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第四十二話 バリケード突破






ドームに近づくにつれ、ルートたちを襲う敵の攻撃は当然のことだが密度を上げ、より強力なものへと変わっていった。ドームまでの直線には、幾重にも構築された陣地は遂には巨大な壁となり、ドームを含めた都市中枢地区を囲むように構築されていた。ビルとビルをコンクリートで繋ぎ合わせ、道に沿って壁にトンネルが掘られ、ある程度の傾斜をつけて構築されたその壁は、平たいダムのようにも見える。


巨大な壁の頂上には幾つもの監視塔のようなものが置かれ、そこを含めて壁の前後、上下には無数の兵士が配置され、巨人機『ジャッカル改』の姿も確認できる。整然と並ぶその姿は、恐怖はもとより、どこか荘厳な雰囲気を纏っている。


「トンネル以外に突破できる道はないか……」

「みたいだね。……1人で突っ込まないでよね」

「さっきの事は忘れろ……」


巨大な壁から少し離れたビルの1階に隠れ、突破口を探っていたルートは双眼鏡から目を離して憎たらしげにフラッシュの横顔を見た。


ビル内には17人の仲間全員が集合し、次の指示を待っている。

何しろ、この通りは南門から少しずれた場所のため、敵の警備も厳しく、戦力も重点的に置かれている。現に目の前のトンネル前にはその左右の1機ずつの『ジャッカル改』、4台の戦車、20名を超える兵士が銃を手に持ち、陣地の奥で周囲に目を光らせている。


また、トンネルの上部には監視塔があり、機関銃が据え付けられている。夜間用のサーチライトがその隣に置かれ、兵士が監視塔で辺りを警戒しながら左右に行ったり来たりしている。


「無線は通じるか?」


後ろに振り返り、無線機を操作するカンナとフィリップに聞く。


「どうも混線しているようで、味方の交信に敵の無線が入り込んで上手く通信ができません」

「聞くに堪えない交信だから余計に性質たちが悪い……」


確かに、無線機から洩れてくるのは、反乱軍の悲鳴じみた救援要請や、本当にただの悲鳴なものなど、到底聞いていても情報を得ることができないものだった。唯一、分かることは、かなり近くまで旅団の戦車隊が着ているという事だけだ。


「何とか連絡を取れ。今の戦力ではあのトンネルは突破できん」

「了解」


レイの持つレールガンなら、確かに『ジャッカル改』のAIを保護する分厚い装甲をも貫徹できる。戦車の装甲とてその御多分には漏れない。だが、数が多い。どれか1つに照準を合わせている間に、他の敵に狙い撃たれてしまう。火力はもとより、数が足りないのだ。どうしても火力支援が必要だ、それも戦車クラスのものが必要なのだ。


「レイ、最高何秒で連射できる?」

「5秒といったところだな。狙いをまともにつけなければ、だが。狙いをしっかりつけるのなら15秒、護衛付きでな」

「妥当ラインだ。『ジャッカル改』を潰せればあとはヴィクター隊とエレナ隊で潰すことが出来る」


戦車程度ならば、今持っている武器で何とかなる。歩く武器庫扱いされているフィリップとラーキンのおかげで、対戦車弾は数に余裕がある。足止めではなく、撃破を狙える。


やはり問題は2機の『ジャッカル改』だ。


「あっ!、ルートさん、無線が……」

「繋がったか!」


無線機に駆け寄り、受信機を耳に寄せて雑音の中から探していた仲間の交信を聞き取ることができた。


『今度はこっちの番だ、いっちょう派手にブチかましてやれい!!』

『装填完了っす! 目標前方の『ジャッカル改』!』

『撃ていっ!!』


直後、轟音が無線から響き、足元に振動が伝わってくる。


「やってるな……」


かなり近い場所で爆発音が響き渡る。だが、この通りではない、だが、呼べばすぐに来てもらえる距離までは来ている。なんとか通信しようとルートは雑音を極力消して通信可能なまでに周波数を抜粋しようとする。


「こちらルート、聞こえるか?」

『んあ? その声はいつぞやの隊長さんかい? 今どこだ?』

「南門から1本ずれた道沿いのビルの中だ。こちらに回り込んでこれるか?」

『ちょいと待ってろ。確か……、ああ行けるぞ。少し待ってろ。仲間を連れて掩護に回る』

「『ジャッカル改』2機、戦車4台が相手だ。頼むぞ」

『合点承知した』


無線が切られ、再び雑音だけが聞こえるようになる。

ルートが立ち上がって用意をするよう言おうと振り返ると、すでに全員が準備を整えて立っていた。


「指示は?」


レイが全員を代表して聞き、ルートは小さく頷いて口を開く。


「401部隊はこのままビル裏から路地に出て通りにすぐに出られる場所で待機。ヴィクター隊はビル正面玄関から出られるようにしておいてくれ。エレナ隊は裏から出来るだけ壁に近い場所まで行ってくれ。こちらの攻撃に合わせて横合いから斬りつけるんだ」


地面に広げた地図を指差しながら、ルートは手早く指示を飛ばしていく。地図には赤いペンで壁の位置が書き込まれており、大体の位置関係は把握できるようにしてある。

簡単な説明を済ませると、ルートも銃を手に取る。


「合図は簡単だ。旅団うちの戦車の発砲と同時に攻撃開始だ」

「「「「「了解」」」」」















裏手に回り、ビルの合間の狭い路地を進んで通りに突き当たる。そこから通りの様子を窺うと、先ほど確認した時と同じように『ジャッカル改』が左右を固めて監視している。通り1つ隣では激しい戦闘音が響いているというのに、まったくの無関心である。これが人間なら気が気でないのだろうが、任務に忠実な、悪く言えば言われたこと以外はしない、そういうAIを搭載しているのだから、当たり前と言えば当たり前なのだ。『ジャッカル改』はともかくとして、戦車に乗り込んでいる機械人や、監視塔にいる機械人は時折爆発音に反応したり、そちらに視線を向けたりしているところを見ると、やはり少なからず気にはなっているようだ。


ルートは狭い路地から通りでトンネル方向に対して盾になりそうな物を探し、近くに乗り捨てられているトラックのような車両を見つける。横転して丁度トンネル前に対してビルから張り出す様に位置している為、丁度敵の弾を避けることが出来そうだ。


『こちらヴィクター、いつでも行けるぞ』

『エレナよ、もう着くわ。トンネル横25メートルぐらいの場所』

「了解、あとは戦車を待つだけだな』


激しい戦闘が続いているだけに、こちらに来られるか心配なところではあるが、ルートは心配していなかった。1度戦闘を共にして、無線に答えた戦車長の腕前は知っている。そして何より、あの手の男は1度やると決めたら何が何でもやる種類の人間だ。


「来る」


レイが呟いたのを耳で感じ、トンネルからの通り、ルートたちが隠れているビル横の路地の反対側のビルの1階部分が突如吹き飛び、爆炎と土煙の中から戦車が飛び出してきた。


「ひゃっほう! 待たせたな!!」

「戦車長、頭しまって下さいっす!!」


大声を上げて戦車長が砲塔の上部ハッチから身を乗り出してきた。

戦車の出現を合図にトンネルを守っていた『ジャッカル改』が動き出した。その後方を戦車が進み、トンネルの防護壁が勢いよく閉められる。まるで重りを切って落としたかのような勢いで落ちた。おそらく、後方からの増援を考えて開けていたのだろう。あの手の防護壁は閉めるのは簡単だが開けるのは大変なのだ。


最初の1台を皮切りに、ビルに穿った穴から続々と戦車が現れ、横隊を作ると通りに並んで砲塔を突っ込んでくる『ジャッカル改』に狙いをつける。


「撃てえええいい!!」


横一杯に広がった5台の戦車が一斉に火を噴き、『ジャッカル改』はその砲弾に自ら突っ込む形となった。1機が2発以上の直撃を受けて大爆発を起こす。


だが、もう1機は直撃を受けた『ジャッカル改』を盾にして砲弾を避けた。当たらなかった砲弾が『ジャッカル改』の脇をすり抜けて後方にいた戦車に直撃する。そして弾が通り過ぎて行った事を確認した『ジャッカル改』は破壊された僚機を片手で持ったまま戦車に突っ込んでいった。


「今だ!」


だが、その途中でルートたちのいる路地を通り過ぎたことに『ジャッカル改』は気づかなかった。『ジャッカル改』が通り過ぎたと同時にルートたちは通りに飛び出し、背中を向ける『ジャッカル改』と、敵戦車との間に割り込み、戦車の行く手を封じる。レイが素早くレールガンの発射態勢に入り、『ジャッカル改』の背中に狙いを定める。そして間髪入れずに引き金を引くと、ルートは遠くで見るのとは明らかに違う風のうねりをその肌で感じた。レールガンの発射に伴う空気の圧搾が衝撃波となって周囲に拡散する。発射された弾丸が寸分の狂いなく『ジャッカル改』の背中を貫通、前部にあるAIを穿って旅団戦車の頭上を飛び去っていく。


もちろん、目の前に飛び出してきたルートたちを、後続の敵戦車が見逃すはずはなかった。砲塔上部にある機関砲が発砲しつつ、突如眼前に現れた獲物に主砲の狙いをつける。同時に監視塔に据え付けられていた機関砲からも銃撃が始まり、ルートたちの周りに無数の着弾痕が付き始める。


「貰ったあ!!」


ルートたちの背後、ビルの正面から現れたヴィクター隊は、ルートたち越しに監視塔に狙いをつけて一斉に撃ち始める。6人の集中攻撃を受けて監視塔はあっという間にハチの巣にされていく。


「後ろががら空きよ!」


ルートたちに狙いをつけていた戦車は背後から現れたエレナ隊のロケット弾を受けて砲塔を宙に舞わせる。その間にルートたちはトラックの陰に飛び込み、そこからトンネルを見据える。戦車2台がまだトンネルから離れずにへばりついている。そしてルートたちの隠れているトラック目掛けて主砲を発砲した。


「伏せろ!!」


言うと同時にルートも地面に這いつくばる。刹那の時間も置かずに砲弾がトラックに命中、爆発の勢いでトラックが浮き上がると砲弾の勢いに押されてルートたちの頭上を回転しながら吹き飛んでいく。


「もう一丁、撃てえええい!!」


再装填した戦車が再び主砲で斉射、トンネル前にいた戦車2台に5発の砲弾が集中、前面装甲こそ貫通はしなかったが、爆風で車体がフワリと浮き上がって横転する。車体下部をさらけ出した戦車にレイが即座にレールガンの発射態勢に入って空薬莢を排出して次弾を装填する。そしてその戦車下部目掛けてレールガンの引き金を引き、対地雷措置のされている戦車下部装甲を容易く貫通すると、そのまま背後の防護壁すら貫通して、防護壁に開いた穴から反対側が少しだけ姿を現す。


さらに周囲に配備されていた機械人が銃で攻撃してくるのに対して正面からは戦車と401部隊、ヴィクター隊、背後からはエレナ隊という、物の見事な挟撃となり、次々と機械人がなぎ倒されていく。


「戦車長、防護壁を吹き飛ばしてくれ!」

「おうよ!」


威勢の良い返事が返ってきて、5台の戦車が防護壁に狙いを定める。

そして三度みたびの斉射で、防護壁は黒煙に包まれる。

ルートはトンネルに向かって走り出し、その途中にいた機械人に銃弾を送り込みながら黒煙を上げる防護壁まで休みなしで突き進む。

黒煙がトンネル側から吹く風に押し流されてその姿を消すと、爆風でめくれ上がった防護壁に縁どられたトンネルが姿を現した。


「ドームまでは?」

「3キロないよ」


背後に追いついたフラッシュに聞くと、すぐに答えが返ってきた。

トンネル前で立ち止まると、続々と仲間が集まり、最後尾に戦車が来て戦車長がハッチから顔を出す。


「おっと、忘れるところだった。隊長さん、おたくの知り合いを預かって来たんだ」

「知り合い?」


戦車長が指を鳴らして、車内に向けて何事か喋り出す。

そしてしばらくすると、以前ルートたちも使った後部ハッチが開いて、人がそこから出てきた。


「あたしも行くわよ」

「「「フェイナ!?」」」


開いた口が塞がらない、目を見開いて降りたきたフェイナに向かって叫んだのは、もちろんルート、レイ、フラッシュの3人だ。『ニースローグ』へ出向し、ジゼルと共にいると思い込んでいたフェイナがこの場にいる時点で、3人の理解の範疇からすでに遠く外れていた。


「あの戦闘機で来たのか?」


レイがふと思い出したように口を開く。ルートも先ほど上空を飛んでいた『ニースローグ』の戦闘機を思い出し、フェイナのここまでの経緯の大体の見当をつける。

フェイナはレイの問いに頷くと、背負ってきた荷物を見せる。


「まあね。みんなと一緒に行きたいから、旅団長に頼んで飛び乗りさせてもらったの」

「まったく、無茶苦茶な事をするな、お前は」


レイが呆れたようにため息をつくのを見て、ルートまでため息をつきたくなってしまった。


「はあ、イレギュラーが1人入ったが、401部隊に入るから問題ないだろ……。フェイナ、もちろんそのつもりなんだろう?」

「もちろん♪」


親指を立ててみせるフェイナは笑顔を見せてそう言った。

ルートも、今は内輪うちわでごたごたやっている場合ではない、と考え直し、フェイナを含めて今後の行動について思考を開始する。

とはいえ、フェイナの戦力が大きいことは何より助かる。サイボーグでそう簡単には怪我もしないフェイナは敵の銃火の中でもルートたちよりも速く進むことができる。護衛部隊を丸々1個失っていたルートたちにしてみれば、これ以上にない戦力補充だ。



「ヴィクター隊は戦車隊と共に俺たちの後方掩護のためにこのトンネルで待機、場合に応じて南門からの部隊に合流、ドームを目指してくれ」

「あとは任せるぞ、ルート」


ヴィクターが小さく頷いて戦車長と話を始める。最初の一言を聞いた戦車長が手をグルグル回転させると、待機していた戦車のうち、半分がキャタピラを左右逆回転して素早く反転して、今来た道に向く。


「エレナ隊、俺たちがドームに着くまでの護衛、内部に入ったら核弾頭を制御する制御室のような場所を探し出してくれ。相当数となれば一括で管理している場所があるはずだ」

「分かったわ」


エレナが小さく頷くと、背後の男たちも頷く。

それを見てルートはトンネルに向き合い、ドーム目指して再び全身を開始した。



フェイナ合流回でした。


戦車のあんちゃんが再登場!


上手く個性を出せていたか不安なんですけど……。


フェイナも加わり、ついに最終決戦の地へ! みたいな感じに次回したいですね。


ではでは。






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