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第四十一話 動き出す戦況



レポート2つ終っ了うううう!


あとはプレゼンの大量の資料を文章にして、残りのレポート2つをやるだけ……ってまだまだあるんですか!?


期末も近い上に、レポート!? 小テスト!? 殺す気ですか?! そうなんですね!!?


そんな物には決して屈したりしませんからね!


1週間前ぐらいまでは投稿してやるんだから!!



ルートたちがドームを目指して移動していると、突然爆発とは明らかに違う種類の振動が足元から伝わって来た。そしてそのあまりの振動の大きさに敵襲かと思って全員が姿勢を低くして周囲を用心深く辺りを見渡していると、周囲のガラスが砕け散り、コンクリートが歪んで地面がずれるような動き方をする。


「来たか」

「みたいだね」


空を見上げるが、何も知ることはできない。

だが、何が起こっているかは容易に想像がついた。


フラッシュが無線機の周波数を合わせて様々な無線を拾おうとしてみる。するとすぐに悲鳴にも似た怒号が無線機から飛び出してきた。


『せ、戦艦が突っ込んできやがった! 全員退避しろ!!』

『た、助けてくれ! 足が挟まって……うぎゃあああああ!!』


あまりに聞くに堪えないのでフラッシュが再び無線を切り替えると、聞き覚えのある声が飛び込んできた。


『タクシー代わりにしちまったなあ! 代金はきっちり払わせてもらおうじゃねえか!!』

『ちょ、戦車長、前、前見てくださいっす!』


『ブラン・コーリア』でルートたちを運んでくれた、あの陽気な戦車長とそれに振り回される砲手の掛け合いが無線から飛び出し、ルートはつい苦笑してしまった。


「相変わらずだな、この人は」

「なんかもう、ね……」


何とも言えない微妙な空気が立ち込めてしまったので、フラッシュは無線を切って無線機をしまった。


「『グランドフリューゲ』が突入したようね」


後ろからエレナが近寄ってきて、南の方角を指差した。

それを聞いたヴィクターも寄ってきて、エレナとヴィクターがお互いの拳をぶつけ合って、仲間の奮戦を喜び合った。


「それと、どうやら『ニースローグ』の増援が到着しているようだ」

「なに?」


レイが空を見上げて言うと、ルートもレイが見つめる空に目を向ける。

すると、そこには旅団の戦闘機ではない、見慣れない戦闘機が編隊を組みながらミサイルを発射、敵戦闘機と戦闘を繰り広げていた。


「戦闘機だけっぽいですね、一足先に来たといった感じですか」


カンナが目を細めて空を見上げながら呟く。


「おそらくな。あんの婆先に足の速い戦闘機だけでも、って考えたんだろうな」

「ルート、だからさ、ジゼルさんの事あまり悪く言うと、また『教導』されるよ?」

「聞こえなければ良いのさ」


フッと笑うルートがフラッシュの方に視線を向けると、なぜかため息をつき、片手を顔の半分の方にやってもう片方の手に持った無線機をルートの前に差し出した。

ルートはそれを見た瞬間、表情が凍りつき、恐る恐るその無線機を手に取って受信に切り替える。


『……久しぶりね、ルート』


最も聞きたくなかった声が、なんの抑揚もなく、冷淡に、ルートの死亡通知書を届けてきた。あまりの衝撃にルートは無線機を片手に持った状態で固まってしまう。


『あれから少しは礼儀を知ったと思ったのだけれど、足りなかったようね。丁度空にいるから、あなたに今から爆撃回避の訓練でも受けてもらおうかしら?』

「ややや、ま、待ってくれ、じゃなかった待ってください! い、今は作戦行動中ですので、それはまた今度という事に!」


ルートが必死になって無線に言い放つ。ルート以外の全員がジゼルの冗談だという事は理解していたのだが、ルートだけは彼女の恐ろしさを知っているがゆえに冗談を理解できなかった。そのため、ルートは墓穴を掘ることになってしまった。


『あら、そう? じゃあ、この戦闘が終わったらマックに出向させるように打診しておくわ。楽しみにしてなさい、新兵ルーキー?』


そう言い残して無線が一方的に切られ、あとには茫然自失のルートが残された。尋常ではない汗がルートの顔から流れ落ち、おそらくボディアーマーの中はびしょ濡れに近い状況だろうが、あいにくそれを確認するすべはない。


「ルート、全力で支援してやるから、任務に集中しろ」


レイが、固まるルートの肩を叩き、心ここに在らずのルートの意識を引き戻そうとする。


「レイ、俺が死んだら、403部隊を任せた……」

「しっかりしろ、作戦行動中だぞ」


だが、ルートは完全にジゼルの言葉に打ち砕かれていた。まるで未来への希望を一切合財失ったかのような状況に陥ってしまったルートは不意に起き上がると、銃に手をかけた。


すわ自殺か!? という思いが全員の脳裏を過ぎったが、幸いそうではないようでルートは通りの先を見渡せる位置につくと、あとに続くよう手信号で合図を送ってくる。

ホッとしてレイとフラッシュがその後ろにつき、次の指示を待っていると、ルートの口から言葉が漏れた。


「最も死ぬ可能性の高い先頭は、俺が行く。止めるんじゃないぞ」


やっぱりまずい状況だ、というのが全員の総意になったのは言うまでもない。















「南門に敵艦が突っ込みました」

「ほお、敵の指揮官は勇猛果敢、いや猪突猛進なようだ。反乱軍は?」


マガスの横で『デルジャナ』のAIに繋がっている機械人が言うが、マガスは言葉ではそう言いつつもまったく興味もないようで超巨人機『ドーントレス』の整備を眺めていた。


「それと、『ニースローグ』都市軍の戦闘機が戦闘空域に突入、招集していた反乱軍の戦車隊に攻撃を開始、我が方の戦闘機隊と交戦状態に入りました」


それを聞いて、ようやくマガスは部下の機械人の方に視線を移した。その目には、感心したような感情が映っており、反乱軍の損害などまったく気にしていない様子であった。


「戦闘機だけか」

「今のところは。遠距離レーダーが高高度を飛ぶ敵の大型機を感知していますが、到着にはまだ時間がかかる見込みです」

「ふうむ、東西の門の戦況は」

「戦車隊は苦戦していますが、『ジャッカル改』によって敵の侵攻は食い止めています。それと、敵の降下部隊を捜索していた『ジャッカル改』が交信を絶ちました」

「『ジャッカル改』をこの短時間で倒すか。どうやら、敵は随分と強力な兵器を携行しているようだな。核弾頭の準備は間もなく完了する。それまでは絶対にドームに近寄らせるな」


了解、と機械人が返し、『デルジャナ』のAIを通じてドームの外を囲むように配置されている『ジャッカル改』が戦闘態勢に入る。独立して行動するのではなく、全てを『デルジャナ』の母体となるAIに統括されている為、情報処理の速さが半端ではないほど高くなっている。要するに、動作や反応が良いのだ。


「私も『ドーントレス』の準備が出来次第、計画通り行動を開始する。後の指揮は『デルジャナ』のAIが取れ。反乱軍は使い潰してもらって構わん、むしろ使い潰せ、あとで処理するのも面倒だ」


部下を連れてドームの地下へと移動する。

戦闘開始から各拠点、ビル屋上に配備されている兵器の操作を行っている場所へ行くと、各所の戦況を集約しているモニターが暗い部屋で不気味に光っている。


部屋の中央に据え付けられた巨大な机の上には『デルジャナ』の電子地図が浮かび上がり、各所で戦っている戦力が表示されている。


東門では『フリューゲ』の戦車隊が1機減った3機の『ジャッカル改』と激しい戦闘を繰り広げ、周囲のビルが倒壊している様子が電子地図に浮かび上がる表示とモニターの映像を見比べることで把握することが出来る。


西門も同じような状況だが、これは東西門の防衛隊が足止めを最優先にしているからだ。敵になるべく多くの出血を強いらせ、構築した陣地からは絶対に前には出ないように徹底されている。陣地の防塁は戦車砲ならばある程度は耐えられるし、そもそも『ジャッカル改』がいるだけで『フリューゲ』の戦車隊は前に進むことが出来なくなっている。高速でビルの合間を移動し、撃っては隠れ、撃っては隠れの繰り返しをする『ジャッカル改』相手に、足の遅い戦車は分が悪いのだ。


南門の情勢が最も流動的になっている。

何しろ、『フリューゲ』の戦艦が南門の陣地を踏みつぶして都市内に侵入、そこで戦車隊を放出、冷静さを失った反乱軍の人間はなし崩しに後退し始めており、もはや戦闘と言えるようなものはそこでは行われていない。

南門だけに限って言えば、ほぼ壊滅的な打撃を受けている。

さしものマガスもここまで反乱軍の連中が不甲斐ないとは思っていなかった。だが、やはり反乱軍は人間、恐怖に支配されれば戦う意志など星の彼方に消え去ってしまう。突っ込んできた艦にはそれには十分すぎるだけの衝撃とプレッシャーを持っていたのだ。


「仕方がない、『ジャッカル改』を5機回せ。時間稼ぎ程度にしかならんだろうが、いくらかマシだろう。ああ、それと、差し向ける『ジャッカル改』は無差別仕様デストロイモードにしておけ。反乱軍もついでに数を減らしておけ」

「了解」


降下したルートたちを捜索していた残りの1機と、ドーム周囲を固めていた4機の『ジャッカル改』が指令を受けて南門へ向けて高速で移動を開始する。


「上空の敵が邪魔だな」

「味方戦闘機と入り乱れていますので、地上からの攻撃を控えています」

「構わん。地上からの攻撃を再開させろ。どうせ替えは利くんだ」

「……了解」


『デルジャナ』のAIが一瞬の間をおいて返事を返してきた。

感情を持たないAIでも、さすがに人間ではない、いわば生粋の仲間である戦闘機すらも巻き込みかねない攻撃を一切の戸惑いなく命じるマガスには、何かしらの抵抗があったのかもしれない。だが、結局は命令は絶対であるために命令に従う。















「主砲再装填完了、弾種散弾!」


ビルに両舷を挟まれて動けなくなった『グランドフリューゲ』は目の前にしか撃てなくなった主砲を目一杯俯角にして地上にいる敵戦車と兵士に狙いを定める。艦首の前に並んだ旅団の戦車が混乱状態の敵に戦車砲を向ける。


反乱軍は遮二無二に撃ってくるが、彼らを守るはずの防塁が邪魔をして旅団の戦車を狙い撃つことができない。それどころか、旅団からは狙えて、反乱軍からは狙えないというありがたくない状況になってしまったのだ。それでも、歩兵単位で『グランドフリューゲ』を狙って攻撃を仕掛けてくる。


マックはそれを作戦指揮所から見ていた。


「A隊、B隊の侵攻状況は?」

「『ジャッカル』に抑え込まれています。敵は時間稼ぎを徹底しているようで、こちらが近寄らない限り攻撃を仕掛けてこようとしません」

「やはり、核弾頭の発射までの時間を……」


東西の、マガス隷下と思われる機械人の部隊は決して無駄に旅団を攻撃してこない。丁度戦況が拮抗し、泥沼化するように戦っているのだ。そのため、戦車隊も攻めあぐねているのだ。


南門ここからが最もドームまで進める可能性があるようだな、照準いいか?」

「いつでも、っ、敵後方に大型熱源! 『ジャッカル』です、数は5!!」


突然入った情報に作戦指揮所にいる全員の表情が凍りつく。

今の『グランドフリューゲ』は左右をビルに押さえ込まれて身動きが取れない。主砲も回転させることが出来ず、いわば逃げることも敵を追うこともできない状況にある。そんなところにすばしっこい『ジャッカル改』に攻撃されては、逃げる余地もない。


「近づけるな! 戦車隊、主砲、斉射用意!!」

「『ジャッカル』、は、反乱軍に攻撃を開始しました!」

「なんだと!?」


モニターを見上げて、マックは驚愕した。撤退しようとする反乱軍を『ジャッカル改』が次々と銃撃していくのだ。両手に持つ大口径の銃で戦車の天蓋を穿ち、逃げ惑う兵士を踏みつぶしていく。


「逃げる者は容赦しないということか……」


実際には、もはや用済みとなった反乱軍の処理を兼ねていたのだが、マックはそれを知らない。とはいえ、『ジャッカル改』と『グランドフリューゲ』の間には反乱軍がいる為、『ジャッカル改』の照準はどうしても反乱軍に向き、一瞬ではあるが『グランドフリューゲ』に攻撃できるチャンスが生まれた。


反乱軍はてっきり味方だと思っていた『ジャッカル改』に攻撃されて混乱し、『ジャッカル改』は反乱軍を飛び越えながら『グランドフリューゲ』に近寄ろうとするが、反乱軍ジャマが多くて思うように前に進めない。


「目標前方、撃ち方始め!!」


狙いなど、まともに定める必要もなかった。

前に撃てば敵に当たるというとんでもない状況下で、発砲された砲弾は点ではなく面で反乱軍に降り注ぐ。『グランドフリューゲ』の放った砲弾は反乱軍の手前で分裂、散弾となって戦車、兵士問わずその上に小さな子弾の雨を降らせた。


細かく細分化された兵士の肉体を、戦車の砲弾が瓦礫と共に吹き飛ばしていく。


さすがに『ジャッカル改』は一瞬早く回避を行い、直撃は避けたようだが、斉射された砲弾が生み出した爆風は瞬く間に一帯に広がり、高熱の熱波と衝撃波を伴って隠れた『ジャッカル改』の表層と露出した駆動部を焼いた。


動くことはできるが、明らかに当初の速さはない。こちらに向けて銃を撃ってくるが、お返しに戦車砲による集中攻撃を食らい、1機、また1機と各個撃破されていく。


作戦指揮所で歓声が湧き立ち、マックも微笑を浮かべる。

そこに、ドタバタと入ってくる音が聞こえ、次には耳に突き刺さる大声が響いた。


「旅団長!」


歓声を上げた作戦指揮所にフェイナの声が響き渡った。

てっきり、ここにはいないと思っていた声に、マックは驚いて振り向き、フェイナに駆け寄る。


「どうして君がここにいるんだ?」

「ジゼルさんに送ってもらったの。そんなことよりも、あたしも戦車に同乗してもいいですか!?」

「何をいきなり……、レイか」


後半は、フェイナには聞こえないぐらい小声で、むしろ心の声でもいいくらい小さな声で呟き、目の前で息を切らしているフェイナを見つめる。


「……止めても無駄だな。前部ハッチが開放されているから、装備一式持って行ってこい。あいつらはドームを目指している」

「了解!!」


礼の言葉もほどほどに作戦指揮所を飛び出していくフェイナ。

それを見つめるマックはふと作戦指揮所の面子がマックと同じような表情をしていることに気が付き、苦笑する。


「青春だねえ」


誰が言ったかも分からない声が作戦指揮所に響き、どこからともなく笑い声が出てくる。


「戦場で咲く青春なんて、たまったもんじゃない。さっさと終わらせようじゃないか」


マックの言葉に全員が頷き、持ち場に戻ると任務に戻る。















「育ての親に想いを抱く、いつ考えても不思議でならんのだがなあ……」


世界の命運を握る戦闘中にも関わらず、『グランドフリューゲ』の作戦指揮所には妙に和やかに雰囲気が流れていた。



ふい~、という訳で、ルートの死亡フラグ発生でした~。


今日は道男さんがいると確実に殺されるのでこの形で……。


前回ぐらいに後書き(ここ)では制裁を下したわけですが、本編でもしっかりやろうと思っていたのは随分前からですので、後書きで先走ってしまった作者をお許し下さい。


それと、最後のフェイナですが、……何も言わんといてください。


こうでもしないとあの2人絶対に進展しない気がしますので……。


というわけで、メインキャラが全員そろうまであと少しってところですか。もともとフェイナもルートたちと共に行かそうと思っていたのですが、ジゼルとの絡みに誰か飛ばさないといけませんでしたのでね。ギリギリ飛び込みセーフって感じにしますか……。



それと、ほぼ確実に蛇足になるんですが、マックの台詞「目標前方(ry」は、できればその後に「死刑執行」って言わせたかったんですよね……。


ハイ、某吸血鬼の旦那が無双する漫画の大司教様ですよ。


あの台詞は結構好きです。圧倒的な物量が無いと言えませんよね、「目標前方」なんて。何を狙って撃てばいいんですか? 「適当に前の方に撃てばいいんじゃね?」で済んじゃうんですから。



さすがに現実ではありえないでしょうが……。

とまあ、こんな感じで良いですかね?


ではでは、今回はこの辺で失礼させていただきます。



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