第四十四話 討つべき敵
マックの存在が紙な件……
まあ、主人公ルートたちですし、ね?
出てこなくても大丈夫ですよね?
エレナ隊がルートたちから分かれて数分が経った。
ルートが物陰から辺りを見渡していると、視界を一定の間隔で瞬く光が横切った。すぐにその光に焦点を合わせると、やや離れたビルの陰で何かが光っている。
「信号か」
「『コレヨリ陽動ス。突入セヨ』。簡潔だな」
レイが素早く信号を言語に変換、内容をルートたちに聞こえる程度の小声で呟いた。
信号は何度か同じ符丁を繰り返した後止まり、その直後、光が点滅していたビルの陰から手身近な戦車目掛けてロケット弾が発射される。発射と同時に『ジャッカル改』が反応し、ロケット弾の発射元へと走り出していく。弾頭が戦車の横っ腹に命中して戦車が横に回転しながら転がっていく。それを避けながら3機の『ジャッカル改』がビルの合間目掛けて銃弾を撃ち込んでいく。
「行くぞ!」
入り口付近の敵は、エレナたちの奇襲で一瞬全ての照準をエレナたちの方向へ向けてしまっていた。そのため、目の前に現れたルートたちを確認し、銃口を向けるまでに若干の間があった。そして、その間を見逃すほど、ルートたちは甘くない。
レイが仁王立ちすると間髪入れずにレールガンを発射、戦車の砲身が引きちぎられて宙を舞う。エレナ隊の方へ向かおうとしていた『ジャッカル改』がこちらに気が付き、向かってくるが、その時にはすでにルートたちは戦車の近くまでドームに近寄り、戦車を盾に『ジャッカル改』を牽制できる位置にいた。背後にドームがあるために『ジャッカル改』は下手に攻撃できず、戦車の周辺に銃弾が散乱するが、ルートたちには届かない。
ラーキンとフィリップが『ジャッカル改』を牽制する間にカンナとフェイナが力任せに入り口のシャッターを1人は切り裂き、1人は素手で引きちぎって突破口を作り上げた。ルートとフラッシュがその突破口からドーム内に飛び込み、周囲を警戒している間にカンナとフェイナが突入する。戦闘の衝撃で電灯が割れてしまったらしく、辺り一帯にはガラス片が散乱し、外からの光だけが照らしているために内部は薄暗い。
「ひょう!」
フィリップが何事か叫びながら飛び込み、ラーキンがそのよこをすり抜けてフィリップを起き上がらせる。最後にレイが後方へ向けてレールガンを1発撃つと、その反動を利用して突破口から内部に滑り込んできた。
入り口のすぐ外で『ジャッカル改』がこちらを睨むように立っているが、攻撃はしてこない。それを見てルートは細く笑みを浮かべる。
「やはり中には撃ってこないか」
「そのようだ、エレナ隊を回収しよう。中を回り込んでエレナたちの正面へ」
「ああ」
ドームは周りをグルリと回る回廊がある。大きな窓がはめ込まれており、外の様子が逐一分かる。その回廊を通って先ほどエレナたちがいた場所の近くを目指して走り出す。
ドーム内には敵は見当たらず、等間隔で設けられた曲がり角にも、トラップの類や待ち伏せは全くなかった。そのため、ほとんど妨害を受けることもなく、激しい戦闘が行われている場所を目視できる所までたどり着くことができた。
内部からも見えるという事は、当たり前だが外からも見える。
先ほど入り口付近でルートたちを追っていた『ジャッカル改』はルートたちが移動するのに伴って外を回り込んでくる。だが、やはり攻撃はしてこない。外へ出てくるのを待っているようにも思えるが、あいにくルートたちは外へ出る気はさらさらなかった。
「あそこだ!!」
『ジャッカル改』の容赦無い攻撃のわずかな合間に、か細い攻撃が行われている。それを確認し、ほぼすべての銃口がそちらに向いているのを見て、ルートはそこにエレナ隊がいることを確信した。
「レイ、デカブツを頼む。俺たちは戦車だ」
ラーキンが背嚢から新たな弾薬を取り出し、フィリップがロケット砲を取り出す。手早く装填してガラス越しに狙いを定める。フェイナとカンナが小銃で窓ガラスを撃ち割ると、ガラス片が飛び散って外から強い風が流れ込む。
その時、窓ガラスが割れたことに気が付いた『ジャッカル改』が思い切り近寄ってくると、銃を捨ててその手を割れた場所に突っ込んできた。
「撃たなきゃ良いってか!」
割れた場所から飛び退くと、一瞬前までいたところを『ジャッカル改』の巨大な腕が横切る。やや離れた場所にいたフラッシュとレイの場所に手を伸ばそうとして、その腕をレイのレールガンの弾丸が穿つ。広げられ、目の前にいたレイたちを握りつぶそうとしていた手の平から弾丸が侵入し、内部の部品を破壊しながら進んだ弾丸が肩の辺りから外へ飛び出る。『ジャッカル改』が悶えるように腕を引き抜くと、もう一方の腕を差し込んでこようとする。
だが、腕を引き抜いた時点でレイは再装填を終わらせ、ブラリとぶら下がる腕の合間の縫うように『ジャッカル改』のAIに狙いを定めていた。
「ルート、撃て!」
ルートに叫ぶと同時に、自らもレールガンの引き金を引く。レールガンの弾丸は窓ガラスを一瞬のうちに貫通し、勢いも衰えぬままにAIを直撃した。そしてその足元を3発のロケット弾が通過していき、背中を向けていた戦車のエンジン部に命中して派手は爆発を起こす。
巨大な火球が地上で3つも発生し、エレナ隊を狙っていた『ジャッカル改』の動きが一瞬止まる。それを見逃さずにエレナ隊はドームと自分たちの間に割って入っていた『ジャッカル改』の足元を潜り抜けるとドームへ向けて走り出した。『ジャッカル改』が少し遅れて反転、その背中に狙いをつける。
だが、撃たせるつもりはルートたちには到底なかった。
エレナ隊の頭上をロケット弾が擦過していき、致命傷にならないとしても『ジャッカル改』を怯ませる。爆発で発生した煙が『ジャッカル改』の視界を塞ぎ、エレナ隊に狙いを付けさせない。
「走れ!」
「そこを退きなさい!」
割れた窓ガラスに一瞬たりとも速度を落とさず5人のエレナ隊が突っ込んできた。後ろを振り返る余裕もなく走ってきたエレナ隊の気迫に押されてルートはその場から飛び退く。エレナ隊がドームに飛び込み、回廊の壁に突っ込みかけない速度をガクッと落として息を吐いた。
「無事で何よりだ」
荒い息を吐くエレナにルートが近寄り、拳を向けるとエレナも拳を向けてお互いにぶつけ合う。息は上がっているが、ニヤリと笑うエレナは曲げていた背中を伸ばして自分の部下が全員いるか確認して安堵のため息をつく。
「中に入ればこっちのもんよ。私たちは制御室を探すわ」
「俺たちはドームの中央へ向かう」
荒い息を整える間もなくエレナ隊は回廊の曲がり角から地下を目指した。
このドームは、どうやら競技用だったらしく、観客用の案内板が至る場所に設置されている。それを頼りに移動できる。ドームの地下というのは、天井、地上という二重に守られた場所だ。そこに本拠を構えるというのは、自明の理だと考えられる。
ルートたちはエレナたちが進んだ通路をさらにまっすぐ進み、地下へ通じる階段の横を素通りすると「観客席」と書かれた矢印を見つけ、それに従って階段を上っていく。
階段の死角にも、やはり敵はおらず、敵の本拠とは思えない手薄な警備にルートは警戒を強める。
先ほどレイやフェイナを襲った電磁パルスも気にかかる。マガスの手の者が機械人だとすると、ドーム内に敵がいないのは当たり前なのだろうが、そうだとしても、ある程度の警備がいなければならないはずだ。それが一切ここにはないのだ。監視カメラも、センサーも、その気配すら見せない。
「マガス自身も、機械人なんだろう?」
ルートの懸念を見透かしたかのように、レイが呟いた。
これはマックからもたらされた情報だが、『ニースローグ』大統領、ルートでも顔を知っている男が、マガスの部下、機械人だったという。そして、わずかに得られた情報からマガスという人物が『始まりの機械人』の生き残りである可能性が高いという報告が得られたのだ。
「おそらく、な。よりにもよって『始まりの機械人』とはな……。『大崩落』が繰り返されれば、俺たちのような子供がまた増える。これ以上はやらせるか」
階段の踊り場を最小の半径で回り込むと、目の前が開けた。
階段を駆け上がって開けた場所に飛び出すと、観客席の中央付近にルートは出て、眼下にグラウンドを一望できる場所に立った。
「これは……」
広がる光景は、鉄の林と言っても過言ではない数の核弾頭が真上を向いて佇んでいる光景だった。ざっと見積もっても世界を複数回滅ぼせる数の核弾頭が、ドーム内に林立して、発射の時を今か今かと待っていた。あまりの光景に、衝撃で固まってしまったルートの背後から、レイたちが追いつき、同じように絶句する。
「これはこれは、『フリューゲ』の諸君、ここにたどり着いてしまうとは。やはり反乱軍程度では止まらんか」
不意に観客席の前の方から声が響き渡る。
声の主を探すと、観客席の最前列に誰かが座っている。ルートは小銃を構えながらゆっくりとその男に近寄り、前に回り込む。
「貴様が、マガスか」
妙に老けて見える男はルートに視線を向けると品の良い笑みを浮かべる。
「いかにも。初めまして、『フリューゲ』、私の計画を潰さんとする愚か者たちよ」
「貴様、世界を滅ぼしてどうするつもりだ!」
立ち上がろうとしたマガスの眉間に銃口を押し付け、無理やり椅子から立たせないようにする。この距離からならば、戦闘用の機械人でも貫通は免れない。
だが、マガスは余裕すら醸し出しながら銃口の圧力に任せて椅子に戻る。
「『どうする』? それは愚問というものだよ。我々『始まりの機械人』の目的は、15年経った今も少しも変わっていない。前回は大義名分など振りかざしたが、今回はその必要もない。我々の都合の良い世界を創造するのだ」
「『私の』、だろうが」
「そうとも言うな、ところで……」
マガスは人差し指を立て、その指をレイに向けた。あからさまな不快感にレイは手に持つレールガンの引き金に指をかける。
「もう身体が言う事を聞かなくなってきているんじゃないかね? このドームの周辺10キロには、現在電磁パルスが放射されているのだが」
「やはり、貴様の仕業だったのね」
答えたのはフェイナだ。
怒りを隠そうともせずにマガスに銃を向ける。それを見て、マガスが意外そうに眼を細める。
「……お嬢さんはサイボーグか。まったく『フリューゲ』は個性的な面々が揃っているようだな。私の部下は皆同じ顔、同じ性格、同じようなことしかしない。つまらん世界だ……」
「そんな世界をお前は作ろうとしているんでしょうが」
フラッシュが核弾頭を指差しながら嫌悪感を現す。
しかし、マガスは小さく首を横に振ると、フラッシュではなくルートに視線を向けて口を開いた。
「私だって、機械人だけの世界など、息が詰まりそうだ。私が造ろうとしているのは、全ての生命体が管理され、一切の争いを許さず、一切の自由を許さない、そんな世界なのだよ。ここに在るだけの全ての核弾頭を使ったとしても、この世界から人間を絶滅させることはできんだろう。だが、その数は圧倒的なまでに減らすことが出来る。そして生き残ると想定されるのは力のない、その日を生きる事だけしか考えない、無力な人間どもだ。組織化を許さず、希望すら持たせなければ、彼らを管理することなど容易い。恒久的な平和を私は創りだそうとしているのだ。なぜそれが分からん」
マガスは身を乗り出し、自らルートの構える銃口に眉間を押し付ける。その目は鋭く、どこまでも深くルートを見つめている。
「理解する気にもならないさ。自由もない平和など、貴様の自己満足だ。全てを管理する? そんなことは不可能だ。いかに貴様が人の心を操ったとしても、人間は自由を求める。そして、支配者は倒されるものなんだよ」
「圧倒的力量を以てしても、君はそう言えるのかね。絶対死を実感し、希望もない闇に落とされてなお、そう言い続けられるのかね? 私にはそうは思えん」
「お前に俺たちの何が分かる? 人の心を操れると思ったら大間違いだぞ」
「操る気はないさ。絶望してもらうだけでいい。何もしようとせず、ただ日々が過ぎていくだけ、人間はそれでいいんだ。私が不安材料を破壊し、全てが平穏になれば、貴様にも私が言う意味が分かるだろうな」
「そんなことを、させると思っているのか?」
引き金にかける指に力が入る。
だが、マガスは笑みを崩さず、言い続ける。
「私という個を殺してどうする? それで終わると思うか?」
「今、俺たちの仲間が核弾頭の制御室を目指している。数刻もせずに全ての核弾頭の発射は阻止される」
「そいつは残念だな、始めろ」
どこに呟いたのかも分からない、小さな声でマガスが呟くと、ドーム中に警告音が響き渡る。そして天井付近の警告灯が回転を始めると、ドームの天蓋がゆっくりと左右に開いていき、青い空がその隙間から姿を覗かせた。
「時間切れ、とまではいかんが、少なくとも核弾頭の発射態勢が整ったことは確かだ。ここまで来れたことには敬意を表するが、貴様らの善戦もここまでにさせてもらおうか」
「貴様を殺して、直接核弾頭を破壊する!」
躊躇いなく引き金を引くと、マガスがもんどりうって椅子に叩き付けられる。その眉間には小さな穴が開き、マガスの身体はゆっくりと椅子をずり落ちてルートの足元に倒れ込み、動かなくなった。
「レイ、レールガンは何発残っている?」
「19発だ。全部は無理だ」
「燃料に引火するなら小銃でも構わん。ぶっ放せ」
ルートたちが観客席の塀をよじ登り、グラウンドに飛び出そうとした瞬間、耳鳴りのようなものが響き渡った。
そして背後で何かが倒れる音が響いたと思ったら、フェイナの悲鳴じみた声が聞こえてルートは振り向いた。
「レイ! フェイナまで!」
フラッシュが2人に駆け寄っている姿が目に飛び込んできた。ラーキンとフィリップが重いレイの身体を抱き起すが、その腕からレールガンが零れ落ちて観客席の床に落ちる。
「か、身体が動かない! ここまで強力な電磁パルスだなんて……」
フェイナが僅かに動く首から上だけを悔しげに動かしながら、レイの方を心配そうに見つめる。
ルートはハッとなって銃を地面に向けて引き金を引く。銃弾が1発地面に向けて放たれる。
「銃は無事か……。レールガンは駄目だろうが」
レイの手から落ちたレールガンを見ながら、ルートは悔しげに下唇を噛む。レールガンは電磁砲と言われるように電気を使用する。電磁パルスが回線に過負荷をかければ確実にショートしてしまう。実験段階のこのレールガンに対電磁パルス防護がされているとは思えず、1発で数基の核弾頭を破壊できる戦力を失ってしまった。
「カンナ、フィリップ、レイとフェイナを離れた場所へ連れて行ってくれ。フラッシュ、ラーキンは俺と一緒に核弾頭を可能な限り破壊するぞ」
「「「「了解!」」」」
フラッシュとラーキンが塀を飛び越えてグラウンドに躍り出る。そして手近な核弾頭の燃料タンクがあるであろう下部目掛けて銃を撃った。
だが、障害物の無いはずの空間に突然太い何かが現れたかと思ったら、ラーキンの放った銃弾を受け止め、核弾頭とルートたちのとの間に割って入ってきた。
「私が、核弾頭の破壊を眺めているだけと、思っていたのかね?」
巨大な影は『ジャッカル改』を巨大化したような兵器だった。そして、投げかけられたのは、電子化こそされているが紛れもないマガスの声だった。
「貴様、AIをそちらに移していたのか!」
マガスは本体となるAIを別の場所に置き、そこから無線操作していたのだ。
そして、マガスのAIはよりにもよってこの巨大な兵器の中枢にある。
「いかにも。なぜ、ドームの中に警備がいなかったのか、貴様らならばすでに見当はついているだろう? 私が作り出した電磁パルス兵器『グラディオン』により、全ての電子兵器は破壊されてしまうからだ。核弾頭とこの機体『ドーントレス』、そして私の身体のみ、『グラディオン』の拘束下でも動くことが出来る。いかに戦争直前に製造された貴様のお友達でも、防御は不可能、AIも死んでいるかもな、くくく」
「っ! 貴様ああああ!!」
怒鳴ったところで、マガスの高笑いは止まらない。
「では、諸君、この世の終わりにしようじゃないか?」
巨人『ドーントレス』は片手の剣を振り上げ、片手の銃をルートに向けてきた。
ふと思ったこと……
あれ、これメタギアじゃね?
だってラスボスが二足歩行兵器に乗っていて、核弾頭積んでたら、まるっきしメタギアじゃないですか!!
ど、どうしてこうなった……。
私は『ア〇ター』と『マト〇ックス』からイメージを貰って『ジャッカル改』と『ドーントレス』を作り上げたのに……。
こ、このままではルートのCVが大塚さんになってしまう!
ガトーさん! ライバック兵曹! 私は帰って(ry
いやああああああ!!!!
未成年の顔で大塚さんとか、無理、ダメ絶対!!
皺もないピカピカな顔で渋い声とかアリエナイ!!
などと考える馬鹿な作者でした。
誤字脱字、ご意見、そして何より感想お待ちしておりまする。