第三十四話 舞台は整う
大学のプレゼンの用意で忙しくなるので、今日、6月14日から更新が遅れることが予想されます。
読んでくださっている方にはまことに申し訳ないのですが、次回は少しお待ちください。
更新できない間にストックを作っておきたいとも思いますので。
「ボス、レーダーがこちらに接近する大型艦を捉えました」
『デルジャナ』中央部にある巨大なドーム、その地下にある薄暗い部屋の中に、機械的な声が聞こえ、暗闇で影が動いた。
「おそらく、先刻来た『血の盟約』の生き残りが言っていた通り、『フリューゲ』が来たのだろうな。時間的に頃合いのようだ、全核弾頭の準備はどうなっている?」
「全体の39パーセントが目標設定を完了しました。いかんせん数が多いのでAIが処理に追われています」
「想定内だ。『フリューゲ』がここに来るまで撃ち上げることは無理だな……、都市内部に『ジャッカル改』を放ち、対空、対地ミサイルを展開しろ」
「了解」
部屋には数人の男がいる。その全ての男が頭にヘルメットのような物を装着し、目を覆うほどにしてかぶっている。そして、その手は何かの操縦桿のような物を握っており、それぞれの座っている席の前には青空が映るモニターが設置されている。そのモニターの中を赤い点が目まぐるしく動き回り、空を監視している。
「『ニースローグ』の動きは?」
「先刻、SM‐01との交信が途絶えました。最後の送信により、『ニースローグ』の軍がこちらに動き出そうとしていることは確実です」
「あの都市にも切れ者がいたようだな。予想到着時間は」
「現刻よりおよそ6時間です」
そこまで聞いて、マガスは考え込むように顔を俯けて、顎を手で撫でる。
「それまでにどれだけ設定が終わる」
「妨害が無ければ89パーセントが終わる予定です」
「ギリギリだな。『グラディオン』は使えるな?」
「いつでも。ですが、使用すれば外部にいる『ジャッカル改』はもとより、防衛兵器も多大な被害を受け、実質都市地表は制圧されます」
「ドーム内の兵器が無事なら問題ない。タイミングは私が指示するから、常に回線を開けておけ」
マガスは薄暗い部屋で独り言のように話している。その場にいる機械人は誰一人口を開いていない。にも関わらず、どこからともなく声がマガスの問いに次々と答え、指示に従っていく。
「反乱軍の配置が完了しましたが、彼らにこの事は伝えますか?」
「ふうむ、指揮官はCM-09だったな。奴だけに伝えろ。所詮、反乱軍も人間だ、我々の粛清対象に当たる。防衛に関しては貴様の好きにして構わんから、問題があれば私に連絡しろ」
マガスが話している相手は、この都市『デルジャナ』の中枢を担うAIである。15年前の戦争で大きく損壊したが、15年の年月をかけて完全なまでに修復されたもので、機械化された全ての都市機能、防衛兵器の統率を引き受けている。後付けで設置したミサイル群や対空砲群はAIとは独立しているためにこの部屋の機械人たちが操作するわけなのだが、それ以外の兵器、特に『ジャッカル改』に関しては情報処理などの全ての作業を『ジャッカル改』のAIから情報を受け取り、処理して、それを返すという、いわば母機の役目を果たしている。
そのため、本来独立して動き回る『ジャッカル改』は統率された動きをして、いわば人間らしく動き回ることが出来るようになるのだ。連携など考えることもないほどのAIが母機によって歴戦の部隊として作り直されたようなものだ。
「南から来るな……、反乱軍は南門を守らせろ。東西の門はそれぞれ『ジャッカル改』4機ずつ、私の配下の戦車を防衛に回せ。FMシリーズは敵艦への攻撃を第一優先とし、『ジャッカル改』は敵の戦車隊とヘリを狙え」
最も大きいモニターには『デルジャナ』の地図が映し出されている。それと連動している巨大な平面図が机の上のモニターに映し出されており、それに手を触れてマガスは使用可能な戦力を次々と各防衛拠点に割り振っていく。北部にある飛行場には無数の航空機のマークが映し出されており、それがゆっくりと滑走路に移動していく様子が映し出され、ドームからは『ジャッカル改』のシルエットが四方に散らばっていく様子が手に取るように分かる。
南門付近には、膨大な数の戦車とヘリが配備されているが、それは指揮官を除きすべて人間、それを示すかのように反乱軍のみ色違いで表示されている。
「『フリューゲ』、来るがいい。『血の盟約』は見事に打ち破ったようだが、私はそうはいかんぞ。全ての人間をこの世から排斥するまでは、死ぬつもりはないのだよ」
「それも持っていくの、か……?」
格納庫の一角、401部隊が必要な物をリストアップしてそこに集めているのだが、それを見てマックが頬を引きつらせている。
それもそのはずで、ルートがリストアップしたものの中には、対戦車ミサイルや重機関銃はもとより、旅団でまだ研究段階のはずのレールガンすら持ち出していたのだ。重量30キロを超え、持って走ることすらままならないほどの大きさのものなのだが、ラーキンが持ってきたようだ。
「レイに使ってもらうことにしてます。『ジャッカル』が出てきたら通常の兵器では倒せないですから」
「それは、そうだが、電源はどうするつもりだ」
「レイの主電源からもらおうと思っています。というより、ラーキンたちでも反動で吹き飛びかねないので」
平然と言ってのけるルートにため息をつきながらマックは頭をかく。
確かにマックは必要な物なら何でも使えと言ったが、実射試験も行っていない武器を持ち出されてはたまらない。
「はあ、一応言っておくが、安全性は保障されてないぞ? 弾だってそこにある30発だけで、弾切れを起こせばお荷物になるだけだぞ」
「捨てていきます」
想像はできていたのだろうが、できれば聞きたくなかった台詞にマックは項垂れる。旅団内で武器を開発したり、改良するのには金がかかる。特にこのレールガンに関しては、その貫徹力から次期主力兵器としての採用を検討しているもので、そのプロトタイプを捨てられるとマックとしてはかなり懐が痛いのだ。
「……言っても聞くお前じゃあないよな……」
「何を今さら言っているんですか、『お父さん』?」
ニヤリと笑みを浮かべるルートに、これ以上何を言っても無駄だと判断してこの件については話を終わらせることにした。
「さっきジゼルから連絡があった。『ニースローグ』大統領は機械人、おまけにマガスの手下だった。ジゼルがそれを制圧、すでにこちらに向けて飛び立ったそうだ」
「速いですね、昨日の今日でしょう?」
「ジゼルはやると決めたらすぐに動くタイプだからな。ちんたらしていて先手を打たれては目も当てられないからな。お前の時もそうだっただろう?」
「…………言わんでください」
ばつの悪そうな顔をしてルートが目を背ける。
このままルートを弄り倒してやりたかったマックであったが作戦前にそれをやるわけにもいかないので、ほどほどにしておき、ここにいない残りの仲間のことに話題を変える。フラッシュが医務室で検査を受けていることは知っているのだが、残りの面子がここにいないのでふと聞いてみたのだ。
「ああ、レイは旅団長に言われて装備の換装しにいってるし、残りの3人は、……ああ、あそこだ」
ルートは格納庫を見渡すと3人を見つけ出して指差した。
見るとラーキンとフィリップを相手にカンナが格闘の練習をしている。大男2人に囲まれて、どう見ても犯罪現場にしか見えないような光景なのだが、カンナの無双っぷりを見ればそんな考えも霧散してしまう。
ゴム製のナイフを手に大立ち回りをするカンナは、殴りかかってくるラーキンの腕を最小限の動きで回避するとその腕にそってラーキンに急接近、その腹目掛けてナイフを突き立て、そのまま動きを止めずにラーキンをフィリップ目掛けて投げ飛ばした。フィリップといえども、同じくらいの図体のラーキンを受け止めては耐えきれずにラーキンの下敷きになって格納庫の床に叩き付けられて苦悶の表情を浮かべる。
と、同時に外野から拍手やら野次が飛ぶ。
「作戦前だってのに、何をやってるんだか……」
「良いじゃないですか。あの3人はなんだかんだで仲が良いんですから。格納庫の連中にもいいストレス発散になってるんじゃないですか?」
「それは、まあそうなんだろうが……、傍から冷静に見てるとあの2人が残念でならないのは俺だけか?」
投げ飛ばされて重なり合って倒れる2人を見ていると、マックにはどう見ても、コントか何かに見えてしまうのだ。しかも投げた本人はすました表情をしているのだから、何の冗談だと疑いたくなる。
「出発までまだ時間があるし、フラッシュとレイの戻りも遅いし、やることがないですしね」
「これで仕事がしっかりできていなければ文句の言いどころが山ほどあるんだがなあ……と、通信か」
マックの通信機が着信音を響かせ、マックは手早くポケットから取り出すと耳に当てた。
「何事だ」
『目標都市で動きがありました。上空に航空機多数、都市全体の熱源が倍増しました。おそらく敵が戦力を配置し始めたものかと思われます』
「動いたか。こちらを全力で叩き潰すつもりだろうな。警戒を厳にして何かあったらすぐに知らせろ」
『了解』
「動き出したようだな」
マックがポケットに通信機をしまうと、ルートは銃を手に持ったまま立ち上がった。
「ああ、潜入などと生易しいものではない。強行突入することになりそうだ」
「まあ、2度も同じ手が通じるとは期待していなかったがな」
「後でレイとフラッシュを連れて俺の部屋に来てくれ。話したいことがあるのでな。今は13時か……、出発は14時を予定しているから、それまでに来てくれ」
「了解」
ではな、と言い残してマックは格納庫から出て行った。それを見送り、ルートは通信機を取り出してレイとフラッシュに連絡を取り始めた。
「まずいわね……」
『ニースローグ』都市軍の総司令官、ジゼルはたった今聞いた情報に唇を噛む。その顔には焦燥の色が窺える。
「どうしたんですか」
ここは『ニースローグ』都市軍が所有する大型の輸送機の中だ。格納庫は2列に戦車が格納できるほどの広さを持ち、現に今もこの機体の中には4台の戦車が積み込まれている。
ジゼルは機体のコックピット、副操縦士席に座って送られてきた情報に目を通していた。
後ろにいたフェイナが顔を出すと、ジゼルは後ろを振り向いて、1枚の紙をフェイナに手渡した。
「たった今、私の『支店』のある都市から来た連絡よ。『デルジャナ』周辺の都市から無数のゲリラが『デルジャナ』目指して移動し始めたそうよ。おそらく、マガスが分散させていた戦力を再集合させているのよ。このままだと、旅団が背後から攻撃を受けるわ」
そう言うと、フェイナの顔が豹変する。あわてた様子でその紙を食い入るように読み始め、その様子を見ながらジゼルは話を続けた。
「各地で同じような動きが相次いでいるわ。けれども、それは私とマックが要請を出した都市ではないわ。どこもかしこも裏でマガスと繋がっていた都市のようね」
「総勢、12万……」
「概算よ。それも、これから増えることが予想されるわ。彼らが合流したら、私たちがたどり着いたとしても勝てる見込みは大きく下がるわ。機長、高度を上げて加速なさい」
「了解しました」
機長の男はそう言うとすかさず重い操縦桿をゆっくりと引いて機首を引き上げる。徐々に高度が上がり、雲を突き抜けるとスロットルをさらに押し込む。エンジンの音がより鮮明に聞こえるようになり、加速したことを実感することが出来る。
「私たちが出発したことで、すでにマックは動き始めているわ。前にだけ集中していたら、背中を刺されるわ」
「そんな、急がないと!」
食いつくフェイナを落ち着かせつつ、ジゼルは話を続ける。
今、この機体には4台の戦車、そして燃料を抑えるために牽引している戦闘機が2機ある。総勢20機の輸送部隊のそれぞれが似たような状況のため、これ以上はなかなか速度を上げられない。
「それじゃあ、どうすれば……」
「そこで、1つ聞きたいことがあるのよ、フェイナ」
ジゼルはフェイナの前で人差し指を顔の前で立てて笑みを浮かべた。
「戦闘機、飛ばせる?」
脚注を幾つか……
SM……スパイマシナリー Spy Machinery
CM……コマンダーマシナリー Commander Machinery
FM……ファイターマシナリー Fighter Machinery
の略ということになっております。
ルビにしにくかったのでこちらに書いておくことにしておきます。
意味は何となく分かりますよね?
ほぼ確実に分かりますよね?
まあ、今後もたまにこの単語が出てくるとかと思うのですが、その際にラジオだとか誤解を招かないようにと思いまして……。
それはともかくとして、前書きでも書きましたが、一身上の都合で2日に1回か連日の更新だったのですが、少し遅くなります。
まあ、1週間も空かないとは思うのですが、一応お知らせしておきます。
誤字脱字、感想、ご意見などお待ちしております。