第三十七話 敵は強大
3つ目~
今日はこれで勘弁願います。
『デルジャナ』の巨大な都市の影に黒い点が7つ近づいていく。
オウルエッジ隊とゴールデンイーグル隊は低空を飛ぶことでレーダーで見つかる危険性を下げつつ、だが、目視すれば一目瞭然の高度を一糸乱れぬ編隊を組んで飛んでいた。
「突入まで1分!」
パイロットが叫ぶと、全員が銃の安全装置を外し、座席のベルトを外して後部ハッチへと向かう。背負った落下傘のパラシュートを展開する紐を再確認して、ルートが先頭となってハッチの前に並んでいく。貨物室内にいる搭乗員がルートに向かって合図をすると、ルートがそれに頷きを返す。全員が頭上にあるポールに命綱のようなロープを引っかけ、重心を低くして、来る衝撃に備える。
グオンという、急激にエンジンの出力が上がる音が機内に響き、機体が急上昇する。ヘリが落下傘降下に必要な高度を取るために、都市直前でパイロットが操縦桿を引き、高度が上がっていく。
それと同時に、遠くから遠来のような音が聞こえ、パイロットの怒号が耳に突き刺さった。
「くそっ、まるで対空火器の巣だぞ!!」
上昇したことで、都市内を一望できる位置についたが、それは逆に都市からも丸見えだということだ。コックピットではレーダーロックされた事を知らせる警告音が鳴り響き、窓から見える空には対空砲が一定間隔で発射する曳光弾の眩い光が擦過していく。
「ハッチ開きます! 予定降下地点まで30秒!」
金属が擦れる音がすると、ヘリの後部ハッチがゆっくりと解放されていく。猛烈な風が機内に吹き荒れ、重装備にも関わらず、風に体が持って行かれそうになる。それだけ速度を出していることが窺える。
「全員、準備はいいか!?」
「いつでも行けるぞ!」
風の音に負けないくらいの声で後ろの面子に言うと、最も奥にいるレイから返事が返ってきて、残りの全員も首を縦に振る。
降下タイミングを計るためのランプがハッチの上には取り付けられており、赤いランプが青に変わったタイミングで飛び出すことになっている。ルートが来るタイミングに備えてハッチの端まで身を乗り出すと、後続のヘリの姿が見えてきた。輸送ヘリはどれも降下準備に入っているらしく、ろくな回避運動も取っていない。逆に戦闘ヘリは輸送ヘリの斜め下に移動し、落下傘の邪魔にならない位置から地上を牽制攻撃している。高射砲のものと思われる黒煙が空を多い、振動で機体がガタガタと揺れる。
『GE2、右前方のビル屋上に対空ミサイルだ!』
『了解した! っ、真下に対空砲!』
戦闘ヘリから次から次へとミサイル、ロケット弾が放たれ、降下を妨害する敵の対空陣地を攻撃する。
「降下まで15秒!」
そう言った瞬間だった。
ルートが見ている中、オウルエッジ2が爆散した。高射砲の直撃を受けた機体は真っ二つに折れたと思ったら燃料と弾薬に引火して大爆発を起こし、四方八方に破片をまき散らしながら墜落していった。
『オウルエッジ2がやられた! くそっ、破片を食らった!』
下方を飛行していた戦闘ヘリが破片の直撃を受けて黒煙をたなびかせながら飛行している。
『GE3、撤退しろ。敵は俺たちが引き付ける』
『すまん!』
戦闘ヘリが1機、来た道を戻っていく。その間にも地上からの猛烈な撃ち上げは続いており、激しい振動がルートを襲う。
「降下5秒前、4、3……」
カウントが始まり、横にいる搭乗員が指を折りながらそれを教えてくれる。
「2……1……降下!」
「行くぞ!」
ルートは勢いよく走ってヘリから大空へと飛び出した。重力の法則に則って体が地上に向かって降下を開始し、独特の浮遊感に襲われる。それと同時に真下からの撃ち上げが視界一杯に広がり、風に耐えながら降下地点を探し始める。
ふと前を見れば、残りの輸送ヘリからも降下が開始されていた。他のヘリは側面にあるハッチから同時に複数の隊員が飛び出しては、次々と後続が吐き出されていく。
高度は落下傘を開くには十分な高さだった。
だが、今開けば間違いなく狙い撃ちされる。そのため、ルートはギリギリまで落下傘を開くつもりはなかった。後続もその意図を感じ取ったようで、ルートたちは空をカーブを描くように並んでビルの屋上にある対空火器がはっきりと分かるまで落下を続けた。
降下してくるルートたちを狙って対空砲が撃ち上げられるが、いくらコンピュータ制御でも追い撃ちは当たりにくい。至近弾はいくつもあっただろうが、命中することはなかった。
ある種のチキンゲームを行いながら高層ビルに衝突しそうなほどの高さまで降りると、そこに至ってようやくルートは落下傘を開いた。開くと同時にその制動で身体を支えるベルトが痛いほどに身体に食い込むが、それもすぐに薄れてゆっくりと高度を下げていく。左右のロープを上手く操作して高層ビルの合間を縫うように進み、屋上の対空砲を避け、コンクリートの地面に滑り込むように着陸する。
やはり、全員が同じ場所に着陸することはできなかったようで、素早くパラシュートを切り離してビルの合間から見える空を見ても他のパラシュートは見えない。
「こちら、ルート、全員降りたか?」
無線で呼びかけつつ、ルートは近くの物陰に隠れ、ヘルメットに装着された片目だけのサングラスのような物を下して、ヘルメットにある小さなスイッチを入れる。するとバイザーに簡易ではあるが『デルジャナ』の地形図が映し出され、ルートがいる場所を中心に円形に地形が表示される。
『こちらフラッシュ、カンナと同じ場所に降りた』
『レイだ。合流地点から西に200メートルといったところだ』
『ラーキンです、うまく合流地点近くの物陰にいます。皆さんの到着を待ちます』
『こちらフィリップ、南に100メートルないです。今すぐ向かいます』
それぞれから返事があり、ルートも自分の現在位置を確認する。
位置は合流地点南西100メートル。直線距離だから近いが、目の前にはそれを遮る巨大なビルがある。
『こちらヴィクター隊、損耗無し、これよりそちらに向かいます』
『エレナ隊、1人殺られたわ。5人でそちらに向かうわ』
支援を引き受けた部隊からも無事連絡が入ってきたが、降下の途中に少なからず被害が出た。最も痛いのはオウルエッジ2に搭乗していた部隊が全滅してしまったことだ。現状動ける人数は17人のみとなってしまった。
「合流地点に全員が集まった時点で行動を開始する。妨害する敵は須らく撃退しろ」
ルートは無線を切ると立ち上がり、物陰から飛び出して合流地点を目指して走り出した。
「突入隊、着陸しました!」
「2号機はやられたが、残りは降下したようだな……」
『デルジャナ』目指して疾走する『グランドフリューゲ』。その艦橋で報告を受けたマックは胸をなで下ろした。2号機が撃墜され、護衛の戦闘ヘリが1機引き返すというアクシデントはあったものの、残りは無事に降下していく様子を、マックも艦橋で拡大された映像を見守っていた。
「戦車隊の行程は」
『A隊、B隊共に順調に前進しています。今のところ敵勢力による妨害はありません』
すでに、東西から突入する戦車を率いた部隊は出動している。ほぼ隠れる場所のない『デルジャナ』周辺を進むのは危険極まりないことなのだが、幸か不幸か今のところは敵からの攻撃は上空のヘリにのみ限られている。対空砲が撃ち上げられている中、任務を終えたヘリが回避行動を取りながら都市上空を脱出しようともがいている。
敵の対空砲のおかげで都市上空を飛ぶ敵戦闘機はヘリに近寄れず、『グランドフリューゲ』を狙って攻撃を仕掛けてくるが、幸い修復成った『グランドフリューゲ』の主砲が轟然と発砲すると、上空で散弾となって飛び散り、敵の戦闘機を寄せ付けない。発射されたミサイルも、迎撃が間に合い、今のところ直撃弾は1発もない。
「『デルジャナ』までの距離は?」
『10キロを切りました、……っ、前方の地面に熱源多数確認しました! 地中から何か来ます!!』
「『ジャッカル』だ!」
叫んだのは副長だ。
マックは慌てて艦橋から外を見下ろすと、『グランドフリューゲ』の前方の荒野が盛り上がって土煙が上がっていた。
「主砲、前方を狙え!」
『主砲照準、撃ち方始め!』
上を向いていた主砲が前方に狙いをつけ、間髪入れずに発砲する。砲弾が土煙に吸い込まれて茶色の土煙の中に爆発を生んで、赤黒い煙になる。
「撃ち続けろ! 点で攻撃するな、面で攻撃しろ!!」
上空を飛んでいたヘリがロケット弾を撃ち込む。無数の爆発が連鎖的に起きて巨大な火柱が上がる。主砲が再装填するまでの時間は対空砲が俯角を取って攻撃を続ける。もう、煙の向こうに何があろうと関係ないほどだった。
だが、突如、煙の中から曳光弾がヘリに向けて伸びると、それに導かれた無数の銃弾がヘリに吸い込まれてヘリに大穴が開けた。
『くそっ、やられた! メーデー、メーデー!』
尾を振りクルクルと回転しながらヘリが高度を下げていき、地面に叩き付けられて大爆発を起こす。その眩い光に艦橋にいたマックはつい目を覆い、その光から目を守ろうとした。爆発の振動で艦が少し揺れるが、すぐに収まりマックは顔を上げた。
「やはり、この程度では無理か……」
煙が晴れると、そこには3体の『ジャッカル』がその手に持つ巨大な銃をこちらに向けて立っていた。マックも、『大崩落』で幾度となく辛酸を舐め、苦戦の末に倒した『ジャッカル』。それが今、目の前で再びマックたちの前に立ちはだかっていた。
ふと、『ジャッカル』の背後に何かの残骸があることに気が付いた。
マックが目を凝らしてそれを見ると、『ジャッカル』が大破して煙を上げていた。その巨大な胴体には大きな貫通痕が残されており、大きさからして主砲弾の直撃を受けたもののようだ。
「主砲弾でようやく、か……。上空のヘリ、艦に絶対に近づけるな。取りつかれたら対処のしようがなくなるぞ」
『了解しました』
ヘリが再び『ジャッカル』に向けてロケット弾をお見舞いする。
だが、今度は『ジャッカル』も回避行動を取り、着弾点から素早く飛び退くと、猛烈な速度で『グランドフリューゲ』目指して突進してきた。ヘリがそれを追うように攻撃を加えていくが、『ジャッカル』はその攻撃を小刻みな動きで巧みに避けると手に持つ銃でヘリを牽制し、攻撃が止んだ瞬間に『グランドフリューゲ』に飛びつこうとした。
『撃てえええ!』
艦首横から飛び上がって艦に飛び乗ろうとした『ジャッカル』は動きを読んで狙いを定めた主砲の真正面に飛び上がっていた。艦の懐にもぐり込むと甲板の様子が分からなくなることを利用して、飛び乗る瞬間を狙っていたのだ。至近から放たれた砲弾を肩と胴に受けて吹き飛ばされた『ジャッカル』が爆散して破片を飛び散らせると、続いて乗り移ろうとしていた『ジャッカル』が急に動きを止めると、距離を取り始めた。
「撤退しますかね……」
「ありえん。何か考えているぞ……」
副長の淡い期待は『ジャッカル』の銃弾によって撃ち砕かれた。
『ジャッカル』は艦の正面に陣取ると、そこから艦橋めがけて攻撃を開始してきたのだ。艦橋の硬質ガラスが30ミリクラスの銃弾を無数に受けて蜘蛛の巣状のヒビが無数に発生する。
「い、いかん、貫通するぞ!」
そう言った直後だ。硬質ガラスが雨霰のように銃弾を受けたために耐えきれなくなり、粉々に砕け散った。そして銃弾が直接艦橋を襲った。艦橋のデスクの陰にマックは飛び込んで難を逃れたが、銃弾は艦橋のみならず、上部に備え付けられているレーダーなどにも当たり、無数の破片が艦橋にも降り注ぐ。
「くっ、被害を報告しろ!」
銃撃が収まると、マックは大声で叫んで、艦橋を見渡して絶句した。
艦橋は血の海だった。30ミリの直撃を受けた者は胴を引き裂かれ、腕を抉り取られ、壁に打ち付けられて動かなくなっていた。近くで呻いていた操舵手に駆け寄って抱き起すと、その顔は血で真っ赤に染まっており、無数の金属やガラスの破片が顔にとどまらず体中に突き刺さっていた。目に刺さった破片が、眼球の動きに合わせてピクピクと動き、その度に操舵手の男が言葉にならない悲鳴を上げる。
「旅団長! 無事ですか!」
背後から副長の声がして振り返ると、頭から血を流し、足を引きずっている副長が息を荒くして立っていた。
「被害は艦橋からレーダー、無線に至って甚大です! すぐに後部の予備に切り替えるよう作戦指揮所に命じておきました! ここは危険です、直ちに退避を!」
「生存者を見つけ出せ。それと副長、お前も医務室へ行け!」
「了解!」
すぐさま艦橋に救急班が駆けつけ、副長以下生存者を担架に乗せて医務室へと搬送した。幸いマックは擦り傷程度で軽い応急処置だけですぐさま艦橋を駆け下りると階下の戦闘指揮所に駆け込んだ。
「りょ、旅団長、ご無事でしたか!」
その場にいた全員がマックの姿を見て安堵のため息をついた。それを聞く暇もなく、マックは指揮所にある机に表示されている地図を睨み付ける。
「兵装の被害は?」
「艦橋の対空砲がやられましたが、その他はすべて良好です。現在操艦は第2艦橋から行っています」
「『ジャッカル』は?」
「先ほど銃撃を行っている隙に1機は破壊しましたが、最後の1機が地中に潜ってロストしました」
マックはそこまで聞くと顔を上げ、モニターに映し出された外の様子を睨み付けた。
「被害は軽微だ。作戦を続行する! 全周への警戒を厳にし、このまま突っ込む!」
まだ、ファーストアタックも貰っただけ。
『フリューゲ』はまだ本気で戦ってもいないのだ。
「南門を吹き飛ばせ」
マックの怒りに満ちた言葉が、戦闘指揮所に響いた。
作者「どうも、作者のハモニカです」
道男「いきなりだが、こんな調子で大丈夫なのか?」
作者「まあ、大丈夫なんじゃね? って感じです」
道男「軽いな……。しかし、まさか『グランドフリューゲ』が初っ端にこんなことになっていたとは……」
作者「ああ、道男さんは出撃しちゃってましたから、気づかなかったですよね。大丈夫です。どんなに攻撃を受けても、WB並みに頑張りますから」
道男「おい、それかなりのネタバレだぞ」
作者「ほえ? 気にしたら負けです。きっと分かっていない方も多いはずです。別に戦艦並みの武装を持つ輸送艦じゃありませんし、大気圏だって突破できませんし、人型機動兵器だって運用できませんし、ニート志望の主人公なんて出てきませんから」
道男「はい、今ので理解した奴、手ぇ上げてみろ」
作者「勝手に読者さんを巻き込まないでください。それはともかくとして、ストックした3話を何とか投稿することが出来ました。今日はこれで勘弁してください。ルトラッシュ、僕もう疲れたよ」
道男「俺なのか、フラッシュなのかどっちかはっきりさせろ」
作者「どっちでもありませんからね?」
道男「フランスの貨幣12枚の方か」
作者「今作らないでください、今。合ってそうですけど駄目です」
道男「分かったよ。ほら、それじゃ感謝を述べてしめるとしようじゃないか」
作者「いつもこれくらい平和だったら良いんですけどねえ」
道男「なんだ、また血が見たいのか」
作者「やめてください! いい加減にしないと、レイかジゼルさん呼びますよ!?」
道男「ちょ、おま、婆だけはやめろ!!」
作者「予定より早いですが、道男さんの公開処刑を近いうちに決行したいと思います!」
道男「やめろおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
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