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第三十二話 カーチェイス






小さな都市の郊外と中央部を隔てる外壁、そこにある都市唯一の出入り口に物々しい恰好をした男たちが都市の中を見据えて立っている。そのあまりの圧迫感に出入りを監視する都市の監査官や警備の兵士は近寄ることもできずにその様子を見守るしかなかった。

彼らにしても、戦車と装甲車を引き連れたこの男たちが現在は都市に修理を要請している、いわば客なのだということは知っている。

だから出入り口を半ば封鎖するような行動にも、表だって警告することができない。ただの客ならばともかく、彼らは世界屈指の傭兵組織なのだ。いかに辺境とはいえ、その名前ぐらいは軍や政府に仕える者なら知っている。


「都市が騒々しいな」

「最後の通信では、『尾行されている』とのことでしたけど」


ルートたちが接敵したとの知らせを受けた旅団は、すぐさま戦車と装甲車に出動要請を出し、マック自らも装甲車に乗り込み都市まで出向いている。

何事もなければ、マックはジゼルの手の者がいる店に行って情報収集をしようと考えていたのだが、これではとてもじゃないが出来るとは思えない。ルートたちから知らせを受けた直後、修理の名目で艦に乗り込んでいた都市の人間を有無を言わせず艦から追い出し、艦はすでに臨戦態勢に入っている。

懸念していた通り、この都市はマガスと繋がっていたようだ。


「さすがに戦車を連れて都市に押し入るわけにもいかんからな。ここで待機するしかないんだが……」

「まあ、ルートさんたちが簡単に死ぬとは思えませんけど」


装甲車の上部ハッチから上半身を出し、車載の巨大なグレネード発射筒の引き金に手をかけているカンナは都市の中を睨み付けながら言った。


「あの音を聞け、重火器の発砲音だ。街中でそんなものをバカスカ撃つような奴にろくな奴はいないんだ。大事に至っていなければいいんだがな」

「そんなに心配ならバイクかジープを持って来れば良かったですね」

「人手が足りんのだ。都市の人間を追いだしたから修理にも人を回さなければならんし、食糧や弾薬の補充に人を出していて、その積み込みも大急ぎでやってるわけだから、動ける人間があまり多くないのだ。お前たちを引っ張ってきたのは401部隊に選出されて、他の任務から外れていたからだ」


後ろを振り向き、戦車の前で一服しているフィリップとラーキンに目を向ける。2人が慌ててタバコを地面に落としてもみ消すのを見て、マックは苦笑する。

戦闘態勢の時に一服するとは、いい度胸だ、とマックは内心で思ったが、それよりも大事な事が起きているのであえて何も言わないことにした。


「音が近づいてきているな……。フィリップ、ラーキン、持ち場に付け」

「「了解」」


2人が装甲車の陰に身を隠し、銃を都市の中に向ける。

それに気が付いた警備の兵士たちが慌ててそれを止めに来る。


「ちょ、何をしているんですか!? 今すぐ銃を下しなさい!!」

「拒否する。我々はこれより起こる戦闘に対する防御を行っているだけだ。貴様たちに危害を加えるつもりはない。それでも止めると言うなら、ここにいる全員を相手にしてもらうことになるが?」


駆け寄ってきた、まだ青年と言っても過言ではない若い兵士に向けてどすの効いた低い声で言い、思い切り睨み付けると、兵士は完全に尻込みしてしまったらしく走って出入り口横にある詰所に走っていき、同僚を連れて都市の中にへと消えていった。そのただならぬ様子に監査官も逃げ出し、出入り口はマックたちを除いて無人になってしまった。

それを見てマックは呆れてため息をついた。


「なんだ、腰抜けどもめ。まあ、あの様子じゃあいつらはマガス繋がりじゃなさそうだが」

「腰抜けは生き残る、とも言います」

「蛮勇は早死にする、とも言うな」


もっともだ、とマックは無言で頷く。

あの兵士たちはそんなことを考えてもいなかっただろうが、それが結果的に彼らの生存に繋がったであろうことは疑う余地もない。


マックは戦車の砲塔上部ハッチに滑り込み、上半身だけを外にさらす。ハッチ横に置いておいた無線、耳当て、バイザーが一体化したヘルメットをかぶると、バイザーを下す。視界が暗くなり、強い光にも耐えられるようになったマックは車内に弾込めを伝えて都市の通りを見据える。


すでに都市内でも事態に気が付いた市民が建物内部に避難を始めている。通りには誰もおらず、心置きなく戦えると、マックは内心でニヤリと微笑む。













「路地抜けるぞ! フラッシュ、準備は良いか!?」

「いつでも!」


細い路地の先が開けている。大きな通りに戻ってきたのだ。

ジープが路地を抜けると同時にレイはハンドルを切って素早く方向転換し、頭に叩き込んだ地図を頼りに出口を目指すべく速度を上げる。

後続のジープが路地から飛び出してきたところをルートが狙い撃ち、重機関銃をばら撒いていた男にその1発が命中し、男が車上でのけ反りながら倒れ込んだ。

そして、問題の2台目のジープが姿を現した。ハッチから上半身を出している男の手にはロケット弾が握られており、すでに照準器を通してこちらを狙っていた。


「出口はあとどのくらいだ!?」

「5分もかからん! 曲がりが多いから揺れるぞ!」


再び思い切りハンドルが切られ、車体が遠心力で大きく傾き、外側にルートの身体が押しやられる。曲がったためにロケット弾の照準から逃れ、直線道路で距離を取ろうとレイが最大までアクセルを踏み込む。


「直線が続く、ここで撃ってくるぞ!」

「ルート、タイミングは合わせるよ!」


腕だけ窓から出し、照明弾を握るフラッシュは風を切る音とエンジン音に負けないくらいの大声で言った。

1台目のジープは、重機関銃を撃つ男は死んだが、助手席の男が窓から半身を乗り出してマシンガンを乱射してくる。身を伏せながらも反撃し、敵がマガジンを交換している隙などを見ては顔を出して発砲する。


と、1台目の運転席の男が助手席の男が助手席の男に何かを叫ぶ仕草をすると、ハンドルが切られて大きな通りでルートたちの乗るジープの真後ろから斜め後ろへと位置を変える。そして開いたスペースに2台目のジープが入り込み、その後ろに黒塗りの車が続く。


「撃ってくるぞ、フラッシュ、行くぞ!」

「いいよ!」


ロケット弾の砲身がこちらに向けられ、それを持つ男の口元が歪む。

そして、引き金が引かれ、細い対戦車ミサイルが砲身から解き放たれ、高速でルートたちめがけて飛んでくる。


「今だ!」


ルートが合図すると同時にフラッシュが窓から後方に向けて照明弾を放つ。放たれた照明弾は赤外線誘導のミサイルとジープの間に入り込み、ミサイルのロックを照明弾に強引に変更させる。そして照明弾が地面に向けて落ちると、ミサイルもその後を追うように地面に着弾、大爆発を起こしてコンクリートを砕く。2台目のジープは砕けて到底走ることのできなくなった道路に飛び込み、瓦礫でバランスを崩すと回転しながら地面に叩き付けられ、逆さまになったまま勢いで地面を滑り、路肩に止まっていた車に激突した。後続の黒塗りの車はそれを間一髪のところで避け、1台目のジープと共に追撃を続ける。


「後少しだ! ここを曲がれば出口まで一直線だ!」


大きく左にハンドルを切り、ジープが曲がると、突き当りに入って来た時と変わらない出入り口が姿を現した。そしてその先には見慣れた車両が2台、こちらに正面を向けて止まっている。それを見てルートが笑みを浮かべる。


「旅団長、随分と連れてきたな」


運転席のレイも、感心したように言い、それまで後ろを向いて応射していたフラッシュも前に振り向くと、口笛を吹いた。


「戦車と装甲車の間を突っ切るぞ!」


そうレイが言った瞬間、戦車の砲口が火を噴いた。シュッと言う飛翔音が前から横、後ろへと過ぎていき、ジープのボンネットを直撃、ボンネットが吹き飛んで車体が宙を舞う。落ちてくるジープを黒塗りの車が巧みに避けるが、これ以上の追撃は無理だと判断したのか急ブレーキをかけて引き返そうとするが、それよりも速く装甲車の脇から放たれた無数の銃弾がエンジンを穿って動きを止めると、そこに向かって装甲車からグレネードが放たれ、黒塗りの車のフロントガラスを貫通して内部で爆発、血潮が窓を染めるよりも速く車が爆散して破片が空高く舞い上がり、天井部が紙のようにヒラヒラと空を舞うと地面に叩き落とされた。


「お見事」


ジープからその様子を見ていたルートはそう呟き、ジープの速度が落ちてきたことに気が付いた。振り向くとレイはジープを装甲車の脇に停車させようとしていて、そこには見慣れた顔ぶれが集まっていた。


「おいおい、修理代は誰が出すんだ?」


戦車から飛び降りてきたマックはジープの惨状を目の当たりにして天を仰いだ。


「ご無事で何よりです、3人とも」


ラーキンが銃を下して後部のドアを開けようとするが、銃弾で開閉機構がいかれたのか軋む音だけでなかなか開かない。業を煮やしたラーキンがドアを文字通り引きちぎると、マックの表情も引き裂かれんばかりに歪んだ。


「なんだ、401部隊の面子で来たのか」


車を降りて、ラーキンの後ろにいるフィリップ、装甲車から降りてきたカンナを見てルートは言った。


「動ける奴がこいつらしかいなかったんでな。とにかくこの都市を出るぞ」

「政府はマガスに繋がってる。入った店の店員が教えてくれたよ」


そうレイが言うと、マックが意外そうな顔をする。

そしてポケットから1枚の紙を取り出すと、それをルートたちに見せた。

マックの文字で短い単語が書かれているだけだったが、それを見て3人はそれの意味を理解した。


「そう、その店だ」

「やはりか、ジゼルの『支店』でな。俺も行こうとしていたんだが、行く手間が省けたな」

「これは、『お土産』だ」


ルートは店員の女性から受け取った袋をマックに手渡した。中身はほとんど戦闘で使ってしまったが、袋の一番底に小さなディスクが入れられており、それを取り出してマックはニヤリとした。


「マガスの現在想定される戦力が入ってるんだ。これで作戦が立てられる」


ディスクをポケットにしまうと、マックは戦車に戻り運転席付近の装甲を強く叩く。それを合図に戦車がエンジンをかけ、黒い排気ガスが後方に吐き出される。


「では、戻りましょうか。短い休暇、楽しめましたか?」


おそらく、カンナに悪気、皮肉など毛頭もなかったのだろう。

だが、それを聞いた3人は物凄くいい笑顔でカンナに振り向いた。












「「「仕事だ」」」












仕事中毒者ワーカホリックは休養を望む。






いよいよ、最終決戦の地へ、行こうとしているのに3人の新たな事実が発覚!!


そう、彼らは仕事中毒者だったのだ!!






どうでもいいですよねえ~。


それはともかくとして、こんな作品ではありますが、初めて評価いただきました。しかも両方5ptも頂けるなんて、感謝の極みであります。


本当にありがとうございます。


これからも精一杯書いていこうと思っていますので、よろしくお願いします。


何しろ、作者は打たれ弱いというか、メンタルが弱いというか、弄られると簡単にへこんでしまうので、いろいろ評価とかってビクビクしてるんですよね。


だから、とてもうれしいです。


ルートたちをハッピーエンドに導けるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。


感想などお待ちしております。

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