第二話 傭兵旅団『フリューゲ』
説明回、かな?
戦闘描写の難しさを痛感しています。
戦闘ないと話が短くなってしまいました。
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ルートたちの本部であり、帰る家でもある、巨大な構造物が都市の外に止まっている。
傭兵旅団『フリューゲ』は世界を旅する。旅団とは部隊の規模よりも旅をする、という意味合いのほうが濃い。
『フリューゲ』は常に動き回っている。傭兵という稼業は、必要に迫られて行うが、基本は『大崩壊』で親を失ったり、家を失って、生きる希望を見いだせていなかった人々に衣食住を提供する医療救済が目的である。
被害が少なかった都市などへ送り届け、新たな生活をするも良し、旅団で新たな人生を送るも良し。
しかし、彼らを養うのにも、自分たちが生きていくためにも、金は必要不可欠だ。旅団も慈善事業をやれるほど潤っているわけではない。彼らの財産は彼らの旗艦『グランドフリューゲ』のみである。
この地上を往く巨大な戦艦に旅団のすべてが入っているのだ。
自らを守るためにも、旅団の仲間は戦闘訓練を積んでいる。
そして、生きるために自らの能力を金で売る、つまりは傭兵稼業ということになる。
都市から要請があれば交渉し、契約という形で一時的に都市が旅団を雇う。
そんなことを繰り返しているうちに、『フリューゲ』は戦災救護よりも傭兵として知れ渡ってしまっている。実際に接してみれば誤解も解けるだろうが、少なくとも噂が1人歩きしていることは事実だ。
今回のビル立て籠もり事件も、犯人がビルに立て籠ってから出動要請が出た。事件は武装グループが大挙して都市の銀行を襲うというところから始まっていたのだが、当初は都市警察のみが対応にあたっていた。
しかし、犯人たちの重装備に歯が立たず、軍が出張ろうにも時間がかかる。結果、偶然立ち寄っていた旅団に白羽の矢が立ったというわけだ。
結局、武装グループのほとんどが死亡、生きているのはおそらく仲間を『お迎え』に来たヘリのパイロットぐらいなのではないだろうか。少なくとも地上に生存者はいない。
そのヘリも、都市を出た後すぐにどこかに飛び去ったのだろうか、軍が出張ってきたころにはレーダーからも消えていた。旅団のヘリは動こうにも下に警察がいたのでは撃てないということで下手に追わなかったため、結局背後関係などはさっぱり、ということになってしまっている。
「まあ、今回の件に関して言えば、私たちの責任だ」
本部に帰還して早々、旅団長に呼び出された。
旅団長といっても、それほど雲の上の人というわけではない。正規の軍じゃあるまいし、上下関係はせいぜい年齢程度。あとは一回共に戦い飯を食えばどうとでもなる。
もともと戦災救護が目的だったのだ。旅団の古株にはその第一線で活躍していた人が多くいる。
悲惨な現実を目の当たりにして来た彼らにとって、階級など邪魔。頼れる仲間がいれば十分なのだ。
だからこそ、若くして隊長になったルートにも、反対するものはいなかった。実力良し、仲間内での評判も良いルートなら、部隊をまとめ上げてくれるだろうという信頼の元だ。
話が逸れたが、今、ルートは旅団長の執務室にいる。『グランドフリューゲ』の中枢である管制塔、艦橋、中央指揮室のそれぞれに徒歩1分かからない場所にある、質素な部屋だ。
万年ジリ貧である旅団にはあまり贅沢できる余裕はない。
「中途半端な情報を鵜呑みにしてしまったからな。その上、犯人の特定ができなかったといって、報酬を減らすと言ってきている。われわれをなんだと思っているんだか……」
目の前にいる旅団長マックが小さくため息をついた。
本来、指揮官がそういうことをすると士気が落ちるからご法度なのだが、事情を知っているルートはむしろ同情の眼差しを送っていた。
「傭兵はどんなご時世でも忌み嫌われる存在さ。それよりも、用があるからわざわざ帰還直後に呼び出したんだろう」
「まあ、そうなんだがなあ……。愚痴を言っていても仕方ないか」
ちなみに、マックの執務室の壁はどうやって集めたのかも分からない数の本と、武器が所狭しと言わんばかりに並べられている。
本は、戦災救護と並行して世界の文化を後世に言い伝えるため、武器はマックの趣味、だとしか言いようがない。
マック自身、デスクワーク派ではなく、現場至上な人間なのだが、先代の旅団長から旅団を任されて以降は一線を退いている。
おかげで視力は落ち、がっしりとしていた身体も心なしか太ってしまった感が否めない。本人も気にしているらしく、よくトレーニングルームで彼の姿を最近見かけるようになった。
「ふう、それじゃあ仕事の話に戻ろうか」
眼鏡を少し上げ、手元の書類をルートに渡す。
「今回の事件の犯人なんだが、どうやら数都市に渡って広く基盤を持つ犯罪組織の下請け組織が行ったこと、という情報をうちの情報部が入手した」
「仲間を平気で殺す組織がよく長持ちするもんだ」
「そうやって臆病者を排除すれば、残るのは優秀な人材だけだ。殺すことを本業としている奴らとしては弱い仲間も獲物なのかもしれんな」
「わからん」
書類にはかなり引き伸ばされた写真が添付されている。画素数が荒く、顔の輪郭がわかる程度である。それでも何とか真ん中の人物は顔がわかる。
写真に写っている人物にはそれぞれ名前が書かれている。
何かの集会の様子なのか、物々しい装備をした男たちに囲まれてスーツを着た男が写っている。
その男に赤いペンで丸が付けられている。
「マガスという男だ。殺し、麻薬、人身販売、運び、なんでもござれな万能人間だ。悪い意味でな」
「こいつが今回の裏?」
マックが「ああ」と頷く。
「今回の事件はこの男の傘下の組織が行った、、まあ資金集めだろうな。裏で流れたアンドロイドを大量に購入したり、最近きな臭いと思っていたところだったんだ。」
「へえ、……うん?」
ルートが写真を眺めているとふと、ある男が目に留まった。
「こいつぁ、確か……」
「気が付いたか」
マガスが写真の中で話している相手、右目を眼帯で隠した屈強な男。
「”クレイジー”ボヘミアン。本名もわからん、文字通り謎な男だ」
「確か人類至上主義者のテログループのボスだったな。なんでこいつが……」
『大崩壊』終結後、大半の人間は機械人との共生を受け入れた。
しかし、少なからず彼らを憎む者もいる。彼はその第一人者のような存在だ。
彼は機械人を憎み、大規模なテロでもって彼らを殺している。都市間でもデッドオアアライブに指定されている凶悪犯だ。
「こいつが関わってくるとなると、話がでかくなる。この2人で共闘して機械人を根絶やしにでもしようってのか?」
「分からん。現在調査中だ。少なくとも今回の件で彼らの資金集めは妨害できたがな。おかげでマガスに目をつけられたことは間違いないだろうが……」
「仕事に支障が出るな」
「ああ、だから困っているんだ」
こういうことは初めてではない。最後にもならないだろう。
世界を渡り歩いていれば、どこで恨みを買っていてもおかしくない。そういう輩に襲われたことも1回や2回ではない。
しかし、そういう場合、すべての業務が滞ってしまう。この艦を襲われることはそうそうないが、ここには多数の戦争孤児や家を失った人々が保護されている。故に被害は自分たちでは済まされない。全力で敵対勢力を根絶やしにする。短い期間で済めばいいのだが、巨大な組織を相手にすると、都市にとどまることもままならない。
結果、非常に生活が苦しくなるのだ。
やらないで済むならそれに越したことはないのだが。
「そういう訳だから、マガスと敵対する事態が起こるかもしれない。旅団を束ねるものとしてそういうことには極力ならないよう努力するしかないが、最悪、長期にわたって仕事が出来なくなることも覚悟しておいてくれ」
「分かった」
「それはそうと、レイたちの容体はどうだ。手荒い歓迎を受けたと聞いたが……」
そうマックが聞いた途端、ルートの表情が曇ったのをマックは見逃さなかった。
事実、レイは右腕損耗、さらに衝撃波でいくつかの駆動系が死んでいたため、調整されに行っている。
だが、すぐには直らないという報告を受けている。
屋上からアーチとフランクの2人を当てにして紐無しバンジーして軽いむち打ちになった馬鹿5人はともかくとして、突入していたルートたちは少なからず負傷している。
ルートも浅いが裂傷が何か所かある。
PPPPPPP
「うん? 失礼」
マックの執務机に取り付けられている端末が明滅している。どこかから連絡が入ったようだ。
「………………、ルート、あまりよくない知らせだ。君の部隊のメイスン、アレックスは全治2週間、ジェイスは1か月だ」
「やらかしました……」
「うむ。君の隊は旅団でも屈指の部隊なのだが、それが形無しだ」
旅団にはルートたちのような実動部隊が10個ある。
401から始まり410まであり、この部隊が直接的な旅団の戦闘力だ。
数が若いほど戦力としては大きいことを表しているが、401、マック隷下の部隊は少なくともルートが入隊した時から一度も動いたことがないため、どれほどの力があるのかもわからない。というより、隊員すら分からない。実は幽霊部隊なんじゃないのか、とかいろいろな噂が飛び交っていることも事実だ。
「というわけで、君の部隊は開店休業になるが致し方ない。久々の休暇だと思ってもらって結構だ」
「はっ」
敬礼して、退出する。
傭兵稼業に開店も閉店もないのだが、まだ部屋にも戻っていない。
とりあえず一眠りしたい、というのがルートの率直な欲求だ。
誤字脱字あればお願いいたします。
感想をもらえると作者の機嫌がよくなるだけですがありがたいです。
登場人物紹介とかしたほうがいいのでしょうか……?