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第二十一話 進軍






「来よる、来よるぞ~」

「戦車長、頭引っ込めてくださいよ、丸見えっすよ」


双眼鏡を片手に路地から顔を出す戦車長はその双眼でしっかりと敵の姿を捉えていた。


「敵は砂漠仕様戦車……、随分と数がいる。20は下らんか」

「戦車長~」

「うるさい、少し黙ってろ!」


砲手を黙らせると戦車長は再び双眼鏡を覗く。


「だが、数だけおっても無駄だ。……2、3号車準備はできているか」

『いつでも』

『どうぞ』


今、路地から大通りに砲塔を向けている1号車とは別の場所、正確には2つ3つ隣の路地からも大通りに鎌首もたげている戦車が待機している。


「数はおよそ20、こちらが撃つと同時に撃て」

『『了解』』

「よおし、弾を込めろ。最前と最後尾を攻撃して閉じ込めるぞ!」

「分かりましたから、さっさと戻って下さいっすよ!」

「分かった分かった」


ほどなく戦車長がハッチから車内に滑り込み、砲手に合図を送る。すでに初弾が装填され、後は引き金を引くだけだ。最高のタイミングまで待つことが大切だ。


『3号車、先頭が通過した』


敵の戦車部隊が3台の戦車の鳥かごのような待ち伏せポイントに差し掛かった。そして遠くからキュラキュラと言うキャタピラの音が聞こえてくる。


姿が見えず、戦車長は生唾を呑み込んでその時を待つ。


『2号車、先頭が通過した』


もう間もなくだ。2号車のいるポイントは1号車のいる場所からおおよそ50メートルほどの位置にある。とすれば、すぐに敵が現れるはずだ。


「すぐに来るぞ、発砲用意」

「了解っす」


砲手が引き金に手を添える。そして照準器を覗き込み、現れるであろう敵を待ち伏せる。

そして、路地の外に巨大な影が現れる。

砲身、車体と姿を現し、砲塔がその姿を照準器のど真ん中に差し掛かった時、砲手が引き金を引き、装填された砲弾が至近から敵の戦車の横っ腹に突き刺さった。

突き刺さった砲弾が内部で爆発し、穴と言う穴から火を噴き、砲塔が吹き飛んで空高く舞い上がると同時に巨大な火柱となって動きを止める。


後続がつんのめる様にその動きを止め、ハッチから大声をあげながら男が顔を出して燃え盛る戦車をどかす様に指示を飛ばそうと背後を見て、その目を見開いた。

それもそのはず、最後尾でも同じように火柱が上がり、おまけに中ほどの辺りの車両すら隊は炎上、出撃しようとしていた戦車部隊は動きを止められた上に二分され、閉じ込められてしまっていたのだ。


即座に攻撃をした敵を探し出そうと路地に戦車を滑り込ませるが、そこに残っていたのはキャタピラの跡だけ。すでに戦車は姿を消していた。


ゲリラ戦。


決して出しゃばらず、1人1人敵の戦力を削っていく。

それと同時に敵に脅威を与えることで敵の目をこちらに引き付ける。ルートたちの潜入を支援する目的で敵を一手に引き受ける必要があったのだ。


それが戦車隊に課せられた任務である。


それゆえ、動きを止めた時点で戦車3台は路地の奥へと姿を消していた。

次なる獲物を求め、彼ら戦車隊が敵の背後を脅かす存在となるまでにそう長い時間はかからなかった。















「上空の観測機から報告! 401部隊が無事作戦を開始した模様です!」


その報が艦橋に入った瞬間、歓声が上がった。


「まだ作戦が始まったばかりだ。その歓声は作戦終了時に取っておくんだ」


マックはそれを静かに諌め、士気を落とすことなく隊員たちの歓声を抑え、作戦に集中させる。

そう言ったマック自身、無事にルートたちが潜入できていたことを確認できて、内心飛び上がりたい気持ちであった。敵に傍受される危険があったため、無線の使用を控えていたため、外部から都市内部の動向は一切分からなかった。

幸いにして作戦は上手く推移しているようで、観測機からは戦車隊が狭い路地を器用に移動して敵の背後へ回り込んでは一撃、回り込んでは一撃を繰り返している状況が逐一入ってくる。


『ミサイル第2波、迎撃開始!』


目の前で花火が上がったかのように視界が白く塗りつぶされ、ミサイルが爆発する。


『こちら402部隊! 都市外壁に部隊が到達! これより突入す、ぐわあ!!』


意気揚々と入電してきた男の声が雑音にかき消される。

慌ててマックが都市に目をやると、北門周辺に無数の黒煙が上がり始めている。北門は外に向かって大きくひしゃげ、今まさに突破しようとしていた戦車に瓦礫が命中しているようで、戦車が一旦後退しているのが見える。


『北門に敵戦車多数! 突入は困難だ、支援を!!』

『了解、フランシスカ隊、北門内部を爆撃せよ』

了解ラジャー、エイジス隊、突入を掩護してくれ』


上空で地上からのミサイルと敵機を掻い潜りながらフランシスカ隊が北門上空に到達、黒い糞のようなものを幾つか落として行き、即座に高度を上げ始める。ほどなく北門内部に着弾、強烈な衝撃波が全方位に波紋となって広がるのが、艦橋からでも見て取れた。

北門内部で待ち伏せていた戦車は真上からの爆撃で大破炎上、横転しているものや味方を巻き込んで爆発を起こすものなど、到底反撃の態勢を取れる状態になかった。


『道が開いた! 戦車隊前へ!!』


北門に蟻のように戦車が集まっていき、次から次へと内部に突入し、断続的に発砲を繰り返す。


「401部隊の状況を」


マックは戦闘指揮所の向かって呼びかける。

ほどなく返事が返ってきた。


『現在敵艦から約5キロの地点にビーコンが確認されています。問題なければあと15分もすれば到達します』

「よし、戦車隊を全面に押し立てて敵に主力はこちらだと思い込ませろ。絶対に401部隊の存在を悟られるな」

『了解』


マックはそれだけ言うと上着を脱いで艦長席の背もたれにかけた。そして足早に艦橋を後にしようとして、副長に呼び止められた。


「どこへ行かれるので?」


マックはニヤリと微笑む。それは旅団長としての笑みではなく、1人の傭兵としての笑み、そう副長は理解した。ため息をついて道を譲り、マックが通り過ぎる時にポツリと呟いた。


「回収ヘリは機体番号56のヘリです。すでに甲板待機していますから、見れば分かるはずです」

「すまんな、副長、留守を頼むぞ」

「お任せ下さい」


副長が敬礼し、マックもそれに返す。そして艦橋を飛び出して後部甲板へと向かうため階下に駆け下りていった。















「むっ、まずいな」


ルート以下401部隊は目の前の大通りを見つめてその足を止めた。


「隠れるものがないですね」

「……敵勢力は?」


北門から数本ずれた細い道を進んでいたルートたちであったが、作戦前からあった唯一の懸案事項であった事に遂にぶち当たった。


『ブラン・コーリア』は円形の都市で、同心円状に数本の大通りが都市を一周するように構築されている。そのため、中心部へ向かおうとすれば必ず広く、見晴らしの良い道を横切る必要がある。

それが今現在目の前にある広々とした道である。

瓦礫が少なく、廃棄された車といった隠れる場所が少なく、路地から通りを覗くと案の定少し離れた所に陣地が構築されていた。都市の外側に向かって土嚢が積まれていて、戦車が砲身を覗かせている。兵士の姿は少なくとも5人ほど。全員がすでに臨戦態勢に入っており、おそらく旅団の襲撃に備えているのだろう。


「戦車1、歩兵5から6、戦車長らしき男が戦車のハッチから上半身乗り出してるな」

「そのくらいなら、自分で行けます」


カンナが路地脇から外を覗くルートに小声で言う。


「どうやって近づく? 透明人間にでもなるか?」

「ルートさん、屋上からってのはどうですかい?」


ラーキンが真上を指差す。

路地を形成する左右の建物は15階建てのビル。そこからほぼ同じ高さのビルが並び、それは陣地の正面まで続いている。ルートはそれを見つめて、陣地正面のビルから陣地へと視線を移す。


「……悪くない。レイ、カンナを陣地の真ん中まで案内してやれ」

「了解」

「ラーキン、フィリップ、ロケット弾を出してくれ。歩兵を排除したらぶっ放せ。フラッシュ、背中を任せる」

「「待ってました」」

「了解」


大男2人がニカッと笑い、さっそくバッグから細い筒を数本取り出す。決して口径は大きくないが、量で質を補うことができるだけ持ってきている。大男2人がいるだけはある。

フラッシュが銃を担いで作業をする2人を掩護する。ばれてはいないと思うが、警戒は不可欠だ。


「よしカンナ、いっちょお得意のナイフ捌きをお見舞いしてやれ」

「了解、レイさん、お願いします」

「任せろ。ルート、5分でやる」

「3分だ」

「なら急ぐとしよう」


そう言うとレイは小柄な体躯のカンナを肩に担ぎ、真上のビル屋上めがけてワイヤーを撃ち出す。ワイヤーの先に取り付けられた銛がコンクリートに刺さり、即座にレイはワイヤーを巻き上げる。レイの身体が浮き上がり、銛の刺さったビルの壁に叩き付けられそうになるが、足をクッションにそれを防ぎ、そのまま壁を軽々と走り昇って行った。


ルートはそれを見上げ、ラーキンからロケット弾を1発受け取る。携行式ロケットランチャーに装填し、陣地とルートたちを唯一遮ることができる小さな地面の窪みに滑り込む。大男の2人は隠れられないので、物陰から合図と共に飛び出してくることにした。

フラッシュは物陰から3人の背後、通りの逆を監視する。


チラッと屋上に目を向けると、すでにレイはカンナを担いだ状態で5メートルはあるビルとビルの間を飛び越えて陣地真正面のビルに飛び移ろうとしていた。


乾いた音が遠くから聞こえ、一瞬頭を下げて敵襲かと警戒するが、続いて断続的な爆発音、銃撃音が響き渡ると、それが仲間たちが迫ってくる音だと察して胸をなで下ろした。


だが、その音は敵にとっては死神の足音なのかもしれない。

ここは北門から中央部へと伸びる道から外れているが、敵にとってはどこから来るか分からないのだ。事実今の音で陣地の土嚢の外にいた兵士は土嚢の陰に飛び込み、辺りの様子を伺っていた。


「ダメだな、1カ所に固まっちゃあ……」


5人か6人か知らないが、全ての歩兵が1カ所に固まったのは確かだ。これを見逃すほどルートたちは甘くない。土嚢に隠れてこちらが見えなくなった好きにラーキンを呼び寄せ、通りの反対の路地に向かわせる。そして手を少しだけ上げて小さく地面に向けて振る。


それを合図に、レイがカンナを抱えて大空にジャンプした。


ロケットランチャーをうつ伏せに構えてその時を待つ。


ふと、思い出したので補足しておきますね。



旅団が保護していた難民、孤児は戦闘領域からかなり離れた場所で一時的なキャンプを張っています。護衛の隊員が若干名いますが、それ以外はすべて一般人です。一週間分程度の食糧と水を与えて、旅団の帰りを待たせているわけです。

そこの描写を完璧に忘れていましたので、補足しておきました。







道男?


だれですかそれ?


お仲間が出る頃には生きて帰ってくるでしょうね、なにせ今中ボス戦の最中ですから……。


決して忘れていたわけじゃありません。適当と言ったのはそういうことですので。





誤字脱字でも構いません。

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