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第二十三話 怒涛の突撃



『グランドフリューゲ』艦橋は次から次へと指示を飛ばしつつも、戦況がこちらに傾きつつあることを確信していた。

上空を飛ぶ敵の戦闘機はことごとく味方の戦闘機に追い払われ、『グランドフリューゲ』に近づくことすらできないでいる。廃都市内に突撃した部隊は激しい抵抗にあってはいるが、徐々に押していると報告があった。そして敵艦も、断続的に攻撃を加えているのが功を奏しているのか、目立った反撃を行っていない。最初の攻撃以降はミサイルすら撃ってこない。せいぜい都市上空を飛ぶ味方機に発砲する程度だ。


『こちら402! 敵戦車群が一部後退を開始している。徐々にではあるが前進できている!』

『こちらエイジス隊、上空からも敵勢力の後退を確認できた。だが敵艦から増援が出現したのも確認した。観測機、詳細を頼めるか……、なんだあれは?」


不意にエイジス隊のパイロットが異変に気が付き、無線から動揺した声が入ってくる。


「エイジス隊、どうした、何があった?」

『敵艦の甲板に、人型の何かが動いている。なんだあれは……』

「人型? 人間ではないのか」


副長が首をかしげる。


『こちら観測機、映像をそちらに送る』


艦橋の大型モニターが切り替わり、敵艦を真上から映す映像になった。画素数は荒いが、何か大きなものが甲板で蠢いているのが分かる。

マックは目を凝らしてモニターを凝視する。


「まさか、あれは……」

「副長、あれを知っているのですか?」


だが、副長は首を振った。


「いや、違うだろう。あれがここにある、いや、いるはずがない」

「と、言いますと」

「15年前の戦争時に機械人が作り出した奇襲用の機体に似ていたんだ。巨大な2足歩行兵器でな、艦に取りついて艦内部に突入して内部から艦を破壊する厄介な奴にな。あれは機械人の作った人工知能を積んでいるから、人間なら誰でも殺す恐ろしい奴だ」


副長はマックと同じく『大崩落』を生き抜いた兵士だ。彼自身、その兵器は何度と目にした。

巨人のような姿をした兵器が地面から飛び出したかと思ったら、艦の装甲を突き破って艦内に入り込み、重要なエンジンや、弾薬庫を強襲するという、その図体に似合わず素早い行動をする機体だ。人間程度の力ではもちろん倒せないし、大口径の砲は狙いを定める前に接近されるという、いわば八方塞がりの機体なのだ。


「で、では、副長はどうやって奴らを?」

「友軍艦が襲われているところを、残りの艦で味方ごと攻撃したのさ」


一瞬、艦橋が静寂に包まれる。


「だからこそ、個体数の少ないあいつらを根絶やしにすることができた。戦後回収された製造番号から裏を取って、全機体の破壊を確認したんだ。最後の1機など、生き残った核弾頭を持ち逃げしようと考えていたほどだ」

「そ、それほどなのですか」


男が息をのむ。

副長が無言で頷く。機械人たちの最終兵器でもある核弾頭を単機で持ち運びできる上に、個々の戦闘能力は陸戦型としては無類の強さを誇る。


「たとえあれを人間が作り出して操縦しようとしても、それは所詮偽物。15年前の奴らには到底及ばん。恐れるに足らん相手だ。観測機、数は分かるか」

『今のところ、1機のみです。どうも何か作業をしている様子です。長い筒状の物を持っています。あれは発射筒?』


それを聞いて副長は飛び上がった。


「いかん、奴らミサイルを再装填している! 甲板での作業を妨害するために主砲を単発にしていたことがばれたんだ! こちらが艦に直撃させていないことに気が付いて、大型の重機でミサイル発射筒を取り付けているんだ! 主砲管制、次から当てて行け! 迎撃ミサイル用意!!」


副長の声が艦橋に響き渡った。

だが、一瞬遅かった。

次の瞬間、レーダーが敵艦から放たれたミサイルを捉えた。

運の悪いことに、丁度主砲が発砲した直後で、ミサイルの諸元入力が遅れ、ミサイルに低空に高度を下げる時間を与えてしまった。そのため、レーダー捕捉出来ず、迎撃する間もなくミサイルは艦に迫ってきた。ミサイル迎撃が間に合わず、五月雨式にガトリング砲が火を噴き、ミサイルを叩き落とそうとする。


『敵ミサイル、か、数8! 迎撃追いつきません!!』

「全員対ショック態勢!!」


弾幕を潜り抜け、高速で接近したミサイルは、寸分の狂いもなく『グランドフリューゲ』に吸い込まれていった。















「ミサイル!?」


敵の警戒陣地を強襲、攻略したルートたちの正面の空に、白煙が昇っていき、急激に針路を変えて視界から消えていった。


「方角からして『グランドフリューゲ』に向かったようだな」


レイが方角を確認しつつ、空を見上げる。


「8発も? まずい、艦の迎撃が間に合うか……」

「迎撃ミサイルは同時に4発、ガトリング砲は計16基、内半分は後部だから使えるとしたら前部8基、おまけにミサイルはロックオンされる前に高度を下げられてしまえば、失探ロストする可能性が高い」

「艦が沈むことはないだろうが、支援砲撃が……。速く終わらすに越したことはないな。フラッシュ、無線に気を付けていてくれ」

「分かった」


フラッシュは401部隊内で唯一大型の無線受信器を持っている。戦闘中、周囲を飛び交う無線を傍受、または味方の無線を聞くために持ってきたものだ。受信しかできないが、その代わりにわずかな無線信号も受信することができる感度の高いものだ。

フラッシュは聴覚をフルに使って無線に集中する。ヘッドホンを取り出して耳に近づけている間、残りの5人は足を止める必要がある。


遠雷のような音が断続的に聞こえるが、それが味方によるものか、敵のものなのか判別することはできない。北門方向からの発砲音にかき消されて聞き取るのもやっとの状態だ。


「……、2発」


フラッシュがポツリと呟き、全員がフラッシュの方に顔を向ける。先ほど、レイはミサイルを8発確認した。そこから、その2発が撃ち落とした数なのか、当たった数なのか、そのことに全員の関心が寄せられた。


「2発、命中した」

「なんてことだ……。被弾箇所は?」

「……エイジス隊が、艦首に煙が上がっていると言っている。艦橋、後部甲板は無事のようだよ」

「被害は最小限、と言いたいところだな」

「でも、着弾の衝撃で射撃管制が不能になったって言ってる。艦砲射撃はもう行えない」


辺りは激しい戦闘を行っているにも関わらず、6人の周りの空間は静まり返っていた。


「艦砲射撃がない、敵艦が動き出すのも時間の問題だな」

「やりやがったな、あの野郎ども、俺たちの家を!」

「あら珍しい、フィリップ、今はあなたの考えと同じよ」


そして、空気は闘争のものへと変わった。

彼らにとって、『グランドフリューゲ』は家だ。家を孤児だった者にも、都市から入隊した者にも、共通する大切な我が家なのだ。

それを撃たれて黙っていられるほど、彼らは優しくはない。

普段、あまり激昂しないフィリップとラーキンがこれ以上にないほど血管を浮き上がらせ、手に持つ機関銃がフルフルと震えてる。


「ルート、目標はボヘミアン1人だったよね」

「そうだが」


フラッシュがヘッドホンを外してルートに顔を向ける。その顔も怒りに震えている。


「僕たちの家を撃った代償は彼の部下に払ってもらおう」


フラッシュは銃を持ち上げて言った。


「何を言っている」


ルートはやや口調を強めて言った。


「そんなことは、言われるまでもない」


ルートは身を翻して先へと進みだす。

5人は間を開けずにルートの後を追い、進みだす。

目指すは我が家を撃った男の居城。その行く手を塞ぐあらゆる物を、人を、薙ぎ払ってでも進む気概が今のルートたちには十分以上にあった。


「レイ、敵艦はまだか?」

「慌てるな。まだ敵は逃げていない。そこの路地を曲がれば、北通り最深部、中央ロータリーに出られるはずだ」


それを聞くとルートは歩く速度を若干速め、路地を素早く曲がると突き当りの路地出口の脇に体を寄せ、大通りを覗き見る。


「見つけた」


巨大な灰色の影が、コンクリートを穿ってロータリーを占領している。『グランドフリューゲ』より一回り大きい戦艦が、そこに佇んでいた。エンジンを始動したらしく、下部の巨大なキャタピラが若干動いている。すでに必要な物資は積み込んだのか、周囲に航空写真で確認されていたトラックやヘリは見当たらない。

この様子では、北門から通りにかけて展開している敵の戦車部隊は置き去りにするようだ。

ルートは周辺を見渡し、屋上に視線をやる。そして狙撃手がいないことを確認すると、通りに飛び出して敵艦目掛けて走り出した。それに全員が続く。


「ラーキン、ハッチをこじ開けろ!」

「合点!!」


兵員用の昇降口であるハッチはすでに固く閉ざされていた。敵艦は少しずつ旋回しており、速く開けないと轢き殺される危険がある。

ラーキンはハッチに取りつくと、ポーチから粘土状の物体を取り出す。それをこねくり回してハッチの取っ手にへばりつけ、そこに細い導線を差し込む。ラーキンの合図で全員がハッチから離れ、ラーキンは導線を巻いた筒を転がしながら少し離れ、ルートの方に顔を向け、指示を仰ぐ。


「やれ!」


ルートが声を張り上げ、キャタピラの音に負けないように叫び、それを聞いたラーキンは導線に電気を流す。

刹那、ハッチに閃光が生まれ、爆発を伴ってハッチが宙を舞う。舞ったハッチが地面に叩き付けられるよりも速く、ルートたちは敵艦目掛けて走り出していた。


「突入する!」















「つつつ、どこに食らった、副長!?」


ヘリのコックピットで暖機運転をして待機していたマックは、突如対ショック警告の警報が鳴ったと思ったら、直後に艦前部から来た強烈な揺れでヘリのフロントガラスに頭をぶつけ、ぶつけた部分に手を当てながら無線で艦橋に繋げる。


『艦首に食らいました! 幸い航行には支障ありません。しかし、艦砲射撃が不能になり、現在支援攻撃が行えていません!』

「ミサイルは!?」

『敵戦車部隊と味方が乱戦しており、戦車隊に対して支援は現在航空支援のみです。敵艦への攻撃は、401部隊のビーコンが敵艦付近で途絶えたために迂闊に撃てません!』

「消えた、だと」

『おそらく、敵艦に突入したものと思われます。ビーコンの電波が届かないのかと……』


それを聞いたマックは胸をなで下ろした。

そして、すぐに冷静を取り戻してヘリ内から指示を飛ばし始める。


「敵艦の動きは?」

『ゆっくりではありますが、動いています。おそらく廃都市を脱出するものだと思われます』

「戦車隊は?」

『圧倒的に優勢になりつつあります。敵戦車のほとんどは航空支援により壊滅、残敵処理と言っても過言では……』

「油断するな。追い詰められた敵は何をするか分からんからな。深追いはさせるな。敵艦に注意し、安易に突撃するなと伝えろ」

『了解!』


マックはそこで無線を切ると、後ろに向き直って搭乗している隊員に顔を向ける。


「皆無事だ。迎えに行こうじゃないか」

「聞いてたわ」


ヘリ内で使われるヘッドセットを頭に装着したフェイナは機体側面ハッチに機関銃を取り付けながら返事をした。


「敵艦が動き出したのね。妨害するためには機関銃じゃ足りないけど?」

「分かっている。ロケット弾を山ほど積んでいこうか」

「景気のいい花火を上げるのね?」


フフッとフェイナが笑みをこぼし、ヘリから降りる。そして近くにいた甲板員に声をかけ、格納庫へと向かった。

その足取りはどこか焦っているようにも感じられるほどに速く、甲板員は慌ててその後を追って格納庫へと入っていった。


「彼らがそう簡単に死ぬわけがないじゃないか……」


態度には出していないが、フェイナも気が気ではないのだ。長い付き合いの仲間たちが最前線に立っているのに、自分は家でぬくぬくなどしていられないのだろう。

今回の作戦には情報部隊は出動していない。

今後の事も含めて、これ以上の情報部隊の損耗は許されない状況にある。

ただでさえ人数の少ない情報部隊は量より質、まさしく一騎当千並みの戦力であると同時に、替えの効かない貴重な戦力である。だからこそ、作戦前にフェイナが401部隊に志願した時も、マックはそれを突っぱねたのだ。

言い方は悪いが、フェイナは替えがないのだ。ルートたちが消耗品、と言っているわけではなく、ルートたちにはできない仕事をフェイナは行える、そういうことなのだ。


「俺も、甘いのかな、レイ」


ふと、長い間共に旅団で肩を並べた戦友の名が口から洩れた。

フェイナの元保護者であり、本人は一切、まったく、微塵も気がついてはいないがフェイナが想いを抱いており、今回の作戦の最前線で今まさに戦っているレイに向けて、聞こえないと分かってはいるがつい呟いてしまう。


「押し負けたわけじゃない。彼女の意気込みに呑まれたわけでもない。純粋に彼女の手助けをしたかったのかもしれないな」


誰に言う訳でもなく、マックは呟く。

その時、機体後部に何かが置かれるドスンという音が響き、機体が少し揺れる。マックが振り返れば、フェイナが先ほどの甲板員と共にロケット弾を装填した筒をハッチ外に取り付け始めていた。


「10分かからないわ。すぐに出ましょう」

「分かった」


マックはそれまでの思考を頭から投げ出し、戦闘用の思考に切り替える。


「さあ、久々の戦場だな」




別にマックがいない艦橋が無能なわけではありません。


タイミングが悪かっただけです。


いよいよ『血の盟約』旗艦へルートたちが突入します。


そしてマックとフェイナが皆を迎えに飛び立ちました。


前半、地味に副長のターンが長かったですね。


まあ、いろんな人がいると言うことで流してください。個人装甲機の説明も入れたかったですし。




誤字脱字でも構いません。

感想をお待ちしております。m(_ _)m



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