。
「いっちょ、やったろうじゃないの……きゃあ!?」
「うお!」
「ちょっ、フィリップ、フェイナさん落としたらダメだからね!?」
歩き出そうとした時、突然足元から激しい縦揺れが襲ってきた。慌ててカンナが片手で担がれていたフェイナをフィリップの背中から落ちないように支える。
振動はすぐには止まず、断続的に続いている。決して遠くない地下からの爆発のようで、周囲の柱がミシミシと軋んで土煙がパラパラと3人の頭の上に降りかかってくる。
「これは……、エレナさんたちが上手くやったようね。あ、少しだけど腕が動く……」
「電磁パルスが止まったんですね。さすがエレナさん、やることに無駄がないですね」
「ええ、私たちも負けてられないわ。フィリップ、頼むわ」
「ぬうっ!?」
強烈な縦揺れを足元から受けて、『ドーントレス』がその動きを止める。
「制御室がやられたか。無能なAIめ、敵に与したか」
「人間舐めるからだ、マガス」
圧倒的な不利な状況は変わらない。
だが、マガスに対して一本取ったルートは、荒い息を吐きながらもニヤリと笑う。これで核弾頭の発射は止まった。あとは目の前の巨人を止めればすべてが終わる。
『ルート! 聞こえて!?』
「エレナか、電磁パルスが止まったのか」
ルートの無線は、ずっと電源を落としていた。指揮官が無線を使わないとは可笑しな話なのだが、そのおかげで電磁パルスの影響を免れることができた。その無線から、エレナの切羽詰まった声が飛び込んできた。
『あなたの目の前のデカブツを止めて! そいつも核弾頭を搭載しているわ!』
「なんだと!?」
『ドーントレス』に視線を戻すと、『ドーントレス』が見せつけるように背中を向けると、四角い筒がその視界に姿を現した。丁度、隣の発射機で佇む核弾頭がスッポリ入ってしまう大きさの筒が、『ドーントレス』の背中に取り付けられ、空を睨んでいた。
「『グラディオン』を止められてしまったか。だが、放射時稼働していた全ての機械は機能停止している。上空を飛んでいた邪魔な戦闘機も墜ちてくれたようだ」
そう言われて、ルートたちはハッとなってドームから見える空を見上げる。
電磁パルスの影響は、何もここに限っていたわけではない。この都市内にいた全ての機械人勢力、反乱軍、そして旅団も影響を受けたはずだ。地上兵器ならまだしも、空を飛ぶ戦闘機で突如全ての電力が落ちたら、その先に待つのは墜落だけだ。
「まさか、このドーム内だけで済むはずがなかろう? 私の脱出のために、上空からの追撃は邪魔だったのだよ」
「脱出、まさかこの都市も吹き飛ばすつもりか!」
「ご名答。本来は貴様たちを潰し、全ての主要都市に核弾頭を発射した後に、不要になった反乱軍と機械人諸共に吹き飛ばす予定だったのだが、致し方がない、貴様らを吹き飛ばし、私の計画はゼロからやり直そう。貴様らさえいなければ、私の計画を邪魔する者はいない」
電子音がくぐもった嘲笑を漏らす。
『ルート、接近する『ニースローグ』の輸送機の無線を傍受したわ。戦闘機は郊外に不時着、死者は出ていないわ』
「良かった……。あの婆が死ぬとは思えなかったが」
「おしゃべりはこのくらいにしておこうか。貴様らを排除し、さっさと安全圏まで逃げるとしよう」
「させるか!」
『ドーントレス』が正面を向くと、剣を横に倒して地面すれすれを薙ぎ払う。飛び退いてそれを避けるが、さらに1歩踏み込んできて『ドーントレス』は振り払った勢いそのままに1回転すると、飛び退いたルートにさらに追撃をかけてきた。
「フラッシュ、撃て!」
「言わなくてもっ!」
発砲音が聞こえて回転する『ドーントレス』にフラッシュとラーキンの銃弾が集中する。ラーキンは残り2発と、虎の子のロケット弾を発射し、腕に直撃させて回転を止める。
「ルートさん!」
観客席の方から声が聞こえ、振り向くよりも速くロケット弾が飛んできた。ロケット弾は右肩に当たり、派手な爆発煙を上げる。
「掩護します!」
フィリップが、ロケット砲に弾を込めながら『ドーントレス』の背後に回り込むように走り込んできた。
「フィリップ、レイたちは!?」
だが、フィリップの掩護を嬉しく思う気持ち半分、レイたちの事が気になる気持ち半分だった。そう叫んだルートにフィリップは親指を上げ、短くウィンクをしてみせた。それがどういう意味を持つのかルートには分からなかったが、何か考えがあることは理解できた。
ルートは小さく頷くと、視線を『ドーントレス』に向ける。『ドーントレス』はその巨大な剣をフラッシュとラーキンがいた位置に振り下ろし、グラウンドに巨大な地割れを作っていた。
「フラッシュ、時間稼げ!」
「くくく、今の私相手に時間を稼ぐだけで良いのかね? 重火器は使用不能、味方の掩護は期待できんぞ?」
声に引き付けられてこちらに剣を向ける。
何か確証があったわけではない。だが、フェイナたちが考えていることを実施するためには、きっと時間が必要だ。そして、このドームから逃がさないことが絶対条件、幸いマガスはルートたちを殺してからドームを出ようと考えているようで、とどのつまり、ルートたちが殺されなければそれだけで時間稼ぎになる。あとは、フェイナたちがやろうとしていることに気づかれないよう、出来る限りマガスの注意を引き付けるだけだ。
「くそっ、その巨体でそのスピード、反則だよ!」
フラッシュが悪態をつきながら小銃を片手撃ちしながら『ドーントレス』の周りを走り回る。
「一点集中だ! 胴体狙え、胴体!」
「合点!」
ラーキンとフィリップが合流し、フィリップが数に余裕のあるロケット弾をラーキンに手渡す。その間、ルートとフラッシュが『ドーントレス』の注意を引き付ける。
フィリップはすでに装填し終わっていたようで、ラーキンに砲弾を渡すと膝をついて『ドーントレス』に狙いを付けた。その隣でラーキンが手早く再装填している間に、フィリップがロケット弾を撃ち込み、『ドーントレス』の胸部をとらえる。そして、のけ反ったところにラーキンに弾が追い撃ちをかけ、『ドーントレス』がバランスを崩して後ずさりする。
このチャンスを逃しまいと、ルートは威力ではロケット弾に劣るがグレネードで胴体を攻撃し、『ドーントレス』に反撃のチャンスを与えまいと立て続けに攻め立てる。
「撃て、撃ち続けろ!」
ラーキンが撃ち終わると、フィリップが、ルートが装填する間に、フラッシュが撃つ。とにかく弾が尽きるまでそれを繰り返すつもりだった。
だが、突如後ずさっていた足が地面を蹴りつけてラーキンとフィリップのいる方向に向けて『ドーントレス』が跳んだ。
そして巨大な大剣を2人の足元のグラウンドに突き刺すと、グラウンドの表面を薄くスライスするかのように水平に深く剣を差し込む。剣の体積で地面が盛り上がり、ラーキンとフィリップは危険を察知してそこから飛び退くように退避しようとしたが、一瞬遅く、地面を割って剣の腹が姿を現し、2人を10メートル近く打ち上げる。
2人はかなりの滞空時間を経て地面に叩き付けられ、悶絶して苦悶の表情を浮かべる。
「フィリップ、ラーキン!」
「遅すぎるのだよ、彼らは」
剣をクルクルと手の中で回転させながら、刃に付いた土を払う。
「さて、残りは2人」
「くっ、…………!」
悔しげな表情をしていたルートは、『ドーントレス』の背後で何かが光を反射したのに気が付いた。それに目を凝らすと、反射しているのが照準器のレンズだと分かり、つい笑みを浮かべる。
「どうした、あまりの恐怖におかしくなったか?」
「たしかに、おかしいな。背後に目を付けた方がいいんじゃないか?」
「なにい?」
ルートはその場を飛び退いて、「それ」の射線から外れる。
刹那、観客席から眩い光が発せられて強烈な衝撃が襲ってくる。そして、『ドーントレス』が回避する間もなく、フェイナの放ったレールガンの弾丸は『ドーントレス』の胸部に命中する。猛烈な衝撃を背後から受けた『ドーントレス』は、衝撃のあまり前につんのめる様に倒れ込み、ルートの数メートル前に轟音と共に倒れ込んだ。
ルートは起き上がると観客席の方に目をやる。
観客席の階段で、レールガンを手にカンナに支えられるフェイナが、力なく親指を立てるのが見え、ルートも親指を立てる。
「ぐうっ……」
呻くような声が聞こえて『ドーントレス』を見ると、巨大な腕がもがくように地面をかき、なんとか立ち上がろうとするが、背中の脊髄にあたる部位を攻撃され、情報伝達が上手くいかずにただもがくだけで終わってしまう。
「驚いた、貫通しなかったのか」
本来なら、正面のAIすら貫通する位置にレールガンの直撃を受けてもがいているという事は、弾丸が貫通しなかったことを意味する。
「くっ、おのれ、このような……」
目の前にルートがいるというのに、握りつぶすことすらできず、悔しげな声をマガスが上げる。
ルートはただそれを眺めるだけで、何かをしようとするそぶりも見せない。視界の端でフラッシュが大男2人に近づいて声をかけているのが見え、そちらにチラリと視線を向ける。
「結局、また機械人にやられたようなもんだな」
「まだ、終わらんよ!」
そう言った瞬間、背中の核弾頭を入れた筒の発射口が開き、中の核弾頭が姿を現す。『ドーントレス』は倒れ込んでいる為、核弾頭は丁度ルートに向けられる形になった。
「ここで撃つつもりか!」
「くくく、私のように世界に与さない者は無数にいる。ここでただ死ぬぐらいなら、貴様らだけでも巻き込んでくれる!」
マガスの悲壮じみた笑い声がドームにこだました。
はえ?
随分簡単に倒した?
いやいや、そう思ったあなた、レールガンの威力を舐めたらいかんぜよ?
どんな映像作品でも、レールガンはほぼ最強な扱いを受けているでしょう? 自分としては『トランス〇ォーマー』(もちろんハリウッド版)二作目で出てきたあれをイメージしていたんですよね。
見た人はご存じでしょうが、カッコいいですよね~。
正直、もうあの映画は日本のアニメが元になっているとは思えないぐらいすごいと思います。原作知らないですけど……。
はっ、話が脱線しました。
次回、核弾頭の起爆を阻止できるのか!? みたいに行っきまーす。
次回最終回、エピローグちょい入れて完結ですかね?
ではでは、ゴール目指して突っ走りますよ!
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