第三十八話 401部隊、状況開始
状況開始……、カッコいい台詞ですね~
渋い人(戦うおじ様全般)が部下を前に静かに言ったりしたら……ヤバい、マジでカッコ良すぎる……
燃える闘魂な人も良いですけど、クールなのも大好きな、映画の見すぎなハモニカでした
「はっ、はっ、はっ、はっ」
規則的に息を吐きながら、ルートは合流地点を目指して走っていた。いつにも増して背中に重い荷物を背負いながらも、ペースは一定に保ち、決して足を止めることはない。遠くでから爆発音が連続して起こる度に空を見やるが、狭いビルの間から見える空からは何も窺い知ることができない。
『デルジャナ』は『大崩落』の最終決戦の地だ。当然、何重にも防衛線が築かれ、そびえ立つビル群は全て防壁として機能するようなものばかりである。中央部にたどり着くまでには中心へと伸びる道に対して直角になる様に細長いビルが幾つも建てられており、それ自体が盾の役割を果たしている。
その巨大なビルを大きく回り込んでルートは合流地点を目指していた。ヘリ部隊が空域を脱出したようで、先ほどまで頭上から聞こえていた激しい戦闘音は薄れ、代わりに遠くでの激しい戦闘音が地面を伝って響いてくる。
「南から……、『グランドフリューゲ』が攻撃を受けているのか?」
通りを走りながら、ルートは誰に言うでもなく呟く。作戦開始と同時に『グランドフリューゲ』は『デルジャナ』を目指して侵攻を行っている。『デルジャナ』のメインストリートが南門に繋がっている以上、迎撃は必至、激しい抵抗が想定されていた。
だが、ルートは他人の心配をしている暇はない。
今は自分が仲間と合流することが最優先事項、401部隊が戦わなければ、『グランドフリューゲ』の奮闘も無駄になる。
『こちらヴィクター隊、合流地点に到着しました。あと何人ですか?』
『エレナ隊はもうすぐ来るよ。残りはあと3人。ルート、レイ、ラーキン、現在位置は?』
無線で常時仲間同士の動きは把握できるようになっている。無線からフラッシュの声が入ってくると、その無線越しでも他の仲間の声が入ってくる。順調に合流できているようで、ルートは走りながらも内心で安心する。
『こちらレイ。ラーキンと合流した。まもなく……、そちらを目視したぞ』
『えっ? ああ、こっちからも見えたよ。後はルートだけだね。今どこにいる?』
「あと少しだ。細長いビルを回り込んでいるから少し時間がかかるな……、少し待て」
『! 了解』
突如ルートの声がトーンダウンされ、小声になったのに気づいてフラッシュも無線でのやり取りを小声にした。
物陰に隠れる間もなくルートの前方で無数に光が点滅し、ルートは反射的に地面に伏せる。頭の上を無数の銃弾が通過していき、地面や壁に当たって弾かれる甲高い音が響き渡る中、時間差で発砲音がルートの耳に届いてきた。
ヘルメットに手をやって深くかぶり、地面を這いずりながら近くの物陰に飛び込むと、金属の塊の反対側に弾が当たる音が聞こえ、背中越しにもその振動が分かるほどになった。
「敵に見つかった。装甲車と歩兵だけのようだが、頼めるか?」
『了解、すぐに助けに行くから、大人しくそこにいてね』
「見たところ……、ありゃあ『ニースローグ』の奴らだな。機械人の迷彩色じゃなかった」
『と、いう事は少しは戦いやすいな。レールガンを使わないで済みそうだ』
「レールガンを人相手に使ったら殺しすぎだぞ……」
苦笑しつつも物陰から顔を少しだけ出して敵の正確な数を計ろうするが、顔を出した瞬間に無数の銃弾が襲いかかってきたので慌てて顔を引っ込める。そんなに目立つような恰好をしていたわけでも、顔を出しすぎたわけでもないのだが、妙に反応が良い、いや良すぎる。
「機械人がいるのか……。となると少し厄介だが……」
『ニースローグ』といえども、機械人は大勢いる。軍に所属して今回の件に関係している者もいないと言い切ることはできない。
だが、問題は、なぜ、反乱軍に与しているのかいるのか、という事だ。『ニースローグ』で軍隊にいた、という事は、つまり『大崩落』で人類に味方した機械人の可能性が高い。そうなれば、『血の盟約』との関わりもある反乱軍が仲間にするとは考えにくいのだ。
「反乱軍ではなく、マガスの手の者……?」
だとすれば、機械人がいてもおかしくない。『血の盟約』の考えに賛同している反乱軍が承諾するかは別として、ではあるが。
結果、ルートは1つの答えにたどり着いた。
「……マガスは彼らも切り捨てる気なのだな……」
今の銃撃の反応からして、機械人がいることは確かだ。だが、『血の盟約』かぶれの反乱軍、マガスに釣られたとはいえ、『血の盟約』の意志はあるだろう彼らが機械人を許すとは思えない。つまりマガスが彼らに黙って機械人を送り込んでいる、ということになる。機械人が紛れ込んでも気づかれないようにする方法は限られている。
精巧な人工皮膚で人間そっくりに仕立てあげるか、人間の皮膚をかぶるかのどちらかである。おそらく、マガスがやることだ、後者に決まっているだろう。目の前にせっかくあるのだ、マガスが利用しないはずがない。
「レイ、機械人が紛れ込んでいる。気を付けろ」
『了解した。間もなくそちらに到着するから、注意を引き付けてくれ。その間に叩く』
「分かった。外すなよ?」
無線を切って、障害物越しに敵の様子を窺う。顔を出さなければ攻撃はしてこないが、明らかに距離が詰まっている。装甲車のタイヤが地面を踏みしめる音とエンジン音、そして敵の足音の響きが徐々に大きくなり、こちらに近寄ってくるのが分かる。
ルートは腰から1つスタングレネードを取り出すと、安全ピンを抜いて空に向けて投げた。
投げられたグレネードは放物線を描いて地に落ち、乾いた音を立てて転がっていく。どこに落ちたかは問題ではない。ルートはすぐさま耳を塞いでうずくまる。
そして直後に強烈な音と光が一帯を支配して、ルートの三半規管を手で覆っていたにも関わらず強襲してくる。耳の奥で激しく鳴る鐘の音に耐えながらルートは身を起こすと物陰から身を乗り出して目の前でもがいていた男に狙いを定めて銃の引き金を引く。
装甲車の中にいた敵はすぐさまこちらに気が付いて機関銃を備えた砲塔がくるりと回転してこちらに狙いを定めると、重厚な音と共に火を噴き、無数の銃弾をルートがいた場所に送り込んできた。ルートは間一髪で物陰に頭を引っ込ませ、銃だけを物陰から出して遮二無二に銃弾をばら撒く。
『ようし、そこを動くなよ』
無線からレイの声が聞こえたと思ったら、聞き慣れた飛翔音が聞こえ、直後に強烈な爆発音と熱波がルートに襲いかかってきた。そしてふと視界が暗くなったと思って上を見上げると、先ほどまでルートを狙って攻撃をしていた装甲車が宙を舞ってルートの上を飛び越えて道路に叩き付けられた。
と同時に乾いた発砲音が連続して響き、身を起こすとそちらに視線を向ける。
フラッシュとレイが先頭に立って装甲車の傍にいた敵を打ち倒していく。ラーキンとフィリップがロケット弾を再装填しながら移動し、カンナがフラッシュたちの援護を受けながらナイフを振るって敵をなぎ倒していく。
「グッドタイミングだ」
「隊長が合流地点に来られないとは、どういうことだ、ルート?」
引き金を引きながらレイに走り寄り、その背後で銃を構えていた敵兵に弾丸をお見舞いする。
「仕方ないだろう? 世の中思い通りにはいかないってことさ」
装甲車を失った敵は無力だった。圧倒的な火力を失った敵兵は各個撃破され、次々とその数を減らしていく。そんな中、ただ1人だけ、生き残った男がいた。最初のロケット弾の爆風を受けたのか腕が吹き飛び足がおかしな方向に曲がっているのだが、血を流すこともなく、悲鳴を上げることもなく、這いずりながらもこの場から脱出しようと試みていた。
「悪いが、こちらは通行止めだ」
その目の前に銃を構えたオールバックの男が現れた。その背後には5人の男がその背後を守る様に周囲を警戒している。
「ヴィクター、そいつから情報を聞き出したいんだが、殺さないでくれよ?」
ルートが逃げようとしていた機械人の背中を思い切り踏みつけ、その脳天に銃口を向けるヴィクターに慌てて詰め寄った。
ヴィクターはゆっくりと顔をルートに向けると、人懐っこい笑顔を浮かべて機械人の背中に銃弾を送り込んだ。機械人が何度かビクンと痙攣したあと、首から下が動かなくなり、その目だけが目まぐるしく動き回る。
「伝達系を破壊したから、もう逃げられないぞ」
「あの笑顔でそれをするな……。見てるこっちが怖い」
ヴィクターは押し付けていた足をどけて機械人を起き上がらせるとルートの方に強引に向かせた。ヴィクターがその首筋に手を持っていくと、首に指を押し込んで皮膚を強引に引きちぎる。機械人の無骨で光沢のある皮膚が露わになり、ルートが一瞬顔をしかめる。
機械人は何とかこの場から逃げようとするが、回路を破壊されて四肢が動かない状況ではどうしようもない。首から上だけは逃げようともがいているのだが、首から下はピクリとも動かない。
「貴様は、マガスの部下だな。奴はどこだ?」
「それを俺が言うとでも思っているのか、人間?」
「いや」
最初の一言で、ルートはこの機械人が情報を吐くことはないだろう、と素早く判断して、その眉間に銃口を押し付ける。機械人は臆する様子もなく、ルートをまじまじと見つめる。
「言い残すことは?」
「くたばれ、人間」
刹那、引き金が引かれて銃弾が発射された。即座に機械人の鋼鉄の頭蓋を貫通して、人間の脳に当たるAIを破壊、後方へと突き抜け、機械人が力なく首から上だけ項垂れた。ルートは立ち上がると周囲を見渡し、人数が揃っていることを確認する。
「401部隊、全員いるな」
「ヴィクター隊、全員揃っている」
「エレナ隊、5名いるわ」
401部隊の後ろに女性が先導する部隊が現れた。女性は目つきが鋭く、長く赤い髪を頭の後ろでまとめている。戦闘にでもなれば邪魔そうなのだが、何故かヘルメットに上手く収まっているらしく、一見すると短髪にも見える女性、エレナは返り血を浴びた顔で立っていた。
「ウィルがやられたわ。降りてくるときに、弾が当たって……」
その手にはおそらく彼のであろう認識票が握られている。
それを見て、ルートは彼女の肩に手を置いた。
「悲しむのは後にしてくれ。今やらなければならないことではないはずだ」
「分かっているわ。この償いは億倍にして返してやる」
エレナ隊の男たちが無言で頷く。
「よし、これで全員揃ったな。ヴィクター、後ろを頼む。エレナ、サイドを頼む」
「「了解だ(よ)」」
ルートは残弾を確認して、1発しか残っていないことに気が付いてマガジンを交換する。空のマガジンが地面に落ちて乾いた音を立てる。代わりのマガジンを差し込むと1発目を銃に装填して、視線を上げた。
「これより状況を開始する」
静かにルートは言葉を紡いだ。
はれえ!?
若干だけどヴィクターがおかしな感じになってしまったぞ?
新キャラだから一応まともな奴を、と思っていたのに、いったい何が……
ハッ、これがいわゆる1つの「キャラの一人歩き」という奴ですか!?
怖いですね~、ヴィクターは……、そうですね笑いながら敵の背中に銃弾送り込むような性格にする予定はなかったんですが……。
というわけで、2人ほど新キャラが出ました。
ヴィクターについては上で言ったので良いとして、あとはエレナですね。まあ、戦うお姉キャラで良いと思いますよ?
何故疑問形かといいますと、しっかりとしたキャラ設計が出来ていないからです。
さすがに6人ぐらいで最終決戦するのもおかしい、というより無茶苦茶だと思って数を増やすために出したんですが、脳内イメージもあまり固まっていないので、登場人物紹介に加えるのは少し先になると思います。
一応、強いですからいいんですけどね……。ヴィクターと比べて出番を増やせるかが不安なんですが……。
ああ!
こんなに動かすキャラが多いと、大変ですね。ですが、妥協する気もさらさらない愚かな作者であります。
これからもよろしくお願いします。
誤字脱字、ご意見、感想お待ちしております。
是非ください!!




