表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/52

第二十二話 突破



レイは屋上に上がると即座にワイヤーを切り外し、走り出した。

これが生身の人間だったら人1人担いで走るなんて無理だろうが、レイは機械人だ。荷物を落とさないように運ぶことなどお手の物だ。


「レイさん、重くないですか?」

「機動性が若干落ちるが、問題ない」


そう言いながらビルとビルの間を軽く飛び越える。着地しても足を止めることはなく、ルートと約束した3分を切る勢いで陣地正面のビル屋上にたどり着く。

遠くで激しい戦闘音と黒煙が上がっており、それが北門の方向だと察知してそちらを見やる。

断続的に様々な銃の発砲音が響き渡り、真上から戦闘機が黒い糞のような爆弾をばら撒いていく。都市内には突入しているようだ。


それを確認してレイは下を覗き込む。はるか下にコの字型の陣地が構築されており、そこに先ほどまで陣地外にいた兵士たちも姿勢を低くした状態で固まっていた。


「6人か。カンナ、任せるぞ。俺は戦車に乗っている男を」

「了解です」


ふと視界の端を動く影があった。

見ればラーキンが道を横断して反対側の路地へと入っていった。ラーキンも身を屈めているのだが、大男な上、巨大なバッグを背負っているため、腰を折ってもレイが直立した態勢の時の身長ほどある。

だが、陣地の中に潜り込んでいる敵兵は気づく様子もない。

そして道路の真ん中辺りに小さなくぼみがあり、そこにうつ伏せで隠れているルートを確認した。ラーキンが路地に入ったと同時に小さく手を振ったのを確認してレイはカンナを支える手に力を入れて、落とさないようにして、屋上の淵に足をかける。


「カンナ、ナイフを出しておけ」


ふと視線をカンナに向けるとすでにカンナは2本のナイフをホルダーから取り出していた。


「何時でも、お願いします」

「では、行くぞ!」


レイは思いっきり足に力を入れて陣地真上に飛び出した。

そして重力の法則に則ってレイの身体が真下に落ちていく。フワリとした浮遊感に襲われ、レイの身体は陣地へと猛然と落下、地面に迫る。だが、レイは着地の音を敵に聞かせるつもりなど毛頭無かった。着地と同時に足を曲げ、着地の衝撃を極力抑えてまさしく舞い降りるように敵のど真ん中に降り立った。降り立ったのに気が付いたのは真正面にいた男だけで、それ以外の兵士は皆よそ見をしていたために誰一人レイがカンナを抱えて降ってきたことに気が付かなかった。


目の前にいた兵士が何かを叫ぼうとするが、それをカンナのナイフが許さない。

思い切り突き出されたナイフが兵士の喉を抉り、頸動脈を切断して血が噴水のように吹き出し、カンナを返り血で真っ赤に染める。


「なんの音、な、なんだお前おごおっ?!」


ナイフが喉にズブリと突き刺さる。最初の兵士を抉ったカンナは返す刀で背後にいた男を襲い、ナイフを横に切り抜く。それを合図に全員の敵がこちらに気が付いた。

しかし、あまりにも遅かった。


「ほら、脇ががら空きだぞ」


レイが銃をカンナに向けようとした男のこめかみに拳銃を突きつけ、引き金を引く。男がもんどりうって横に吹き飛ぶが、残されたのは何かが擦れるような音だけ。サイレンサーを付けた拳銃は戦車内にいるであろう敵にすら聞かれずに男を葬る。


残り3人。


カンナは戦車を挟んで反対側にいて、こちらに向かって飛び掛かってこようとした男の右腕をカウンター気味に切り上げ、振りあがったナイフを横に払って男の首を飛ばす。背骨を無理やり切ったせいで刃こぼれを起こし、カンナはそれを見てまだ立っている男に向けてナイフを思い切り投げつける。

まるで曲芸のように回転しながらとんだナイフは男の眉間に寸分の狂いもなく刺さり、男はその衝撃で首が折れるほど真上を向きながら仰向けに倒れた。


「うおおおお!!」

「叫ぶんじゃない。耳障りだろう」


目と鼻の先と言うほどの距離では、長さのある小銃は逆に不利だ。それを知った男は拳銃を抜こうとするが、それよりも速くレイに足を撃たれ、跪き、腹を撃たれて前かがみになり、眉間を撃たれて足を曲げたまま仰向けに倒れる。


「な、何事だ!?」


叫び声に気が付いたのであろうか、戦車の中から物音がして誰かが出てこようとしている。それに気が付いたレイはカンナに合図をして素早く陣地から飛び出して、視界の端にいるルートに向けて合図を送る。1秒も経たずにルートが飛び上がってロケットランチャーを構える。

レイとカンナは陣地の前の地面にダイビングするように伏せ、直後に3つの弾頭がそのほぼ真上を通過した。















レイとカンナが敵陣に飛び込み、一方的な虐殺を行い、最後の1人がレイに撃ち殺された同時に、戦車の中から声が聞こえた。敵兵に1発も撃たせず、排除してくれたおかげで戦車内の音すらルートの場所まで聞こえてきていた。

そして声が聞こえたとほぼ時を同じくしてレイとカンナが立て続けに陣地から飛び出してきて、レイが戦車に向けて親指を向けた。


「了解!」


それを合図にルートが窪みから姿を現し、ルートが立ち上がったのを皮切りにラーキンとフィリップが物陰から姿を現し、ロケットランチャーを戦車に向ける。そしてレイとカンナが地面に伏せたのを確認してルートは引き金を引いてロケット弾を発射、軽い反動を肩に覚えながら即座にしゃがむ。

ロケット弾が若干の放物線を描いて戦車に飛び込んでいく。

着弾直前に上部ハッチから男が出てきて、ロケット弾に気が付いて驚愕の表情をするが、それも一瞬の出来事だった。1発が砲塔側面に直撃、爆発して男の上半身を爆風で吹き飛ばす。2発目と3発目がキャタピラを保護するスカートを直撃、爆風で車体が大きく浮き上がり、横転する。そして弾薬に誘爆して派手な爆発を起こす。


「無事か、2人とも」


ルートはうつ伏せになっている2人に駆け寄り、呼びかける。

2人はすぐに起き上がって自分たちが飛び出してきた陣地の惨状を見て拳をぶつけ合った。

そこにラーキン、フィリップ、フラッシュがやってくる。ラーキンとフラッシュが親指を立て、ニカッと笑顔を見せる。


「問題ない。絶好のタイミングで撃ってくれたな」

「6人を10秒弱だ。相変わらずだな、カンナ」

「掩護があったからです。1人だったらもう少しかかります」

「できないとは言わないところは相変わらずだ」

「フィリップ、黙りなさい」


頭ごなしに黙らされたフィリップが項垂れるのを、カンナ以外の全員が同情の目で見つめる。傷つきやすいのが玉に傷の男で、それが無ければ屈強な男として旅団を支えるほどの隊員になれるのだろうが、今のところ改善の余地はない。


「と、とにかく、先を急ぐぞ」

「了解、フィリップ、気を落とすのは構わないけど荷物を落とさないでよ?」

「カンナもいい加減にしておけ……」


レイが忠告するが、カンナは全くこたえた様子もなく、しれっとしている。


「その顔で打たれ弱いとか、ある意味すごいとは思いますけどね」

「だから……」


フィリップの隣のラーキンですら、若干顔色が悪くなっている。ラーキンもフィリップに負けず劣らず中と外のギャップが激しいことで知られている。

誰がやったか知らないが「旅団内でギャップのある隊員ランキング」で上位2位は常にこの2人である。フィリップの気持ちがラーキンには痛いほど分かるのだろう。


「ほら、今は任務に集中しろ。あと少しで敵艦のいる中央部だ」

「カンナ、ナイフを1本消耗しただろう。フィリップのを使え」

「フィリップのは無駄にデカくて重いんです。ルートさん、貸してください」

「だから、どうして傷口に塩を塗るような真似を……」

「相変わらずカンナさんは容赦ないね……」


フラッシュが苦笑いしながら頬をポリポリとかく。

フィリップが真剣に立ち直れなくなる前に任務に戻ろうと思い、ルートは仕方なくナイフをホルダーごと腰から取り外して投げ渡す。それをカンナは受け取って腰に取り付ける。


「では、行くぞ」

「「「「「了解」」」」」















「今の爆発は……」


艦橋にいたボヘミアンは不意に顔を上げて外を見やる。北門方向では激しい戦闘が続いており、ここまで爆発音や振動が伝わってくる。その中でボヘミアンは1つだけの、異質な爆発音を聞きつけた。


「北門の戦闘音ですか?」


近くにいた男が聞くがボヘミアンは静かに首を横に振った。


「違う。北門とは逆の、南に近い方向だ。あっちから敵襲の報は受けていないはずだな?」

「はっ、10分前の定時連絡では異常なし、と」

「すぐに全陣地に確認を取れ」

「りょ、了解」


慌てた様子で男が走り出し、近くの端末から各陣地へ向けて交信を開始する。そしてその表情がしばらくすると凍りついた。


「ボス、第4陣地と連絡が取れません!」

「敵は本艦を狙っているぞ! 先ほど出撃途中の戦車隊が敵の伏兵に襲われたと言っていたな。敵の正体はわかったのか!」


ボヘミアンは声を荒げて怒鳴り散らした。


「そ、それが、敵はヒットアンドアウェイを徹底しているらしく、戦車ということしか分かっていません。も、もしら奴らは、囮?」

「そうだ! こちらの目を北門と小規模の戦車隊による奇襲に向けさせ、歩兵単位で本艦に切り込んでくるつもりだ。艦内の全員に告ぐ、敵がこちらに向かって背後から接近している可能性がある。警戒を厳にせよ。それと北門にいる部隊には徹底抗戦させろ。敵を本艦に一切近づかせるな!!」


艦内に非常事態を告げる警告灯が灯り、けたたましいサイレンが鳴り響く。


「敵艦に向けての攻撃はどうなっている。ミサイルの装填にいったいどれだけ時間をかけるつもりだ!」

「て、敵弾が断続的に降り注いでいます。新たに装填する隙を与えないつもりです!」

「くそっ!」


ボヘミアンは目の前の端末を力の限り叩き付ける。ミシッと言う嫌な音が響いて端末にヒビが入った。

マックはボヘミアンたちに再装填の隙を与えるつもりなど毛頭なかった。廃都市内にあった『ブラッディスカル』は艦砲を撃つことができない。それゆえ、敵艦への攻撃は対艦ミサイルに限られてしまっていた。大型の対艦ミサイルは艦の甲板に斜めに取り付けられた発射筒に装填される。再装填するには備え付けのクレーンを使って発射筒ごと取り換える必要がある。そのためには艦の外に出なくてはならないのだが、敵の攻撃を受ければ目も当てられない被害を受ける。

マックはそのことを読み、一斉射撃を行うのではなく、単発ではあるが常に敵の頭上に砲弾が降り注ぐように撃っているのだ。そのためボヘミアンたちは敵弾の直撃を恐れて外へ出られなくなってしまったのだ。

それが理解できるだけに、ボヘミアンの悔しさはより一層高まった。


「ボ、ボス、個人装甲機を使えば強引ではありますが何とかなると思います!」


1人の男が鬼の形相をしているボヘミアンに恐る恐る進言した。

それを聞いたボヘミアンは最初は反応も薄かったが、不意に動きが止まり、男にいきなり目を向けた。

その顔は鬼の形相のまま笑みを浮かべていた。


「良い事を言ったな。個人装甲機を準備しろ、俺が出る」

「ボス! 危険すぎます!」


副長の男が慌てて艦橋を飛び出そうとするボヘミアンの行く手を遮る。


「あれは俺しか扱えんようにマガスが設計した。それにあれを使えば再装填などものの数秒だ」


ボヘミアンは副長を片手で押しのけて艦橋を飛び出した。

その様子を茫然と見つめていた副長は、すぐに気を取り直して指揮を継承した。


「ボサッとするな! 格納庫に連絡、個人装甲機を用意しろ! 再装填が終わり次第敵艦への攻撃を再開する!!」


『血の盟約』はまだ本気を見せてはいない。


ボヘミアンの影が徐々に迫ってきました。


そして、新しい兵器が出てきました。


個人装甲機、です。まだ名前しか出てませんが、少しばかり説明をば。


まあ、名前の通り個人レベルで装備できる、……ガ〇ダムじゃないですよ?


イメージとしてはマト〇ックスのAPUか、ア〇ターのAMPスーツ(大佐が最後に乗ってる奴)あたりを想像していただけるといいかと。作者もこれを想像しながら書いてます。


APUのうおーっも良いですけど、大佐のナイフ捌きもかっこいいんですよね、悪役なのが残念です。それがカッコいいのかもしれませんが。


そんなこんなで、この機体がいろいろキーパーツになるかも、いやならないかも。まあ戦況のカギを握ることは確かなんですけどね。

ネタバレはここまでにしておいて、これからもこの駄作を読んでいただけると、ありがたい限りであります。


誤字脱字でも構いません。

感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ