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第十八話 ブリーフィング


まあ、どうぞ



廃墟と化した都市の遥か上空に、黒い鳥が飛んでいる。

いや、地上からは鳥に見えるが、近くで見ればそれがジェットエンジンを搭載した黒い機体だと分かる。


「こちらブラックキャット。現在目標上空に到着、映像を送ります」

『了解、ブラックキャット、敵の動きに注意せよ。敵はミサイルでも戦闘機でもあってもおかしくない連中だ』

「了解」


機体下部に取り付けられた光学センサーと電子センサーにより雲の上からでも地上を確認できる上に、高高度を飛行しているため並大抵の戦闘機では要撃することすら困難である。唯一の天敵は対空ミサイルといったところだ。地上の監視に集中している故に、反応が遅れる可能性がある。


「さてさて、憎き敵はどれだけの兵力か……」


パイロットが映像を食い入るように覗き込む。そこには拡大、明瞭にされた地上の映像が映し出されている。

昨日航空部隊の隊長が言っていたように、確かに廃都市は至る所で道路が寸断されている上に、ビルが倒壊して瓦礫の山を築いている場所もある。


そして映像を睨み付けていると、そこに驚くべき光景が入ってきた。


「な、なんだこれは……」


想定されていた通り、北門から中央にかけての大通りに『血の盟約』のものと思われる大量のトラック群が止められている。その数は尋常じゃない。軍において優に1個軍、それも歩兵だけで換算できる量だ。さらに要所要所にバリケードが構築されており、戦車と装甲車ご配置されており、廃都市が難攻不落の要塞と化していることは火を見るより明らかだ。

そして中心街とも言える地区に、巨大な影が映りこんだ。


「これは、『グランドフリューゲ』!?」


真上から見たそれは、まるで我が家のような姿をしていた。

しかし、目を凝らしてみると、後部甲板が無く、後部にも砲塔が設置されており、周囲にヘリが駐機している。


「陸上戦艦……、他にも現存していたのか……」


パイロットの男は『グランドフリューゲ』以外に陸上戦艦を見たことが無かった。そのため、一瞬2つの艦を混同してしまった。


「敵勢力は1個軍超、陸上戦艦を保有、あの大きさからすると航空機も乗せられる大きさだが……」

『バラックキャット、作戦所要時間ギリギリだ。すぐに帰還しろ』


遠出しているため、どんなに燃料の消費を軽減できる高高度を飛んでいても限界は早い。おまけに、あまり長いこといれば、さすがの敵も気が付いてしまう。レーダーに何時まで経っても同じような場所にいる鳥が映っていては、鋭い者なら気が付く。


「了解、すぐに引き返すとしよう、……うわ!?」


突然、今この状況下で最も聞きたくない音が響き渡った。

耳をつんざく不快な警告音と共に、赤い警告灯が点滅し始め、隣に文字が浮かび上がる。


『MISSILE WARNING』


レーダーを覗き込むと、2つの光点が後方から急上昇してくる。


「くそっ、ウソだろ!?」


操縦桿を引き、急旋回を始める。

機体がミシミシと悲鳴を上げるほどの旋回で、身体がコックピットの側面に押し付けられそうになる。操縦桿から手を離さないよう必死に拳に力を入れ、空が1回転するほどに操縦桿を引く。


「ぐ、おう」


一瞬背後を振り返ると、2本の白煙が雲の下から伸びてきている。

パイロットは即座に振り切るのは無理だと判断して、チャフをばら撒きながら回避運動を継続する。高高度を飛ぶ偵察機を戦闘機以外で迎撃しようとするなら、地上に設置された対空ミサイルによるものになる。地上レーダーで捕捉した敵機を迎撃するため、レーダーを攪乱されると迎撃は困難、最悪撃ったミサイルが敵を見失うこともある。パイロットはそれを狙っていた。


「は、外れろ!」


2発の対空ミサイルはチャフにより敵を見失い、チャフの中を突っ切って偵察機を飛び越える。それを見てパイロットは安堵し、次弾が来る前に逃げ出そうと速度を上げつつ、通信を行う。


「こ、こちらブラックキャット、敵に見つかって攻撃を受けた! 被害はないが、映像はしっかり届いているか!?」


この時点で、重要なのは自らが撮影した偵察映像がしっかりと送り届けられているかどうかであった。無線が1度雑音を響かせた後、返事がすぐに帰ってきた。


『大丈夫だ、しっかり受け取った。速く帰ってこい!』

「ああ、分かってっ、くそ、次が来た!!」


無線の最中に再びミサイル警告音が響く。

レーダーを覗くと、やはり2発のミサイルがこちらを補足して突貫してきている。すぐに機体をひるがして高度を下げる。下げると言っても雲より下には行かない。高度と方位をとにかく変え続け、ミサイルを回避しなくてはならない。


「くそっ、チャフ間に合え!!」


チャフを再び散布する。

高度を下げたことで偵察機の機動性は大きく下がっていた。もとより高機動飛行などするべき機体でもない偵察機で派手な回避機動を取っていたこと自体がとんでもないことなのだが、少なくともその時までは偵察機に軍配は上がっていた。

しかし、敵は同じてつを踏むつもりはなかった。ミサイルの発射間隔を若干広げていたのだ。よって1発目がチャフに引っ掛かり外れて、チャフが薄まったところに2発目が飛び込んできた。


後方下部から飛来したミサイルは、右の主翼とエンジン、垂直尾翼を吹き飛ばし、次の瞬間燃料に引火して偵察機は火の玉と化した。破片をばら撒きながら、砕け散りながら機体が雲の下へと消えていった。



だが、彼の送った映像は確かに届けられていた。

彼にとっては、それで満足であった。















「状況を説明する」


後部格納庫に隣接する作戦室。

そこに今回参加するほぼ全ての隊員が集められている。ルートと403部隊の11人も戦闘用のボディアーマーを装着している。


「これから映す映像は、航空部隊偵察隊のパイロットが命と引き換えに手に入れた現在の『ブラン・コーリア』の状況だ。これを元に作戦の細部を埋めて、立案された」


映し出された映像は、拡大されて都市の内部を隈なく見ることができるほどになっている。そして、そこに映る巨大な影に全員が息を飲んだ。


「『大崩落』の時に使用されていたゴライアス級戦艦の1隻だ。主兵装は38センチ連装砲、対地ミサイル発射筒4連装16基、細かいのまで言うときりがないから一言で言うと、ハリネズミ並みに兵器を搭載している化け物艦だ。『グランドフリューゲ』同様艦内に大型の兵器も積載可能、どうやらそのままのようだ」


映像の端の方に敵艦のスペックが映し出された。『グランドフリューゲ』より一回り、いや二回りは大きい艦に、これでもかと言うほどに砲とミサイルが搭載されている。


「敵はやはり都市北門からの道に集中している。また、無事な高層ビルの屋上には対空砲が配備、都市の外縁部にもミサイル群が置かれている。確認できる戦車は20。トラックの数からして多くても35くらいのはずだ。これ以上は艦に入らないからな。また、ヘリが4機確認されている。機種が分からないが、戦闘ヘリが含まれていると考えるのが妥当だろう。それから、これは北の通りから1本ずれた通りなんだが……」


映像を止めてマックは映像の一部を拡大する。

北からの通りと同じくらいの太さの通りが拡大される。


「見ての通り、何もない通りなのだが、何もないのだ。瓦礫も、壊れた車も、何もだ。そして、ここに見えているこの車両、おそらく牽引車だ。滑走路として使用されている可能性がある。近くのビルを掩体壕代わりにして隠していると思われる。突入と同時に攻撃したいところだが、どこにあるのか分からん。支援に上がる航空部隊は敵の航空機の攻撃に注意、味方を撃たせるな」


パイロットスーツに身を包んだ隊員に向けてマックが強い口調で言う。


「では、401部隊として敵陣に浸透する者をこれから呼ぶ。なるべく同一の部隊から複数人が出ないようにはしたが、文句は聞かん。403からルート、レイ、404からカンナ、405からラーキン、407からフラッシュ、408からフィリップ、以上だ。戦車1個小隊と共に都市内部に潜入し、最高のタイミングで背後から殴りかかれ」

「「「「「「了解!!」」」」」」


呼ばれた6人が敬礼して声を揃えて言う。


「本艦と共に突撃する残りの部隊は統合、402部隊が指揮を執る。戦闘開始と共に侵攻し、敵を灰塵と化すぞ。本艦からの艦砲射撃は作戦開始と同時に敵艦を狙って行う。間違っても射線に入るんじゃないぞ。ヘリ部隊は地上部隊を掩護、敵戦車を確認した際は最優先で撃破、進撃の足を止めさせるな」


最後に、マックは1人の男の写真を写しだした。

片目に眼帯をしていて、髭を蓄えていて、悪人面全開の男。


「こいつが今回のターゲットであるボヘミアンだ。こいつを捕え、マガスとの関係を吐いてもらう。抵抗した場合は痛めつけてでも連れてこい。間違っても殺すんじゃないぞ」


今回の作戦はボヘミアン率いる『血の盟約』の殲滅が目的だ。だが、本当の目的はボヘミアンと手を組んでいるジャック・マガスのやろうとしていることと居場所を聞き出すことだ。

仲間を直接殺したのはマガスの方、しかも、マックはまだ他の誰にも教えていない1つの情報を掴んでいる。

そして、その情報をマックは画面に映し出した。


「そして、マガスがやろうとしていることに、十中八九関わっていると思われるのが、これだ」


以前、マックが入手した1枚の写真。

ボヘミアンが部下と共に写っている写真だが、ボヘミアンの背後にあるものを見て、その場にいた全員が凍りついた。


「『大崩落』の遺物だ。発射されなかった弾頭のうち、少なくとも3基がボヘミアン、もしくはマガスの手にある」

「ば、馬鹿な。全て廃棄されたはずじゃ……」


誰かが呟く。

その場にいた全員が、信じられないという表情をしている。


「マガスがやろうとしていることは、我々旅団で片付けられる問題ではなくなりつつある。すでにいくつかの都市に対して協力を申し出ている。確たる証拠がある以上、彼らも動かざるを得なくなる。だが、彼らが動き出すまでには準備期間が必要だ。我々の任務はボヘミアンの確保と共にマガスの計画を中止または延期に持ち込むこと。ボヘミアンの軍が壊滅状態になれば、マガスも計画を立て直すことになるはずだ」


最後の言葉には、マックの希望的観測が含まれている。

もし、マガスがボヘミアンの助力などなくとも事を起こせるというのなら、全てが水の泡となる。だが、誰もそのことを口にしようとは思わなかった。

いつの間にか、自分たちの敵討ちが、世界を巻き込む巨大な陰謀に首を突っ込むことになっていた。だが、誰も文句など言わない。疑問を心に閉じ込め、マックの言葉に耳を傾ける。


「401部隊出動は0200時、作戦開始は明朝0700時。全ての銃口を以て奴らに地獄を教えてやれ!!」




「「「「「「イエス、ボス!!!!」」」」」」


次から戦闘開始です。


キャラが増えますが、別段単発の出番はありませんので。

個性的キャラであることに間違いはありませんが。




誤字脱字でも構いません。

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