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第二十八話 ジャック・マガスという"個"


登場人物紹介にジゼルを加えておきました。


少しですが、よろしければどうぞ。


後書きでちょっとしたお願い。


お願いでもないですけど……。




「よお」


ルートの部屋に入っての最初の台詞はそんなものだった。

ここは『グランドフリューゲ』内にある医務室だ。患者用のベッドが細長い部屋にずらりと並び、今は2日前の『血の盟約』との戦闘のおかげでそのベッドがほぼ埋まっている状態だ。ルートも戦闘後は1度ここの世話になったのだが、軽傷だったので昨日の夕方には医師の許可が出て普通に出歩いている。


しかし、『スカル』の回し蹴りを食らったフラッシュは折れてはいないが肋骨の何本かにヒビが入っていることが分かり、その治療も兼ねて出動待機を命じられ、今はルートの前にあるベッドで横になっている。


「ルートも瓦礫をたくさんぶつけられたのに、1日で出歩けるなんて……、差別だ」


どこかふて腐れたフラッシュが憎たらしげにルートを見つめる。

だが、ルートは鉄面皮の如き表情を崩さずに、ベッド脇の椅子に腰かけた。


「あんな大振りの蹴りをもらうお前が悪い」

「ルートなら避けられた?」

「おそらくな」


ここで中途半端な答えを言うと付け入られるので、あえて避けられると言い切る。今となっては確かめようのないことだが、フラッシュも反論する隙を与えられずに悔しそうに歯ぎしりする。


「はあ、それはともかく、調子はどうなんだ」


ルートが胸を指差して聞く。患者服を着ているが、その隙間からは包帯が覗いている。外傷はそこまで大きくないのだが、裂傷は長く伸びていて、ボディアーマーを脱いだらアーマーの裏生地は血で真っ赤に染まっていた。慌てた医師がフラッシュを医務室に担ぎ込むのを、ルートとレイは何も言わずに見送ったのをよく覚えている。


「大丈夫だよ。骨が直るのにはしばらくかかるだろうけど、『デルジャナ』に着くまでには銃ぐらい撃てるようになっておきたいな」

「頑張るこったな。お前も部隊を預かる身なんだからな」

「うう、ルートに言われると反論できない……」


がっくりと項垂れるフラッシュ、そしてそれを面白そうに見るルート。

しばらくニヤニヤしながらフラッシュを見ていたルートがふと何かを思い出したように人差し指を立てた。


「そう言えば、今朝フェイナが出動したらしいぞ」

「フェイナが? 『デルジャナ』へ!?」


いきなり「出動」と言われて、フラッシュの思考は目的地である『デルジャナ』に直結した。


「違う違う。なんでも『デルジャナ』の警備を任されてる都市の軍に出向して、いろいろ手伝うらしい。まあ、要は裏で何やかややらかすつもりなんだって。覚えてるかジゼル婆さん」

「ルート、あの人まだ婆さんていう歳じゃないよ……。ジゼルさんか、1回立ち寄った都市でマックが僕たちを引き合わせたよね」


しみじみと思い出に耽っているフラッシュをルートはジト目で見つめる。


「……どうしてそんなに気楽な表情をしていられるんだ?」

「なんでって……、ああそうか、ルートは確かジゼルさんを婆呼ばわりして2、3日ジゼルさんの訓練に付き合わされたんだっけか」

「あれは、地獄だ。15歳の子供にやらせるものじゃない」


今度はルートが項垂れる番だ。そしてフラッシュがその様子を面白そうに見つめ、さらにルートの心にダメージを与えようとする。


「なんだっけ、確かフル装備40キロの背嚢担いで100キロ行軍、だっけ」

「言うな!! 思い出させるな!!」


ぐおおっと頭を抱えてのた打ち回るルートをざまあみろという表情で見つめるフラッシュ。


「おまけに、終わったと思ったらジゼルさんに近接戦闘の指南も受けてたしね。おかげで今のルートがあるんじゃない?」

「やめろおおお!! あれは訓練という名の新兵いじめだ! あんの婆終始笑ってたんだぞ!?」

「愛ある拳ってやつ?」

「んなわけあるか!!」


「……何をしているんだ、ルート」

「へぶっ?!」


フラッシュに掴みかからんばかりの勢いだったルートの脳天に金属製の拳骨が降り注いできた。


「あれ、レイも僕に何か用?」


見れば頭を押さえてうずくまるルートの背後にレイが立っていた。その腕はルートに1発入れた高さで止まっているが、目はルートではなくしっかりとフラッシュに向けられている。


「様子を見に来たんだが、騒がしいから何かと思ったら……。ルート、怪我人相手に何をやっているんだ」

「つつつ、俺も一応怪我人なんだけど?」

「今朝も射撃場でお前を見たんだが、旅団うちの規定では怪我人は基本訓練も禁止のはずだが?」

「……すんませんでした」

「よろしい」


反論するのを諦めたルートは大人しく引き下がり、頭を下げる。


「で、こんな馬鹿に付き合っているみたいだから、フラッシュも調子はよさそうだな」

「ははは、一応言っておくけど、ルートは君の上司だよ?」

「場数が違う」

「くっ、15歳のくせに……ふごっ?!」


今度はまともに腹に拳が入った。


「一時的とはいえ、一児の父にそれはないと思うよ、ルート」

「事実だろう……あ、やめい! それはヤバい!!」


レイが真剣に拳を引いて強烈な正拳突きをお見舞いしようとしたのに気が付いてルートが大真面目に謝り始める。いかにルートと言えども、機械人の本気の1発を食らえば肋骨の2、3本は覚悟しなければならない。


「歯を食いしばるがいい」

「顔なのか!? いろいろヤバいからあああああ!!」


医務室にルートの声がこだました。















ルートがレイに手痛い一撃をお見舞いされている頃、『グランドフリューゲ』から遠く離れた場所、巨大な尖塔が立ち並ぶ都市に、無数の戦車が入っていく。本来、その都市を監視するべき、彼らは勝手知ったる都市の道を迷うことなく進み、中心にあるドーム状の建物の前で止まった。

戦車から1人の若い兵士が降りると、ドーム状の建物の入り口から内部に入ると、階段を上って内部の巨大な空間が見える場所に出る。

何かのスポーツを行う屋内競技場らしく、観客席がぐるりと競技場を囲むように配置されており、そこへ通じる通路を兵士は進む。そして長く窓のない通路を進むと、空間が広がり、観客席に兵士は出た。

そこからの景色を見て、兵士は息を呑んだ。


終末ハルマゲドン……」


並ぶは30基を優に超える移動式発射機。

1基につき2発の大陸間弾道弾を発射することができる発射機がそれだけ並んでいる様相は、異様としか表現できない。


「良い例えだが、若干違う」


不意に背後から声がして、兵士は振り返る。すると、そこにはマガスが手下を引き連れて立っていた。兵士はその気配の無さに驚いた。本当に何時からいたのかと思うほど気配を消していた。兵士も一部隊を率いる身、人の気配ぐらいは察することができるという自負はある。だが、マガスとその手下2人は、声をかけられるまでまったくいた事に気が付けなかった。

兵士はその異様性に怖気が走った。


「正しく言えば、これは神話に伝わる大洪水なのだ。全てを1度ゼロに戻し、再び世界を創造する。我々はそのいしずえとなるのだ」


段々になっている観客席をゆっくりとマガスが降りてくる。

兵士は我に返ってマガスに敬礼する。


「『ニースローグ』都市軍『デルジャナ』駐留軍以下2000名、あなたの指揮下に入りました!」

「見ない顔だな。会合の際はいなかったな?」

「はっ、あの時は会合場所の外の警備をまとめていました」

「あの時の隊長はどうした?」

「どこの世の中にでもいるんですよ、いざとなるとビビってしまう奴は」


兵士の口が吊り上る。

それが意味するのは、それまでの指揮官は殺されたということだ。そして若いこの男が指揮官になりあがったということ。それを理解するとマガスは少し残念そうな表情を浮かべた。そして何事かを手下の男に伝えると、手下の1人が観客席を後にしてどこかへ行った。

それを確認してマガスは男に向き直り、ニコリと笑みを浮かべる。だが、纏う空気はこれ以上にないほど緊張している。あまりの雰囲気に男は苦笑いをすることしかできなかった。


「そう、か。あの男は死んだか。ということは、彼に従っていた男たちも殺したのか?」

「え、あ、はい、抵抗する者は全員殺しました。今残っているのは、あなたに忠誠を誓っている猛者のみです」

「…………いかんなあ」


空気が凍りついた。

マガスはまだ笑みを浮かべている。だが、その目は獲物を前にした猛獣のものだった。男は近寄ってくるマガスに恐怖を抱き、後ずさりする。だが、マガスは男が後ずさりした分だけ前に出てくるので、距離は取れない。それどころか、観客席の最前列、フェンスにまで追い込まれ、結果的に逃げ場を失うことになった。


「私はあの男の能力を買っていたのだよ。後先考えずに戦うような素人は望んでいないのだよ。まったく余計な真似をしてくれた。彼が反抗するなら、我々で処理をしたものを……」


先ほど出ていった手下の男が戻ってきた。その背後には何かを運んできた同じような服装の男が4人現れ、運んできた直方体の箱をマガスの横に置いた。

マガスはその箱の天蓋を取り外すと、中を男に見せるように箱を持ち上げた。4人がかりで運んでいた物を、マガスは1人で持ち上げたのだ。それも初老の男が、だ。男は目を見開いてその光景を見た。


「そ、それは……」

「まだ造られて間もない、機械人の素体だよ。人工皮膚も取り付けられていないほどの、いわばまだ人形の状態のものだ」

「そんなものを、どうするつもり……」


男の質問に答えているかは分からない。マガスは明後日の方角を見ながら男以外の誰かに語りかけるように喋る。まるで、何か天から啓示でも受けているかのように手を広げ、ドームの天井を見つめている。


「世の中便利になったもんだ。今じゃ人工皮膚の代わりに生身の皮膚で覆っても防腐処理が行える」


手下が茫然とする男を素早く羽交い絞めにする。そして、1人の手下がナイフで手早く男の服を切り裂き、鍛え上げられた肉体が露わになり、男の表情が凍りつく。


「お、俺を殺せば軍は動かないぞ!」

「それは問題ない。死ぬのはお前だが、お前の皮を被ったこいつが指揮を引き継ぐ」


ニタリと嗤うと、マガスは男に向き直って虫でも見下すかのような目で男を見る。いや、マガスは男を男として見ていなかった。手下どもに動きを封じられた、ただの蟲。それがどうなろうと知ったことではないという、感情の無い目だった。


「貴様あ、貴様機械人か!!」


事ここに至り、男は事態の深刻さに気が付いた。別に男を求めていたわけではないのだ、マガスは。有能な指揮官ブレーンに率いられる1個の機械人形キリングマシーンを求めていたのだ。今、彼の前には腐った脳の指揮官がいる。ならば、それを直すのに1番手っ取り早いのは、指揮を機械人に執らせることだった。


「い、いったい何をしようというんだ!」

「だから言ったろう? 世界をゼロに戻し、我々の世界を創るのだ。徹底的に管理され、組織され、統率され、隔たり無く平等な世界、人間は我ら『始まりの機械人』の管理下に入るのだ!」

「貴様、『大崩落』を繰り返すつもりなのか! 双方にどれだけ死者が出たと思っているんだ! そんなことをしなくても、『血の盟約』の信念は達成できる! 機械人である貴様も、その対象だぞ!!」


男は手下の腕を振りほどこうと暴れるが、手下どもも機械人らしく、梃子でも動かない。むしろさらに締め付けが強くなり、男の骨がミシリと軋む。


「『血の盟約』など、もとより我々は仲間だなどと思ったことは1度もない。我々の計画では、『血の盟約』もその任務を終えた時点で粛清対象となる。どうも、ボヘミアンはそのことに薄々気が付いていたようだが。人間にしておくには勿体ない逸材だな、あれは」

「き、貴様ああああああ!!」

「もう、貴様という個は必要ない。我々に必要なのは貴様の外面、安心しろ、痛みは最初だけだ。死んでから手早く貴様の皮を剥いでやる」




マガスは人間のものとは違う、無機質な笑みを浮かべた。それは男だけでなく、人間すべてに向けられた嘲笑だったのかもしれない。

だが、男がそれに気が付く前に、男は心臓に深々とナイフを突き刺された。


「服を汚すなよ。皮膚もなるべく1枚のままで摘出するのだ」

「はっ」


観客席の一角で、人間の解体ショーが始まろうとしていた。


ようやく、マガスの正体を書くことが出来ました。


どこで出そうか迷ってたんですが、何とか流れ的に大丈夫そうな場所で書くことが出来ました。






作者「それはそうと、「なろう」内でやっている勝手にランキングとかたまに覗いているんですが、この間見たら二桁台に入っていたんですよね」


道男「いきなりだな、おい。それはともかくとして、良かったじゃあないか」


作者「こんな駄作でも評価されるもんなんですねえ、と涙がちょちょぎれる思いをしている最中であります」


道男「まあ、上位の作品との差はあるがな」


作者「それは言わないでください。上位と言うか、私より上の作品の方との間にはきっと越えられない壁的なものがあるんですよ。私自身自覚はしてますし、「なろう」内の作者の皆さんはすべからく尊敬の対象になっていますので、私は今の状態でも十分うれしいですよ。まあ、感想いただければそれ以上にうれしいんですけど……」


道男「未だに一通も来ていないな」


作者「……是非、感想をお聞かせください。めちゃくちゃな批判とかはさすがに心にドスッて来ますけど」


道男「それも含めての感想だ」


作者「ですね。悪い点などありましたら、どうか柔らかく教えて下さるとうれしいです。それ以外はもっと嬉しいですので、ぜひ、お願いいたします」












道男「お前って撃たれ弱いもんな」


作者「打たれ弱いんです。誰だって撃たれたら弱いですよ……」

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