第四十話 女傑の到着
『グランドフリューゲ』が、猛然と『デルジャナ』目指して疾走する。
ありとあらゆる火砲が火を噴いてその進路を阻む全ての物をなぎ倒していく。
撃ち落とし損ねたミサイルが甲板を直撃するが、速度を落とす様子もなく、南門前に展開していた反乱軍の面々は、その様子に戦慄した。
「距離1000を切りました! 全員対ショック態勢!!」
作戦指揮所に怒号が響き、その場にいた全員が手近な物にしがみ付く。
反乱軍の戦車が火を噴き、無数の砲弾が艦首に集中して、せっかく直した艦首が再び破壊されていく。だが、修理に伴い、装甲を分厚くした艦首は、砲弾の貫通を許さず、結果勢いを落とすことなく『グランドフリューゲ』は反乱軍の最前線にいた戦車隊をなぎ倒し、押しつぶしながらさらにその先を目指す。
『掩護します!』
出撃した戦闘機隊が『グランドフリューゲ』の前方の障害を狙って爆弾を投下していき、黒々とした爆炎が生まれ、その中を『グランドフリューゲ』が突っ切る。
「距離800!」
目の前に、『デルジャナ』の巨大な防壁が姿を見せる。その一角にその防壁を両断するように大きな門が据え付けられており、その周りに無数の戦車がこちらにその戦車砲を向けて停車している。
「主砲、撃てえええい!!」
轟音と共に、南門目掛けて主砲が斉射する。砲弾がほとんど放物線を描かず、真っ直ぐに飛ばされ、南門周辺に着弾、戦車が宙を舞う。
「上空に敵機!」
「迎撃ミサイル、急げ!」
情報が錯綜することはない。情報が右から左へと的確に流されていくのだ。レーダーには常に『グランドフリューゲ』に狙いを定めたミサイルが飛来する様子が映し出され、モニターには前方の黒々とした煙がはっきりと映し出されている。
「戦車隊の用意は?」
「いつでも行けます。突入と同時に出動させます」
南門から突入し、戦車隊を出動させるのが、『グランドフリューゲ』の仕事だ。『デルジャナ』にたどり着くまでは速度を落とすつもりはマックには微塵もなかった。
その時、不意にレーダーに無数の光点が現れた。それを見たレーダー員があまりの驚愕に目を見開いて言葉を失う。
「こ、後方に熱源多数! 友軍ではありません!」
「なんだと!? モニターに出せ!」
艦後部にあるモニターが映し出され、地平線よりも手前に土煙が上がる帯がマックたちの目に飛び込んできた。
ゆっくりと拡大されると、今目の前で対峙している戦車と同じ塗装の戦車が横一列に並んでこちらに向かってきている。そして、その数は尋常じゃない。
「マガスめ、戦力を周辺に分散していたのか……。追いつかれるな!」
『追いつかせないわよ』
不意に、戦闘指揮所に聞き慣れない声が飛び込んできた。
レーダーに映る戦車の列のさらに背後に、光点が無数に現れ、戦車隊の上に到達、通過すると戦車の光点が次々と消えていく。マックがモニターに視線を戻すと、戦車の上を飛ぶ航空機の姿が目に入ってきた。
『足の遅い輸送機は置いて、私たちだけ先に来たわ』
「グッドタイミングです、ミス・ジゼル」
無線からジゼルの声が飛び込み、レーダー上ではまだ識別不明だった機影が友軍に変更された。
『背後は私たちに任せなさいな。あなたたちは『デルジャナ』へ』
ジゼルの声に後押しされ、マックは後顧の憂いなく『デルジャナ』に向かい合うことができた。
「きょ、距離400! 戦車を押しつぶします!!」
『グランドフリューゲ』の巨大なキャタピラが、小さな蟻のような反乱軍兵士を戦車共々踏み潰していく。そして、その度に作戦指揮所には歓声が上がり、目の前に迫る防壁を見据えるマックも微笑を浮かべていた。
「行くぞ、諸君」
艦首が防壁に激突する。強烈な衝撃が艦全体を襲い、一瞬艦がつんのめる様に止まって見える。だが、砲弾の直撃を想定していた防壁も、戦艦の突撃を想定はしていなかった。巨大な質量に押されて防壁が崩れ落ち、下にいた兵士を押し潰していく中、『グランドフリューゲ』は『デルジャナ』内部に突入した。
狭いビルの間に割り込み、ビルを半ばで砕くと、瓦礫が甲板に降り注ぐ。だが、その程度では止まらず、『グランドフリューゲ』は都市内部に深く食い込み、南門からの通りをだいぶ蹂躙した後、ようやくその動きを止めた。
「ハッチ解放、戦車隊出撃」
「了解、ハッチ解放!」
艦首下にあるハッチが開け放たれ、旅団の戦車が勢いよく吐き出されていく。そして、その一番槍を務めた戦車が発砲すると、次々と他の戦車も攻撃を開始していく。
『タクシー代わりにしちまったなあ!! 代金はきっちり払わせてもらうじゃないか!!』
『ちょ、戦車長、前、前見てくださいっす!!』
ふと、つい最近聞いたような声が無線から聞こえ、出動していく戦車に目を落とす。そして、その戦車が『ブラン・コーリア』で401部隊を護衛し、敵の大戦車部隊相手にゲリラ戦を仕掛けた戦車だと気づいて苦笑する。
「旅団長、これ以上は、進めないようです」
「そのようだな。では、我々は固定砲台として精々大暴れしようじゃないか」
「了解!」
『グランドフリューゲ』は周囲のビルを盾に、都市中心部目掛けて主砲、ミサイル、あらゆる火砲を向けて、攻撃を開始した。
「フェイナ、用意はよろしくて?」
『ニースローグ』の複座の戦闘機の前、つまり操縦席にいるフェイナに向かって、ジゼルは後ろから声をかけた。2人とも酸素マスクをしている為、声は直接というよりは無線から、という感があるが、ジゼルの声はしかとフェイナの耳に届いていた。
「良いですよ! 投下タイミングはジゼルさんがお願いします!」
「了解、そのまま真っ直ぐ飛んで」
ジゼルは後席、レーダーと兵装を扱う座席に深く座り、目の前のレーダーを睨みながら爆弾の投下ボタンに指を置く。
そして、画面上の十字が敵の戦車群の真上に到達した瞬間、ボタンを押すと、機体に振動が走って翼から爆弾がバラバラと振り落されていく。
機体から解き放たれた爆弾は、慣性の法則に基づいて緩やかなカーブを描きながら地上に向かって落下し、戦車の集団を丸々1つ吹き飛ばして、衝撃波が地面を走る。
「お見事!」
「ありがとう」
前席でフェイナが機体を傾けてその様子を見て言うと、ジゼルが得意げに言った。
「ジゼルさんって、なんでもできるんですね」
「あら、フェイナだって初めての戦闘機を上手に飛ばしているわよ?」
「免許は取りましたから……、と、おしゃべりしている暇はないようです」
フェイナの目が、『デルジャナ』上空に黒い点を見つけた。
「あらあら、お迎えが来たようね。ジョリーロジャー1から各機、敵戦闘機を迎撃するわよ」
『ジョリーロジャー2、了解』
『ジョリーロジャー3、了解』
フェイナが操る機体、ジョリーロジャー1の左右後方に2機の僚機が近づき、編隊を組む。現在、この空域にいる『ニースローグ』の戦闘機は18機、6個小隊が旅団『フリューゲ』の戦闘を支援するために空を駈け廻っている。
「対空ミサイル用意、ロック、オン」
「フォックス2、フォックス2!」
ミサイルが翼から切り離され、白煙を引きながら飛翔していく。ほぼ同時に18機の戦闘機から放たれた計36発のミサイルは『デルジャナ』上空の敵機目掛けて一直線に進んでいく。
敵機がこちらの攻撃に気が付いて急上昇、急降下を繰り返して回避行動を取るが、36発ものミサイル全てを避けきることは叶わず、ほぼ次々とミサイルが着弾、空に花を咲かせて砕け散りながら墜落していく。
だが、こちらの攻撃に気が付いた他の敵機が反転、こちらに機首を向けてミサイルを発射してきた。機内にミサイル接近を知らせる警告音が響き渡り、フェイナは操縦桿を引いて思い切り機首を上げると、急上昇してミサイルを回避しようとする。ミサイルは他の味方機にも襲い掛かり、各機がバラバラに散開して独自の回避行動を取る。
「フレア!」
フェイナが叫ぶと同時に、機体後部から無数の火の粉が吹き出し、眩い光を放って敵のミサイルを攪乱する。目標を見失ったミサイルが明後日の方角に飛び去っていくのを確認して、フェイナは回避行動を止めて目の前を見据える。
高度を上げたため、『デルジャナ』とその周囲を見下ろすような位置についたフェイナとジゼルは、そこ『デルジャナ』に突入した『グランドフリューゲ』を見た。ビルの間を、ビルを破砕しながら突き進む様子に、呆気を取られるが、すぐに気持ちを敵の戦闘機に戻して、こちらにミサイルを放った敵機を探して目を凝らす。
「9時の方角よ、あれ!」
後ろからレーダーを睨んでいたジゼルが叫び、フェイナがそちらを見ると、3機編隊の敵機がこちらに向かって旋回してきたところだった。
「迎え撃ちます」
「後ろはついて来てる?」
『ばっちりです』
『いますよ』
僚機はいつの間にかピッタリ背後についていた。それを確認してフェイナは敵機に機首を向けると速度を一気に上げる。
敵機もこちらに機首を向けて、一気に接近する。相対速度で物凄い勢いで両者は接近し、あっという間にミサイルが使える距離以下になってしまった。そして、そこに至ってフェイナは機関砲の発射ボタンを押し、機首横にある機関砲が火を噴く。曳光弾に導かれて機関砲弾が毎分4000発といわれる発射速度で次々と放たれ、敵機に吸い込まれていく。先頭の1機に命中して、機体が爆発すると、それを避けるために他の敵機が旋回をしようとする。その結果、フェイナの背後にいた僚機に対して腹をさらけ出すことになり、残りの2機も砲弾の嵐を浴びて撃墜された。
「ナイスキル」
「まだまだですよ」
周辺に他の敵機がいないことを確認して、ジゼルが言うと、フェイナは照れくさそうに言った。
「さてと、そろそろあなたも陸に戻りなさいな」
「え、どういう意味ですか?」
ふと、ジゼルが言いだしたことの意味を理解できずに、フェイナはつい聞き返してしまった。
「あなたの大切な人たちがあのドームを目指しているわ。行ってやりなさい」
「ジゼルさん……、ありがとうございます。それじゃあ、『グランドフリューゲ』に着陸しますね」
「了解、掩護は任せたわよ」
後方の2機に対してジゼルが言うと、フェイナが高度を下げて動きを止めている『グランドフリューゲ』の背後、後部甲板に回り込んで車輪を出す。
「こちら『ニースローグ』都市軍、ジョリーロジャー1。着艦許可を願います」
旅団の無線周波数を使って呼びかけると、すぐに了承が返ってきて、誘導信号が発せられる。
『こちら『グランドフリューゲ』管制、現在本艦は戦闘中だ。流れ弾に注意せよ』
「了解、後方への撃ち上げを止めさせてください、当てないでください」
機体をゆっくりと横滑りさせて着艦に最適な位置に移動すると、徐々に高度を下げていく。甲板には誘導用のライトが灯り、甲板員が両サイドに避けていくのが見える。
フェイナは機体を丁寧に操って甲板に着陸すると、後部のフックが甲板のワイヤーを引っかけて急激な制動を受け、フェイナとジゼルの身体が前につんのめる様に飛び出しそうになる。そしてその勢いの反動で座席に叩き付けられると、機体が止まり、甲板員が飛び出してきて誘導を開始する。
「ジゼルさん、戦闘機、ありがとうございました」
「良いのよ、これくらい。ああ、エンジン切らなくていいわよ?」
コックピットのキャノピーを開けると、ベルトを外してフェイナは機体から飛び降りた。するとジゼルが器用に前席の背もたれにしがみ付きながら後席から前席に移動して、操縦席に収まった。
「また、すぐに出るから。マックによろしくね」
「分かりました。それじゃ」
フェイナは甲板員に次々と指示を飛ばして燃料と兵器の補充を受けるジゼルに敬礼して、甲板から格納庫へと走り出した。
作者「どうも、ハモニカです」
道男「ルートだ」
作者「いや~、この物語ももう40話です。最初の頃からはしてみると信じられない思いであります」
道男「40話行かないかも、とかリアルで言っていたな」
作者「それもこれも、読んでくださっている方々のおかげです。そしてタイミングが良い事に、この作品のPVが5000、ユニークが1000を突破いたしました。本当にありがとうございます」
道男「積り積もったな」
作者「ええ、ゆっくりと上がっていく合計欄を見ながら、それを糧に頑張ってますから。「なろう」様のランキングでも週間などでランクインさせてもいただけて、嬉しい限りであります」
道男「ファンタジーを求める読者が多いらしい「なろう」様の中では、頑張ってるんじゃないか?」
作者「それが本当かどうかはわかりませんが、頑張ります」
道男「それでだな、1つ聞きたいことがあるんだが」
作者「はい?」
道男「なぜ、あいつが、ここに、いるんだ?」
ジゼル(以下ジゼ)
「あら、私がここに居ちゃまずいかしら?」
作者「何を今さら、ですよ。以前言いましたよね、早めの公開処刑をすると」
道男「待たんか! 後書きで先に死んだら本編どうするんだ! というより断固拒否する!」
作者「死ぬ? いったい何の話をしているんですか?」
道男「な、に?」
ジゼ「私はあなたの公開処刑を頼まれただけよ? 大丈夫、あなた頑丈だから」
道男「お、おちつけ! いや落ち着いてください! な、なにをやろうって言うんですか!?」
ジゼ「とりあえず……、『地雷原の楽しい歩き方』、『空襲から身を守る100の方法』、『君もこれでエリート! 上手な対戦車戦』。これを実戦形式で教えてあげるわ。もちろん、私VSルートで」
道男「い、嫌だああああああ!!!!」
作者「あ、逃げた」
ジゼ「ちょっとやりすぎたかしら」
作者「大丈夫ですよ、それよりも、今回は私の申し出を受けてくれてありがとうございました」
ジゼ「まあ、あの子の人の接し方にはいささかの問題があったことは事実よ」
作者「これで矯正されると良いんですが……」
ジゼ「あの子の被害を最も受けているのはあなただものね……」
作者「ええ……」
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